第105話修理とゼド

「次はこれだ」

「これは通信機ですね。遠く離れた相手と会話できる機械です」

「ほう、通信魔術のたぐいか……使えるのか?」

「同じのがあれば、周波数の調整で使えると思います。もう1個ありますか?」

「………ないな」


 かれこれ数時間、ガラクタの山から出てくる機械を修理しまくった。 

 現状、失ったパーツを再生させるレベル3修理は一度しか使えない。しかもさっきレーザー銃の修理で使ったから、今の俺は錆取りと破損はそのままの修理だけしかできない。

 ゼドさんはガラクタを引っ張り出しては俺に修理させ、ジークルーネに聞いている。

 これまで修理した機械で使えそうなのは殆どない。片方だけの通信機、信管のない爆弾、何らかのエンジン、よくわからない歯車など、どう見てもガラクタだ。

 こうして、あらかた修理を終えた。


「うーん、使えそうなのはこのレーザーナイフとビームフェイズガンくらいですね」

「ふむ、中々興味深かったぞ。感謝する、娘」

「いえいえー、わたしも楽しかったです」

「お、終わった……はぁぁ」


 ビームフェイズガンは、俺の腰に収まった。

 ゼドさんの家にあった革のあまりで、ゼドさんは即席のガンポーチを作ってくれた。ベルトにポーチを通して警官のように銃を収める。まさかこんな場所で俺の戦力がアップするとは思わなかった。

 レーザーナイフは、スイッチを入れると刃が青く発光した。どうやらキルストレガより切れ味はよくない。どちらかというと作業用に近いだろう。まぁありがたく使わせてもらう。

 ゼドさんは、ここでようやくお茶を出してくれた。


「感謝するぞ、なかなか面白かった」

「いえ。あの、ゼドさん……」

「わかってる。居住車のアテはある。付いてこい」


 お茶を一気飲みし、ゼドさんは立ち上がる。そしてガラクタに埋もれて見えなかった床を思い切り踏みつけると、そのまま床がバゴンと落ちた。


「こっちだ」


 ゼドさんは、床に出来た穴……地下への階段を下りていく。

 俺とジークルーネは急いでその後に付いていくと、天井の高い教室くらいの部屋に到着した。

 そして、そこにあった物を見て、言葉を失った。


「わぉ……すげぇ」

「おお~、カッコいいですね」


 そこにあったのは、銀色の居住車だった。

 メタリックシルバーとでも言えばいいのか、装甲車のような外観に8つのタイヤが付いている。

 デザインも現代風で、翼のような飾りやツノのような意匠もあった。

 でも、どう見ても6人が乗れるサイズじゃなかった。


「あの、ゼドさん……申し訳ないんですけど、ウチは6人パーティなんですよ。これはちょっと小さすぎるというか」

「心配するな。来い」

「ええと」


 ゼドさんは、居住車のサイドに設けられた鉄のドアを開ける。

 そして、そのまま中へ入っていった。

 俺とジークルーネも後に続き、驚いた。


「え……な、なんだこれ!? めっちゃ広いぞ!?」

「なるほど、空間歪曲装置かぁ」

「え?」


 居住車の大きさは中型ブルドーザーくらいなのに、中の広さは学校の教室より広かった。しかも二階の階段もあるし、どこかの部屋に繋がるドアもあった。


「こいつも遺跡で発掘した道具の1つだ。本来はただの鉄の箱だったんだが、この通り中は異常なまでに広くてな……ワシが自らの手で居住車に改造したのよ」

「す、すげぇ……6人どころか、10人でも楽勝だぞ」

「すごいね、まだ稼働してるのがあったんだ」

「……知ってるのか?」


 ゼドさんは、ジークルーネに質問する。


「これ、人類軍が開発した緊急用シェルターです。野戦での医療テント代わりにしたり、将校たちが会議をするために利用されました。空間歪曲装置が搭載されてるので、この大きさの箱にこれだけ広い空間を作れるのが最大の特徴で、過去にたくさん造られたみたいです」

「ほぉ、人類軍パネェな」

「言ってる意味は理解出来んが、コイツも古代の遺物なんだな?」

「はい。ねぇセンセイ、これならわたしたちの居住車にピッタリですね!」

「ああ、確かに……広さも申し分ないしな」


 改めて、過去の技術に感謝。

 さて、報酬としてもらえるはずだけど、いいのかな?


「あの、ホントにもらっていいんですか? お金は払いますけど」

「構わん。ワシが持っていても仕方ないしな。好きにしろ」

「やった! ありがとうございます!」


 ジークルーネが、その場でピョンピョン跳ねる。

 というか、タダでもらっちゃったよ。金貨1200枚が丸々残ったってことだ。

 すると、ゼドさんは言った。

 

「せっかくだ、夕飯も食わせてやる。久し振りに機嫌がいい、ジジィの晩酌に付き合え」

「あ、でも仲間が」

「ふん、連れて来い。それとセージ、改めてお前に頼みがある」

「え……」

「あ、センセイ。ホルアクティを飛ばしてみんなを呼ぶね!」

「ん?……おぉ!! なんだその鳥は!?」


 ホルアクティを見たゼドさんは、軽く興奮していた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 全員呼んだ。

 ホルアクティの通信機能で連絡を取り、ゼドさんの家に来てもらう。

 ゼドさんは買い出しに出かけ、大量の酒とツマミを買ってきた。どうやら料理をするわけじゃないようだ。安心したような残念なような。

 それから、クトネたちとゼドさんは顔合わせし、居住車を見せた。


「す、すんげぇ……すごい、この広さなら快適です! ホントにタダでいいんですか!?」

「ああ。持って行け……と言いたいが、まだ整備が完全じゃねぇ。それに関しても手伝ってもらいたいことがある」

「もちろん、私たちに出来ることなら喜んで手伝おう」

「ああ。だがまずはメシだ。腹減ったしな、酒も飲みてぇだろ?」


 一階のガラクタの山をどけて、床にシートを広げて買ってきた食べ物を並べる。どれも塩気のある物ばかりだ。

 大人には酒を、子供にはジュースを注ぎ、乾杯する。


「出会いに、乾杯!」

「「「「「「乾杯!」」」」」


 ゼドさんの乾杯でグラスを合わせ、楽しい食事が始まった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ゼドさんはドワーフなだけあって酒が強かった。だが、飲むと饒舌になるタイプらしい。

 俺とゼドさんは酒を飲みながら話す。


「ワシはこう見えて冒険者でな、今はB等級じゃ」

「え、そうなんですか? 意外ですね」

「まぁな。冒険者じゃないと入れない遺跡があるから仕方なくな。危険地帯のモンスターを狩ったりしてたら、いつの間にかB等級になっていたんじゃ。まぁワシは冒険者なんぞ興味なかったからどうでもいいがの」

「え、でも、C級からはお偉いさんや国の依頼が入るんじゃ?」

「はん、遺跡調査で忙しかったからな。全部シカトしたわい。おかげで今は声も掛けられん」


 ゼドさん、冒険者だったのか。

 意外というか、以外と似合ってるというか。

 すると、エールを飲みながらルーシアが聞いた。


「ゼド殿は古代遺跡に興味がおありと聞いたが」

「ああ。ワシは遺跡の遺物に魅せられてなぁ……初めて見つけたのがあの居住車の箱部分なんじゃ。あの空間を解明しようと古文書を読みあさったがわからんかった。それからワシは遺跡にこもり、ここにある遺物の調査に没頭した……おかげで、他のドワーフからは変人と呼ばれておるよ」

「変人……さすがにそれは」

「事実じゃ。剣も防具も造らず、ガラクタばかり集めてる偏屈ドワーフとな。ワシもそう思う」

「そんな……」


 ゼドさんはエールを煽る。

 笑っていたが、俺たちは笑えなかった。


「さて、酒もいい感じに回った。居住車の件とセージに頼みがある」

「お、来ましたね。なんでしょうか?」

「ああ、まず居住車だ。あれはまだ不完全でな、居住車に必ず必要といわれてる『守護獣』が乗っていない。そこで、ディザード近郊の森から、守護獣を捕獲してきてほしい」

「………守護獣?」


 また聞いたことのない単語だ。

 名前からして動物っぽいな。また動物枠が増えるのか。


「守護獣ってのは、全ての居住車に乗っている、居住車そのものに結界を張る特殊なモンスターだ」

「結界? ネコじゃダメなの?」

「三日月、さすがにそれは……」

「かっかっか、面白い嬢ちゃんだな。結界ってのは『膜』みてぇなモンでな。結界に守られた居住車は衝撃や魔術から守られる。安心して旅をするには必要なモンだ。ちなみに、高位の守護獣ほど結界の硬度が高い」

「へぇ~……あたし、知りませんでした」

「まぁ、居住車を持つクランやドワーフくらいしか知らんだろうな」


 クトネがサソリの丸焼きを齧りながら言う。

 端から見るとけっこう不気味な光景だな。


「それと、セージ個人に頼みがある」

「……もしかして、『修理(リペア)』ですか?」

「ああ。お前さんならきっと直せるはずだ」

「ええと、どれでしょう? まだ直してないのありましたっけ?」


 俺は部屋を見回す。

 ここにあるガラクタの山は殆ど修理した。まだ残ってるならさっさと直そう。

 そういえば、レベル上がらなかったな……残念。


「お前さんに直して欲しいのはここにない」

「え?」

「ディザード王城最下層にある『古代宝物庫』だ。そこにある開かずの扉を、お前に開けて欲しい」

「………」


 もの凄く、イヤな予感がした。

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