第103話ゼファールド
俺とジークルーネは、三流街を歩いていた。
手には町のマップを持ち、道を確認しながら歩く。
「はぁ……これで何件目だ?」
「5軒目です。なかなかいい物件が見つからないですね」
「だな……ブリュンヒルデたちはどうだろうな」
「うーん、どうでしょう?」
居住車製造販売の会社はけっこうあった。しかもみんな地下に店を構えてるから驚いた。なんでも、ドワーフの居住車製造販売会社は地下にあるのが普通らしい。
そんな会社を5軒回ったが、なかなかいい居住車は見つからなかった。
ドワーフ・クルールで聞いた話だと、グレードは落ちるが安価な居住車を取り扱ってるのが、二流・三流街の店らしいが、今度は逆に6人乗りの居住車が見つからなかった。
多くても4人乗り、それ以外はほとんど3人乗りしかない。
「参ったな……こりゃ、二流街を探してるルーシアたちに期待するしかないぞ」
「ですね。お姉ちゃんたちは三流街の反対側を調べるみたいですけど、望み薄ですねー」
「ああ。ドワーフの国に来れば何とかなると思ったけど……ちょっと甘い考えだった」
悔やんでも仕方ない。
今はとにかく、俺たちが満足する居住車を探すしかない。
「ジークルーネ、次の店に行こう」
「はい、センセ………」
「ん、どうした?」
ジークルーネが、返事と同時に硬直した。
そして、明後日の方向を見てピクリとも動かなくなる。
「おーい、どうした?」
「……………」
「ジークルーネ?」
「センセイ、あっちから微弱な電波反応を感知しました」
「え?」
「これ、アンドロイド………じゃない。なんだろう、微弱すぎて識別できない。でも間違いないです」
「は?……って、こんな町中でかよ?」
「はい。敵意は感じないです。ただ電波を発してるだけというか……」
うーん、まぁ遺跡の町だし、機械があっても不思議じゃない。
機械なら俺の出番だ。最近、全く能力を使ってないからな。
「じゃあ、行ってみるか」
「はい、センセイ」
今度は笑顔のジークルーネだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「こ………ここ、か?」
「はい、センセイ。電波はここから発せられてます」
到着したのは、三流街の外れも外れ。倒壊しかけたオンボロ小屋だ。
ぼろっちい看板があり、そこには『ゼファールド総合店』と書かれている。お店なのだろうか、でも人の気配は全くしない。
一応、店なんだよな……入ってみるか。
「よし、行くぞジークルーネ」
「はい、センセイ」
俺とジークルーネは、壊れかけたドアを開けて店内へ。
店内はガラクタの山で、得体の知れない道具が散乱していた。しかもホコリっぽくて人の住んでる様子が全くない。どうやらこの小屋は放棄されて長いようだ。
と、ホコリっぽさにしかめ面をしていると。
「誰だ」
背後から渋い男性の声。ゴメン嘘です、どうやら住人がいたようだ。
俺は慌てて振り返り、その人を見た。
「も、申し訳ありません。お店のようだったのでつい」
「帰れ。もう店はやっていない」
「え、そ、そうなんですか? その、いろんな道具があるし」
「帰れと言っている」
「す、スミマセンでした」
ダメだ、メッチャ怖い。
男性はドワーフで、長いボサボサの髪を後ろで束ね、ヒゲは他のドワーフと同じくモジャモジャだ。
身長はクトネよりやや低いが、筋肉は俺とは比べ物にならないくらいミッチリと皮膚の下に詰め込まれている。そして眼孔があまりにも恐ろしかった。
「あ、みーつけた! センセイセンセイ、電波の正体はこれだよ。この救難信号発生ペンダントみたい」
「ちょ!?」
ジークルーネが、ガラクタを漁っていた。
手には割れ目の入った鉄のペンダントが握られている。
それを持って、ドワーフの男性など目もくれず俺の元へ。
「これ、人類軍が造った暗号化された救難信号を発生させるペンダントですね。これを割ると特殊な電波が発生して、救護の対象になるの」
「わわ、わかったわかった。も、申し訳ありません、すぐ帰ります」
はしゃぐジークルーネの両肩を掴み、俺はドワーフさんに頭を下げる。
だが、ジークルーネは止まらない。
「あと、こんな物も見つけました! 人類軍が造った下級兵士の共通装備『ビームフェイズガン』です。壊れてボロボロだけど、センセイの『修理(リペア)』なら直せますよ!」
「わ、わかった、わかったから。さぁ帰ろう!」
ジークルーネの肩を押し、出口へ向かう。
「待て」
「ひっ」
ドワーフさんが俺とジークルーネをジロッと睨む。
俺はジークルーネの手に持あるペンダントと錆びてボロボロの拳銃みたいな道具をひっつかみ、ドワーフさんに差し出した。
「も、申し訳ありません! すぐに帰りますので!」
「おい嬢ちゃん、コイツが何かわかるのか?」
「ええ。もちろんです」
「ほう、面白ぇ……話を聞かせろ」
「センセイの許可があれば」
「センセイ?……おいお前、帰るな」
「は、はい……」
こうして、ドワーフさんに捕まってしまったとさ。ちゃんちゃん。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ガラクタ部屋の地べたにそのまま座り、お茶とかも出なかった。
ドワーフさんは胡座を掻いて言う。
「ワシはゼファールド。ゼドでいい」
「ええと、相沢誠二……その、セージです」
「ジークルーネでーす」
ドワーフのゼドさんか。というか、何の用だろうか。
イヤな予感しかしない。ゼドさんは錆びてボロボロの拳銃を突き付ける。
「コイツが何か知ってるなら教えろ」
「え、いやです。センセイの許可がないもん」
「おいセージ、これが何か教えろ」
「………」
怖いけど、なんかムカつく。
それが人に物を頼む態度だろうか。
ちょっとしかめ面をしたのがバレたのか、ゼドさんは頭をボリボリ掻く。
「はぁ~~~……チ、悪いな。手がかりが来たと興奮していた。頼む、これが何なのか教えてくれ」
「……あの、それをどこで?」
「この国の遺跡だ。国王の許可を得てワシが見つけたモンだ。他のドワーフはガラクタと見向きもしなかったが、ワシはこれがドワーフの未来を揺るがしかねない道具だと直感した。おかげでドワーフイチの変人と言われて、こんな町の隅で暮らしとるがな」
「………」
この人、とんでもないドワーフかも。
この世界では廃れた技術である機械が、とんでもない技術だと直感してる。
まぁ……これくらいならいいか。
「これは、機械と呼ばれる古代の技術です」
「キカイ? 古代の技術……なるほどな、やはり」
「それ、貸してもらっていいですか?」
「ん、おお」
俺はボロボロの拳銃を受け取り、久し振りに能力を発動させた。
『錆取(ルストクリーン)』で錆びを取り除き、『修理(リペア)・レベル3』で修理と破損したパーツを再生させる。すると、砲身が大きい銀色のオートマチック拳銃のような武器が現れる。黒いカバーグリップに小さなツマミも付いていた。
ゼドさんが目を丸くして今の光景を見ていた。
『初期化完了・成体コード登録完了』
「あ、やべ」
拳銃から声が聞こえた。たぶんこれ、キルストレガと同じ個人登録の音声だ。
ジークルーネを見ると、ニッコリと頷く。
まぁいいや、話を続ける。
「俺は、古代の技術を修理する能力を持っています。この通りです」
「お、おぉぉっ……まさか、こんな美しい……やはりワシは正しかった! ワシは正しかった!!」
「あ、あの」
「おいセージ! お前さん、どんな物でも直せるのか!? 古代の技術で造られた道具なら修理できるのか!?」
「ひっ、は、はい」
「内部構造を知りたい……くくく、面白くなってきた」
「あの、ゼドさん、このことは口外しないでください。お願いします」
「いいだろう。それと、協力して欲しいことがある。ワシの発掘した古代の遺物を修理してほしい。もちろん、報酬は支払おう」
「え……」
うーん、どうしようか。
機械の技術をこの人に教えたのは、ちょっとした気まぐれだ。
どんな人かも知らないのに、この拳銃みたいな機械を修理してもいいのだろうか。
「なんだ、ダメか?」
「いえ、その……この道具は危険な物です。どんな道具があるかわかりませんが、迂闊に修理するのはちょっと」
「なら、修理した道具は全てお前にやろう。その前に内部構造を調べさせてくれれば必要ないからな」
「あ、ならわたしがお手伝いします」
「ちょ、ジークルーネ」
するとジークルーネが耳打ちする。
「大丈夫ですよ、この時代の技術では内部構造を把握できても同じ物を造る道具や技術がありませんから。精密機械部品を造れるのは当時の人間だけですから、安心してください」
「むぅ……まぁ、それなら」
実は、どんな機械があるか少し興味があった。
ジークルーネもいるなら別にいいか。っと……そうだ、それより大事なことを忘れてた。
「そうだ、居住車のこと忘れていた。申し訳ありませんゼドさん、実は俺たち居住車を探してて、どこかいい居住車を売ってる場所を知りませんか?」
「居住車だと?……ふむ、まぁなくはない。お前ら冒険者か? クランの人数は?」
俺はゼドさんにクランの情報を伝える。
すると、ゼドさんはモジャモジャのヒゲをなでつけた。
「いいだろう。古代の遺物を直したら居住車を紹介してやる。お前たちが気に入るようなスゴいのをな」
「あ、ありがとうございます!」
「センセイのチート能力もレベルアップできそうだし、よかったですね」
「ああ。そうだな」
すると、ゼドさんはガラクタの山をガチャガチャひっくり返し始める。
その横顔がとても嬉しそうに見えたのは間違いないだろう。
さてさて、どんな道具が出てくるのやら。
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