第102話ドワーフ・クルール
宿屋に戻った俺とブリュンヒルデは、個々の時間を過ごした。
俺は久しぶりに昼寝をし、ブリュンヒルデは厩舎に向かった。どうも馬の様子が気になるようだ。
それから数時間。胸のあたりに重みを感じて目を覚ます。
『にゃあ』
「·········三日月か」
子猫モードの三日月が、俺の胸の上に座っていた。
頭をなでて起き上がり、抱っこしてルーシアたちの部屋へ。
すると、部屋には全員揃っていた。外も暗いし、けっこう寝てたようだ。
「セージさん、よく寝てましたね〜」
「昼寝なんて久しぶりだからな······ふぁ」
「もうすぐ夕食の時間だ。冷たいエールでも飲んで目を覚ませ」
「ああ。ルーシアも付き合えよ」
「いいだろう。この街で飲むエールは最高だ、ドワーフの仕込む酒は大陸一と呼ばれるくらいだからな」
ドワーフが酒好きというのはアタリらしい。
昼間も少し飲んだけど、確かに美味かった気がする。
俺は三日月を抱っこしたまま椅子に座る。
「ルーシア、剣はどうなった?」
「ああ、注文してきた。魔竜の牙と爪を見せたら驚いていたぞ。私の希望を話したら笑っていた。いいドワーフに出会えたよ」
「希望?」
「そうだ。少し試してみたいことがあってな。まぁ、出来てからのお楽しみだ」
怪しく嗤うルーシア。
なんかちょっと怖い。騎士っぽくないというか。
俺はネコとじゃれるブリュンヒルデとジークルーネを見て癒やされ、シリカを抱っこするクトネを見る。というかここネコ多いな。
「クトネは楽しかったか?」
「そりゃもう。ドワーフの書物なんて滅多に見れませんからね。それに同業者もたくさんいましたし」
「同業······冒険者? 魔術師?」
「冒険者の魔術師です。あたしみたいな人もけっこういるんだなーって思いました」
「ジークルーネは?」
「わたしもたくさん情報を手に入れました。あ、後でお姉ちゃんのデータバンクにアップロードするね」
『お願いします』
いやはや、便利だな。
しかもデータだから絶対に忘れないし。
『せんせ、せんせは楽しかった?』
「ん?······そうだな、楽しかったよな、ブリュンヒルデ」
『はい、センセイ。貴重な時間を過ごせました』
『······うん。良かったね、ブリュンヒルデ、せんせ』
三日月は俺の太股の上でゴロゴロする。
河合のでお腹をワシワシすると、三日月はウニャンと鳴いた。
さて、そろそろ夕食の時間だな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夕食を終え、近くの酒場でルーシアと酒を飲んでいた。
お客は見事にドワーフばかり。人間や獣人もいるけど、ここがドワーフの国だと思い知らされる。
砂ミミズの香草炒めをツマミに、2杯目のエールを飲み干した。
「っぷは! 砂漠で飲むエールは最高だな!」
「ああ、身体に染み渡るようだ······ふぅ」
酒場は大人の店なので、子供たちは宿でジュースを飲んでる。
ルーシアは酔うと意識が無くなることを理解してるのか、ジョッキではなくグラスでチビチビ飲みながら、ミミズの香草炒めを食べていた。
「このミミズもいけるな。見た目はアレだが······」
「サソリの丸焼きも美味いぞ、注文するか?」
「いや、遠慮しておく。それより······」
ルーシアはグラスを飲み干し、お代わりを注文する。
俺もジョッキでお代わりを頼み、サソリの丸焼きを注文した。
「居住車を買ったらどうするんだ?」
「ん、遺跡調査かな。ドワーフがあらかた調べ尽くしたと思うけど、俺にしか開けない扉や、古代の機械とかがあるかも。それに、ブリュンヒルデたちの姉妹や、【|戦乙女の遺産(ヴァルキュリア・レガシー)】が眠ってる可能性もあるしな」
「なるほど。ではドワーフの王に調査の依頼をするのだな」
「ああ。トラブルが起きないといいけどな······」
「ふふ、クトネも言ったが、フォーヴ王国のようなことにはならんさ。では、遺跡調査が終わった後はどうする?」
「·········」
「やはり、オストローデ王国にケンカを売るのか?」
「·········いや、無理だ」
「そうだな。いくらブリュンヒルデやジークルーネがいようと、圧倒的に数が足りない」
俺の目的は生徒たちを取り返すこと。
それには、オストローデ王国から開放しなくちゃいけない。それに戦いは避けられない。
アシュクロフトがアンドロイドということは、アナスタシアやカサンドラ、そしてヴァンホーテン王もアンドロイドと考えるべきだろう。それに、向こうには戦乙女型であるアルヴィートもいる。
圧倒的に戦力差がある。
こちらはブリュンヒルデ、ジークルーネ、クトネに三日月、そしてルーシアと俺。ははは、勝てるわけねぇ。
なら、やるべきことは一つ。
「·········味方を探そう。それこそ、国家規模の」
「つまり、オストローデ以外の王国を味方に付けるのか?」
「ああ。フォーヴ王国は無理だとしても、他の王国ならもしかしたら······」
「なるほどな。フォーヴ王国と既に占領されたマジカライズ王国を除いた4国を味方にするのか。つまり、国王を説得するのだな?」
「·········お、おう」
いかん、かなり無理ゲーだろ。
オストローデ王国は除外。フォーヴ王国はドンパチやらかしたから不可能。マジカライズ王国は既に占領。残り4国。
「まず、このドワーフの王国。そして『鮫肌王(パパ・シャーク)スクアーロ』の治める魚人の深海王国、『精霊王(アニマスピリッツ)オリジン』の治めるエルフの大樹王国、『猛毒女王(ヴェノムクィーン)エキドゥナ』の治めるラミアの森林王国、『大魔王(サタン・オブ・サタン)サタナエル』の治める吸血鬼の魔王国か」
「············」
いや、ヤバそうな連中ばかりだろ。
ヤバい心が折れそうだ。深海王国ってなんだよ、海の底にあるのか? それに吸血鬼ってなんだよ、血を吸うのかよ。ラミアって、下半身がヘビで上半身が女のアレだよな。エルフはともかく、たかが人間の俺にできるのかよ?
「距離的には、ラミアの森林王国が近いな······セージ、どうする?」
「········ま、まぁ、とりあえず遺跡調査をしてから考えよう」
追加のエールが到着し、俺はジョッキを一気に煽った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日。
朝食を食べた俺たちは、宿の近くにある居住車販売専門店、『ドワーフ・クルール』へ向かった。近いっていいね。
大手なのに建物は小さい。店舗前に数台の居住車が止まってるだけだな。
とりあえず、白金貨10枚と金貨200枚を準備しておく。
店舗の前に受付があった。座ってるのはずんぐりむっくりした女性······ドワーフの女性だ。
俺は受付に声をかける。
「あの、すみません」
「はーいいらっしゃいませー、どんなご要件かな?」
「居住車を見に、あと、気に入ったのがあれば買いたいのですが」
「はいはい、ふーむふむ、冒険者クランだね? ではクラン名と人数を書いてね」
「はい」
受付で羊皮紙を出されたので記入する。
クラン名、人数、希望の形、男女割合、予算など、書けるところを書いて提出する。
「ふーむ、この人数で金貨1200枚ねぇ······少し厳しいねぇ」
「え!?」
「ま、ないことはないよ。さっそく案内させるわ。おーいお客さんだよーっ!!」
「あいよっ!!」
すると、受付の奥から一人のドワーフが出てきた。
額にタオルを巻いたいかにもな職人風で、タンクトップは薄汚れ、作業ズボンも穴が空いている。
案内してくれるドワーフが受付から出ると店舗へ向かったので、ついていく。
「とりあえず、予算内で買える居住車を紹介してやるよ。一人二人だったら質のいい居住車を買えるんだが、この人数だとなぁ」
そう言いながら店舗のドアを開けると、そこには工具や居住車のタイヤが置いてあり、肝心の居住車がなかった。
だがすぐにわかった。地下への階段がある。
「なるほど、地下ですか」
「おうよ。居住車となるとデカいからなぁ。生産工場やショップは大抵が地下にある。まぁドワーフが穴ぐら好きってのもあるがな」
地下への階段を降りると、そこは体育館みたいに開けていた。
そして、あるわあるわ、色とりどり、豊富な形の居住車が。
クトネやルーシア、三日月も声が出ないようだし、俺も驚いた。
ビルみたいなサイズもあれば、掘っ立て小屋みたいなシンプルなのもある。さらに、動物やモンスターを模した物もあるし、まるで遊園地のアトラクションみたいだ。
「ほれ、こっちだ。6人用で金貨1200枚だと······これだな」
「······え」
そこに鎮座してたのは、木箱に窓枠を付けただけの居住車だ。
いやいや、これは流石に無いだろう。
「2〜3人だったらもう少しいいクラスのを紹介出来るが、6人となると最低金貨3000は欲しいところだ」
「さ、3000······いやいや、マジですか?」
「ああ。相場が金貨2000くらいからだからな。おたく、居住車の値段相場知らなかったのか?」
「······はい」
「なら仕方ねぇ。ウチは高級品質の居住車ばかりだからな。グレード落とした6人乗りなら、二流街か三流街で買ったほうがいいぞ」
「·········」
俺はクトネたちに確認する。
すると、全員が首を横に振った。この木箱型居住車はお気に召さないようだ。
すると、案内ドワーフさんが言う。
「なぁに、二流も三流もドワーフの仕事だ。質の悪いモンはねぇ。材料が安上がりなのは仕方ねぇが、すぐ壊れるようなモンじゃねぇから安心しな」
「は、はい······」
「ハッハッハ、兄ちゃんのクランがもっとデカくなって、金を稼げるようになったらまた来てくれや」
こうして、ドワーフ・クルールでは買えないという結論に至った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
受付で、ディザード王国のマップをもらった。
町の居住車業社が記されたマップで、オススメの店とかも載っている。それにしても数がハンパじゃない。
こうなったら、人海戦術で行くか。
「よし、ここから手分けしていくつか当たろう。6人いるから、3グループに分けて、それぞれ居住車販売会社を探すんだ。気に入った居住車をいくつかピックアップして、後日みんなで見に行くってのはどうだ?」
「いいですね! ってかあの木箱はないですよー」
「それがいいだろう。大きい買い物だ、失敗はできん」
「せんせ、居住車にキャットタワー欲しい」
「ねぇセンセイ、グループ分けはどうする?」
「······ここは公平に、グーチョキパーで決めるか」
グーチョキパーの結果。俺とジークルーネ。クトネとブリュンヒルデ。ルーシアと三日月という結果になった。
「よし、じゃあ今日はみんなで居住車を探そう!」
さて、いい物が見つかればいいが。
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