第101話まずは自由行動

 荷物のチェックが終わり、ようやくディザード王国へ入る事ができた。 

 チェック中にソリを外し、車輪を取り付けた。これで町中も自由に走れる。 

 さっそく町を走ると、早くも気が付いた。


「うーん、町ってか一つの遺跡内、ってところか」

「ああ。建物が繋がっている……まるで、古代の城のようだ」


 ルーシアは感動したように言った。

 個々の家というのが無く、全ての建物が通路で繋がっている。今走ってる場所も道というよりは廊下みたいなところだろう。でも、ここではそれが当たり前、他の馬車も普通に走ってる。

 それに、やはりドワーフが多い。

 建物ごとに看板が掲げられ、それぞれ鍛冶屋を営んでるのがわかる。それだけじゃなく、武器防具屋、装飾品屋、包丁屋、鍋屋など、金属製品のお店が多くあった。

 とりあえず、町の中心に向かう。中心は大きな店や宿が集まると相場が決まっているからな。

 

「まずは宿屋、そして」

「セージ、すまないが私は鍛冶屋に剣を依頼したい」

「っと、そうだな。今の剣もボロボロだし……」


 ルーシアの剣を先にするか。

 居住車は大事だが、ルーシアの剣も同じくらい大事だ。

 宿屋の看板を出してる建物を見つけ、大部屋1つと小部屋1つを取ってチェックイン。大部屋に集まってこれからの予定を再確認した。


「まずはルーシアの剣を鍛冶屋に依頼して、それから居住車の購入だな」

「確かドワーフ・クルールでしたっけ?」

「ああ。そうだ」

「それなら、ここから見えますよ、ほら」


 クトネは部屋の窓を開けると、ちょうど向かい側の建物に『ドワーフ・クルール』と書かれた看板があった。どうやら居住車製造販売会社で間違いない。

 そして、建物の前には居住車らしき物が停まっていた。


「あれが居住車か」

「おっきいね」

「ああ。スタリオンとスプマドールで引けるのかな……」


 見た目は、ミニ四駆のシャーシに家を乗せたような感じだった。

 住居部分の仕様は様々で、かまくら型から二階建て型、ピラミッド型や動物のような形など様々だ。どうもシャーシ部分は共通らしい。馬車のような車輪じゃなく、金属製の頑丈そうな車輪だった。

 何より、デカい。

 一軒家を引くのとそう変わりない。さすがのスタリオンとスプマドールでも、あれはキツいと思うな。

 ちょっとサイズは控えめにしよう。


「ところでルーシア、剣を依頼するのはどこで?」

「ふむ……これだけ鍛冶屋があるとな。最良の店が最高の剣を打つとは限らんし」

「だな……少し町を回ってみるしかないんじゃないか?」

「そうだな」


 するとここで、黙っていた三日月が挙手した。

 しかも、ずっと着いてきたスフィンクスも前足を上げる。


「あのね、この子がいいお店教えてくれるって。町のことならオレに任せろだってさ」

「………ネコがか?」

「うん。その代わり、干した魚をくれだって」

「む、まぁそれくらいなら……いいか、セージ?」

「いいだろ別に。それに、ネコ情報はバカにならないからな」

「うん。じゃあルーシア、わたしとこの子で案内する。一緒にいこう」

「……わかった。ではお願いしようか」


 三日月とルーシアは、シリカ以外のネコを連れて出て行った。

 ここでクトネが挙手をする。


「セージさんセージさん、あそこ見てください」

「ん?……なんだ、図書館か?」


 クトネが窓の外を指さすと、図書館があった。

 町の中央近くにあるのは珍しい。アラブの宮殿みたいな建物で本のマークが付いている。


「あたし、ドワーフの本って読んだことないんです。ルーシアさんとシオンさんも行っちゃいましたし、今日は自由行動でいいですよね?」

「まぁそうだな……よし、行ってこいよ」

「はーい! ではでは行ってきまーす!」

「あ、わたしも一緒に行っていいですか? そろそろ新しいデータを入力したいので」

「お、ジークルーネさんも行きますか? ぐふふ、では一緒に本の海に参りましょう~♪」


 クトネとジークルーネは出て行った。

 すると、残ったのは俺とブリュンヒルデだ。


「さてブリュンヒルデ、どうする?」

『私は、馬の世話を』

「昨日やったばかりだし、厩舎に入れた途端に2頭とも眠っただろう? 起こすのも可哀想だし、今日はゆっくりさせてやろう」

『では、このままここで待機します』

「あのな………はぁ、ダメダメ、ブリュンヒルデ、これから俺とお出かけだ。町の観光でもしよう」

『………』


 俺はブリュンヒルデを連れ、町の外へ繰り出した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ドワーフの国では鉄を打つ音が途絶えることはない。そんな噂もあったが事実のようだ。

 町の中心部は『武器』『防具』『装飾』『建築』というドワーフの技術ジャンルのトップが店を構え、この国にやってきた冒険者が一流の武器防具を求めて買いに来る。そして冒険者は口を揃えて言う。キツい砂漠越えをする価値がある、と。

 この町は、ドワーフの格差がよく現れている。

 町の中心部は『一流街』と呼ばれ、ドワーフの中でもトップクラスの腕前を持つ者だけが店を与えられる。ここは古代遺跡をそのまま街にした場所なので、新しい家を建てるということは出来ないのだ。

 その中心部を囲むように『二流街』が、そして二流街を囲むように『三流街』がある。ドワーフは技術が全て、三流街に住むドワーフは野心に溢れ、いつか一流になると日々腕を磨くのだ。

 そんな一流、二流、三流街を見下ろすように、町の入口の反対側に巨大な建築物がある。

 あれこそ、全てのドワーフの王である『巌窟王(グラウンド・キング)ファヌーア』が住む宮殿だ。

 ファヌーアの打つ剣は万物を切り裂き、防具は攻撃を拒絶し、装飾品は全ての女性を虜にし、建てた家は要塞となる。そしてファヌーア自身の戦闘能力もドワーフ随一という、とんでもないチートキングだ。


『以上が、この街の情報です』

「······いや、いつ仕入れたんだよ、こんな情報」

『シオン、ジークルーネの両名がオゾゾ・ドルで仕入れた情報をアップロードしました』

「なるほどねぇ······」


 初めての町で三日月とジークルーネがすることは、ネコを捕まえることと、ホルアクティを飛ばすことだ。

 三日月はネコに頼んで町の噂話や役立つ情報を、ジークルーネはホルアクティで得た情報を、それぞれ共有する。

 ジークルーネは、ブリュンヒルデのメンテ時にその情報を入力していたようだ。


「というとこは、ここは一流街か。どうりで華やかだと思ったよ」


 現在、俺とブリュンヒルデは宿から少し先にあるカフェでお茶を飲んでいた。

 ドワーフの国名物『サソリの直火焼き』や、『砂ミミズの香草炒め』を注文し、冷たいエールを飲みながらつまむ。

 サソリは完全にサソリだったが、焼くと香ばしい香りがして甲殻もフニャフニャになり、齧るとキクラゲのような味がして美味かった。ミミズの香草炒めも冷麺みたいで美味しい。

 

「そういえば、この国に入ってからあんまり暑くないな」

『現在の気温29℃です』

「十分暑いけど、砂漠に比べたらだいぶマシだな」


 これでビーチでもあれば最高だよな。

 俺はエールを煽り、ブリュンヒルデはサソリをコリコリ食べる。


「ふぅ·········なぁ、ブリュンヒルデ」

『はい、センセイ』

「最初はさ、俺とお前だけだったのに、クトネとルーシアが入って、ジークルーネが起動して、そして三日月も加わった。こんなこと言うべきじゃないんだけど······楽しいよな」

『·········』


 わかってる。

 これは、冒険なんかじゃない。

 俺はオストローデ王国から生徒たちを取り戻すという、冒険とは違う戦いだ。

 でも、クトネやルーシアに鍛えられ、ジークルーネと一緒に薬草採取して、依頼を受けて、そして等級が上がって······日本にいた時とは違う、充実してると感じている。

 

「そして今は居住車を求めて、こんな砂漠の国まで来ちまった······はは、なぁブリュンヒルデ、お前は今、楽しいか?」

『楽しい』

「ああ。俺は楽しい、楽しすぎて······っと、はは、飲み過ぎたかな」

『·········』

「さて、酔い覚ましに少し歩くか。行こう」

『はい、センセイ』


 会計を済ませて店を出る。

 日はまだ高い。町を散策しながら酔を覚まそう。


『センセイ』

「ん?」

『私は、センセイと出会えた事を嬉しく思います。これは感謝だけではありません。センセイと出会い、クトネやルーシアと出会い、ジークルーネやシオンと出会ったことで、私のヴァルキリーハーツは不可解な現象を起こしています。恐らくこれが『楽しい』という感情なのでしょう』

「·········」

『センセイ、これからも私は『楽しみ』たいと思います。センセイと、仲間たちと一緒に』

「ブリュンヒルデ······はは、そうだな」


 俺はブリュンヒルデの頭をなで、再び歩き出した。

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