第100話砂漠の王国ディザード

 美しいオアシスだった。

 ドワーフが整備してるのか、岩が規則的に並び、日よけとして飢えられたヤシの木の下には休憩用の小屋が建っている。これはもう、今日はここで休むしかないだろう。

 オアシスに入り、荷車をヤシの木の下に止め、スタリオンとスプマドールの馬具を外してやる。そしてブリュンヒルデとジークルーネがオアシスの水辺に連れて行くと、2頭は水をゴクゴク飲み始めた。

 もちろん、俺たちも負けてない。


「あぁ~水だ水、はぁぁ~……」

「ふぅぅ~ん、この水めっちゃ冷たいですね~」

「ああ………生き返るな」

「ひんやりしてる……」


 俺たちも荷車から降り、オアシスの水を堪能する。

 俺は顔を洗い、クトネは足を浸し、ルーシアは岩場に腰かけ、三日月は水に頭を突っ込んでボコボコ息を吐いていた。

 一息入れ、俺は小屋へ向かう。


「ほぉ、石造りの小屋か……うん、中はそれほど暑くないな。暖炉もあるし……」


 造りもしっかりしてる。たぶん、ドワーフの造った小屋で間違いないな。

 今日はここで休むため、俺は泊まりの準備と夕食の支度を始めた。


「ブリュンヒルデ、ジークルーネ、馬たちの世話は任せたぞ。あとは泊まりの準備するぞ~」

『はい、センセイ』

「はーい、センセイ。じゃあスプマドール、蹄のお手入れしよっか。お姉ちゃん、スタリオンの方は任せるね」

『お任せください』


 オアシスの水辺でリラックスしてるクトネたちを呼び、夕飯の支度や毛布の準備をする。

 砂漠の夜は氷点下まで下がるからな。小屋にはちゃんと薪が常備してあった。

 キッチンもちゃんと組まれてるし、普通の家にいるのと変わりないな。


 さて、夜も冷えるし温かい鍋でも作るか。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 オアシスで1泊し、再び出発した。

 目的地まであと数日の距離だろう。ディザード王国ってどんな場所なのかな。

 ドワーフのダイクさんは『楽しみにしとけ』とか言ってたけど、どんな場所なんだろう。

 暑い砂漠に逆戻りしてゲンナリしていると、馬車が止まった。


「っと……どうしたんだ?」

『………』

「センセイ、見て」


 ジークルーネに言われて外を見ると、変なモノがいっぱいあった。

 

「なんだこれ?……岩?」

「違うよ。これ……生物だね」


 そこは、砂漠にしては珍しい岩石地帯……ではなかった。

 デカい岩の塊がそこら中に散らばってる。よく見ると、岩の断面が肉っぽい。

 クトネやルーシアも顔を出した。


「な、なんですかコレ……」

「これは……まさか、ロックワームか? これだけの数、この死骸……まさか、共食いでもしたのか?」

「え、ロックワームって共食いしましたっけ?」

「いや、聞いたことがない。だが、B級モンスターであるロックワームがこれほど大量に死んでるんだ。まず人間の手では不可能だろう。仮に人間がやったとしたならS級クラスの実力だ。それに……人間がやったなら素材を剥ぎ取らないのもおかしい」

「確かにそうですねー………これだけの大量発生なら、ディザード王国のギルドは大騒ぎしてますよね。それに、こーんな乱暴な殺し方、いったいどうやって?」

「うむ。多めに見積もっても50匹はいるぞ……」


 ロックワーム。

 砂漠に潜み獲物を待ち伏せする、身体中に岩石をくっつけた巨大ミミズ。

 長さは新幹線5両ほどで、大きさもそのくらい。ヤツメウナギのような口に鋭い牙が生えている。

 食われたら一巻の終わり。そんなモンスターが大量に死んでいた。


「何があったんだ……?」

「せんせ、なんか怖い……」

「……大丈夫だ」


 三日月が俺の腕に引っ付いてきたので、頭をなでてやる。

 俺はジークルーネに聞いた。


「ジークルーネ、周辺に怪しい影やモンスターは?」

「……特にいません。モンスターも、人間も」

「そうか……とにかく、こんなところ居たくない。ブリュンヒルデ、早く行くぞ」

『はい、センセイ』

「あ!! せっかくですしロックワームの牙と外皮の岩をひっぺがして……」

「ダメ、三日月が怯えてるからさっさと行くぞ」

「ごめんね、クトネ」

「むぅ~、仕方ないですね」


 一体ここで何があったのか、それは後ほど知ることになる。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 そして、ついに到着した。


『センセイ、ディザード王国に到着しました』


 ブリュンヒルデの言葉に、荷車にいた俺たちはガバッと起き、全員で外を見た。


「おお、ついに来た!!……………あれ?」

「ちょ、ブリュンヒルデさぁ~ん、なんにもないじゃないですかぁ~」


 周囲を見ても、国どころか民家の1つもない。ただの砂漠が広がっている。

 ブリュンヒルデがこんな冗談を言うとは。


「センセイ、お姉ちゃんは冗談なんて言いませんよ。ほらあそこ」

「え?……ど、どこだ?」

「あそこです、あそこ」


 ジークルーネが何もない砂漠を指さす。

 おいおい、まさか正直者にしか見えないとか言うんじゃないだろうな。俺は嘘つきではないが正直者……でもないのか?

 

「………違う、見ろセージ」

「ん?………って、うぉ、おぉぉっ!?」

「ま、マジですか………」

「わぁ、すごい」


 馬車が近付くと、ようやくわかった。

 砂漠王国ディザードは、地下にある王国だった。


「い、遺跡……だよな」


 砂漠を縦にパックリ割り、その中に巨大な遺跡風の町がある。

 遠目からじゃ絶対に見えない。だって町が砂に沈んでるようにしか見えないし、砂の上から町を見下ろすなんて経験はしたことがない。家が1軒1軒建ててあるというより、巨大な1つの古代遺跡がそのまま砂に埋もれているような印象だった。


「す、すっご~………ルーシアさん、知ってたんですか?」

「噂程度でな。だが、こうして見るのは初めてだ……正直、圧倒されている」

「ネコ、いるかな?」


 町の入口は石畳になっていて、そこを下ると遺跡内、いや……町へ入れるようだ。

 石畳の入口には、守衛らしきドワーフが2人立っていた。手には長い槍を持っていて、近付くと槍を交差させて守衛ドワーフに止められた。

 

「冒険者か。この国に何の用事だ?」


 ドワーフの1人が言ったので、俺が荷車から降りて対応する。


「どうも。ここには居住車を買いに来まして」

「居住車か。なーるほど、どうりでいい馬連れてやがるわけだ。まぁいい、この国の規定でな、ドワーフ以外にゃ通行料取らなくちゃいけねーんだ。それと、最近外が騒がしくてな。物騒なモンがねぇか荷物のチェックもさせてもらうぜ」

「わかりました。チェックはどこで受ければ?」

「ん、あそこだ」


 守衛ドワーフが指さしたのは、石畳の入口から外れにある小屋のような建物だ。

 俺は通行料を払うために馬車から降り、ブリュンヒルデに命じてチェック小屋へ向かわせた。

 財布を取り出しつつ質問する。


「あの、よかったら居住車を買うオススメの店とかありますか?」

「なんだ兄ちゃん、ドワーフの造るモンはどれもいいに決まってるぜ。でもまぁ暇潰しに教えてやる。まずこの王国最高と言われてる居住車製造販売の大手『ドワーフ・クルール』だな。ここはかのA級クラン『女神の剣(ヴィーナス・ソード)』の乗る【女神の箱船】や、同じくA級クランの『プライド・ビースト』の乗る【獅子王号】を手がけたドワーフが誇る会社だ」

「おお、スゴいっすね。でも高そう……」

「心配すんな。既存の製品もいくつかあるから、気に入ったのがあれば買えばいい。オーダーメイドとなると金がかかるがな」

「オーダーメイド……う~ん」

「なら、大手の中で最も従業員の多い『ドワフ堂』なんてどうだ? ドワフ堂は完全オーダーメイドで、1台の居住車を20人のドワーフが製造するから早くできる。まぁ予約待ちで時間はかかるがな」

「いやぁ、あんまり時間は掛けられないんですよ」

「なら、ドワーフ・クルールにしな。既存の製品っつってもどれも高品質だ。というか、ドワーフの仕事に手抜きはねぇから安心しな」

「なるほど……わかりました、ありがとうございます」


 俺は通行料に色を付けて支払う。


「情報料です。美味い酒でも飲んでください」

「おぉ! ありがとよ兄ちゃん!!」


 守衛ドワーフに頭を下げ、馬車に戻った。

 さっそく手に入れた情報をみんなに話す。まだチェックまで順番がこない。


「守衛ドワーフさんから情報を仕入れてきた。居住車製造販売の大手は『ドワーフ・クルール』って言うらしい。町に入ったらみんなで見に行こう」

「さっすがセージさん。なんだかんだ言っても楽しみにしてるみたいですね」

「ま、まぁな」

「せんせ、せんせ、ネコ見つけた」

「ん、ネコ?……おお」


 話の流れをぶった切り、三日月がネコを差し出した。

 ネコと言っても初めて見る、毛のないネコだった。


「砂漠王国ではこの種類のネコしかいないって。フサフサじゃないネコも可愛いね」

『なぁう』


 毛のないネコ。確かスフィンクスだったかな?

 みけことくろことシリカに混ざり、にゃーにゃーネコ語でお話ししてる。

 ま、可愛いし放っておくか。


 さて、砂漠王国ディザード、どんな国なのかね。 

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