第94話野営

 日も暮れ始め、ディザード領地へ入って最初の野営。

 キレイな小川が流れてる林に馬車を止め、野営の準備を始めた。


「せんせ、どうしよう」

「三日月はブリュンヒルデたちと薪を集めてくれ」

「わかった」

『センセイ、行ってきます』

「いってきまーす」


 ブリュンヒルデ・ジークルーネ・三日月の3人に薪を拾いに行かせ、ルーシアとクトネにはテントを張ってもらう。

 俺は馬車に積んでおいた竈用の石を降ろして竈を組み、折りたたみの簡易テーブルと人数分の折りたたみ椅子を準備、食材の下ごしらえを始めた。

 保存の利かない物から順番に使う。旅では当然の知識だ。

 テントを張り終えたルーシアとクトネが俺の元へ。


「セージさんセージさん、あたしとルーシアさんで魚釣ってきますね!」

「いいけど、暗くなるからあんまり時間掛けるなよ? 釣れなくても食材は間に合うからな」

「はーい。じゃあ行きましょうルーシアさん!」

「わかったわかった。ではセージ、行ってくる」

「ああ、クトネを頼むぞ」


 食材の下ごしらえは終わり、大きめの鍋に水を入れておく。

 猫用のエサを準備して待つと、とんでもない量の薪を抱えたブリュンヒルデたちが戻って来た。やれやれ、相変わらずブリュンヒルデは加減を知らないな。

 

「おかえり。じゃあ薪はそこに置いて、ブリュンヒルデとジークルーネはスタリオンの食事とマッサージ、三日月はネコたちにエサをやってくれ」

『はい、センセイ』

「はい、センセイ」

「わかった。みけこ、くろこ、シリカ、ごはんだよ」


 こんな言い方はアレだが、野営の指揮に関して、俺はこのパーティ最強だと思う。

 俺は火を起こし、鍋を火に掛ける。今日のメニューは肉野菜たっぷりシチューだ。

 というか、マジで俺って料理番だな。


「さーて、ちゃっちゃと作りますかね」


 シチューの具材を入れて煮込むと、上機嫌のクトネとルーシアが戻って来た。

 手には木桶があり、中には活きのいい川魚が4匹泳いでいた。


「むっふふ、どうですかセージさん!」

「おお、さすがだな。串焼きにするか」

「ちなみに、釣ったのは私でクトネはボウズだったぞ」

「ちょ!? ルーシアさぁぁん……」


 ひとしきり笑い、俺は手早く魚をさばいて串に刺して焼く。

 シチューは弱火でじっくり煮込み、魚もジワジワ焼いていく。

 ブリュンヒルデたちはスタリオンに野菜を食べさせ、マッサージを兼ねたブラッシングを丁寧にやる。三日月はしゃがみ、ネコたちにエサをあげて何かしゃべっていた。意思疎通が計れるっていいな。

 それから数十分。夕飯が完成するころには暗くなっていた。

 焚き火を囲むように椅子に座り、それぞれの深皿にシチューを盛り、焼きたての魚を串ごと配る。4匹しかなかったので、ブリュンヒルデとジークルーネは魚を遠慮した。ええ子たちや。

 俺はみんなに食事が行き渡ったのを確認して言う。


「では、いただきます」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 食事が終わり、小川で洗い物も終わらせた。

 ブリュンヒルデとジークルーネはスタリオンの元へ、クトネは馬車の中でランプを付けて読書、三日月は子猫モードになりシリカたちと一塊になって丸くなってる。

 俺とルーシアは、ワインで軽い晩酌をしていた。


「次の目的地は砂漠か……セージ、地図は大丈夫か?」

「ああ。砂漠の地図は冒険者ギルドで買ったから大丈夫。飲み水もあるし、オアシスまで楽勝に進めるぞ」

「油断するな。私やクトネも砂漠を経験したことはない、何が起きるかわからんぞ」

「わかってる。でも、頼りにしてるからな」

「ふ……まかせろ」


 ルーシアは俺より年下なのに、年上のお姉さんに見える。

 優しくて美人、スタイル抜群、美巨乳。弱点とかないのかね。


「今日は酔う前に寝るとするか……おやすみ、セージ」

「ああ、おやすみ」


 ルーシアは馬車の中へ戻り、しばらくすると明かりが消えた。どうやらクトネも寝たようだ。

 女性は馬車、俺は1人用のテントで寝てる。ブリュンヒルデとジークルーネは眠る必要がないので、スタリオンの相手をしたり、夜行性のネコたちと戯れて時間を潰してる。もちろん、周囲の警戒は怠らない。

 俺はスタリオンをなでているブリュンヒルデたちの元へ。


「二人とも、俺はそろそろ寝るから、あとはよろしくな」

『はい。おやすみなさい、センセイ』

「おやすみ、センセイ」


 この2人がいるだけで安眠できる。

 無表情のブリュンヒルデ、笑顔で手を振るジークルーネ。ブリュンヒルデはともかく、ジークルーネはどう見てもアンドロイドとは思えないよ。


「じゃ、おやすみ」


 テントに入り毛布を被ると、違和感に気が付いた。


「ん……?」

『にゃあ』

「って、三日月? いつのまに……」

『せんせ、寒いと思って。わたしこのままで寝るから、抱っこして』

「……まぁいいか」


 子猫モードの三日月がテントに潜り込んでいた。

 まぁ、可愛いペルシャ猫だと思えばいいか。

 俺は三日月を胸の位置まで移動させ、頭から背中にかけて流れるようになでる。


『うにゃ……気持ちいい』

「ふぁ……おやすみ、三日月」

『んん……』


 ふわふわと気持ち良く、すぐに眠気が襲ってきた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 翌朝……。


「ん……」


 柔らかく、いい匂いがした。

 スベスベときめ細かく、ぷにぷにと柔らかい。

 柔らかいけど……なんか、突起があるな。


「んんぁ」

「ん……?」


 なんか艶めかしい声が……。

 ゆっくり目を開けると、白いふくらみが飛び込んできた。


「…………」

「んんぅ、せんせ……?」

「み、三日月……」


 三日月が、裸で俺の胸の中にいた。

 俺の右手は柔らかい物をしっかり掴んでいる……ああ、なんてこった。

 三日月はゆっくり目を開け俺を見ると、自分の身体を見てハッとなる。


「……………せんせ、えっち」

「すすす、すんません!!」


 慌てて胸から手を離し、俺はテントから飛び出す。

 すると、朝食の支度をしてるジークルーネと、スタリオンに人参を食べさせてるブリュンヒルデがいた。幸いなことに、ルーシアたちはまだ寝ているようだ。


「あ、おはようございます、センセイ」

『おはようございます、センセイ』

「あー……おはよ」

「センセイ、どうしたんですか?」

「い、いや……なんでもない。ちょっと顔洗ってくる」

「あっ」


 手拭いを掴んで小川へ向かう。ジークルーネが引き留めたような気がしたが、三日月の裸が脳裏に浮かんでいたので聞こえなかった。

 女の子だらけのパーティにありがちなハプニングだ。マズいな……次の町まで距離がある。娼館はまだしばらく先かな。

 

「はぁ、せっかくだし身体も洗う………か」


 小川には、ルーシアとクトネがいた……裸で。

 

「………せ、セージさん?」

「………おいセージさん、どういうつもりだ?」

「え、あの……」


 二人は水浴びしていた。

 待て待て、なんでルーシアは剣を掴む。おいクトネ、なんで魔力を滾らせる?

 ちょっと待て。マジで俺は悪くない。


「ちょちょ、ちょっと待て!! なんでお前らが水浴びして……」

「ジークルーネに聞かなかったのか? 私とクトネが水浴びするから見張りは任せたぞ、と」

「き、聞いてません……マジです」

「ほほう……」

「というかセージさん、あっち向いてくださーい!!」

「す、すまん!!」


 再び俺は逃げ出した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ルーシアとクトネが非難するような目で見るので、俺はブリュンヒルデと共に御者席に座っていた。

 ジークルーネは確かに見張りをしていた。でも、仲間である俺は対象から外れていたそうだ。ジークルーネが笑顔で言うもんだから、ルーシアとクトネは毒気を抜かれていた。

 三日月は三日月で、裸を見られたことなんてどうでもいいのか、再び子猫モードでネコたちと昼寝してるしよ。

 俺はブリュンヒルデと話す。


「はぁ……なぁブリュンヒルデ、もしこのクランに新しい仲間が入るとしたら、どんなヤツがいい?」

『戦力的には十分だと思います。よって、不要かと』

「うーん、そうかなぁ……個人的には、男メンバーが欲しいな」


 もし、次に仲間が増えるなら、ぜひとも男でお願いします!

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