第六章・【巌窟王ファヌーア】
第93話次の目的地
次の目的地は『砂漠王国ディザード』だ。
オゾゾの町からかなり距離があるし、山や森を抜けて砂漠も越えなくちゃならない。地図で確認したけど、相当な距離になりそうだ。
いくつかの町を経由して補給しながら進む予定だ。
オゾゾでしっかり準備を整え荷車に食料をたっぷり積み込み、宿屋で最後の夜を過ごす。
「今回は、依頼を受けずにのんびり行きましょう。慌てず焦らず確実なルートで!」
シリカをなでながらクトネが言う。
すると、ワインをチビチビ飲んでいたルーシアが言った。
「そうだな。資金は十分にある。ディザード王国までは遠いから、気を付けて行こう」
目的は新しい馬と居住車だよな。
俺や三日月の本来の目的とは外れるが仕方ない。旅の拠点となる居住車はいい物でありたいからな。女メンバーが多いと旅も大変だし。
すると、ロングソファを1人で使い横になり、みけことくろこを抱きしめてる三日月が言った。
「そういえば、砂漠王国には遺跡がいっぱいあるって聞いた」
「遺跡か……最近全然行ってないな」
「あと、砂漠王国にはとーっても強い冒険者の2人組がいるんだって」
「強い冒険者?」
「うん。ネコ情報」
三日月は、みけことくろこにお願いして、依頼を受けている間に、オゾゾの町で情報収集をしている。
ネコ情報とは、町中にいるネコにお願いして、冒険者や商人の話を盗み聞きすることだ。ネコなので隠密性に優れるし、聞かれたところで『なんだネコか……』で済むからな。
で、強い2人組の冒険者ってなんだ?
「なんでも、討伐系の依頼をたくさん受けて、どれも必ず成功させてるらしい。今は砂漠王国を拠点にしてるけど、大陸中の強いモンスターと戦いまくってるらしいよ」
「ふーん。戦闘狂か……S級冒険者なのかな?」
「ううん。すっごい変わり者らしくて、S級冒険者に認定するって話もあったらしいけど、断ったんだって」
どうやら、かなり変わり者みたいだ。
まぁそんなのは別にいい。問題は、ネコ情報にオストローデ王国の情報がないということだ。
「三日月、オストローデ王国の情報はないのか?」
「………ごめんなさい」
「いや、いいよ。焦らず行こう」
「にゃ……」
三日月の頭をなでると、ネコみたいに目を細めた。
すると三日月は子猫モードになり、俺の太股の上に乗って丸くなる。
『にゃう、せんせ、なでて」
「お前なぁ……まぁいいか、と」
『にゃあぅ』『うなぁ』
子猫三日月だけでなく、みけことくろこも乗ってきた。
仕方ないので3匹まとめて面倒見てやるか。
すると、向かいのソファから視線が……ブリュンヒルデとジークルーネだ。
「ん、なんだ?」
『………』
「センセイ、羨ましいな~……わたしもそっちに行っていいですか?」
「おお、いいぞ。3匹はちょっと大変だ」
「やたっ、じゃあ失礼して……うふふ、かわいい」
『うなぁ~』
ジークルーネは俺の隣に座り、くろこを太股の上に乗せてなでる。
ブリュンヒルデが何も言わずジッと見てるのが気になる……本人は何も言わないけど、ブリュンヒルデはかなりの動物好きだと思ってるからな。この状況は放っとけないだろう。それに、俺が『こっち来いよ』と言えばブリュンヒルデは来る。だが、それじゃダメだ。ブリュンヒルデが自分から言ってこないと、彼女の精神的な成長に繋がらない。『可愛い動物を抱っこしたいです』と言えばこのネコたちを抱っこできるんだ。
だから、俺は敢えてブリュンヒルデを見なかった。
「お姉ちゃん、お姉ちゃんも」
「ジークルーネ、みけこも可愛いぞ」
「わ、ホントだぁ~、にゃおお」
『にゃおぉ』
『………』
ブリュンヒルデは何も言わない。
ジークルーネや俺がネコをあやしてる様子をじっと見てるだけだ。
さぁ、言え。言え!
『………センセイ』
「ん、どうした?」
『………私も、ネコに触れる許可をください』
「………もちろん。ほら、こっち来いよ」
『はい、センセイ』
ブリュンヒルデが俺の隣に座ったので、三日月ネコを乗せてやる。
『せんせ?』
「三日月、ブリュンヒルデの相手してやってくれ」
『わかった。ブリュンヒルデ、なでて』
『わかりました、シオン』
ブリュンヒルデは、いつもと変わらない無表情で三日月をなでる。
一定の間隔で、機械のように。
『にゃぁ……』
『………』
でも、不思議と優しい空気を纏っているような気がした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日。ディザード王国へ向けてオゾゾを後にした。
「まずは山越えですねー」
『うん。シリカシリカ、いっしょにお昼寝しよ』
『なぁご』
荷車が狭いので、三日月は子猫モードになって俺の太股にいる。するとシリカも来た。
クトネのネコなのによく俺やブリュンヒルデの太股の上にいるシリカ。可愛いけどクトネがぷっくり頬を膨らませるんだよな。
みけことくろこは御者席に座ってるブリュンヒルデとジークルーネの傍にいるし……まぁいいや。
俺はルーシアを見る。
「ん?……ルーシア、それって」
「ああ、魔竜の牙と爪だ。ディザード王国のドワーフが鍛えれば素晴らしい業物が出来上がるだろう……くくく、ドワーフの鍛冶技術は大陸一と呼ばれてる。実に楽しみだ」
「ドワーフかぁ……」
ドワーフ=鍛冶。これもテンプレだよな。
そう言えば、この世界のドワーフ全然知らないな。
「なぁ、ドワーフってどんな種族なんだ?」
俺の質問に『待ってました』と答えたのはクトネだ。
どうも説明が好きなのかな、こういうときは実に頼りになる。
「ドワーフは、鍛冶に特化した技術を持つ種族です。種族全員が『土』属性の元に生まれ、大地の恩恵を受けていると言われています。なので、鉱石加工技術や武器防具の製造スキルは大陸一と言われていますね」
「ドワーフの鍛える武器は例外なく最高級品だ。硬度や機能性はもちろん、造形も美しく、国王への献上品に武具が送られるくらいだ」
「ほぉ~、やっぱドワーフすげぇな」
「ドワーフは鍛冶全般に秀でていますが、それぞれ『武器』・『防具』・『装飾品』・『建築』とジャンルに分かれて道を極めます。強い武器、頑丈な防具、美しい装飾品、砦や家屋の建築……あたしたちの目的である居住車は『建築』に特化したドワーフに依頼することになるでしょうね」
「ふーん……」
「これから向かう砂漠王国は、大昔にドワーフが造り上げた『大要塞ディザード』をそのまま王国としている……だったか、クトネ?」
「ええ。最古のドワーフが過去の技術をもって造り上げた要塞だそうです。セージさんの大好きな古代遺跡ですね」
「………ほほう」
ほほう、こりゃ楽しみが出来たな。
つまり……何か眠ってる可能性もあるな。新しい戦乙女型か、それとも【|戦乙女の遺産(ヴァルキュリア・レガシー)】か。
というか、古代遺跡の王国ってロマンだな。
「セージ、砂漠王国でも遺跡調査をするのか?」
「もちろんそのつもりだけど」
「ふむ……ならば、『|巌窟王(グラウンドキング)ファヌーア』の許可を得ねばならんぞ」
「え、マジか?」
「ああ。ドワーフにとって遺跡は重要な物だからな。調査にも許可が要る」
「ドワーフは獣人ほど人間を嫌ってないですけど、ディザード領土以外の遺跡を見たドワーフは人間嫌いになったなんて話もありますからねー」
「確かに、ドワーフほど遺跡の管理を徹底してるわけじゃないからな」
むぅ、マジカライズ王国の遺跡なんてほったらかしだったからな。
しかも巌窟王だか偏屈王だかと謁見しなくちゃいけないのかよ。というか、これで王様に会うの4人目だぞ。
「王様に謁見か……気が重いなぁ」
「まぁまぁ、フォーヴ王国のときみたいに襲われることはないですよ。ドワーフの王である巌窟王は理由なくケンカ売るような人じゃないですし」
「ああ。目的は居住車と私の剣、そして遺跡調査だ」
改めて目的を確認し、俺は三日月ネコをなでる。
なんか大人しいと思ったら、シリカと一緒に眠っていた。
「次の町までかなりあるし、また訓練しながら行こう」
「ああ、手加減しないぞセージ」
「もちろん、あたしもですよー!!」
よーし、頑張ろう!
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