第91話レベルアップ

 G級認定を受けてからも、依頼は変わりなく受けた。

 薬草採取、モンスター討伐、レア素材収拾……俺たちの技能に合った依頼を受ける。

 基本的に、日数が掛からない依頼を重点的に受ける。そのぶん報酬は安いが、質より量でお金を稼いだ。

 気が付けば、金貨は200枚ほど溜まり……その時が来た。

 

「おめでとうございます。セージ様、ブリュンヒルデ様の冒険者等級がE級に昇格しました! それに合わせ、クラン等級もF級に上がります!」

「え」


 ある日、ブリュンヒルデと一緒に街道に現れる野良オーク退治を終えてギルドに報告すると、受付嬢さんにそう言われた。

 言われたことを理解して口が緩む。久し振りの昇級だ。

 昇級の処理を済ませ報酬をもらい、いつの間にか依頼終了後の待ち合わせ場所となっている依頼掲示板の前で、俺は喜びを爆発させた。


「ッッしゃぁっ!! やったぞブリュンヒルデ、E級だぞE級!!」

『おめでとうございます、センセイ』

「ああ、ってかお前もE級だぞ? おめでとうブリュンヒルデ!!」

『ありがとうございます』


 俺はブリュンヒルデの両手を掴みブンブン揺らす。

 今日は豪勢にしようと夕食メニューを相談していると、クトネたちが揃って戻って来た。


「おーいセージさん、ブリュンヒルデさーん」

「お、クトネ、みんなも……っと」

「せんせ、せんせ、昇格した!!」

「あ!! ずるいですよシオンさん、あのですねセージさん、あたしたちみんなF級に昇格して、クラン等級もF級に上がりました!!」

「やれやれ、少し落ち着け、シオン、クトネ」


 俺の胸に飛び込んできた三日月を抱き留め、ドヤ顔のクトネと苦笑するルーシアを見る。するとジークルーネが言う。


「等級も上がりましたし、これでもう少し高ランクの依頼を受けれますね。お金も順調に稼げてますし……もしかしたら、金貨1000枚も夢じゃないかもですね」


 金貨1000枚か。

 現在、共有貯金は金貨180枚。銀貨や銅貨は端数になるので、依頼ごとにみんなで分けた。

 あと820枚かぁ……いや待て、そこまで稼ぐつもりはないけど。いやでも、もう少し高ランクの依頼なら案外簡単に……待て待て。


「むっふっふ……さすがジークルーネさん。そう来ると思ってちゃんと考えてありますよ!! 次の依頼は……これです!!」


 クトネは、前から目を付けていたのであろう、依頼掲示板の隅っこに貼られていた1枚の依頼書を引っぺがした。


***************

【依頼内容】 等級指定なし

○魔竜カルマドラゴンの討伐。


【報酬】

○金貨300枚。

○ドラゴンの素材全て。


【達成条件】

○ドラゴンの討伐。

****************

 

「というわけで、明日はドラゴン退治!!」

「待てコラ」

「くぇっ!?」


 俺は依頼書を受付に持っていこうとするクトネの首根っこを掴んだ。

 首が絞まり、ゲホゲホむせるクトネ。


「な、なにすんですか……死ぬかと思いましたよ」

「アホ。そんなので死ぬか……というか、そのドラゴン退治ってなんだ?」

「え、次の依頼ですよ?」


 この野郎、あっけらかんと言いやがった。

 まぁ、前みたいに勝手に受ける前に止められたからいい。


「あのな、ドラゴンだぞドラゴン。しかも等級指定なしってことは、簡単に言うと『誰でもいいから討伐してくれ、その代わり死んでも文句言うな、ギルドは知らんぞ』っていう依頼だぞ?」

「そーですよ。でもセージさん、このメンバーを見て出来ないとでも?」

「……………」


 俺はメンバーを見る。

 無敵アンドロイドのブリュンヒルデ、異世界の勇者の三日月、元騎士団長のルーシア、チートアンドロイドのジークルーネ、そして頭脳明晰魔術師クトネと、修理屋の俺。いや待て、俺は修理屋じゃない。

 あれ?……もしかしてイケる?


「みなさん、数多く依頼をこなして、冒険者としてもレベルが上がりました。セージさんもモンスターとの戦いでだいぶ度胸が付いたようですし、ここからは格上相手に挑み全体の強さ向上を図ります!! お金も稼げて等級も上がっていいことずくめですよ!! お金が貯まったら『砂漠王国』に行けますしね!!」


 むぅぅ……こいつ、考えてやがる。

 俺はここで仲間の意見を聞くことにした。


「みんな、どう思う?」

『私は問題ありません』

「わたし、ドラゴンに会ってみたい」

「私も構わん。騎士団でドラゴン退治の経験もあるしな」

「わたしもいいですよ~。死なない限り治せますからね~」


 はい、俺以外全員問題なしでした。

 この瞬間、ドラゴン退治が決定した。


「むふふ、ではでは、次の依頼はドラゴン退治ということで~」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 魔竜カルマドラゴン。

 ディザード領土側にある洞窟に住んでいるC級モンスターで、洞窟に侵入したモンスターや、魔竜カルマドラゴンが守っていると言われているお宝を狙った冒険者をエサにしてるとか。

 昔から討伐依頼は出していたが、C級という難易度で手を出す冒険者がおらず、たまに受ける冒険者もいるが誰も帰ってこなかった。A~C級冒険者に頼めば討伐可能だが、魔竜討伐を依頼した商人ギルド連合は、A~C級冒険者クランを動かすだけの依頼料を支払わないのだとか。

 まぁ、放っておけば魔竜カルマドラゴンは人に手出しをせず、洞窟に侵入したモンスターだけを食べているので害はない。お宝狙いの冒険者は食われて終わり。

 なので、依頼掲示板の片隅でホコリを被っていた依頼だった。


「ってことだけど……」

「せんせ、どうしたの?」

「あ、いや……展開早いなって」


 現在、俺たち『戦乙女』は、魔竜カルマドラゴンのねぐらである洞窟前にやってきた。

 いつもは馬車だが、今日はちょっと荷車が特別仕様だ。討伐したドラゴンを運ぶため、ギルドで借りたモンスター運搬用の専用馬車をスタリオンに引かせてここまで来た。


「さて、まずは作戦通り、ホルアクティを先行させて地形やドラゴンの様子を確認するか。ジークルーネ、ホルアクティの操作は任せたぞ」

「はい、センセイ。センセイの端末でも映像が中継できるように設定しましたので、みんなで確認してくださいね」

「わかった」


 俺は右手のバンドもとい端末を起動すると、ブリュンヒルデとジークルーネを除く女子が寄ってきた。というか、みんな女の子だからいい匂いがする……ってそんな場合かい。

 ホルアクティは、洞窟内をマッピングしながら飛ぶ。

 意外と単純な作りの洞窟だ。くの字型で一番奥が広く、距離も200メートルない。そして洞窟の最奥には、黒い鱗のデカいトカゲみたいなモンスターがいた。全長20メートルくらいだろうか、目を閉じてスヤスヤ寝てる。

 さて、どうしようか。


「……ふむ、これは厄介だな。真正面から挑むしか方法がない。洞窟自体それほど広くないから全員で戦うわけにもいかん……せいぜい、3人といったところか」


 ルーシアが言う。

 確かに、魔竜カルマドラゴンがいる最奥は、空間になっているとは言えそんなに広くない。前線メンバーが多いウチのパーティじゃフルに実力を発揮できない。

 最悪、ブリュンヒルデを突っ込ませて終わったら全員で入るという作戦もある。当然だが、ブリュンヒルデがあんな黒トカゲに負けるワケがない。だが、それじゃクランとしての成長が見込めないということで、クトネとルーシアが却下した。もちろん、俺も正直気乗りしていないからよかった。

 

「それだけじゃないみたいですね……みなさん、周りを見てください」

「ん、周り?」

「ええ。カルマドラゴンから正面にかけて、岩や石壁が黒ずんでいます……これたぶん、ドラゴンブレスによる煤ですね」

「なるほどな……つまり、この地形では真正面から挑むしかない、だが真正面から挑む前にドラゴンブレスで丸焼き、ということだな」

「恐らく……カルマドラゴンにとって、ここは寝室であり狩り場ということですね」


 おいおいどうすんだよ。真正面から挑むしかないのに、真正面から行けばドラゴンブレスで丸焼きコースか。

 こりゃ最悪のパターンだな。


「なぁブリュンヒルデ、お前って耐熱仕様?」

『はい。摂氏2億度までなら耐えられます』

「に、におくって……そんな子供が考えたような設定だな」

「あ、わたしも耐えられまーす」


 戦乙女姉妹は頑丈すぎますね。ドラゴンブレスって摂氏何度だ?

 クランとしての成長は大事だが、命には代えられないな。


「……よし、洞窟内へ進むメンバーは、ブリュンヒルデとジークルーネ、そして俺の3人だ。ブリュンヒルデが直接戦闘、俺が援護、ジークルーネはいざという時の連絡役で行くぞ」

「……ま、今回は仕方ないですね。地形が悪すぎます」

「そうだな。セージ、ブリュンヒルデ、ジークルーネ、頼んだぞ」

「せんせ、わたしも行きたい」

「ダメ。終わったら連絡するから、ここで待ってなさい」


 さて、ドラゴン退治と行きますかな。

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