第90話G級魔術師・相沢誠司

 俺たち『戦乙女』は、毎日依頼をこなした。

 基本的に2人1組で行動し、チームを変え、お金稼ぎを順調に続けた。

 受けた依頼も様々だ。

 俺とルーシアが組んでゴブリン退治をしたり、ブリュンヒルデとジークルーネで山賊退治、三日月とクトネで迷子猫の捜索をしたりと、適材適所で依頼を受けては成功させた。

 もちろん、低レベルな依頼ばかりなので、並の冒険者が普段からやってるようなことに変わりない。でも、俺たちは金を稼ぐという目的以外に、純粋に冒険を楽しんでいた。まぁ盗賊退治とかはいい気分じゃないけどね。

 ある日、依頼を終えた俺たちは、ギルドの掲示板前で話をしていた。


「さて、今日も依頼が終わった。明日の依頼を物色しておくか」


 こんなセリフが俺から出るくらいなのだ。もうギルドの依頼受けはバッチリだ。

 すると、クトネが俺を見て言う。


「それもそうですがセージさん、ちょいと提案があります」

「ん?」

「セージさん、魔術ギルドの等級試験を受けませんか?」


 クトネ曰く、俺の魔術に等級を付けようと言うのだ。

 等級を受けていない俺の魔術はG級もどき。なので、魔術ギルドの等級試験を受けて、G級認定を受けろということだ。


「今日、セージさんの魔術を見ましたけど、かなりイイ感じに仕上がってますね。あたしの見立てですと、『土』はE級に相当、『雷』はF級くらいのレベルになってると思いますよ」

「そうか?」


 今日の依頼はクトネと一緒に秘薬草採取だった。

 そこで野良ゴブリン数匹と戦闘になって、俺は魔術のみで倒した。もちろんクトネが俺の魔術レベルを知るために与えた指示だ。最近、魔術修行は続けているけど、クトネの前で披露してなかったからな。


「ええ。明日はあたしと一緒に、この町の魔術ギルドへ行きましょう。他の皆さんは休日ってことで」


 すると、三日月とジークルーネが喜んでいた。


「やった! ねぇお姉ちゃん、明日は一緒にお買い物しよう。スタリオンの新しいブラシ買いに行こう!」

『お付き合いします』

「じゃあルーシア、明日はわたしとお買い物しよう」

「む……あ、ああ。いいぞ」


 最近、依頼ばっかりだったからな。みんな気分転換が必要だ。

 するとクトネがニヤニヤしながら俺の腕に抱きつく。


「うひひ、セージさんはあたしとデートですねー」

「はいはい。魔術ギルドの案内よろしくな」

「むー、なんかつれないですねー」


 というわけで、明日は魔術ギルドへ向かうことになった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 翌日。俺とクトネは魔術ギルドへ向かった。

 ブリュンヒルデたちは朝からお出かけだ。最近ずっと依頼ばかり受けてたし、気分転換も必要だろう。

 魔術ギルドは、冒険者ギルドの隣にある、こじんまりした石造りの建物だった。


「へぇ~、魔術ギルドって冒険者ギルドの隣だったのか」

「基本的に、冒険者ギルド・魔術ギルド・商人ギルドの3つは町の中心で、お互い近い場所に建ってますよ」


 クトネと一緒にギルド内へ。

 ギルド内は狭く、6畳ほどの広さしかない。受付カウンターによくわからない薬品棚くらいしかなかった。

 だが、受付の隣に、地下らしき階段がある。


「見ての通り、ここは受付だけで、魔術ギルドは地下にあります」

「地下……なんでだ?」

「簡単です。地下の方が結界を敷きやすいからですよ。魔術ギルドは地下深く掘られ、D級以上のクランには魔術師用の専用個室が与えられます。地下だと結界が敷けますし、覗きとかもできませんからね。魔術の研究をするにはもってこいの場所なんです。ちなみに、クランに所属していない魔術師が個室を借りると利用料金が掛かります」

「なるほどな。考えられてるわ」


 クトネと一緒に受付へ。


「こんにちわー。等級審査希望です」

「はい。等級はいくつ?」

「まだ認定を受けてないので。それと、こちらの方は『|二種(ダブル)』です」

「はい。ではこちらの書類に記入を。審査員は……」


 クトネに渡された用紙に記入する。

 名前、所属クラン、属性……よし、終わった。

 用紙を提出すると、地下へ案内された。


「おお、螺旋階段」


 石造りの螺旋階段を下り、地下3階くらいのところで下りる。まだまだ階層は続いてるが、試験会場は地下3階のようだ。

 長い通路の左右の壁にいくつもドアがあり、その内の1つを開けて中へ入る。するとそこは射撃場のような横長の空間だった。


「では、試験をこの部屋で行います。試験属性は『土』と『雷』です。射撃地点に立つと、部屋の奥に的が現れますので、使用できるG級魔術で破壊して下さい。ではまず『土』属性から」

「は、はい」


 いやいや、いきなりすぎだろ。

 事態もよく飲み込めてないのに。というか心の準備ができてない。

 するとクトネが言う。


「セージさん、慌てず落ち着いて、いつも通りやって下さい」

「………わ、わかった」


 俺は右手の五指をリラックスさせ、指示された場所に立つ。なんてことない、射撃訓練をやるようなモンだ。いつも岩を的にして魔術練習してる。楽勝楽勝。

 というか、試験官って受付嬢さんなのか。


「では、始めます」


 受付嬢さんがそう言うと、俺の立つ位置から15メートルほど離れた場所に白い光球が現れた。どうやらあれが的らしい。

 俺は左手をピストルのように構え、呪文を唱えた。


「大地の礫よ飛べ!! 『|石礫(ストーンバレット)』!!」

 

 漬物石が真っ直ぐ飛び、光球を打ち落とす。

 すると、すぐに別の光球が現れたので、すかさず同じ呪文を唱える。ちなみに、魔術的な結界が敷いてあるので、俺の漬物石で壁などを破壊する心配はない。

 いいね。まるで射撃ゲームだ。光球がデカいから、俺の腕でも外しそうにない。ゲーム感覚で漬物石を撃ち、光球をどんどん打ち落とす。

 だが、20を越えたあたりで疲れてきた。

 

「っく……『|石礫(ストーンバレット)』!!」


 あ、やべ。

 詠唱しないで撃ったせいで、漬物石が野球ボールサイズになってしまった。

 速度も、ピッチングマシンから俺の全力投球ぐらいの速度に落ちたし。でも光球には命中した。

 失敗したと思いつつ、30個目の光球を打ち落として試験は終わった。


「………お、お疲れさまです。ではエーテルを飲んで魔力回復を。15分後に『雷』属性の試験を行います」

「は、はい」


 サイドテーブルには試験官に入ったエーテルが準備されていた。

 なぜかニヤニヤしてるクトネ。助言は出来ないので喋らない。

 俺はエーテルを3本一気飲みし、魔力を回復させて深呼吸する。

 

「っし……」


 精神統一。

 そして、雷の試験も同じ内容で始まった。


「貫け紫電のイカヅチ、『|雷槍(サンダーランス)』!!」


 先程と同じ、左手をピストルにして紫電のレーザー光線を放つ。

 実は、『|落雷(ライトニング)』よりこっちのが得意。というか訓練した。

 だって指先からレーザー光線出せるんだぜ? 幽○白○の○丸みたいでカッコいいしな。

 霊○は光球を次々に打ち落とす。


「ッし、『|雷槍(サンダーランス)』!!」


 やばい、またやっちまった。

 詠唱破棄したレーザー光線はかなり細い。ボールペンみたいなレーザー光線が光球を打ち落とす。

 先程と同じ30個目の光球を打ち落としたことで、試験は終了した。


「……お疲れさまでした。受付で結果を発表しますので、15分後にお越しください」

「は、はい」


 こうして、俺の魔術等級試験は終わった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「合格です。『土』属性G級、『雷』属性G級に認定します」

「…………へ?」


 15分後、受付でそう言われた。

 実にあっさり。淡々とした言葉で書類に記入するように言われた。

 とにかく、これで俺も魔術ギルドに名前が登録された魔術師だ。


「では、こちらが登録証となります」

「あ、どうも」


 渡されたのは、冒険者ギルドが発光してるドッグタグと同じような物だった。掌サイズのプレートで、表にはよくわからん紋章が刻まれ、裏には『土属性・G級』、『雷属性・G級』と刻印されている。

 受け取ってしげしげ眺めていると、受付嬢さんが言った。


「あの、よろしければこのままF級試験も受けられますか? 貴方なら合格間違いないと思いますよ?」

「え!? あ、いや……きょ、今日は遠慮しておきます」

「そうですか。ではまたお越しください」


 そう言って、クトネと一緒に魔術ギルドの外へ。

 

「はぁ……終わった」

「おつかれですセージさん。むふふ、簡単だったでしょ?」

「………まぁ、な。けっこう疲れたけど、的当てならいつもやってるし」

「そりゃそうですよ。だって、試験を想定してあの練習をさせてたんですから。まぁ、詠唱破棄をするとは思いませんでした……いつの間に覚えたんです?」

「覚えたって……まぁ、感覚で? ちょっと焦ってたのと緊張で」

「ふーん、まぁ教える手間が省けてちょうどいいです。じゃあ次は詠唱破棄での的当てと威力向上のメニューを組みましょうかねー」


 俺はドッグタグを首に掛けて眺める。


「……クトネも持ってるのか?」

「ええもちろん。あたしはD級認定されてるから色は違いますけどね」

「ほぅ……ふふふ」

「……嬉しい気持ちはわかりますけど、あんまりニヤニヤしないでくださいよ」

「に、ニヤニヤしてねーし!!」

「はいはい。じゃあセージさん、試験も終わったし、あとはあたしとデートしましょう!! オナカも減ったしまずはクレープ食べたいです!!」

「はいはい。付き合いますよクトネ師匠」


 まぁ、世話になったしクレープくらい奢ってやるか。

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