第89話依頼を受けてお金稼ぎ

「お、これが秘薬草か?」

「そうですね。データにある特徴と完全に一致します」


 俺とジークルーネは、ディザード領土側にある森で、秘薬草を探していた。

 冒険者ギルドで実物を見せてもらい、ジークルーネが特徴をデータにしてホルアクティにインプット。過去に秘薬草が収穫された場所を中心に上空からスキャン。周辺マップに秘薬草の位置がマーキングされたので、それを頼りに収穫している。


「うーん、地図を見るとけっこうバラバラに生えてるな。規則性がないというか、適当に生えてるというか」

「確かにそうですね。でも、これだけの数なら依頼クリアですね。確か、指定数以上の収穫は追加報酬に加算されるんですよね」

「ああ。せっかくだし、いっぱい収穫していくか。クトネも喜ぶだろ」

「はい、センセイ」


 マップを確認しながら収穫する。

 こりゃ確かに大変だ。マップがなかったら完全に運の要素が絡む。ハイポーションが貴重なわけだ。

 ちなみに、ポーションというのはある程度の怪我を完治させる効果を持つ。切り傷や擦り傷、打撲などの痛みを抑え、止血する効果があるファンタジー薬だ。

 ハイポーションはその上位版で、切り傷や擦り傷を完治させ、骨折も治してしまう。その代わり調合が難しく、材料となる秘薬草なども手に入りにくい。しかも試験管サイズで1本金貨15枚もする。

 ハイポーションの上位版はエクスポーションで、飲むと怪我はもちろん指や損傷した内臓を修復してしまう効果がある。まぁ失った四肢を生み出す事は出来ない。あくまで指先程度の部位を再生させるようだ。

 ちなみにエクスポーションは試験管1本で金貨200枚。アホ高い。

 あと、伝説の秘薬でエリクシールという物がある。あらゆる怪我や病気を完全に治療し、失った四肢すら再生させることが可能なのだとか。現在確認されてるのは、エルフの聖域にある1本だけだとか。

 とまぁ、長ったらしく説明したが俺たちには必要ない。だってエリクシール以上の治療|役(・)であるジークルーネがいるからな。


「センセーイ、いっぱい採れましたーっ!!」

「お、さすがだな。よしよし、この調子でいっぱい採るぞ!!」

「はい、センセイ!!」


 ジークルーネと二人、秘薬草採取を楽しんだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 10本1束の計10束が依頼の数だったが、ジークルーネが楽しそうに採取するので、合計30束もできてしまった。まぁ追加報酬に鳴るから別にいいか。

 今は、日当たりのいい森の出口で休憩中。

 モンスターも出ないし、町で買ったサンドイッチとフルーツジュースをお昼に、ひなたぼっこをしながら一息入れていた。


「ブリュンヒルデたちは大丈夫かなぁ」

「お姉ちゃんなら大丈夫ですよ。アンドロイドでもない限り、苦戦するなんてことはあり得ません」

「はは、自信たっぷりだな」

「ええ。だってお姉ちゃんは『戦乙女型』でも最強だったんです。他のお姉ちゃんたちだって、1対1じゃお姉ちゃんに勝てなかったんですから」

「そうなのか?」

「はい。まぁ相性もありましたけど……」


 他のお姉ちゃん。つまり、残り4機の『戦乙女型』か。

 これから出会うこともあるのだろうか。オストローデ王国と戦りあうなら、戦力は欲しいが。


「ディザード王国にも遺跡があるのかな……あるとしたら、ジークルーネのお姉ちゃんか、新しい【|戦乙女の遺産(ヴァルキュリア・レガシー)】が眠ってるかもな」

「そうかもです。えへへ、お姉ちゃんたち……会いたいなぁ」

「会えるさ。もし眠っていたら、俺が起こしてやる」

「はい、センセイ……ありがとうございます」


 次の目的地は、砂漠王国ディザード。

 最強のドワーフであり王である【|巌窟王(グラウンド・キング)ファヌーア】が治める砂漠の王国か……マジカライズ王国、フォーヴ王国ときて次は砂漠王国か。ブリュンヒルデと出会ってから忙しい旅が続いてるな。

 フォーヴ王国では三日月を取り返すという目的があったし、三日月の扱いに対してブチ切れてケンカを売ってしまったが、今回はそうはいかない。

 確かに、人間奴隷の扱いはひどかった。

 でも、人間を憎む理由があったからあんな非道を行ったのだ。もちろん人間にも悪いところがあるし、アルアサドが報復しようとした気持ちもわかる。

 でも、俺の目的はあくまで三日月だった。正義のヒーローみたいに『人間をこんな目に遭わせやがって!! テメェは許さねぇぞアルアサド!!』なんて言うつもりはない。ムカつくし頭にきたが、俺たちと戦ったくらいで国の制度が変わるとも思えない。いくらアルアサドが改心しようと、人間が家畜という固定観念が浸透しすぎてしまっている。こればかりは時間を掛けないと治せないだろうな。

 つまり、俺たちがどうこう言う問題じゃない。

 あとは、フォーヴ王国自身の問題だろう。


「センセイ、そろそろ帰りましょうか」

「そうだな。ブリュンヒルデや三日月たちも帰ってるかもな」


 さて、依頼完了の報告と行きますか。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 冒険者ギルドに戻ると、ブリュンヒルデたちがいた。

 

「ブリュンヒルデ、ルーシア、早かったな」

「ああ……ブリュンヒルデがいたからな」

「なんか会ったのか?」

「いや、盗賊のアジトに乗り込んだブリュンヒルデに活躍を奪われてな。私は裏口に逃げた盗賊を1人倒しただけで、残りの盗賊はブリュンヒルデが始末した」

「ははは、そんな活躍なんてどうでもいいだろ? 無事で良かったよ」

「ふ、そうだな。済まなかった」


 ブリュンヒルデに今日の秘薬草採取を笑顔で語るジークルーネを置いて、俺とルーシアは受付に結果報告をする。

 俺は採取した秘薬草を出し、ルーシアは盗賊退治の報告をする。

 すると、秘薬草の束を見た受付嬢さんが驚いた。


「おお!? 秘薬草が………30束ですか!!」

「ええ。たまたま生い茂ってるポイントを見つけまして」

「なるほど。差し支えなければ、そのポイントの報告をお願いします。追加報酬に関しましては、後日お支払いしますので」

「わかりました」


 受付嬢さんが差し出した地図に秘薬草を採取した場所を書き込み、報酬を受け取った。

 特になにも言われなかったので、等級は上がらないようだ。

 ルーシアも報告が終わり、報酬の入った袋を手のひらでポンポンさせる。


「終わったぞ」

「こっちもだ。報酬はクラン用の財布に入れておこう」

「ああ」


 ブリュンヒルデたちはまだ話してる。

 ルーシアと一緒に合流しようとすると、ギルドの入口が騒がしくなった。


「セージさーん!! みなさーん!!」

「せんせ、せんせー!!」


 見なくてもわかった。クトネと三日月だ。

 おいおい、大声で名前を呼ぶなよ。冒険者たちが注目してるじゃないか……って、クトネと三日月、めっちゃ泥まみれだった。

 クトネは蛸壺を持ってウキウキしてる。


「いやー大漁大漁!! まさか1つの沼に沼ヘビが4匹もいるとは思いませんでした!! 泥まみれになって捕まえたシオンさんもさすがでした!!」

「ううん、クトネの魔術のおかげ。沼を揺らした衝撃と、風の魔術で沼の水を噴き上げさせたから、沼ヘビを捕まえることができた」


 うーん……友情が芽生えたのはいいが、泥まみれだしちょっと臭い。

 俺はルーシアと顔を合わせて苦笑する。


「ほら、まずは報告して報酬もらってこい」

「はい!! あ、納品は1匹であとは今夜の夕飯です。調理は素材持ち込み可能なお店に持って行って調理してもらいましょう!!」

「せんせ、楽しみにしててね」


 2人は仲良く受付へ。

 受付嬢さんが泥まみれの蛸壺を受け取り渋い顔してる。そして、中にいる1匹を男性職員に取り出してもらい、再び蛸壺をクトネに返す。

 報告を終え、依頼完了だ。

 報酬を受け取ったクトネと三日月がニコニコしながら戻ってくる。


「さて、あたしとシオンさんは着替えとお風呂が先ですね。一度宿へ戻りましょうか」

「そうだな。みんなの依頼の話も聞きたいし、そのぬまの味も気になる……今日はパーッとやるか」

「ふふ……セージ、今日もだろう?」

「せんせ、あのねのね、沼ヘビってどじょうみたいなの!!」


 うん、なんか冒険してる……そんな気がするな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る