第86話ネコの三日月
服屋から出てきた三日月は、とても可愛いらしくなっていた。
下半身は短パンとスパッツで動きやすさをアピールし、鉄板でも入ってそうなブーツを履いている。上半身は魔術師が着るようなフード付きローブだ。
「せんせ、見て見て、これ」
「お、ネコミミ付きフードか」
なんと、フードはネコミミ付きだ。
かぶると可愛らしいネコミミが現れる。というか三日月が似合いすぎだ。
三日月は新しく洋服に満足したのかニコニコしてる。
「じゃ、次は武器か。そういえばルーシアの剣も折れたんだっけ」
「すまんな、安物でいいから新調したい」
「うーん······予算的に仕方ないな」
「あたしも、エーテルバッグを新調したいですー」
クトネはローブの内側をペロリと捲る。するとそこには試験管みたいな物を挿す革のベストがあった。よく見るとけっこうヘタってる。
「魔術師たるものエーテルは必須ですからねー」
「ふーん。俺も買った方がいいかな」
「いや、セージさんはいらないですよ。あたしみたいに高威力の魔術が使えるわけじゃないですし、どちらかといえば剣がメイン武器ですからね」
「確かにな······まぁとりあえず、三日月の装備を揃えたら、冒険者ギルドへ行こうか」
「おー」
というわけで、武器防具屋へ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
まずは武器屋。
俺と三日月は打撃武器の陳列棚へ。ルーシアは安い剣の刺さってる樽を物色し、クトネはルーシアに付いて剣を見ていた。
三日月は武器術が苦手で、格闘技主体で習っていたらしい。なんでも、キャットウォークという能力で身体能力を上げれば、パワー自慢の獣人相手でも渡り合えるとか。
というわけで、三日月の武器はナックル。
「これでいい」
「これでいいって、鉄板入りの指抜きグローブじゃないか。こんな安いのでいいのか?」
「うん。指まで覆っちゃうと爪が使えないから」
「······爪?」
「うん。これ」
なんと、三日月の指の爪がニョキッと伸びた。しかもかなり鋭利な爪だ。
「あのね、『猫王チェシャキャット』の能力を手に入れたらできるようになったの。あとで見せようと思ったけど、せんせには見せてあげる······んしょ」
「え······お、おぉっ!?」
な、なんと、三日月の頭頂部から本物のネコミミが生えた。
ネコミミだけじゃない。おしりからフサフサした尻尾も生えている。
「応用技、獣人モード。わたし、3つのスタイルに変身できる」
三日月曰く。この獣人モードの他に、普通サイズの子猫モード、戦闘に特化した猫王モードの3つに変身できるらしい。チートってとんでもないな。
「せんせ、ネコミミすごい?」
「あ、ああ······本物、だよな?」
「にゃうん······んん」
思わず手を伸ばして触ってしまう。
三日月のネコミミはフワフワして手触りがいい。ちょっと耳の裏をカリカリすると、三日月の目がとろーんとしてきた。うわ、何これマジで可愛いぞ。
すると、冷たい視線が突き刺さった。
「·········セージさん、なにしてんですか?」
「セージ、お前·········」
「あ、いや、これはその」
「せんせ、ネコミミカリカリもっとやって」
こうして、買い物を終え、武器屋を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
防具屋では、クトネのエーテルバッグのみを買った。
三日月は防具は特にいらないと言った。なんでも、防具を付けると動きにくいからだとか。
なので、そのまま冒険者ギルドへ。
「わぁ······すごい」
「シオン、冒険者ギルドは初めてか?」
「うん。ねぇルーシア、あれはなに?」
「あれは依頼掲示板だ。あそこに依頼が貼られている」
三日月、ルーシアにいろいろ聞いてる。
せっかくなので登録をルーシアに任せ、俺とクトネはクラン専用掲示板を覗くことにした。装備や服でかなり金を使ったしな。これから稼がないと。
「さてセージさん、授業の時間です」
「なんだよいきなり······」
「はいはいちゃんと聞いて。問題です、クランの利点はなんでしょう?」
「利点? ええと確か······報酬が高い?」
「10点。ハズレじゃないですけど違います。正解は、クランを組むとパーティを分けてクラン専用の依頼が受けられます。その時入る等級査定もクランに入ります。つまり! あたしたちのパーティを分けて依頼を受けるんです」
「パーティを分けるって······危険だろ」
「大丈夫です。ちゃーんとみなさんの実力に合った依頼を選びます。まず最初は······これです!」
クトネは、一枚の羊皮紙を剥がして俺に突きつけた。
***************
【依頼内容】 G級クラン〜
○廃村に住み着いたオーク退治
【報酬】
○金貨10枚
【達成条件】
○オークの全滅。
討伐の証として耳を確保すること。
****************
「······オーク退治?」
「はい! しかもG級から受けることができます。シオンさんの実力を測ることができますし、セージさんの修行にもなります。この戦闘データから個々の実力を判断し、依頼に応じてパーティを分けてお金を稼ぎましょう! 目標金額は······金額1000枚です!」
「ぶっ!? せ、せんまい!?」
「はい。馬と居住車代でそれくらいは必要です!」
く、クトネのヤツ本気の目をしてやがる。
というか、そんなに稼ぐの無理だろ。
「せんせ、登録終わったよ」
「お前たち······何をしてるんだ?」
「いや、まぁ······実は」
ルーシアと三日月だ。
どうやら冒険者登録とクラン加入登録が終わったようだ。
俺はクトネと話した内容をそのまま喋ると、以外にも2人は乗り気だった。
「なるほどな。金貨1000枚はともかく、等級を上げるのは賛成だ」
「せんせ、わたしも頑張るよ」
「うひひ、セージさん、これで決まりですね」
「·········」
まぁ、修行がてら金稼ぐのはいいけど……金貨1000枚はなぁ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
宿に戻ると、ブリュンヒルデとジークルーネはネコたちと遊んでいた。
みけこ、くろこ、シリカの3匹。というか、ウチのクランはペットが多いな。スタリオンも入れると動物が4匹もいる。
『お帰りなさい、センセイ。今、お茶を煎れます』
「あ、わたしも手伝うよー」
戦乙女姉妹は、こうしてお茶を煎れてくれるようになった。
ジークルーネがよく『パパ』とやらにお茶を煎れてたらしく、意外にも料理なども得意なのだ。なので、パーティの料理番は俺とジークルーネになった。
ジークルーネは、ブリュンヒルデにお茶や料理の作り方を教えている。これはとてもありがたい。
買い物も終えたので、お茶を飲みつつ先程の話を共有する。
「というわけで、明日はオーク退治です! ブリュンヒルデさん、ジークルーネさん」
『問題ありません。殲滅します』
「オークかぁ……わたしはどうしよう? 戦おうと思えば戦えるけど」
「もちろん、ジークルーネさんにも戦ってもらいます!」
「おいおい、ジークルーネ、戦う機能が付いてないとか言ってただろ? フォーヴ王国では回復約だったけど……」
そう言えば、ジークルーネは戦闘に参加していたけど攻撃はしていなかった。
メインウェポンも、ブリュンヒルデみたいな攻撃タイプじゃないし。
「お姉ちゃんみたいに直接攻撃は出来ないけど、斬ったり殴ったりするだけが攻撃じゃないですよ? わたしのメインウェポンは大ざっぱに言うとナノマシン散布装置だけど、ナノマシンって治療以外にも使えるんです。例えば……頭の中をかき回したり、神経を刺激して発狂するような激痛を与えたり。ナノサイズの極小機械だから口や鼻を塞いでも侵入できるし、身体に侵入する穴なんていくらでもあるから、防御は絶対にできないからね」
この発現に、ブリュンヒルデを除く全員が凍り付いた。
いやいやジークルーネ、そんな笑顔で言うようなことじゃないだろ。マジで怖すぎるぞ。
「と、とにかく……しばらくはこの町を拠点にして、お金を稼ごう。金貨1000枚はともかく、旅立つにしてもお金は必要だ」
「ですです! クランを発足した以上、いつまでもG級じゃナメられますからねー」
「そうだな。等級が上がれば高ランクの依頼も受けれるし、ランクが高ければ報酬も跳ね上がる……もちろん、危険はあるがな」
「ん、冒険者楽しみ。あ……そうだ、みんなに見てもらいたい」
「……あ、さっきのか」
「うん」
三日月は立ち上がると、みんなの前でネコ耳と尻尾を出した。
「おお! ネコ耳ですね」
「ほう、なるほど……チートの応用か」
「うん。これ『獣人モード』、身体能力も上がるし、『キャットウォーク』を併用すればもっと速く動ける。あともう一つ、これ」
すると今度は、俺たちの目の前で三日月の身体が縮み、青い体毛を持つペルシャ猫になった。尻尾はふさふさの1本だけで、衣服がそのままパサリと落ちる。
『服が脱げちゃうのは仕方ない……どう、せんせ』
「いや、チート能力ってすげぇわ……」
三日月は、普通のネコみたいにトコトコ歩いて俺の太股で丸くなる。
俺は三日月ペルシャ猫をなでて抱っこする。
「肉体変化系のチート能力とは。確か【チート覚醒】だったか? ふむ、騎士団でも聞いたことがないな」
「あたしもですー。というか、チート能力ってあんまり研究されてないんですよね。マジカライズ王国は稀少な指輪持ちってことで優遇されてますけど、どっかの国では排除されてるとか聞いたことあります」
「ああ。確かエルフの聖域である『大樹王国』では、指輪持ちは忌むべき力と言われていたな」
「エルフ……エルフかぁ」
『せんせ?』
いや、ファンタジーといえばエルフだろ。
エロいエルフのお姉さんとかいいなぁ……そういえば、噂じゃエルフが営む高級娼館があるとかないとか……いやぁ行ってみたい。そういやぁ娼館行ってないなぁ。だいぶ溜まってるし、今日辺り1発……。
「なーんか邪なこと考えてそうですねー」
「ああ。まぁセージも男だ、許してやれ」
『………』
「センセイ、溜まってるみたいだねー」
『せんせ、えっち……』
うう、女子ばっかのパーティはこれが問題だよ。
パーティに一人くらい男を勧誘したい。この苦労を分かち合える同士が欲しいよ。
『せんせ、おなかへった』
「ん……そうだな、そろそろメシにするか。せっかくだし、三日月加入のお祝いでもするか」
「お、いいですねー。明日から忙しくなるし、今日はパーッと行きましょう!!」
「そうだな。セージ、今日は付き合ってもらうぞ」
「ああ。ブリュンヒルデとジークルーネもちゃんと食べろよ」
『はい、センセイ』
「はい、センセイ」
「よし。じゃあ三日月、そろそろ人間に戻って……」
『うん』
三日月は、俺の太股の上で人間に戻った。
「あ」
「うおっ!?」
ちょうど目の前に、三日月のおっぱいが現れた。
ぶるんっと、16歳にしてはやけに大きな胸が、先端部分と目が合った。
三日月は恥ずかしそうに胸を隠す。
「……せんせ、えっち」
「い、いや待て待て!! 今のは不可抗力だ!!」
いやはや……JKのおっぱいをバッチリ見てしまったよ。
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