第82話猫王チェシャキャット
クトネは、ルーシアに声を掛ける。
「あ、あのー……こ、殺したんですか?」
立ち上がったルーシアの足下に転がるバーグ。
クトネは、ルーシアの放つ尋常じゃない殺気に押されていた。
「いや、殺してはいない。そもそも殺すつもりはないし、勝手に気を失った」
「……あ、ホントだ」
バーグは、涙を流しアワを吹いて失神していた。
よく見ると股間も濡れている……クトネは顔をしかめた。
「いやー、ルーシアさんの能力、とんでもないですねー……」
「ふふ、騎士に相応しくない能力だろう? だからあまり使いたくないんだ」
「へぇ~……いやでも、かなりすごいですよコレ」
「ふ……」
どうも、ルーシアは追求をしてほしくないようだった。
クトネは小さく息を吐き、足下にいたシリカを抱っこする。
「とりあえず、あたしの方も終わりました。ホントにもったいないですね~、これだけ馬力のある獣人たちなら、魔術師と組めばかなり強くなりますよ」
「確かにな。これで魔術師や人間に対する見方が変わればいいが……」
「ま、そこまではあたしたちに関係ないですよ。本来の目的はセージさんの生徒の救出でしたからね」
「ああ。って……」
そして、2人はようやく気が付いた。
「………」
「………あの、ルーシアさん」
「な、なんだ?」
「あの巨大なネコ……なんですか?」
そこにいたのは、巨大な三日月ペルシャ猫だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【三日月しおんVS豹獣人レパード】
『しゃぁぁぁぁっ!!』
「はぁ、はぁ、はぁ······こ、こいつ!!」
『·····弱っちい』
「·····ンだと?」
三日月ペルシャ猫は、とんでもない強さだった。
圧倒的スピード、身体能力、長い尾を使った打撃など攻撃は多彩で、人間の知能を持った巨大なネコとはこうも厄介なのかとレパードは歯ぎしりする。
『あなた、けっこう素早いみたいだけど、わたしから見たら止まって見える』
「······っ!!」
レパードは、このフォーヴ王国の中でも最速を誇る。
パワーのバーグ、スピードのレパードと、アルアサド王に使える戦士として誇りを持っていた。
獣人のくせにパワーがないと言われ、それを補うようにスピードを鍛え上げた。
それを今、真っ向から否定された。
レパードは、頭に血が登っていくのを感じた。
普段は冷静だが誰よりも熱くなりやすい。それがレパードの欠点だった。
『うーん。四足歩行って難しいかと思ったけど案外楽かも。それに、力がみなぎってくる!』
三日月ペルシャ猫の四本の尻尾がピンと立ち、魔力で覆われていく。
すると、一本目に水、二本目に風、三本目に光、四本目がゾワゾワと膨らんで大きくなった。
『やられたらやりかえす······倍返し』
「な、め、る······なぁぁぁァァァーーーーーッ!!」
目にも止まらぬ超高速でレパードは三日月ペルシャ猫を翻弄する。だが、三日月はそれ以上の速度で動き、レパードを圧倒。体当たりを食らわせてレパードを地面に叩きつけた。
『必殺······《
水の刃、風の刃、光の刃が尾から放たれレパードを切り刻み、最後の一本が爆発的に伸び、地面に倒れてるレパードを押しつぶした。
レパードは、大量出血と全身骨折で血の泡を吹き、そのまま気を失った。
『殺しはしないよ。借りを返しただけだから』
青い三日月ペルシャ猫は、毛づくろいしながら言った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
三日月は、巨大ペルシャ猫のままルーシアたちの元へ。
そして、ルーシアたちの前で元の人間の姿に戻った。
裸のままプルプルと身体を震わせる姿はネコを思わせる。
「あ、あの〜······だ、大丈夫ですか?」
「うんへーき。わたし三日月しおん、しおんでいいよ」
「そ、そうか。ええと、私はルーシアだ。よろしくシオン」
「な、なんかマイペースですね······あたしはクトネ、こっちはシリカです」
「ルーシア、クトネ、シリカ······せんせの仲間。わたしを助けに来てくれた」
「そうだな······ふ、セージの大事な生徒らしいからな」
「ええ、セージさん、ずっと必死でしたよ? 三日月、三日月ーって」
「ほんと?······えへへ」
嬉しそうに笑うしおんに、ルーシアとクトネも気が緩む。
しおんは足元にじゃれつく二匹のネコを優しくなでた。
「みけこ、くろこ······来てくれたんだ」
『なぁん』『にゃあご』
「なるほど、その子たちシオンさんのネコだったんですね〜」
「たぶん、せんせにわたしの匂いが付いてたのかも」
「ふ、こうして会えたのも奇跡········と、それよりも服を!」
「あ」
しおんは生まれたままの姿だった。
ずっと裸だったので特に気にならなくなっていたが、異性の目はやはり恥ずかしい。それに、ここには獣人たちだけでなくセージもいる。
しおんは、セージが掛けてくれたマントを拾った。
「あの、シオンさん。さっきの尻尾の技なんですけど······アンサラー?」
「あれ、わたしが好きだった漫画。同じ名前のネコの必殺技」
「ま、マンガ? マンガってなんですか?」
「あとで教える」
「ふふ、もう仲間だからな······それより、あとは」
「ええ、ブリュンヒルデさんですね」
3人の視線は、アルアサドと戦うブリュンヒルデへ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【ブリュンヒルデvs超野獣王アルアサド】
アルアサドの持つ大戦斧『リサナウト』の一撃は、大地を砕き海を割り、その輝きは天にも届くと呼ばれている。
だが、どんなに素晴らしい武具でも、どんなに恐ろしい使い手でも、当たらなければ大した驚異ではない。
「このメス!! ちょこまか動くなぁぁぁーーーーっ!!」
『·········』
ブリュンヒルデは、圧倒的腕力から繰り出される斧の一撃を容易く回避し、その動きを着々とデータ化、自身の戦闘データベースを更新していく。
現在の武装は【乙女神剣エクスカリヴァーン・アクセプト】第一形態。2メートル越えの大剣モードのままで、アルアサドの攻撃を躱していた。
「ちょこまかちょこまか、メスネズミのような小賢しさよ!!」
『·········』
ブリュンヒルデは語らない。敵と問答する必要性がない。
怒りも悲しみもない。アルアサドの動きを分析し反映する。ただそれだけ。
まるで人形のような表情をアルアサド訝しんだ。
そして、大戦斧を肩に担ぎ、ブリュンヒルデに問う。
「貴様ら、こんな真似をしてタダで済むと思うなよ。全員この場で処刑してその首を王城の前に晒してやる!!」
『申し訳ありませんが、それは不可能です』
「ほう······なぜだ?」
『はい。貴方はここで私にブチのめされるからです』
「·········ほう」
5メートルを越えるアルアサドが、2メートルもないブリュンヒルデを見下ろす。
ブリュンヒルデは、大剣を構えて言った。
『エクスカリヴァーン・アクセプト第二着装形態へ移行。ヴィングスコルニル展開』
剣が分離し、一部が鎧と合体、左手に盾が形成され右手には突撃槍が握られた。そして、ブリュンヒルデの隣に機械仕掛けの愛馬【天馬ヴィングスコルニル】が召喚される。
ブリュンヒルデはヴィングスコルニルに跨った。
『これより、目標を鎮圧します』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ブリュンヒルデとアルアサド国王の戦いが白熱してる。
俺とジークルーネは、南京錠の掛かったドアの前に来ていた。
「へへへ、国宝国宝······」
「センセイ、悪い顔してますね」
「おっと、そんなつもりはないぞ。泥棒なんてしないしない」
ちょっと中身を確認するだけだ。
周りを見ると、戦ってるのはブリュンヒルデだけ。ルーシアたちは固まってるし、仮に増援が来ても対処できる。
それなら、俺とジークルーネは宝物庫を調べる。
中に入れば同胞ですら殺すとか言ってるくらいだ、さぞかし見られたくない、大事な物があるんだろうよ。
それを見つけ、アルアサドの秘密を握る。そして秘密の対価としてこの国から問題なく出ていくという作戦だ。
「ブリュンヒルデとの戦いに熱中してるスキに······」
俺は南京錠を両断した。
案の定、この剣なら容易く断ち切れた。
すると、ついに気付かれた。
「な!? き、貴様らァァァーーーっ!!」
「やべっ、バレた!! ブリュンヒルデ!!」
『はい、センセイ』
ブリュンヒルデと打ち合っていたアルアサドが俺に気付いた。
俺たちの位置はアルアサドの背後。ブリュンヒルデを無視してこっちに向かってきたが、ヴィングスコルニルに乗ったブリュンヒルデのが遥かに早い。
「どけメスがァァァーーーーっ!!」
『いいえ、退きません』
振り下ろされる大斧を
アルアサドは狂ったように大斧を振るうが、ブリュンヒルデのシールドを崩せない。
「貴様ァァァーーーーーッ!! その先に進んでみろ、殺すだけじゃ済まさんぞォォォーーーーッ!!」
な、なんだろう、この気迫。
どうやら、この先はかなり重要な場所らしい。どんなお宝が眠ってるのか。
本来の俺なら行かないが、今日の俺は違う。
三日月をやられたことや、明らかに初めから殺すつもりだった態度などから、このライオン野郎に一泡吹かせるのも悪くないと考えていた。
「ブリュンヒルデ、頼んだぞ」
『はい、センセイ』
「行くぞジークルーネ」
「はい、センセイ」
俺はアルアサドに向かってニヤリと笑い、ドアの向こうへ踏み出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ドアの先は、簡素な作りの螺旋階段だった。
ジークルーネと一緒に階段を登る。
「さてさて、何があるのかな?」
「センセイ、やっぱり悪い顔してる」
「······まぁ、三日月にやられたことを思うと、な」
一歩間違えれば死んでいた。
あんな光景、もう見たくない。
そして、螺旋階段の終点に到着。これまた立派な作りのドアがあった。
さてさて、中に何があるのかな〜?
「·········あれ、これって」
「開けるぞ、ジークルーネ」
ドアに鍵は掛かっていない。
観音開きのドアをゆっくり開けると、そこには······。
「···············え」
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