第81話影法師

 変化は、すぐに起こった。


『うぅぅぅ………』 


 三日月が唸り、四つん這いになる。

 裸なので見えちゃいけないモノまで見えそうになるので慌てて目を逸らす。だが、目を逸らすヒマなどない、三日月の身体はあり得ない変化をしていった。


「な、なんだ、これは……」

「ウッソ、だろ……」


 三日月の身体は、青い体毛がゾワゾワと生え、身体そのものが巨大化、尻尾が生え、骨格が変わり、爪が伸び、四足歩行になり………つまり、巨大なネコに変化した。

 大きい。

 7~8メートルほどだろうか、濃いブルーの体毛をしたペルシャ猫のような姿だった。

 ペルシャ猫よりも足が長く、尻尾は長くフサフサしたのが4本も生えている。

 その巨大猫は、三日月の声のままだった。


『これが【チート覚醒】……チート能力持ちの到達点』

「ち、チート覚醒……?」

『うん。わたしの場合はこの《猫王びょうおうチェシャキャット》。ネコ使い最強の能力は、わたし自らネコになることだった』

「お、おお……」


 どこかで聞いたような台詞だな。

 巨大なペルシャ猫は尻尾を逆立てる。

 前傾姿勢になり、獲物を狙う獅子のようにも見えた。


『しゃぁぁぁぁぁっ!! 借り返すっ!!』

「ほ……ほざけこのクソネコがッ!!」

『もうおまえなんかに負けないっ!!』


 全身の毛を逆立てて威嚇する三日月ペルシャ猫。

 俺は巻き添えを喰らわないように壁際に移動し、巻き込まれても対処出来るようにキルストレガを構える。

 すると、ジークルーネが俺の隣に来た。


「いやはや、人間がネコになっちゃなんてスゴいですね~」

「だな………【チート覚醒】だって。知ってるか? というか、俺も使えるのかな」

「チート覚醒……わたしのデータベースにもないですね。それに、パパと同じ能力を持ってるセンセイですけど、わたしの知る限り肉体を変化させる能力はなかったです」

「なるほど。まぁ『修理リペア』だしなぁ……修理で変化はしないよな」

「はい。それとセンセイ、ずっと気になっていたんですけど、センセイの能力って『修理リペア』じゃないですよ」

「え?」

「センセイ、自分の能力をずっと『修理リペア』って呼んでるから気になっちゃって。『修理リペア』はあくまで能力の1つ。パパはいくつもの『能力チート』を持っていましたから」

「いや、まぁ確かにそうだけど……」


 オストローデ王国で最初に確認した能力名が『修理リペア』だったからな。ずっとリペアって呼んでいた。

 

「パパは、【機神の創手ゴッドハンド】で呼んでいました。全ての機械を創りし偉大なる御手、人の手が創る偉大なる機械の神って、いつも言っていました」

「うわちゃー…………ちょっとイタいわ」


 俺のチート名、【機神の創手ゴッドハンド】かよ。

 まぁ名前なんてどうでもいい。機械を直せる便利な手だ。これからも利用させてもらう。

 戦闘は3つ。ルーシア対虎獣人、三日月ペルシャ猫対豹の獣人、ブリュンヒルデ対アルアサド国王になっていた。クトネは獣人兵士たちの無力化がほぼ終わり、シリカと2匹の野良猫と一緒にルーシアの傍で控えている。

 俺とジークルーネは、三日月ペルシャ猫の邪魔にならないように壁際に。

 そして、視線がある場所に向いた。


「………あれ」

「センセイ?」

「あそこ、確か……アルアサド国王の宝物庫だよな?」


 玉座の奥、ゴツい南京錠で封印された部屋だ。

 あの奥にはアルアサド国王の秘宝……ふむ。


「センセイ、あそこは宝物庫でしたよね?」

「ああ………なぁ、あの南京錠、この剣で斬れると思うか?」

「可能だと思います。物理的な物なら斬れない物はないと思いますよ」

「………ふーん」


 散々好き勝手やってくれたんだ。あの宝物庫の秘密を暴いて脅すのもいい。

 もし戦いに勝っても、国家転覆罪とかで捕まる可能性もある。もちろん後悔はしてないが、これから先の旅がしにくいのは困る。かなり悪どいが、これくらいやらないと気が済まない。


「……よし、あの宝物庫を開けて中を見てやる。行くぞジークルーネ」

「はい、センセイ」


 俺とジークルーネは、宝物庫のドアの前に向かった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


【ルーシアvs虎獣人バーグ】


 ルーシアは、虎獣人バーグの豪腕から繰り出されるラッシュを軽やかに躱していた。

 獣人は魔術を軽視する傾向があることは知っていたが、その理由も納得……これだけの突進力があれば、魔術などに頼らなくても、戦闘で苦戦することはないだろう。


「ガルルォォォッ!! どうしたどうした、避けるだけかこのメスがッ!!」

「ふんっ、別にっ、そんなつもりはないっ!!」

「ぬっ!?」


 ルーシアはロングソードを抜き、繰り出された右ストレートを半歩で避け、そのまま右腕を斬り上げた。

 狙いは肘関節。バーグの武器は鍛えあげられた肉体。腕が使えなければ戦力は半減。だが。


「甘ぇッ!!」

「な……っ!?」


 ルーシアの剣は刃こぼれした。

 斬りつけた瞬間、感触が鉄を斬ったように感じた。

 バーグは、驚愕したルーシアに向けて回し蹴りを繰り出す。


「っち!!」


 だがルーシアはバック転をして回避。剣を投げつける。

 剣はバーグの肩に突き刺さる。だが、バーグは大して痛がりもせず剣を抜いた。


「ふん、斬撃はオレにゃあ効かねえ」


 そう言って、ルーシアの剣をボリボリと噛み砕いた。

 口の中が切れることもなく租借し、そのまま床に残骸を吐き出す。

 だが、壊れた剣などどうでもいいのか、ルーシアは微笑んだ。


「確かに斬撃は効かない……だが、刺突は効くようだ」

「っは、それがどうした」

「いや……お前の手はもう読めた。バカの一つ覚えみたいな突進と格闘、そして硬い体毛……それだけだ」

「………あぁ?」

「まだわからんのか?……もう、お前に勝ち目はない」


 ルーシアは両手を広げて手を逸らし、両踵をタップさせた。

 両手の隠し武器『暗殺剣アサシンブレード』が、両爪先から『爪先刃トゥ・エッジ』が飛び出す。

 そして、


「見せてやろう………ふふ、あまり使いたくないんだが、たまにはいい」

「んだと?……ああ?」


 次の瞬間、バーグの目の前でルーシアは消えた。


「ああ!?」

「こっちだ」

「はぁ!?」


 背後からルーシアの声が聞こえ、振り返った瞬間、腕に痛みが走る。

 

「な、なんだとぉっ!?」


 バーグの両腕が出血していた。

 ルーシアの言った通り、刺突による深い傷が出来ていた。

 バーグは顔をしかめて傷を押さえる。もちろん、この程度で戦闘が終わるほどヤワな鍛え方はしていない。

 周囲を確認するが、ルーシアの姿はない。


「っぐが!?」


 再びの激痛。

 今度は、両ふくらはぎから出血。視線を足に移した瞬間、背中がドスドスと突き刺された。

 

「ぐ、オォォォッ!! このメス!! どこだァァァッ!!」


 止血を諦め、腕をブンブン振り回す。

 血が飛び散り、バーグの体力が奪われていく。だが、怒り狂ったバーグは暴れる事を止めない。

 フラフラとしながら息を荒げ、動きを止めた瞬間だった。


「っっっがぁぁっ!?」


 アキレス腱が切断され、バーグは崩れ落ちた。

 それと同時に……謎の攻撃の正体がわかった。

 何故なら、ルーシアが………バーグの『影』から現れたからだ。


「て、めぇ……お、オレの影に!?」

「ああ、そうだ。くくく、あまり使いたくない理由がわかっただろう? こんな騎士にあるまじき……まるで『暗殺者』みたいなチート能力だからだ」

「く、そがぁ!!」

「無駄だ。私はお前の影の中に自在に潜れる。それだけじゃない……」

「ぬぅぅっ!?」


 ルーシアの影が伸び、バーグの影を包み込む。

 バーグの身体はピクリとも動かなくなった。


「『影牢かげろう』……もうお前は動けない。このまま喉をかっ切れば終わりだ」

「ぐ、おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「無駄だ。力でどうにかなるモノじゃない」


 ルーシアは無表情のまま右手のブレードを展開する。

 ゆっくりと、冷たい表情のままバーグの元へ。


「や、めろ……来るな」

「家畜」

「く、来るな、来るな」

「エサ」

「や、止めろやめろ止めろやめろぉぉぉぉぉぉっ!!」


 ルーシアは、バーグの喉元に刃を添え、冷たく言った。

 その瞳はあまりにも冷たく、百戦錬磨のバーグですら震え上がった。


「くくく、まるで屠殺場の獣みたいに鳴くじゃないか」


 バーグの意識は、そこで途絶えた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


********************

【名前】 ルーシア

【チート】 『影法師ダークスカウト』 レベル4

 ○潜影・半径50メートル以内の生物の影に潜る(対象1名)

 ○無音・足音を完全に消す

 ○希薄・自身の存在を完全に隠蔽する

 ○影牢・対象の影を拘束する(対象1名)

 

【固有武装】『*********』

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