第78話三日月しおん⑦
着いたのはフォーヴ王国。
馬車は王城内に入り、中庭で停車する。
わたしは、裸のまま中庭に降ろされ、豹の獣人に鎖を引かれて歩き出した。 もう、すっと服を着ていない……恥ずかしい気持ちも薄れてきた。
「さてさて、あなたは当たりですかね?」
「………」
わたしは、豹の獣人を精一杯睨む。
喋り方や歩き方はすごく丁寧だけど、この豹の獣人はわたしを人間として見ていない。
首輪と手枷が外れれば、こんなやつやっつけてやるのに……。
「ふふ、いい顔をしていますね。それに、なかなかいい肉が付いてる……くくく、実に美味そうだ」
「………っ」
豹の獣人は、わたしの身体を舐めるように見る。
足からおなか、そして胸……最後に顏。豹の獣人はわたしを値踏みするように見て、ペロリと舌なめずりをした。
羞恥もだが、怖気もする。
性的な興奮ではなく、食物を見て美味しそうと感じてるような……まさかね。
「さて、まずは我が王に報告しなくては」
「………わたしの能力を知ってどうするの」
「ふふ、我が王はとあるチート能力を欲していてね……キミがそうだったら嬉しい。でもそうじゃなかったら……くくく」
「………わたし、死ぬの?」
「さぁ……きっと、死ぬより辛いことかもね」
「………」
わたし………死んじゃうのかな。
あかね、しろすけ、とらじろー、みけこ、くろこ………せんせ。
こんなことになって、ごめんなさい。
わたし、もう一度みんなに会いたい……。
「………」
だから、ぜったいに諦めない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
わたしは、生まれて初めて明確な『死』を感じていた。
「我が王、獣人貴族の町で偶然、指輪持ちの人間が売りに出されていた故、こうして連れて参った所存です」
「ほう……よくやったぞ、レパード」
目の前にいるのは、ビルみたいな大きさのライオン獣人。
とんでもない圧力。中津川くんやアシュクロフト先生よりも強い何か。
わたしは、身体が震えるのを止められなかった。
この人が、この国の王様……そして、魔王の1人。
ライオン獣人が、わたしをじっと見た……。
「ひっ……」
「首輪と枷を外せ」
「はっ」
豹の獣人ことレパードが、わたしの首輪と枷を外す。
久し振りに解放されたが……逃げるなんてバカな考えは一瞬で吹き飛んだ。
このライオンは、逃げようとすれば殺気だけでわたしを殺せる。
「あ……あ……」
「ふふっ、我が王、どうやらあなたの圧に押されてるようで……」
「ふん。レパード、そいつの能力を見せろ」
「はい」
豹の獣人が、指輪のはめられてる右手を掴む。
腰が抜ける寸前だった。
わたしは………怖くて失禁した。
「……………おい」
「ひっ………っぐげっ!?」
「テメェ……王の前で汚ぇションベン垂らすとは、いい度胸してんじゃねぇかゴラァッ!!」
「ひっ、ぐげっ!? あぎっ!?」
「うす汚ぇ家畜が!! 王の前で!! きったねぇションベン垂らしてんじゃ!! ねえぞゴルァァァァッ!!」
「あがっ!? げぅっ!? ぶげっ!?」
豹の獣人は、わたしを殴り飛ばし、蹴り飛ばし、頭を踏みつけた。
わたしは痛みで涙を流し、身体を丸めることしかできなかった。
ライオン獣人に会った瞬間、わたしの心は折れてしまった。
ライオン獣人の隣にいた、トラ獣人が吠えた。
「ガルルッハハハハ!! レパードがキレやがったぜ!!」
「黙ってろバーグ、このメス……」
「レパード、嬲るのは後にしてチート能力を見せろ」
「は……はっ!! 申し訳ありません。おいメス!! さっさとステータスを見せろ!!」
「………」
わたしは、震える手で右手をあげた。
********************
【名前】 三日月しおん
【チート】『猫使い(キャットマスター)』 レベル38
○ネコあつめ・ネコを使役可能(最大数30)
○ネコの目・使役したネコの目を借りる
○ネコの首輪・使役したネコを操れる
○キャットウォーク・ネコの身体能力を得る
【固有武器】ネコじゃらし『ススキノテ』 レベル38
○じゃれたネコと会話可能
○じゃれたネコの身体能力アップ
********************
「……………なんだ、コレは?」
「え………?」
一瞬の静寂のあと、豹の獣人が言った。
「なんだこのクソチートはぁぁっ!! 舐めてんのかテメェェェェェェッ!!」
「うっげっ!? がぼっ!?」
「………ハズレか」
「ぎゃっはっはっはっはっは!! 残念だったなレパードぉ!! 大金つぎ込んで買ったメスがこれかよ? ぐはははははっ!!」
「黙れバーグ!! このクソメス……なぶり殺しにしてやる!! 我が王、申し訳ありません、見苦しい物をお見せしました!!」
「構わん……」
「来い!! テメェはすぐに殺さねぇ……たっぷり痛めつけてやる!!」
「あがっ……」
わたし、なんでこんなめにあってるの?
かみのけつかまれて、なぐられて、けられて、ふみつけられて。
いたい、いたいよ、せんせ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さむい地下。
わたし、豹の獣人にいっぱい殴られた。
わたし、なにもしてないのに。
わたし、せんせを探してただけなのに。
「このクソメス!! このクソがぁぁぁぁっ!!」
この豹、なんでこんなにわたしをなぐるの?
わたしが、なにをしたっていうの?
いたい、いたい……なんで、こんな。
「…………」
この豹、死んじゃえばいいのに。
わたしをなぐるこの豹、死んじゃえばいいのに。
せんせ、会いたいよ。
わたし、もういやだよ。
「…………」
「はぁ、はぁ、はぁ……ひひひ、まだ殺さねぇ。オレに恥を掻かせたテメェは、死ぬギリギリまで遊んでやる。その後は挽肉にして、家畜のエサにしてやるよ!!」
「…………」
死ぬ? 殺す?
わたしを、殺すの?
「…………」
なんで、この豹は生きてるの?
わたしを、わたしを殴ったこの豹……死んじゃえ。
死んじゃえ。死んじゃえ。死んじゃえ。死んじゃえ。
「ふぅ~~~~~~~…………では、また明日。ごきげんよう」
死んじゃえ………。
ドクン──────────。
わたし、死なない。
ドクン──────────。
死ぬのは。
ドクン──────────。
あの、豹だ。
ドクン──────────。
「…………………し、ね」
ドクン──────────!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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【名前】 三日月しおん
【チート】『猫使い(キャットマスター)』 レベル38
○ネコあつめ・ネコを使役可能(最大数30)
○ネコの目・使役したネコの目を借りる
○ネコの首輪・使役したネコを操れる
○キャットウォーク・ネコの身体能力を得る
【固有武器】ネコじゃらし『ススキノテ』 レベル38
○じゃれたネコと会話可能
○じゃれたネコの身体能力アップ
【チート覚醒】←New
《猫王チェシャキャット》←New
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