第77話データの中身
ジークルーネが集めたデータの上映会を行うことにした。
ホルアクティを帰還させ、部屋のカーテンを閉めて暗くする。
テーブルの上に置いたホルアクティの映像データを、プロジェクター機能を使って壁に写すことにした。
「センセイ、ホルアクティの機能の一部がロックされてたから、わたしが解除しておいたよ」
「ロック? そんなのあったのか?」
「うん。この子、通信機能が付いてるの。センセイのバンドを通して会話できるから」
「なるほど。つまり、ホルアクティを遠隔操作して、遠くの相手のところへ向かわせて通信できる、ってことか」
「うん。ちょっと試してみる?」
「いや、今はデータ閲覧が先だ。三日月のデータは撮れたのか?」
「うん。たぶん間違いないと思う」
ジークルーネは、音もなくホルアクティを操作する。
すると、ホルアクティの目が光り、壁に映像が公開された。
「おぉ!? す、すっごいですね〜」
「う、うむ。相変わらず恐ろしい技術だな」
クトネとルーシアは驚いてる。まぁ機械なんて見たことないしな。
映像は、このフォーヴ王国の城を写すところから始まった。
「すげぇな······ホルアクティ、こんな細かい動きができたのか」
ジークルーネの操るホルアクティは、城門が閉じる瞬間の僅かなスペースをくぐり抜けて城内へ。
翼に内蔵された半重力装置のおかげで、無音飛行で通路上部を飛び回る。
そして、城内を撮影しながら、ドアが開いた瞬間を狙って様々な部屋に侵入。兵士や使用人らしい獣人の会話を録音していく。
『おい、家畜にエサやったか?』
『ん、ああ······ま、一食くらいいいだろ。どうせそのうち廃棄される予定だしな』
『そうだな。ったく、毎日毎日、処理場も廃棄の家畜で溢れてやがる。アルアサド様、処理場を増やしてもらえないかね』
『ははは、それもいいかもな。それより聞いたか? 砂漠王国のドワーフたちの話』
『ドワーフだぁ?』
『おう。なんでもドワーフの連中、オストローデ王国と同盟を結ぶらしいぜ』
『ははっ、マジかよそれ? ドワーフ最強にして最高の鍛冶師である【
『らしいな。フォーヴにいるドワーフから聞いた情報だ。間違いないと思うぜ』
なんだと······オストローデが、砂漠王国と同盟?
思わぬ情報に頭を抱えてると、ホルアクティは再び移動した。
今度は質の良さそうなローブを着たヤギ獣人の部屋だ。部屋の中にはヤギ獣人とヒツジ獣人がいる。
『なるほど······やはり、アルアサド王の考えは変わらずですか』
『ええ。マジカライズ王国がオストローデ王国に堕ちた今、オストローデ王国の軍事力はかなりの規模となっていると予想されます』
『例の、異世界からの人間ですか······』
『そうです。正確な情報はありませんが、異世界人は全員がチート能力を持ち、そのレベルも平均70ほどあるということです』
『レベル70··········最長種であり390年生きている亀獣人のトータスでさえ、レベル58なのですぞ』
『ええ。異世界のチート能力は、レベルの上昇率が異常です。もし戦争になった場合、明らかにこちらが不利······』
『だからこそ、来たるべき驚異に備え、他国と連携を取るべきなのだが······アルアサド王、なぜ協力は不要と』
『人間嫌いならまだしも、【
うーん、アルアサド王は一匹狼みたいだな。
というか、オストローデ王国の驚異が広まってるみたいだ。生徒たちがバケモノ扱いされてるのに胸が痛む。
情報はありがたいが、今は三日月の事を調べたい。
ヤギ獣人の部屋を出ると、地下への階段を見つけた。
「センセイ、ここから先は注意してね」
「え?」
「たぶん、ここに答えがある」
ホルアクティは、地下へ降りていく。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そこは、あまりにも劣悪だった。
牢屋のような場所に押し込められた汚れ塗れの人間たち。そして作業着とマスクで口を覆った獣人たち。
手術台の上に乗せられ、生きたまま腹を開けられ内臓を取り出され、四肢を切り落とされ、首を落とされ······そして、空っぽになった身体を洗い、フックのような物に引っ掛ける。
四肢は粉々にミンチされ、作業員の手によって団子のように丸められていく。
内臓は壺のような物に入れられ、どこかへ運ばれる。
頭は輪切りにされ·······。
「う、ぷ······」
クトネが口を押さえて退室した。
ルーシアも青くなり、俺は思考が停止していた。
「城の地下で人間を加工してます。間違いなく······」
「やめろ、言うな」
「はい、センセイ」
これが、これが獣人の所業なのか。
俺はジークルーネに聞いた。
「······三日月は!?」
「たぶん、この人ですね」
ホルアクティは牢屋をスイスイ進み、一番奥の牢屋前に来た。
そこには、裸で蹲る一人の少女がいた。
「······三日月!!」
間違いない。
青みがかった髪はボサボサで、ずっとネコミミパーカーを着ていたからこんなに長いのかと今気が付いた。着衣どころか下着も付けていない。低身長なのに胸は大きい身体は薄汚れていた。
ずっと泣いていたのか、目は腫れて顔もカサカサしてる。
間違いなく、俺の生徒の一人である三日月しおんだ。
「三日月······三日月!!」
「センセイ、これは録画データです。あの子はまだ無事です」
「くそ、なんでこんな······ちくしょう、獣人共!!」
「落ち着けセージ、まずは話をするのだろう!!」
「······あ、ああ。すまん」
落ち着け、冷静になれ。
でもこれでわかった。三日月は城の地下にいる。
すると、ホルアクティは地下から移動する。
「·······次はどこへ?」
「王様のいる場所です」
ホルアクティが向かったのは、謁見の間。
そう、そこにいたのは、魔王の一人である『
「な······なんだ、こいつ」
「······これが獣人の王か」
俺とルーシアが驚くのも無理はない。
アルアサドは、とても巨大な
しかも大きさがハンパじゃない。特注品間違いなしの玉座に座ってる。たぶん、身長は5メートルを超えてる。
玉座のそばには、アホみたいなサイズの両刃戦斧が立て掛けられていた。
黄金の獅子のレリーフに、ダイヤモンドを削って作られたような斧刃、大きさはやはり5メートルくらい。あんなバケモノ斧が武器なのかよ。
アルアサドは、玉座の肘掛けに肘をついていた。
その両隣には、細い豹の獣人とガチムチの虎の獣人が腕を組んで立っている。
アルアサドの視線の先には、跪く牛の獣人がいた。
『も、申し上げます。アルアサド王、今一度、奴隷制度の見直しを······』
『··········』
牛の獣人は、奴隷制度について進言してる。
やはり、全ての獣人が奴隷の扱いに賛同してるわけじゃないのか。
『奴隷の扱いは他国と同じ《犯罪者と自ら身売りした者》という制度を設けるべきです。今の現状ですと、我らの国は人間にとって排斥すべき悪そのもの! このままでは······』
すると、ここで初めてアルアサド王が口を開いた。
『このままでは?』
『そ、その······』
『ふん。我が国は孤立、マジカライズ王国を乗っ取り魔術の力を得たオストローデ王国の次なる侵略の格好の的、とでも言いたいのだろう?』
『··········恐れながら、申し上げます』
『ふん。魔術など取るに足らず。偉大なる大地の力を賜りし我ら獣人が、家畜である人間共に負けるはずがない!!』
『しかし!! マジカライズ王国は侵略されているとはいえ、人間の集まる大国です!! 奴隷の扱いに不満を持った魔術師たちがオストローデ王国の庇護を得て一致団結する可能性も無くはありませぬ!! もしナハティガルがオストローデ王国と手を結べば、この国は終わりますぞ!!』
『オレ様が居る限りフォーヴは不滅!!』
アルアサドは、立て掛けてあった大斧を振り上げた。
とんでもない風圧に牛獣人は尻もちを付き、ガタガタ震える。
そして、側近らしい細身の豹獣人が言った。
『ま、そういうことです。それに、家畜が団結したところで偉大なる獅子のエサに過ぎません。ご安心くださいな』
優雅に一礼する豹獣人。
今度は反対側に立ってた虎獣人がゲラゲラ笑う。
『ガルルッハッハ!! そういうこった。親父殿がいれば何千何万の家畜もただのエサよ!! それにオレもいるしなぁっ!!』
ガチムチの虎獣人は、ぶっとい二の腕を見せつける。
確かに、かなり強そうだ。
アルアサドは、牛獣人を見下ろしながら言った。
『そういうことだ。それより、さっさと指輪持ちを連れてこい。お前に与えた仕事は指輪持ちの捜索だ。手段は問わん、見つけ次第オレ様の元へ引きずり出せ』
『·········っ、御意』
牛獣人は、部屋を出ていった。
なんというか、とんでもない奴らだ。
「·········ん?」
なんだろう? 謁見の間の一番奥に重そうな鉄の扉がある。
デカい南京錠で施錠されてる。も、もしかして宝物庫か?
するとアルアサドは立ち上がり、部下の虎と豹に言った。
『オレ様は宝物庫にいる。いいか······』
『わかってますよ。【中には絶対に入らない、入ったら同胞といえ命を奪う】ですよね?』
『へへへ、親父殿の持つ最高のお宝、見てみたいけどよ』
『ふん。見てもいいが·······』
アルアサドは、斧を手に掴み不敵に笑う。
それを見た豹と虎は身体を震わせた。
『じょ、冗談だよ親父殿』
『ええ······い、命は惜しいですからね』
『わかればいい』
アルアサドは、南京錠を開けてドアの向こうへ消えた。
うーん、あそこにはどんなお宝があるんだろう。
映像は、ここで終わった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「決まりだな」
「……ああ。まさか、獣人があそこまで歪んでいたとは……」
人間の解体。
そして、あの解体の仕方から間違いない……。
今日はメシが食えそうにないな。
「セージ、私はクトネの様子を見てくる」
「ああ。それと、ヴォルフさんに国王との謁見を取り次ぐようにお願いしてくれ。その時に、俺がチート能力を持ってることを話しても構わない」
「俺たち、だろう?」
「……そうだな。ありがとう」
ルーシアは部屋を出て行った。
俺は、ホルアクティを弄ってるジークルーネに聞く。
「ジークルーネ。アルアサド国王についてどう思う?」
「そうですね……身体能力は間違いなく獣人最強ですね。でもまぁ、お姉ちゃんには絶対に勝てないと思います」
「い、言い切るんだな………」
「はい。だってお姉ちゃんに近接戦闘で勝てる生物なんて、今の時代にはいませんよ? あのアルアサド国王がどれほど強いのか知りませんけどね」
「は、ははは……」
うーん、シスコンなのか?
いくらブリュンヒルデでも、身長5メートルの獅子獣人は手強いと思うが。
すると、部屋のドアが開きブリュンヒルデが戻って来た。
『ただいま戻りました。センセイ』
「おう、おかえ…………なんだそれ?」
『不明です』
ブリュンヒルデの足下には、なぜか三毛猫と黒猫がいた。
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