第76話クランホーム

 情報とは武器である。

 ジークルーネは目を閉じ、ホルアクティを直接操作して情報を集め始める。

 俺みたいにバンドを使って操作するのではなく、電子頭脳の信号により操作するんだとか。まぁ邪魔しちゃ悪いし放っておこう。

 俺は酒で喉を潤し、ヴォルフさんに聞いた。


「ヴォルフさん、アルアサド国王について知ってることを教えて下さい」

「……いいだろう。と言っても、大した事は知らん。アルアサド国王は最強の獣人の1人で、国王になる前は冒険者をやっていた。そして、S級冒険者の『鶺鴒せきれい』と互角に戦い引き分け冒険者を引退。前国王からそのカリスマ性を買われ国王として君臨してる」

「最強の獣人か……」

「ああ。アルアサド国王は恐ろしく強い。オレが100人いようと傷一つ付けられないだろうな」

「…………」


 つまり、バケモノクラスか。

 ブリュンヒルデとどっちが強いんだろうか。ハッキリ言って、俺が向かっても一瞬で挽肉にされるだろうな。

 リカルドさんは言う。


「アルアサド国王が即位して20年くらいか? そういやぁ、人間の奴隷法が緩くなったのもその頃からだよな?」

「確かにな。以前の奴隷は犯罪者や志願者だけと決まっていたが、アルアサド国王は奴隷法を完全に撤廃した。今みたいに人間を攫って強制的に奴隷にする連中も見て見ぬふりをしてる。獣人貴族の町シュヴァヴァを拠点とする人攫い集団も放置してるからな、あいつら、国公認だと抜かしてやりたい放題だ」

「……なんで、そんな」

「さぁな。人間嫌いという話は聞くが……さすがにこれはやり過ぎだと思う。だが、奴隷法以外の外交手腕はさすがでな、この国が豊かなのもアルアサド国王のおかげだ」

「……人間嫌い、ですか」

「ああ。今の若い連中はアルアサド国王の主義に賛成してる奴が多いが、古参の獣人は人間を家畜にすることをよしとしないヤツも多い。オレたちみたいな冒険者は後者だ。フォーヴ王国以外の国にも冒険してるからな。この国の人間嫌いが以上だと言う事はよくわかる」


 アルアサド国王の人間嫌い。

 奴隷法の撤廃。

 きっと、人間嫌いになった理由があるんだろう。まぁ関係ないが。

 

「それと、これは昔から噂になってることだが、アルアサド国王は特殊な『チート能力』所有者を探しているらしい」

「特殊なチート能力?」

「ああ。内容はわからんがな。もし面会を希望するなら、お前たちは有利に事が運べるだろう」

「それは助かります……」


 使えるなら何でも使ってやる。

 まぁ、俺のチートが役立つとは思えないけどな。

 とりあえず、ヴォルフさんたちに聞けることはこんなところか。あとはジークルーネの遠隔調査に期待しよう。


「ありがとうございます。参考になりました」

「そうか。では、依頼完了証書があるなら出せ、お前たちがギルドに持って行っても門前払いになる可能性が高い。オレたちで処理してやる。あと、部屋を用意したから少し休め。夕食の時間になったら呼ぶから、お前たちだけで話すこともあるだろう」

「………何から何まですみません」

「気にするな。冒険者同士協力、だろう?」

「はは、そうですね」


 ヴォルフさん、笑うととってもイケメンだった。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 案内された部屋は、ベッドがいくつも並ぶ大部屋だった。

 まぁ文句は無い。部屋を貸してくれるだけでもありがたい。

 

『センセイ、私はスタリオンの世話をしてきます』

「ああ、中庭らしいけど気を付け………釈迦に説法か」


 ジークルーネはホルアクティを操作中なので無理。目を瞑ったままここまで歩き、窓際のソファに座るとピクリとも動かなくなった。

 なので、残りのメンバーで話をする。


「魔王と戦闘の可能性か……ふふ、セージといると退屈しないな」

「ですね~……ははは、もしかしたらお尋ね者になっちゃうかも」

「バカ、そんなことにはならない。話をしにいくだけだからな」


 俺だって、覚悟はしたが無駄な争いはしたくない。

 金で解決できるならいくらでも払うし、裸踊りをしろと言われたらもちろんやる。

 

「とにかく、ヴォルフさんたちの好意に甘えて、準備は万全にしておこう」

「そうだな。セージ、いざという時は私も『チート能力』を使用する」

「お、おお。ありがとなルーシア」


 そういえば、ルーシアの能力を知らないな。

 すると、クトネが羨ましそうに言った。


「それにしても、さすがD級クランですね~……こんな立派な『クランホーム』を持ってるなんて」

「確かにな。ホームがあると言う事は拠点はここだけじゃあるまい」

「…………」


 そ、そういえば……クランホームのこと聞き忘れた。

 くそ、クトネの生温かい視線がムカつく。


「クランホームっていうのは、クランの拠点のことです。基本的にはD級クランから所有するのが通ですね」

「そうだな。D級クランの昇格条件に『クランの人数が30人以上』という規定があったはず。D級に昇格したクランは、冒険者ギルドからクランホーム物件を紹介してもらえるんだ」

「その通りです。ホームがあればクランの拠点になりますし、クラン内でチームを組んで個々の依頼をこなすことも可能です。それに、冒険者ギルドを介しない直接依頼を受けることもできるんです。もちろんギルドに報告の義務は生じますけどね」

「ああ。過去に直接依頼を報告しなかったクランが解散処分になったこともあったな」

「それに、30人を越えてなおかつ冒険者の平均等級がD~E級だと、サブクランホームを紹介してもらえるんです」

「サブクランホームとメインクランホームは、冒険者ギルドが管理する『転送魔方陣』で行き来が可能になる。だが、転送魔方陣は1つ制作するのに数年の月日が掛かる貴重な魔道具で、厳正な審査を通り抜けた一流クランじゃないと使えないんだ」

「今はたしか……A級クラン数組しか使ってないんでしたっけ?」

「ああ。その通りだ」


 おい、俺を置いてきぼりしすぎだろ。

 クトネとルーシアだけの会話に混ざれずいると、ルーシアがようやく気付いた。


「と……つまり、クランホームとは大所帯のクランのためにある拠点だ」

「シンプルな説明ありがとう」

「あはは。まぁあたしたちみたいなG級クランには関係ないことです。でもセージさん、提案があります」

「なんだよ?」

「あのですね。今はスタリオンに荷車を引いてもらってますけど、もっと大きな生活空間のある『居住車』を買いませんか?」

「居住車?」

「はい。その名の通り、居住空間のある荷車です。基本的に二階建てで、一階が生活空間で二階は寝室になってるんです。あたしたち『戦乙女ヴァルキュリア』のクランホームってことで」

「………あのな、そんなの買う金ないだろ。それに、そんなデカいのスタリオンだけじゃ引けないだろ」

「だーかーら、居住車と一緒に馬ももう一頭買うんです!! スタリオンはモンスターとの混血馬ですから、同じような混血馬をもう一頭!!」

「だから、そんな金……」

「お金なら依頼を受けて稼ぎましょうよ!! ブリュンヒルデさんならドラゴンが国家レベルで襲ってきても瞬殺しそうですし、ジークルーネさんなら不治の病に冒された貴族のご令嬢だって治せますって!! お金なんてすぐに貯まりますよ!!」

「む……」

「それに、セージさんは考えてないかもしれませんが、ミカヅキ?って人を助けたらどうするつもりなんですか? あたしの予想では、冒険者登録して一緒に連れて行く未来が見えますけどねー? もう1人増えるなら荷車はさらに手狭になりますし、スタリオンだけじゃキツいんじゃないかなー?」

「…………」


 く……クトネのやつ、俺を論破しやがった。

 確かに、三日月を救出したあとのことは全く考えてなかった。

 俺の目的は三日月の救出とオストローデ王国から生徒たちを解放、そしてオストローデ王国をぶちのめすこと。三日月を救出して終わりじゃない。

 これからのことを考えると、鍛えておいて損はない。

 魔術や剣術も鍛えたいし、鍛えるには実戦が一番、つまり冒険者ギルドで依頼を受けまくって実戦経験で鍛える。そうすれば冒険者等級も上がるしお金も稼げる。

 それに、クトネの言うとおり、ブリュンヒルデならドラゴンでも楽勝だ。

 野宿の機会も増えるだろうし、居住車があれば問題ない……。


「む……なぁ、ルーシアはどう思う?」

「今後のことを考えるなら、クトネの意見に賛成だ。セージは知らないかもしれないが、中堅クラスのクランは居住車を所有しているぞ」

「………」


 居住車か……この件が片付いたら、考えておくか。

 三日月もパーティーに加える……考えても居なかった。

 とりあえず、一息入れるか。


「センセイ、データをいくつか集めました」

「お、来たか」

「はい。映像データがあります、確認しますか?」

「……ああ」


 残念、休憩はおあずけだ。

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