第四章・【超野獣王アルアサド】

第61話三日月しおん①

 わたしの名前は三日月しおん。 

 オストローデ王国に召喚された16歳。

 好きな物はネコ、好きな動物はネコ、カワイイと思う物はネコと、とにかくネコが大好きなのです。


 そんなわたしがこの異世界で手に入れた能力……チートは『猫使い(キャットマスター)』。

 猫好きのわたしにはピッタリの能力。初めて確認したときは嬉しかった。 

 オストローデ王国に召喚されて、7人の魔王を倒してと言われて困惑したけど、せんせが「みんなで協力して家に帰ろう」って言うから頑張ろうと思った。

 そのせんせは、リペアとかいうちょっと頼りないチートでみんなに笑われていたけど、わたしは笑わなかった。

 せんせは、笑いつつもみんなを元気づけていた。

 こんな状況なのに、せんせはせんせだった。

 中津川くんと一緒に修行して、剣を振る前にボロボロになってみんなに笑われてたけど、みんなはバカにするような笑いじゃなくて、せんせが頑張ってるから笑っていた。

 お城の兵士さんはバカにしてたけど、生徒たちはみんなわかってた。

 部屋でお酒のんで、酔い潰れちゃうくらい疲れてるせんせ。

 なんだかんだでみんなに好かれてるせんせ。


 そんなせんせが、わたしは大好きだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ちょっと時間を巻き戻す。

 あれは、わたしの運命が決まった日。オストローデ王国に来て初めての実戦演習の日。

 わたしはチートを使って仲良くなった2匹のネコ、しろすけととらじろーと一緒にいた。

 わたしたちのチームに、せんせが入るって聞いて、顔には出さなかったけどすごく嬉しかったのを覚えてる。

 そして、皆と一緒に遺跡に入って、戦って、せんせのそばにいて。わたしはせんせを守ろうと頑張った。

 全て、順調だったのに。


 そして、ミノタウロスとかいう牛のモンスターが出て······せんせが死んだ。


 せんせは、わたしのしろすけを救って死んだ。

 わたしのせいで、死んでしまった。

 わたしが、わたしがしろすけを見ていなかったから、死んだ。


 クラスのみんなは悲しんでいた。

 でも、中津川くんがみんなを励まして、みんな立ち直って強くなった。

 わたしは、わたしはダメだった。

 だって、せんせが死んだのはわたしのせいだもん。

 

 わたしは、部屋に引きこもった。

 クラスのみんなも察してくれたのか、無理に訓練に引っ張ろうとしない。

 親友のあかねだけが部屋に来て、食事を持ってきてくれた。

 少しだけ食べて、またベッドに潜る。

 自分を責めて泣いて、一日が終わる。

 そんな生活が続き、ある日部屋に来たあかねが言った。


「明日······」

「·········」

「明日、遺跡の再調査が行われるわ。そこに、クラスで選抜された上位五名が同行する」

「·········」

「もちろん、私も行く」

「·········」

「もし、しおんが行きたいなら、私がアシュクロフト先生に掛け合う。ちゃんと先生を見つけて、お見送りして、前に進みたいなら······待ってるわ」

「·········」


 そう言って、あかねは出て行った。

 あかねの言葉が突き刺さる。

 せんせは死んだ。それを受け入れて前に進む。

 こんな風に燻っていても、せんせは帰ってこない。

 

「·········そう、だよね」

『にゃう』『にゃふ』


 しろすけととらじろーが布団に潜り込み、わたしに甘えてくる。

 わたしは、前に進まないといけない。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 翌日。

 シャワーを浴びて着替え、ドアの前に置いてあった朝食を平らげる。久しぶりの満腹感だ。

 そして、オストローデ王国の城門前。

 あかねたちとアシュクロフト先生がいた。


「では、出発します」

「まって‼」


 わたしは叫ぶ。

 そして、前に進む。


「······わたしも、行く。お願い、行かせて」

「しおん、来てくれたんだ」

「ごめんね、あかね。わたし······もう泣かない」


 あかねは目元を拭い、アシュクロフト先生に向き直る。


「お願いしますアシュクロフト先生、しおんの同行許可を‼」

「······ふむ、しかしシオンは禄に訓練を行っていない。不測の事態が起きないとも限りませんし」

「それなら私が守ります‼ 絶対に‼」


 あかね、ありがとう。

 あかねはわたしの親友だよ。


「······わかりました。ですが、守るのはあなたではない、私たち騎士の仕事です」

「······ありがとうございます、アシュクロフト先生‼」

「ありがとう、アシュクロフト先生」


 こうして、わたしたちは遺跡へ向かう。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 せんせは、いなかった。

 封印されたドアの前で全身が震えだした。

 あかねが手を握ってくれなかったら、気を失っていたかもしれない。

 3人の騎士がドアに施された封印を解除し、ミノタウロスがいた部屋に入る。


「あれ······」


 ミノタウロスどころか、せんせもいない。

 だけど、へんな物があった。

 部屋の中心から迫り上がってきたかのような、壊れたガラス円筒みたいな物。

 みんな首を捻っていると、アシュクロフト先生が言った。


「全員、部屋から出て待機。ここは私が調べます」


 有無を言わさぬ迫力だった。

 まるで、この部屋を調べることだけでなく、見ることすら許さないといった雰囲気だった。


 こうして、わけがわからないまま、捜索は終わった。

 アシュクロフト先生は、せんせの死体がないから死んだとは言えない。まだ調査するからここは封鎖すると言った。

 

 せんせは、生きているかもしれない。

 それがわたしの希望になった。

 そして、訓練にも復帰してチートを伸ばし続けた。

 いつか再会できると信じて。

 だけど、わたしは、わたしだけが知ってしまった。


 このオストローデ王国の、闇の部分に。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 遺跡の探索から2週間ほど経過した。

 わたしは真面目に訓練し、毎日のように遺跡の調査結果を確認していた。

 クラスのみんなはまだ知らないけど、せんせは生きてる可能性がある。

 調査の兵隊さんたちは毎日遺跡に潜り、隠し部屋とかないか調べてる。もしかしたら隠し部屋があり、せんせはそこにいるかも知れないって兵隊さんが言ってた。


 いつものように訓練を終え、シャワーを浴びていた。

 この世界では高価な石鹸を使い、身体の汚れを落としていく。

 

「·········また、大きくなったかも」


 胸を洗いながら呟く。

 身長は低いのに、胸はあかねよりも大きい。あかねに相談したら悔しそうにしてたのを覚えてる。

 すると、シャワー室にしろすけが入ってきた。


『よぉしおん、オレも洗ってくれよ』

「うん。おいでしろすけ」

『さんきゅー。それと、とらじろーのヤツが出ていったぜ? また厨房に忍び込んでツマミ食いする気だぞ』

「う、それは困る。怒られるのわたし」

『ははは、だったら首輪と目を使ってこっちに戻せよ。お前がシャワー浴びてるうちだから出て行ったんだぜ?』

「むー、とらじろーはあとでお仕置き」


 しろすけを石鹸で真っ白に洗う。ネコなのにキレイ好きで、よくシャワー室に入ってくる。

 お湯で流し、シャワールームから出て身体を拭き、パジャマ代わりの薄いネグリジェを着る。ちなみにこのネグリジェは王国の支給品。あんまりいい趣味じゃない。


「とらじろー、目と首輪を使うよ」

  

 わたしの能力の一つ、ネコの目とネコの首輪。

 使役したネコを操る能力だけど、正直あんまり好きじゃない。ネコは自由であるべきで、操るなんてしたくない。

 でも、とらじろーはツマミ食いの常習犯だし、お仕置きも兼ねて使うことにした。

 ちなみに、わたしの能力はこんな感じ。

 

********************

【名前】 三日月しおん

【チート】『猫使い(キャットマスター)』 レベル38

 ○ネコあつめ・ネコを使役可能(最大数30)

 ○ネコの目・使役したネコの目を借りる 

 ○ネコの首輪・使役したネコを操れる 

 ○キャットウォーク・ネコの身体能力を得る


【固有武器】ネコじゃらし『ススキノテ』 レベル38

 ○じゃれたネコと会話可能

 ○じゃれたネコの身体能力アップ

********************


 どこまでもネコ。

 1番嬉しかったのは、ネコとおしゃべりできたこと。

 わたしはベッドに横になり、使役したネコの一匹であるとらじろーとつながる。

 意識と目が低くなる、そしてとらじろーの身体へ。

 とらじろーの身体には、わたしととらじろーの意識があり、チート使用してるわたしの意識が前に来る。


『······やべ、バレた』

『バレたじゃない。ツマミ食いは禁止。このまま部屋まで帰るからね』


 とらじろーは、厨房の隅っこで魚を食べていた。

 わたしは魚を平らげ、とらじろーの身体のまま歩き出す。

 城の中は、しろすけやとらじろーの身体を借りてよく散歩したので、だいたいの道はわかる。

 

『悪かったよしおん、そう怒るなよ』

『怒ってない。でも、ツマミ食いはダメ』

『へいへい。んなことより、ちょっと聞けよ。実は面白い場所を見つけたんだ』

『······面白い場所?』

『ああ。カサンドラの姫さんがアシュクロフトと入って行くのを見たんだ。逢引してんかと思って覗いてやったら、やたらゴチャゴチャした部屋でピーピー音がなっててよ、金属だらけで毛が逆立っちまったぜ。ここから近いし見せてやるよ』

『えー······』


 まぁ、寝るだけだし付き合ってもいいかな。

 それに、この『ネコの目』と『ネコの首輪』の力は誰も知らないし、わたしが見てるなんて思ってもいない。

 もしバレてもネコのイタズラで終わるだろうし······何より、ちょっと興味も出てきた。


『わかった。じゃあ案内してくれる?』

『へへへ、そうこなくっちゃ』


 これが、全ての始まりだった。

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