第60話美少女だらけのクラン『戦乙女』

「……と、いうわけで、ブリュンヒルデの妹ジークルーネだ」

「よろしくお願いします。クトネさん、ルーシアさん」

「「…………」」


 ここはタマポンさんから借りた部屋で、ギルドから戻ったクトネとルーシアにジークルーネを紹介した。

 まぁ、2人とも言葉がないようだ。そりゃそうだな、遺跡の調査に行った帰りにブリュンヒルデの妹を連れて来ましたなんて言ってもなぁ。

 すると、クトネはジークルーネをジロジロ見る。


「確かに、ブリュンヒルデさんによく似てますね。装備といい、髪や目の色も同じですし……」

「セージ、お前は遺跡の調査に行ってたのではないのか?」

「ああ。遺跡に眠っていたジークルーネを起こしたんだ」

「むぅ……いや、もういい。考えないようにする」

「セージさんセージさん、ええと、ジークルーネさんもクランに入れるんですか?」

「そうだな。せっかくだし、ジークルーネも冒険者になるか?」

「キーワード『冒険者』データ照会………なるほど、面白そうですね、やってみたいです!」


 ジークルーネは、ブリュンヒルデと共有したデータのおかげで、今の時代の常識を理解していた。ブリュンヒルデは寡黙だから言わないが、ちゃんとこの時代のデータは収集してるみたいだ。

 

「よし、この町にもう用はないし、フォーヴ王国へ向かうついでの依頼を探そう。ジークルーネの冒険者登録は明日一緒にやろう」

「はい、センセイ」

「そうですね。ちなみに補給品はあたしとルーシアさんで揃えましたんで、いつでも出発できますよ」

「お、マジで? おいおい、お金は大丈夫なのか?」

「ああ、問題ない。実は今日、ちょっとケンカを売られてな……まぁ、捻り潰したが、その内の1人に頼んで買い物をしてもらった」

「うひひ、あの時のルーシアさん、マジで怖かったですよ。20人いた獣人を素手でボコボコにして」

「クトネ、正確には23人だ」

「ああ、あたしも3人倒しましたわ。忘れてました」

「…………」


 うん、この2人には逆らわない方がいい。

 ホルアクティの監視は早々に切り上げたから見てないが、そんな事があったとは。

 

 こうして、オゾゾの町最後の夜は更けていった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 翌日。タマポンさんの店の前。


「お世話になりました、タマポンさん」

「いえいえ~、たいしたもてなしもできず~、冒険者さん~」

「いや、泊めていただいただけでもありがたいです」

「はい~。ウチの革製品も買ってくれて~、ありがとうございます~」


 タマポンさんには世話になったので、店の革製品をいくつか買った。

 カバンや財布、俺が使う革のマントや、パーティーで使う寝袋などだ。しかもタマポンさん、かなり割引してくれた。

 チンピラみたいな獣人もいたけど、この人には本当に世話になった。


「ところで~、1人増えました~?」

「あ、まぁ……ええと、本当にありがとうございました。縁がありましたらまた」

「はい~、さようなら~」


 タマポンさんに別れを告げ、冒険者ギルドへ。

 御者はブリュンヒルデが務め、その隣にはジークルーネが座り、太股の上にはシリカを乗せていた。


「お姉ちゃんお姉ちゃん、この子すっごく可愛いよ? このお馬さんも可愛いし……わたしたちのいた時代じゃ生きてる馬や猫なんてほとんどいなかったし、ペットロボならいたけど……」

『馬はスタリオン、猫はシリカです』

「あ、うん。よろしくねシリカ、スタリオン」

『んなぁ~』

『ブルルン!!』


 うーん美少女姉妹と動物は絵になるなぁ。

 すると、シリカを取られたクトネは悔しがると思ったが、別のことを考えていたようだ。


「ふーむ。セージさんセージさん、ちょっと思ったんですが、セージさんも使い魔を持ちませんか?」

「え、使い魔? シリカみたいな?」

「はい。魔術師はみんな持っていますよ。使い魔契約をすればどんな命令でも聞いてくれますし、戦闘系の使い魔と契約すれば強い味方にもなります!」

「ふーん。どんな命令でもねぇ……シリカはかなりブリュンヒルデに懐いてるけど」

「あ、あれはしかたないんです!! シリカはもともとお爺ちゃんの使い魔で、あたしは正式な使い魔登録してないから……でも、セージさんならちゃんとした使い魔を得られると思うんです! いいモンスターや動物がいたら契約しましょう!」

「あ、いや別に……俺にはホルアクティがいるし。それならルーシアだって」

「私は魔術は使えるが魔術師じゃなく剣士だ。私のように剣士でありながら魔術を使う『魔剣士(マジックフェンサー)』と、魔術師でありながら武器を使う『魔法士(ツァオベラー)』は全くの別物だ。同列に見ることを良しとしない輩もいるから気を付けろ」

「そうですね。それに、セージさんって魔剣士より魔法士って感じですもん。使い魔の1匹くらいいればハクが付きますよ~?」

「使い魔ねぇ……」


 つまり、ペット枠を増やせってことか。

 ありがちなのは伝説の魔獣とか、死にかけの伝説の魔獣の子供とか、弱体化して小さくなった伝説の魔獣とか……伝説の魔獣ばっかだな。

 まぁ、機会があれば別にいいか。


「ま、そのうちな。それに、俺は魔法士じゃなくて『先生』だぞ」

「それが意味わかんないですよ……冒険者登録のジョブ欄に『先生』なんて書くのセージさんくらいですよ?」

「悪いが、私も同意する……」


 なぜか呆れた目で見られつつ、冒険者ギルドへ向かう。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 わかっていたが、冒険者ギルドは獣人だらけだった。

 突き刺さる視線を無視して受付へ。

 俺とジークルーネは、ネコ耳の受付嬢へ言う。


「あの、この子の冒険者登録をお願いします」

「……はい、では書類をどうぞー」


 なんかぞんざいな態度だ。しかも書類を投げやがった。

 書類は宙を舞い床に落ちる。だが受付嬢は謝るどころか何も言わず、欠伸をしやがった。

 さすがにカチンときたが、俺は無言で書類を拾う。


「あの、なぜ書類を投げたのでしょう? これが冒険者登録のやりかたなのですか?」

「ちょ、ジークルーネ」

「ふむ、人間もですが獣人も興味深いです。データベースを更新しておきます」


 ジークルーネはどこか楽しそうに言った。

 だが、受付嬢の眉がピクッと反応したのは気のせいじゃない。

 とにかく、さっさと登録しよう。


「えーと、名前はジークルーネ、ジョブは……技師(エンジニア)でいいか。年齢は15、所属クランは『戦乙女(ヴァルキュリア)』と……ほれ、こんな感じでいいかジークルーネ」

「はい、ありがとうございますセンセイ。では……えいっ!!」

「は!?」


 俺はジークルーネに確認して貰おうと書類を見せたのだが、なんとジークルーネはその書類をネコ耳の受付嬢に投げつけた。

 書類は受付嬢の顔にヒット……痛みはないだろうが、受付嬢はジークルーネをメッチャ睨んでいた。

 当たり前だよな。俺でも切れる。


「…………ご記入ありがとうございます。では確認をぉぉっと!!」

「あ」

 

 受付嬢は、足をもつれさせた勢いで書類を破ってしまった。

 しかも一回二回じゃない、ビリビリと両手で破ってる。これはさすがに悪意が感じられた。

 破った紙をジークルーネに投げつけ、受付嬢はニコリと笑う。

 

「センセイ、これで登録は終わりですか? わたし、冒険者になったのですか?」

「…………あー、その」

「……セージ、どけ」

「お、おいルーシア」

「さすがに冗談が過ぎますね……」

「ちょ、クトネ」


 ブチ切れかけてるルーシアとクトネが前に出る。

 するとジークルーネは、紙吹雪となった書類の一欠片を摘まむ。


「センセイ、これはゴミですよね? データではゴミはゴミ箱にとあります。処分して構いませんか?」

「ああもう、好きにしろよ。ちょっとルーシア、クトネ」

「では、修復して……」


 ジークルーネが紙吹雪に手をかざすと、紙は青白く発光し、まるで逆再生するかのように一枚の紙になった。

 そして、完全に元通りになった書類を受付嬢へ渡す。


「申し訳ありません、こちら処分していただけないでしょうか」


 仰天する俺たちを置いて、ジークルーネは優しく微笑んでいた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ジークルーネの冒険者登録はなんとか終わった。

 ビリビリの紙吹雪となった書類を一瞬で直し、笑顔で受付嬢へ提出した。それに驚いた受付嬢は、ニコニコしてるジークルーネに何故かビビり、冒険者登録をしてくれたのである。

 何が起きたのか俺たちにはわからなかった。まさかジークルーネのチートなのか?

 クラン専用依頼掲示板の前で俺は聞いた。


「ジークルーネ、あの書類はどうやって直したんだ?」

「あのゴミですか? あれはナノマシンを散布して破れる前のデータ通りに復元しただけです。わたしは後方支援型なので、戦乙女型のメンテナンスの他に、負傷兵や重病の人間のメンテナンスや修理も担当していましたから、有機物なら部品とデータが揃っていれば修復可能です」

「え……じゃあ、人間も治せるのか?」

「はい。難しいので説明は省きますが、ナノマシン治療で怪我や病気はほとんど治せます。メインウェポンを使えば四肢の欠損や内臓も再生することが可能です」

「ま、マジ? 重病とか、不治の病とかも?」

「はい。わたしが起動してから治せなかった病気はありません」


 ウッソだろ。ジークルーネすげぇじゃん。

 ブリュンヒルデのメンテナンスの他に、怪我や病気をナノマシン治療する。しかも治せなかった病気はないとか、ある意味そっちのがスゴいんだけど。

 ジークルーネ曰く、書類を直せたのは部品となる紙吹雪と元の書類のデータが揃っていたからで、データのない物は治せないそうだ。

 しかも、メインウェポンがあれば四肢の欠損も治せるとか……こりゃジークルーネはパーティーの回復役で決定だな。

 ニコニコしてるジークルーネの頭をなでようか悩んでいると、ルーシアが一枚の依頼書に目を付けた。


「セージ、この依頼を見ろ」

「ん……これは、『クロコダイル商会の護衛』か」

「ああ。依頼はクロコダイル商会をフォーヴ王国まで護衛、ルートはドゥウ樹海を越えるルートだ」

「ど、ドウ樹海、噛みそうな名前だ。でもフォーヴ王国か」

「ああ。こいつは複数クランとの合同依頼だ。期日は今日の昼、あと1時間ほどで締め切りだ。ドゥウ樹海は危険なルートだが、フォーヴ王国を目指す上では避けられん。だが、合同依頼なら腕利きの冒険者クランが共にいるから全滅の危険は避けられる……これを受けよう」

「なるほどな……でも、いいのか? 恐らくだけど、受けるクランは……」

「間違いなく獣人だが、背に腹は変えられん。クトネ、ブリュンヒルデ、ジークルーネ、お前たちはどうだ?」

「あたしはいいですよ。ムカつく獣人は燃やしてやります」

『センセイに従います』

「わたしも、センセイに従います」


 うーん、ブリュンヒルデとジークルーネは俺にお任せか。

 これ、多数決になったら必ず俺が勝つな。二対三で。

 でも、複数のクランか……ちょい不安。


「お姉ちゃん、冒険者ってどんなことするの?」

『依頼です』


 まぁ、この2人がいるなら大丈夫か。

 あとブリュンヒルデ、もっと真面目に答えてやれよ。


「よし、その依頼を受けよう」


 こうして、新しい依頼はまた護衛なのであった。

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