第59話遺跡の調査3
三日月しおん。
猫好きで、制服の上に猫耳パーカーを羽織った少女。
チートは『猫使い(キャットマスター)』で、猫に関する能力ばかりだったのを覚えてる。
確かな情報がないから多少は安心していたが······三日月はフォーヴ王国にいると考えていい。
「·········落ち着け、焦るな」
『センセイ。脳波が不安定。心拍数が上昇しています』
「ふぅ······大丈夫だ。悪いなブリュンヒルデ······っと」
右手のバンドが振動した。マナーモードに設定しておいたの忘れてた。
ホルアクティから動画データが送られてきたので確認すると、路地裏みたいな場所で獣人の囲まれるクトネとルーシアがいた。
だが、どうやら路地裏に誘い込んだのはルーシアで、クトネの土魔術で出口を塞ぎ、あとはルーシアが徹底的にボコっていた。さすが騎士団長、チンピラ獣人なんて敵じゃなかった。
「よし、今は遺跡の調査だ」
慌てなくても、フォーヴ王国へは向かう。
その前に、やるべきことをしっかりやれ。慌てても駄目だ、冷静に、冷静に。
精神を落ち着かせ、俺とブリュンヒルデは遺跡調査を始めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ブリュンヒルデが暴れたおかげで、遺跡内の壁はかなり倒壊していた。
「ブリュンヒルデ、遺跡内で機械反応はあるか?」
『···········微弱な電波を感知。識別反応から人類軍と推定。私のセンサーでは正確な位置を探知することはできません』
「それだけで十分。ホルアクティのセンサーを使う······はは、なんか宝探しだな」
ルーシアたちはもう大丈夫なので、ホルアクティをこちらへ戻す。飛行スピードも速いので、5分と掛からず戻って来た。
ホルアクティを上空待機させ、命令を出す。
「ホルアクティ、周辺を探知。現在位置から半径200メートルの詳細地図を。怪しい電波や地下の入口とかを見逃すなよ」
右手のバンドから空中投影ディスプレイが現れ、航空地図が表示される。ディスプレイはタッチパネル式で、画面には様々な項目が表示されていた。
「えーと············お、やっぱりあったか」
見つけた。
やはり、地下への入口がある。遺跡の中心部、現在位置から3メートル東······って近いな。
3メートル先を見ると、ただの石畳だった。どうやら巧妙に隠されてるらしい。
ブリュンヒルデと協力して石畳を引っ剥がすと······見つけた。
「鉄の扉······なるほど。さすがの物取りも、石畳を引っ剥がすことはしなかったのか」
特に細工のない鉄の扉だ。
念の為『修理(リペア)』を使ったが反応はない。
ブリュンヒルデに扉を開けてもらうと、狭い地下への階段が現れた。
うーん、宝探しみたいで面白い。
「よし、行くか」
『はい、センセイ』
さて、どんなお宝があるのかな?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
入ってすぐにわかった。
ここ、オストローデの遺跡に似てる。
階段を降りてすぐに扉があり、すでに開いていたので中へ入る。
「もしかして、ここ······」
『センセイ、ここはアンドロイド修復施設です。人類軍が建築したアンドロイド専用のナノポッドがあります』
俺がブリュンヒルデに出会った部屋。
何もない部屋だが違う。地面の下にポッドや迎撃設備などが仕込まれてる。
俺は床に手を触れ、『修復(リペア)』を発動させた。
「来た······」
部屋全体が発光し、幾何学的な数字や文字が現れては消える。
間違いない、これはブリュンヒルデが目覚めた時と同じ。
そして、部屋の中央の床が開き、ゆっくりと細長い透明な筒が迫り上がって来た。
「うぉ······」
何度も言う。同じだった。
筒の中には、一人の女の子がいた。
肩にかかるくらいの短いウェーブの銀髪。全裸なので見てはいけないが、胸はブリュンヒルデよりやや小さい······って見てるじゃーか俺。
間違いなく、『戦乙女型』の少女だった。
見惚れてる俺の横で、ブリュンヒルデがいつもと変わらず言う。
『code06ジークルーネを確認しました』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ジークルーネ。それがこの子の名前らしい。
code6ってことは、ブリュンヒルデの妹みたいなもんか?
ナノポッドの近くにコンソールボックスがある。これは確か、ブリュンヒルデを復活させたときにもあったな。
でも、ヴァルキリーハーツとかいう宝石がないとどうしようもない。起こしてやりたいけど。
壊れてる感じはしないが、ちょっと触れておくか。
「とりあえず『修復(リペア)』」
『システム起動』
「うおっ」
コンソールが立ち上がり、ナノポッドを囲むようにディスプレイが付いたり消えたりしてる。
『メインシステム起動。code06ボディチェック開始·········完了。特殊チート確認。チート
「え、ちょ、は!?」
機械音声が一気にまくしたてる。
ブリュンヒルデに助けを求めるが、いつもの無表情でポッドをジッと見てるだけだ。まさと思うが、この子動くのか!?
すると、ポッドがプシューッと音を立てて開き、素っ裸の少女ジークルーネは起動······降り立った。
ブリュンヒルデは、俺を庇うように前に出る。
俺はジークルーネがゆっくりと目を開けるのを確認した。
ブリュンヒルデは、ジークルーネを警戒してる。
『code06を確認。意思疎通が可能なら発声を求める』
「············お」
『再度確認する。意思疎通が可能なら発声を求める』
「············お」
な、なんだろう。
ブリュンヒルデを見つめたままカタカタ震えだした。
そして、ジークルーネは動き出した。
「おねぇちゃんっ!! よかったぁ〜〜〜〜っ!!」
ジークルーネは、ブリュンヒルデに抱き着いた。
なんだろう、すっごく感動してるような気がする。
すると、ジークルーネはブリュンヒルデの肩を掴んでガタガタ揺らしながら一気にまくし立てる。
「お姉ちゃんお姉ちゃんボディの修復は済んだんだね!! よかったぁ······お姉ちゃんの首から下が吹き飛んじゃって、ヴァルキリーハーツも損傷してわたしじゃ手に負えなくて、そうしたらパパが姉妹全員ナノポッドに入れって言って」
『············』
「ちょ、お、落ち着いて落ち着いて」
「あ、新しく登録されたマスター。初めまして」
「ど、どうも。じゃなくて、とりあえず服を着て」
「はい、マスター」
なんかテンション高いな。
ジークルーネはブリュンヒルデみたいな戦乙女の服をボディに反映させる。
ブリュンヒルデに比べるとかなり軽装だ。胸当てと篭手とレガースだけしか装備してない。頭の羽飾りはブリュンヒルデとお揃いみたいだけど。
とりあえず、自己紹介から。
「ええと、ジークルーネだよね? 初めまして、俺は相沢誠司。ブリュンヒルデからは先生って呼ばれてる」
「初めましてマスター、わたしはcode06ジークルーネ。正確には《後方支援戦乙女型アンドロイドcode06ジークルーネ》です。ではお姉ちゃんに習ってわたしもセンセイって呼びますね」
「あ、ああ」
ニコッと笑うジークルーネ。
なんというかフツーに人間っぽい。どういうことだ?
ブリュンヒルデみたいな無機質さがまるでない。どちらかと言えば、アルヴィートに近い。
さて、何から聞けばいいのやら。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
とりあえず、起動できて良かった。
ブリュンヒルデの話だとヴァルキリーハーツがなければ起動できないって話だったからな。ジークルーネはヴァルキリーハーツを抜かれずにポッドに入ったのか。
「まぁ、起動できて良かった。ヴァルキリーハーツがないからどうしようかと思ったよ」
「·········え? まさか······お姉ちゃん、ちょっと見せて!!」
『·········』
ジークルーネがブリュンヒルデに手をかざすと、ブリュンヒルデの周りにいくつものディスプレイが消えたり付いたりし始める。なんだこりゃ?
するとジークルーネは、驚愕していた。
「うそ······これ、予備のヴァルキリーハーツ? お姉ちゃんの戦闘経験データも感情データも全部消えて······そっか、あのときヴァルキリーハーツが損傷したから······あれ、このデータは······【戦乙女の遺産(ヴァルキュリア・レガシー)】? なにこれ、こんなのわたしのデータバンクにもない」
「お、おい、どうしたんだ?」
「センセイ、お姉ちゃんを起動させたのはセンセイ?」
「あ、ああ。遺跡内にあったヴァルキリーハーツを使って起動させた」
「じゃあ、この特殊チートも?」
「ああ。そうだ」
「パパと同じ力を持ってるなんて。それに、ポッドに入ってからかなり時間が経過してる······」
ジークルーネは、空中投影ディスプレイをタッチしながら何かをやっていた。
「あの、何してるんだ?」
「お姉ちゃんのボディチェックです。戦乙女型のメンテナンスはわたしの担当でもありますから。姉妹7機のうち、ナノマシン製造ユニットが搭載されているのはわたしだけだから、古くなり活動が鈍くなったナノマシンを廃棄して入れ替えるのもわたしにしか出来ないんです」
「へぇ〜······」
「それに、スペック上では無限に活動可能ですけど、機械である以上はメンテナンスは必要です。そういった整備点検がわたしの役目なんです。その代わり、戦闘能力は皆無ですけどね」
「なるほど。後方支援か」
「はい。あ、お姉ちゃん。この【戦乙女の遺産(ヴァルキュリア・レガシー)】のデータ、わたしも共有していい? パパがこんな武装を残してるなんて、わたしのデータベースにも存在しないから······」
『センセイの許可があれば可能です』
その答えに、ジークルーネは悲しそうな顔をした。
「······ヴァルキリーハーツが入れ替えられてるから、前みたいなお姉ちゃんじゃないんだよね」
「ジークルーネ?」
「っと······センセイ、許可を」
「あ、ああ。許可する」
ジークルーネはニコッと笑い、タッチパネルを操作した。
その笑みが、俺にはなぜか悲しく見えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
銀色のショートウェーブヘアのジークルーネと、銀髪ロングストレートのブリュンヒルデ。
顔立ちも似てるし、どう見ても姉妹にしか見えない。見た目の年齢はブリュンヒルデが16歳、ジークルーネは15歳くらいかな。
ブリュンヒルデのチェックを終えたジークルーネは俺に向き直る。
「センセイ、改めまして、よろしくお願いします」
「ああ、よろしくな」
うーん、礼儀正しくていい子じゃないか。感情も豊かで笑顔も可愛い。
言うまでもないが、これから一緒に旅をする仲間だ。
「ジークルーネは感情豊かだな。ブリュンヒルデとは違うな」
「……お姉ちゃんは予備の《ヴァルキリーハーツ》で動いてますから。本来のお姉ちゃんはもう少し感情豊かなんですよ?」
「確か、精神中枢だっけ」
「はい。昔、指揮官クラスで戦闘に特化したアンドロイドと戦って、破壊寸前まで追い詰められたんです。その時にヴァルキリーハーツを損傷して……感情データや記憶回路も損傷しちゃたんです。本来のヴァルキリーハーツは修復不能、予備には基本データと言語パックしか入力されていないし、感情データもイチから構築しないといけないから……」
「なるほど……」
本人を前に会話してるのに、ブリュンヒルデはほとんど反応しなかった。
本当のブリュンヒルデさんというが、俺はこっちのブリュンヒルデも本当だと思う。
「ジークルーネ。感情データってのは?」
「はい。わたしたち『戦乙女型アンドロイド』は、パパの最高傑作プログラムの『ココロSYSTEM』が搭載され、人間と同じ感情を持っています。ココロSYSTEMは特殊な結晶にしか入力できないんです」
「なるほど、それが《ヴァルキリーハーツ》ってやつか」
「はい。ヴァルキリーハーツは全部で7つと予備が1つしかない貴重な結晶なんです」
「へぇ~」
と、雑談に興じるのもいいが、ここから出よう。
改めて、ジークルーネに聞く。
「ジークルーネ、俺たちの仲間になってくれるか?」
「はい、センセイ。わたしはセンセイのアンドロイドですから、どこまでもお供いたします!」
「ああ、ありがとう。じゃあジークルーネ、仲間を紹介する」
「はい! えへへ、これからよろしくね、お姉ちゃん!」
『よろしくお願いします、code06』
「もう、ジークルーネでいいよ、code06なんて呼びにくいでしょ?」
『わかりました。ジークルーネ』
こうして、新しい戦乙女型アンドロイド・ジークルーネが仲間になった。
後方支援型らしく戦闘能力は皆無。普段はアンドロイドのメンテナンス担当。
だが、俺はまだ知らなかった。
ジークルーネの真の能力が、とんでもないことに。
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