第58話お約束な展開
俺がこれまで調査した遺跡は3つ。
オストローデ王国近くにあったブリュンヒルデが眠っていた遺跡、レダルの町近くの遺跡、マジカライズ王国にあった遺跡。そしてこの自然都市オゾゾ内にある、これから調査する遺跡だ。
4つ目となると、遺跡の共通点も見えてくる。
まず、石造りの建物があること。そして建物の下に地下があり、そこから機械文明時代の建物に続いているということだ。
石造りの建物は古く、作りも似ているため、初見でだいたい古代遺跡とわかる。
このオゾゾの町の外れに、ボロボロになった古代の建物がある。これが町の外から見えていた石の神殿で間違いない。
俺とブリュンヒルデは、その建物を目指して町を歩いていた。
「……なぁブリュンヒルデ」
『はい。見られています』
「ああ、俺でもわかる……しかも」
『はい。20名の獣人に後を付けられています』
「20人……けっこういるな」
『センセイは私が守ります』
タマポンさんの店を出た辺りから、付けられている。
住人の獣人にはジロジロ見られるし、どこか嘲笑するような笑みを浮かべられるし、あげくの果てに付けられるし……たぶん、もうこの町には来ないと思う。
その前に、ひと悶着あった。
遺跡に向かって歩いていると、牛のような2人の獣人が俺たちの前に立ちふさがる。
獣人はニヤニヤしながら道を塞ぎ、横を抜けようとすると邪魔してくる。しかも何も言わずに邪魔してくるからタチが悪い。
俺は怒らせないように言った。
「あの……申し訳ないですが、道を譲っていただけませんかね」
「あぁん? なんだよ、オレが邪魔してるってのか? 人間はチビだから見えねぇんだよなぁ?」
「がっははは!! 違いねぇ。そうだ、道を譲ってやるから通行料金を払いな!! 人間税だよ人間税!!」
「あの……ほんとに退いてください」
「んだぁこら、退いてくださいだぁ? チビ人間が生意気じゃねぇか」
「そうだなぁ……今のでオレたちの心は傷付いたぜぇ~? 通行料金が値上げしちまった!!」
「おおとも、1匹金貨1枚払えば通してやるぜ?」
う、うわぁ……典型的なチンピラだよ。
確かに、2人の牛獣人はデカい。2メートルはありそうだし、冒険者なのか装備も身につけてる。
金貨を支払うつもりはないが、このまま絡まれるのはゴメンだ。
よし、ここはおべっか作戦で行くか。
「いやぁ、名のある冒険者様とお見受けします。自分たち、この町に来たばかりで……気分を害されたなら申し訳ありません。そのたくましさ!! あふれ出る強者のオーラ!! 防具の上からでもわかる筋肉!! この狭い道を塞ぐのは当然でございます。どうか僅かで構いませんので、この矮小な人間を通していただけないでしょうか!!」
「ほぅ……人間にしちゃわかってるじゃねぇか」
「たくましさ、強者のオーラ、筋肉……くくく、わかってるわかってる。オメェみたいなヒョロい人間じゃたどり着けねぇところにオレらはいるってことだ。わかってんならいい……行きな」
「ありがとうございます! ありがとうございます! では失礼します」
俺とブリュンヒルデは、牛獣人の脇をすり抜ける。
頭を下げて牛獣人を見送り、再び歩きながら言った。
「どうよブリュンヒルデ。これが交渉術だ」
『今のは交渉とは言えません。へりくだり、機嫌を取り、騙したにすぎません』
「まぁそうとも言うけど……争わずに済んだって事だよ」
『はい、さすがセンセイです』
ちょっとカッコ悪いけどな。
とにかく、さっさと遺跡の調査をしよう。
ちなみに、後を付けてる気配は消えていなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
町の外れに建つ巨大な石造りの建物。
歴史を感じさせる古さで、至る所が崩れてスカスカになっている。中でも入口部分はかなり崩れ、大型トラックでも楽に入れそうな大きさだ。
入口から中に入ると、体育館よりも広い空間が広がっていた。
崩れた跡から察するに、仕切り跡があることからいくつかの部屋に分かれていたんだろう。だが、自然に崩れたと言うより誰かが強引に砕いたように見える。恐らく、遺跡荒らしとかがお宝でも探したのだろうか?
天井も崩れて屋根に開いた穴が日を照らし、建物内はかなり明るい。
「そして、この時を待ってたと言わんばかりの獣人たち、か……」
そう、俺とブリュンヒルデが遺跡内に入った途端、ガラの悪い獣人集団が入口を塞いだ。
そして、リーダー格っぽいイノシシ獣人が言った。
「へへへ、有り金全部とそっちのお嬢ちゃんをよこしな。そうすりゃオメェの命は助けてやるよ」
「………うわぁ、ありがちだな」
どうやら、カツアゲと人攫いの獣人集団らしい。
人数は20人か……まぁ、当然だけど従うわけはない。
「あの、お金はともかく、彼女をどうするおつもりでしょう?」
「あん? 決まってんだろ、奴隷オークションに売り払うのさ。人間の美醜はよくわかんねーけど、若くて白いメスは高く売れるんだよ。それに、獣人の金持ちは人間と交尾する変態が多いからな、いい金になる」
「………はぁ」
「オメーら、町に入ったときから狙われてたんだよ。上玉が3人……へへ、運が悪かったなぁ」
「………」
つまり、クトネとルーシアも狙われてるってワケか。
俺は小声で言う。
「ホルアクティ起動。ステルス迷彩のまま、クトネとルーシアの様子を確認してこい」
すると、肩に停まっていたメカフクロウは飛び立つ。
あとは、目の前のこいつらを倒すだけ。
不思議と恐怖はなかった。以前の俺ならあわてふためいたと思うが、ゴブリン退治を終えて自信が付いたのか、20人の獣人グループ相手でも前を向ける。
とは言っても、戦えば確実に負ける。
他力本願で申し訳ないね。
「ブリュンヒルデ、こいつら全員倒せるか?」
『問題ありません』
「あぁん? なんだと兄ちゃん……?」
「いや、あなたたちを懲らしめようと思いまして……確認しますけど、ここで帰るなら何もしません。もしブリュンヒルデを攫うというなら、覚悟してもらいます」
「………」
イノシシ獣人はポカンとしてクスクス笑い、周りの獣人たちもゲラゲラ笑う。
俺も釣られて一緒に笑い……イノシシ獣人は言った。
「男は殺せ!! 女は攫え!!」
20人の獣人グループが、一斉に向かってきた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「も、申し訳ありませんでしたぁぁぁぁあいだだだだだだぁぁぁっ!?」
『…………』
死屍累々。
獣人グループは全員ボコボコにされて地面に転がり、リーダー格であるイノシシ獣人はボコボコにされた上で顔面にアイアンクローを喰らって苦しんでいた。
さすがに同情するよ……ブリュンヒルデにぶん殴られて吹っ飛ばされまくってたし。おかげでタダでさえボロボロの遺跡の壁がさらにボロボロになった。
俺はイノシシ獣人に聞く。気になった単語はチェックしないとね。
「あの、奴隷オークションって何ですか?」
「いででででっ!? どど、奴隷オークション? 奴隷オークションは、オゾゾから北にある『獣人貴族の町シュヴァヴァ』で開かれる人間のオークションだよ!! いでででっ!?」
「獣人貴族の町、ですか……?」
「そそ、そうだよっでででで!? フォーヴ本国手前の町で3日に1度開かれてるオークションだ!! オレたちはそこに商品を卸してるんだよあいだだだだっ!? 以前も|ネコを連れた指輪持ちのメスを拾って売り払ったんだ!!」
ドクンと、俺の心臓が高鳴った。
ブリュンヒルデに命じ、アイアンクローを少し緩めた。
「………ネコを連れた、指輪持ち?」
「そ、そうだ。変な服着てたメスの女だ。指輪持ちのメスは珍しいからな。買ったのはフォーヴ本国の奴隷商人だ」
「………その子、名前は?」
「あん? 確か………み、ミカヅキ? とか言ったっけ……?」
「………本当なのか」
「あ、ああ。フォーヴ本国の奴隷商人に買われて、アルアサド様に献上されたらしいぜ。な、なぁもう許してくれよ、もうあんたらには関わらねぇからよ」
「………行け」
ブリュンヒルデはアイアンクローを外す。
すると、イノシシ獣人は倒れてる連中を蹴り起こし、そのまま走り去った。
「………三日月」
これで間違いない。三日月はフォーヴ王国にいる。
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