第57話自然都市オゾゾ

 オゾゾの町は、大きな石造りの建物が中心にある町だった。

 俺はタマポンさんに質問する。


「タマポンさん、オゾゾの町に見えるあの石造りの建物って……」

「ああ~、あれは大昔からある神殿だよ~。今はカラッポの建物で、な~んもないよ~?」

「……なにもない?」

「うん~。建物って言ってもボロボロで~、人の住めるような物じゃないよ~?」

「むぅ……」


 今までの特徴からして、あれは遺跡に間違いないと思う。

 レダルの町の遺跡やマジカライズ王国の遺跡も石造りの建物があったし、遠目でもわかるくらいそっくりだった。

 もしかしたら、あそこには何か眠ってるかも。

 それこそ、『戦乙女型アンドロイド』か【戦乙女の遺産(ヴァルキュリア・レガシー)】か。

 こりゃとんでもない発見だ。


「タマポンさん、あそこの調査はできますか?」

「調査~? ふぁっふぁっふぁっふぁ!! そんなことう言う人間は冒険者さんが初めてかもだね~、あれは邪魔だけど大きすぎて撤去できない建物で、調査もなにも、ただの石のカタマリだよ~? まぁ見張りがいるワケでもないから、自由に出来ると思うよ~」

「よし、ありがとうございます」


 今までのパターンだと地下通路があるはず。ホルアクティで周囲をスキャンして入口を探し、地下通路を調査してお宝を見つけよう。今なら『錆取(ルストクリーン)』も『接続(アクセス)』もあるし、開けられない扉はない。

 チートの使用回数も回復したし、いくらでも調査可能だ。


「セージ、町は目の前だ。さっさと行くぞ」

「ああ、悪いなルーシア」

「セージさんってたま~に変なこと言いますよね~」

「うるさいな、いいだろクトネ」


 町まであと少し、さっさと行こう。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 自然都市という名称の理由はすぐにわかった。

 まず、獣人が多い。あと、住居が一般的な木造住宅ではなく、遺跡の一部である石造りの家にそのまま住んでいるからだ。

 日本で言えば京都の古い町並みみたいな感じなのかね。


「·········」

「ルーシア? どうした?」

「いや·········見られているな」


 カバ車の御者席に座るルーシアがそんなことを言う。

 隣に座る俺も視線を感じていた。


「そういえば······人間があんまりいないな」

「タマポン殿も言ったが、ここはフォーヴ王国領内の町だ。国境に近い場所はそうでもないが、領内は人間差別が当たり前だ。商店で不当な料金を請求されたり、無実の罪を着せられ奴隷落ちなんてこともザラだぞ」

「怖いねぇ······気を付けよう」

「ああ。問題を起こすなよ」

「当たり前だろ」


 俺は後ろから付いてくる馬車を見る。

 御者のブリュンヒルデに話しかけるクトネが見えた。


「もうすぐ到着するぞ」

「ああ」


 よし、依頼を終えたら遺跡調査をするか。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 カバ車で町に入ったが、特に何も言われなかった。ここではカバ車なんて当たり前。だって荷車を引いてるのがオオトカゲとかライオンとか種類を問わないんだからな。

 それなのに、検問所でひと悶着あった。


「人間か。人間は通行料銀貨三枚だ。さっさと払え」

「な······銀貨三枚だと!? 馬鹿を言うな、通行料の相場は銅貨二枚が筋だろう!! 銀貨三枚など新人冒険者が一般的な装備を揃えるのに必要な価格だぞ!!」


 と、ルーシアが吠える。

 というか、銀貨三枚が新人冒険者の装備ってマジ? 俺の武器や防具なんて金貨で支払ったし、ルーシアの装備だけでも金貨100枚くらい使ってんだけど。もしかしてルーシア、金銭感覚おかしい?

 ちなみに、タマポンさんは通行無料。人間だけ通行料が発生するらしい。


「いやなら払わなくていい。さっさと引き返しな······次」

「くっ······」


 獣人門番は慣れたもので、ルーシアの叫びをバッサリ切る。きっとこういうのに慣れてるんだろうな。

 仕方ない、ここは払うしかないな。


「はいはい〜、4人で金貨1枚と銀貨2枚ね〜」

「······ちっ、通りな」


 財布を出した俺を制してタマポンさんが支払いをした。

 門の前で騒ぐわけにもいかず、タマポンさんの商会までカバ車を走らせる。

 そして、ジドの町と同じくらい大きなタマポンさんの店に到着した。

 俺たちはカバ車の前に集まる。


「タマポンさん、お金を返します」

「いやいや〜、こちらこそ申し訳ない〜、このオゾゾでは『人間税』が掛かるのを忘れてました〜、これはおいどんの説明ミスです〜、不快な気分にさせて申し訳ない〜」

「人間税······やっぱり、噂じゃなかったんですね」

「く······フォーヴ領内の事情をもっと調べておくべきだった」


 クトネとルーシアは悔しそうにしてる。

 聞いただけでわかる。『人間税』なんてろくな税金じゃない。

 すると、タマポンさんが提案してきた。


「冒険者さん〜、依頼はここでおしまいだけど〜、よかったらウチの商会の空き部屋〜、使ってください〜、たぶん〜、宿屋でも道具屋でも〜、おんなじ税金取られて〜、サイフスッカスカになっちゃいます〜。お代は4人銀貨2枚でけっこうです〜」


 うーん間延びしてる。なんか可愛く見えてきた。

 だが、提案はありがたい。こんなボッタクリ都市に正直長居したくないが、遺跡調査もあるから数日だけ厄介になろう。

 

「では、お言葉に甘えて。よろしくお願いします」


 というわけで、タマポンさんの商会のお世話になることにした。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 タマポンさんの商会は、ジドの町と同じく一階が店舗になっており、二階はタマポンさんの生活スペースと事務所になっていた。

 俺たちは二階の一室を借り、これからのことを話し合う。


「うーん、やっぱり人間は嫌われてるんだな」

「ですねー······タマポンさんはいい人ですけど、お店の獣人さんたちはあんまりいい顔してなかったですー」

「タマポン殿が特別なのだろう。なぜここまで人間嫌いなのかわからんが、ここに住む人間の気がしれんよ」


 そう、店の従業員に挨拶してもシカトされたり、あからさまに舌打ちする獣人もいた。

 ちなみにここの従業員は全員が獣人。カバではなく犬や狐、コウモリやイタチの獣人が多い。


「ここにも冒険者ギルドはありますけど、どうします? 依頼完了の証書を持ってくのちょっと不安ですね」

「だが、証書を渡たして依頼を完了させないと、次の依頼を受けることはできない。報酬は前払いだし、失う物はない。さっさと提出しよう」

「だな。それと、この町では単独行動はしないようにしよう。買い物はどうする?」

「うーん、食材が少し欲しいですねー。肉はモンスターを狩ればいくらでも手に入りますけど、野菜や調味料はどうしても買わないと」

「さすがにタマポンさんにお使いを頼むのはな······」


 ここに来る人間に分けて貰う方法もあるが、この街を訪れる人間は、俺たちのように依頼を受けて仕方なく来るか、何も知らずに立ち寄り痛い出費をするかのどちらかだ。あまり期待できないかもしれない。


「とにかく、まずは依頼を完了させよう。証書の提出は……」

「では、私が行こう。セージは気になることがあるんだろう?」

「ああ。ちょっと遺跡を調べたい、頼んでいいか?」

「任せろ。ではクトネ、行くぞ」

「え、強制ですか?」

「当たり前だ。単独行動は禁止と言っただろう。それに、セージにはブリュンヒルデが付くからな」

「はぁーい。じゃあセージさん、ブリュンヒルデさん、行ってきますね」


 ルーシアとクトネはギルドへ向かった。

 あの2人なら、何かあっても対処出来るだろう。


「よし、俺たちも行くか」

『はい、センセイ。センセイは私が守ります』

「ははは、ありがとな」


 遺跡の調査、久し振りにじっくりやるか。

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