第56話ヒポポ商会

 G級クラン『戦乙女(ヴァルキュリア)』第二の依頼主であるヒポポ商会は、このジドの町を拠点に革製品の販売をしている。内容はモンスターの革を加工し、防具、服、カバンなどがメインらしい。

 現に、町の防具屋ではヒポポ商会が出資した防具屋がいくつかある。ルーシアの装備を買った防具屋もその一つだ。

 今回の依頼は、ヒポポ商会が自然都市オゾゾに新店舗を構えるための商品の運搬だ。店舗自体はすでにオゾゾに構えてあり、最初のうちはジドの町から商品を運搬して営業するのだとか。

 まぁ細かい話はいい。俺たちの目的は商品の護衛だ。

 最近、フォーヴ王国では盗賊が多発し、荷物を積んだ馬車などが狙われることが多い。なので商人は移動の際、必ず冒険者を雇って護衛するそうだ。

 と、ヒポポ商会へ向かう途中の馬車の中でクトネが説明してくれた。


「ヒポポ商会は発足して数年の若手商会ですね。活動地域はフォーヴ王国がメインですけど、マジカライズ王国領の町とも取引がある商会ですよ」

「へぇ、革製品か······」

「ああ。ヒポポ商会の革製品は良質な物が多いと評判だ。若手商会故に大手には負けるが、これから伸びる商会だと私は思う」

「なるほど······ってか二人とも詳しすぎ」

『センセイ、間もなく到着します』


 馬車は間もなくヒポポ商会へ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ヒポポ商会は、2階建ての素朴な建物だった。

 商会というだけあってなかなか大きい建物で、一階は革製品を扱う店舗になっている。

 馬車を停めて店内へ。すると、従業員らしき年配女性が対応してくれた。


「いらっしゃいませ。ご要件はなんでしょう?」

「冒険者ギルドで依頼を受けたクラン『|戦乙女(ヴァルキュリア)』です。自然都市オゾゾまでの護衛を担当します」

「はいはい。では少々お待ち下さいね。会長を呼んできます」


 年配女性に依頼書を渡すと、女性はそのまま奥へ引っ込んだ。

 それから間もなく一人の男性を連れて来たが······驚いた。


「おお〜、来てくれたかぁ〜、冒険者さん〜」

「ど、どうも······ええと、護衛をさせていただきます『|戦乙女(ヴァルキュリア)』です。どうぞよろしく」

「よろしくよろしく〜。おいどんはヒポポ商会代表のタマポンです〜」


 さすがに驚いた。

 ヒポポ商会代表のタマポンさんはどう見てもカバだった。つまりカバの獣人だ。

 二足歩行のカバと言ったほうが正しいな。見た目はまんまカバで体長は二メートルほど、手は人間みたいに五本指、体重は1トンくらいありそうな気がする。

 着てる服は革製品で飾り気がなく、喋り方も間延びしてるからペースが掴みにくい。

 だけど、不思議と親しみやすい気がする。


「ではでは〜、依頼内容の確認しますんで〜、中へどうぞ〜」


 タマポンさんは応接室に案内してくれた。

 そこで依頼内容の確認と打ち合わせ、そして報酬を前金でもらう。

 どうやら急ぎらしく、これからすぐに出発することになった。

 荷物の馬車はすでに用意してあるらしく、冒険者待ちだったらしい。最悪の場合、冒険者なしで出発することも考えていたとか。


 というわけで、ジドの町とはここでおさらばだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 依頼内容を確認してさっそく外へ出て······驚いた。

 店の前には、巨大な馬車······いや、カバ車があった。

 俺たちの馬車の三倍はある大きさで、それを引くのはなんとカバ。馬車ならぬカバ車がそこにあった。


「ではでは〜、さっそくいきましょう〜」

「はい。ではセージ、打ち合わせ通り交代で御者を」

「わかった」


 移動は俺たちの馬車と、タマポンさんのカバ車の二台。

 御者は俺たちが交代で行い、カバ車に二人、馬車に二人を乗せて移動する。

 最初のカバ車の御者はルーシア、そしてカバ車待機は俺。ちなみにタマポンさんはカバ車の中にいてもらう。

 

 さぁ、自然都市オゾゾへ出発だ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ルーシアが御者になってる間、俺とタマポンさんは2人きりになる。

 依頼主だし、少し話をしておこう。商会の代表という繋がり、築いておいて損はない。

 俺はボンヤリとしてるタマポンさんに話しかける。


「タマポンさんの商会は、革製品を扱ってるんですね」

「そ~ですよ~。ウチの革製品はフォーヴイチの商品です~。お買い求めはぜひヒポポ商会で~」

「もちろんです。ウチのメンバーの装備も、ヒポポ商会で買った物なんですよ」

「おお~、お買い上げありがとうございます~」


 な、なんか話しづらいな……間延びが多い。

 おっとりしたような雰囲気は嫌いじゃない。というか、こんなのんびりした人が代表で大丈夫なのかな。


「ところで冒険者さん~、人間の方ですけど、依頼を受けてくれたのはどうしてです~?」

「え、そりゃもちろん、報酬が良かったからですよ」

「はぁ~……おいどんは獣人ですよ~?」

「はぁ……あの、なにか問題でも?」

「いやいや~、獣人の依頼を受ける冒険者さんはなかなかいないもので~。それに~、これから向かうオゾゾはフォーヴ王国ほどじゃないですけど~、人間嫌いの獣人が集まる都市ですよ~?」

「ああ、それは問題ありません。俺たちの目的地はフォーヴ王国ですから。むしろ、お金を稼ぎつつ進めるんで、タマポンさんには感謝しています」

「はぁ~……ふふふ、冒険者さんはいい人ですねぇ~」

「いやいや、世間知らずなだけです。俺からすれば獣人も人間も変わりません。タマポンさんだってすごくいい人じゃないですか」

「ふぁっふぁっふぁっふぁ!! いい人ですか、そんなことを言われたのは初めてですよ~」


 うん、この人はいい人だ。

 笑うとデカい口が開かれ、俺を丸呑みできそうなくらい大きい。

 ちょっと怖いが、こうして獣人と話すのはオストローデ王国のネコ耳メイド以来だ。


 俺とタマポンさんは談笑を楽しんだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 この日は盗賊にもモンスターにも遭遇せずに終わった。

 もちろん野宿だが、タマポンさんもいる。なので、ホルアクティを使って食べられるモンスターを狩ることにした。もちろん狩るのはブリュンヒルデだ。

 ブリュンヒルデに狩りを任せ、残りは野営の準備をする。

 タマポンさんは依頼主なのでのんびりしてもらおうと思ったが、積極的にテントの準備を手伝ってくれた。

 

「タマポンさん、ありがとうございます」

「いえいえ~、このくらいはしないとね~」


 タマポンさんと一緒にテントを立て、ルーシアとクトネは夕食の準備。

 ホルアクティの情報が正しければ、今日の夕食は期待できるはずだ。

 そして、ブリュンヒルデが戻って来た。


『ただいま戻りました、センセイ』

「おかえりブリュンヒルデ。おお!? やったな!!」

「わぁお、ビッグブルですか!!」


 ブリュンヒルデは、5メートルはあるバイソンを抱えて戻って来た。

 首をスッパリと切られ、血抜きは完了しているようだ。


「おぉお~!?」

「くっくっく、タマポンさん、今日は牛の丸焼きですよ。クトネ、火を頼むぞ!!」

「お任せあれ!!」

「ビッグブルを狩るとは、さすがだなブリュンヒルデ」

『問題ありません』


 タマポンさんは依頼主だが、みんなと打ち解けていた。

 俺とルーシアは内臓の処理をし、クトネが火魔術で丸焼きに、タマポンさんは酒樽を出して、この日は宴会となった。

 世間話を交えつつ、楽しく会話する。


「タマポンさん、タマポンさんの商会は他に従業員いないんですか? こういうのはアレですけど、御者もいないし、オゾゾまで代表のタマポンさん自身が運ぶなんて」

「ああ~、従業員はオゾゾの店舗で準備してもらってるんですわ~。ジドの町の本店には、最小限の人員しかいなくて~、新しい店舗ですし、おいどん自ら行くほうが都合いいんですわ~」

「ほほう、新しい店舗ですか。見てみたいですね」

「ふむ、私も興味がある。セージ、時間があれば立ち寄ってみてもいいだろうか」

「ああ、俺も見たい。依頼が終わったらみんなで行くか」

「ふぉっふぉっふぉっふぉ、冒険者さんたちでしたら歓迎しますよ~」


 タマポンさんはデカい口を開けて大笑いだ。

 こうして、楽しい夜は過ぎていった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 タマポンさんと一緒の旅路は楽しかった。

 クトネやルーシアも気安く話せるし、ブリュンヒルデはほとんど喋らなかったが、タマポンさんは特に気を悪くせずのんびりしてた。

 夜は楽しくお酒を飲み、ブリュンヒルデが仕留めた獲物で宴会をする。

 護衛というか、旅仲間みたいに町を目指した。

 ジドの町を出発してから5日後、ようやく自然都市オゾゾが見えて来た。

 馬車を停め、カバ車に集合する。


「おぉ~、あれがオゾゾですよ~。到着しました~」

「ようやく到着か……護衛らしいことをしなかったな。なぁクトネ」

「いいことじゃないですかルーシアさん。それに、あたしはすっごい楽しかったですよ。ねぇブリュンヒルデさん」

『楽しい、ですか。私にはよくわかりません………センセイ?』

「ん、どうしたセージ?」

「セージさん?」

「んん~? どうしたんだい冒険者さ~ん?」


 俺は、オゾゾの町を見たまま動けなかった。

 この距離からでもオゾゾの町が見えるが、大きな石造りの建物がやけに目立っていた。

 俺の予想が正しいなら間違いない。


「あれは………もしかして、遺跡なのか?」


 ただの通過点と思っていたオゾゾの町で、新たな出会いの予感がした。

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