第55話新たな依頼
「申し訳ありませんでした」
「…………」
現在、俺はルーシアの部屋で土下座をしている。
理由はもちろん、ルーシアのナイスおっぱいをガン見してしまったことだ。
ルーシアは無言で俺を見下ろしてる……怖い。踏みつけられないだろうか。
「……もういい、顔を上げろ」
「はい……」
「ぷっ」
顔を上げたら赤面したルーシアが吹きだした。
なんでだろう、俺の両鼻に詰められ止血用の布がそんなに面白かったのだろうか。ルーシアのカバンが直撃して出た鼻血なんですけど……。
お許しが出たので立ち上がり、改めてルーシアに謝る。
「申し訳ない。女性の部屋にノックもせず入るなんて」
「……もういい。それと、さっき見た光景は忘れろ」
「……………………ぁぁ」
超小声で答えてしまった。
ムリムリ、あんな超弩級おっぱいは忘れられん。しかも相手が超美人のルーシアだぞ? 明日になったら忘れましたなんて都合のいい脳ミソじゃない。夢に見るレベルで脳細胞に刻まれちまったよ。
「なるほど、どうやら刺激を与えればいいようだな」
「申し訳ありませんでした」
俺の表情を見たルーシアが殺気を出したので、すかさず頭を下げる。
忘れることは難しいが、顔に出さないようにしよう。
すると、恥ずかしくなったのか、ルーシアが話題を変えた。
「ところで、私に用事があったのではないか?」
「ん、ああ。籠手を貸して欲しくてな、検証したいんだ」
「籠手? ああ、お前の武器か。まだ手入れは終わってないぞ」
「いや、すぐに終わる」
ルーシアから籠手を受け取り装備し、蹄鉄を握って『錆取(ルストクリーン)』を発動させる。
すると予想通り……籠手は錆びず、蹄鉄だけが錆び付いた。
「検証終了。どうやら俺の装備は錆びないみたいだ」
「なるほど、チートの検証か」
「ああ。『錆取(ルストクリーン)』の効果を調べたくてな」
籠手を外してルーシアに渡しながら言うと、ルーシアが教えてくれる。
「チートは基本的に物理法則を無視する。お前が検証したように、錆びるはずの物が錆びず、直せる物が直せなかったりすることみたいなケースが多い。私のチートもそうだからな」
「へぇ……便利というか、なんというか」
「だからこそ、『|理不尽な力(チート)』と呼ばれているんだ」
しかも、俺のチートは3つもあるしな。
やっぱ巻き込まれ転移の影響なのか……こういうのって、ラノベとかだと主人公の力じゃねーか。なんで俺みたいな冴えない教師に与えられるんだよ。
確信だが、チートはまだ増える。
「……とにかく、あとはどのくらいの時間で使用回数が回復するかの検証だな。次は『接続(アクセス)』の検証だ」
「ほう、ここでやるのか?」
「邪魔にならなければいいか? せっかくだし、ルーシアの意見も聞きたい」
「構わん。少し休憩しようと思っていたからな」
「そっか。じゃあ遠慮なく……出てこい、ホルアクティ」
俺はステルス迷彩を起動して肩に停まっていたメカフクロウを呼んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の検証は『|接続(アクセス)』だ。こいつは機械に指示を送れるらしい。
【|戦乙女の遺産(ヴァルキュリア・レガシー)】が安置されていたドアを開けるのに使ったが、あの時は無我夢中だったからよく覚えていない。
回数も1回しか使えないし、検証しようにもブリュンヒルデに使うわけにもいかない。消去法でこのホルアクティで試すしかない。
ちょっと心が痛むけど、我慢してくれ。
「ホルアクティ、いくぞ……『接続(アクセス)』」
俺はメカフクロウを左腕に移動させ、その頭に手を乗せチートを発動させる。
すると、ホルアクティの目がチカチカ点滅した。
「ええと、じゃあ………あれっ?」
何か命令しようと手を離した瞬間、目の点滅が収まった。
え、まさか……ずっと触ってなきゃダメなのか?
確認しようにも発動しない。使用回数はたったの1回、回復するまでお預け状態だ。
「どうなったんだ?」
「……わからん」
ルーシアも首を傾げてる。
というか、たぶんホルアクティに使っても意味がない。『|接続(アクセス)』はロックされたドアとか、鍵の掛かったデータファイルとかを閲覧する能力なんだろう。
ここで仮説。
『接続(アクセス)』を使えば機械に命令できる……もしアルヴィートに『接続(アクセス)』を使用し、『オストローデ王国がインストールしたプログラム全削除、そして再起動せよ』なんて命令すれば、アルヴィートは改心したりして……なんて。
それにはアルヴィートに直接触れる必要がある。つまり……無理!!
「ま、今日はこんなところか。あとは使用回数の回復時間検証だな」
「よくわからんが……お前のチートは本当に不思議だな」
「ははは、俺もそう思うよ」
さて、自室に戻って休むとするか
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夕方。ホクホク顔のクトネが戻って来た。
手にはしっかりと杖を握り、本の入った革袋を提げている。シリカも心なしかご機嫌······あ、シリカの口元にソース付いてる。なるほど、美味いもん食べてご機嫌なのか。
俺とルーシアは、女部屋でクトネを迎える。
「「おかえり、クトネ」」
「た、ただいま〜······い、いや〜、杖を回収して帰ろうと思ったら、産気づいた奥さんに出会いまして、お家まで送ってあげて、お産婆さんを呼んであげたらこんな時間に······」
「「············」」
遅刻の言い訳みたいなことを言いやがる。
というか、嘘なんか付かなくても別にいいのに。
「·········申し訳ありません。本屋に行ってました」
「たぶんそうだとは思ってた。別に嘘付かなくてもいいだろ?」
「うぅ······だってルーシアさんが怒ると思って」
「やれやれ、そこまで非道ではないぞ。それに、本屋に行ったのはセージの魔術勉強のためでもあるのだろう?」
「·········ま、まぁそうですね」
歯切れが悪いので持っていた革袋を見つめる。
そして、ちょっと意地悪したくなった。
「ホルアクティ、クトネの革袋をスキャン、中に入ってる本のタイトル表示」
「げっ!? ちょ、やめてくださいーっ!!」
「·········」
「·········こ、これは」
革袋を庇うクトネだがもう遅い。右手のバンドには本のタイトル一覧が表示される。
そこには、ちょっとエッチなタイトルの本がたくさんあった。しかもBL系ばかり·········あ、一冊だけ『系統別魔術の心得・雷部門』っていう本があった。
「クトネ、お前······」
「さすがの私も、これはちょっと······」
「う、うぁ〜〜〜んっ!! セージさんのスケベ!! 鬼畜!! 乙女の所有物を覗き見するヘンタイ!!」
『ただいま戻りました』
「ブリュンヒルデさぁ〜んっ!!」
タイミングがいいのか悪いのか、帰ってきたブリュンヒルデにクトネは抱きつき、その胸に顔を埋めた。
するとブリュンヒルデはクトネを押しのける。
『ボディが汚れますので離れてください』
「ひどい〜っ!! ここにあたしの味方はいない〜っ!!」
ああもう面倒くさい······なんか腹減ってきたよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夕食を終え、自由時間となった。
ブリュンヒルデはじゃれつくシリカをナデナデし、クトネは開き直りエッチな本を読み始め、ルーシアは窓際でワインをチビチビ飲みながら夜景を楽しんでいた。
俺も開き直って娼館にでも行こうと思ったが、チートの使用回数検証があるから我慢する。一時間おきにステータスをチェックするが、回復する様子はない。
お決まりだと、24時間後とかだけど······『錆取(ルストクリーン)』みたいに複数回使用できるチートも回復しない。もしかしたら、数時間置きに1つ回復とかではなく、一気に3回回復するのかも。
とはいえ、明日も依頼を受けるため早めに寝る。
一時間おきに起きたり寝たりするのは身体に悪いからな。
翌日。
起きてもチートは回復していなかった。
こりゃあマジで24時間が濃厚だ。つまり、今日の昼過ぎくらいに回復する線が濃厚だ。
朝食を終え、マッサージと蹄の手入れをしてご機嫌なスタリオンに挨拶し、冒険者ギルドへ向かった。
クラン専用の依頼掲示板を覗き込むと、ルーシアが言う。
「フォーヴ王国に向かいつつ受けられる依頼を探せ。依頼料は前金、F等級のクランでも受けられる依頼だ」
「前金じゃないと戻るハメになりますもんね〜」
フォーヴ王国領内へ向かうには、いくつかの町を越え、樹海を越えなくてはならない。けっこうな長旅で金もかかる。こりゃ慎重に選ばないと。
「お、これはどうだ? 『ヒポポ商会』の馬車護衛。目的地はフォーヴ王国領内『自然都市オゾゾ』まで。報酬は前金で金貨8枚、依頼等級はF······うん、いける」
「オゾゾですか······う〜ん」
「なんだよ、駄目か?」
「いえ、オゾゾの住民は獣人ばかりで、人間差別がけっこうあるんですよ。嫌な思いしちゃうかもですよ?」
「私も聞いたことがあるな······」
クトネもルーシアもちょっと渋い顔だ。
だが、他の依頼を見てもいいのはない。
「これしかないな。みんな、いいか?」
「······わかりました。セージさん」
「私も構わん」
『センセイにお任せします』
というわけで、次の依頼は商会の護衛。
フォーヴ王国領内の『自然都市オゾゾ』へ向かう。
受付で依頼を処理し、依頼主の待つ商会へ向かうことにした。
「ゴブリン退治の次は商会の護衛か、なんか冒険者っぽいな」
「そりゃ冒険者ですもん」
「ああ。だが、騎士団にいた頃には考えられん生活だ」
フォーヴ王国へ向かい、三日月らしき指輪持ちを探す。
それが俺の目的であり、自然都市オゾゾは単なる通過点だ。
だが、それは違った。
まさか自然都市オゾゾに新たな『戦乙女型』が眠ってるなんて、この時は思いもしなかった。
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