第54話一休みと検証

 ジドの町に戻った俺たちは、そのまま冒険者ギルドへ向かう。理由はもちろん依頼終了の証書を届けて報酬をもらうためだ。

 冒険者ギルドに到着し、全員でギルドカウンターに並び証書を提出、受付嬢さんが報酬の入ったトレイを持って戻って来た。


「それでは、クラン『戦乙女(ヴァルキュリア)』の皆様、こちらが報酬となります。お疲れさまでした」

「ありがとうございます」


 報酬は金貨5枚。F級の依頼ならこんなモンだ。

 金貨はクラン用に買った財布に入れる。この財布は旅の支度や宿代などを出す用の財布だ。

 ちなみに、俺の持っていた金貨は20枚をクラン用財布に入れ、残りを4人で分けた。ルーシアはしぶっていたが、女性だし買う物が俺よりある。着の身着のままで来たから金なんて持ってないだろうし、俺ばかり金貨を何十枚と持ってるのも変だしな。

 クトネは、お爺さんの残した貯金をくずして持ってきてた。あくまで個人のお金だし、額がいくらかなんて失礼なことは聞かない。

 とまぁ、そんなわけで初依頼は完了した。


「さて、次の依頼だが……」

「ちょ、ストップですルーシアさん!! なんでクラン用の依頼掲示板に向かうんですか!?」

「決まってるだろう。ジドの町からフォーヴ王国へ向かうにはいくつか町を経由する必要がある。それなら、護衛依頼や配達依頼を請け負いつつ次の町を目指した方が合理的……」

「じゃなくて!! 依頼終えたばかりですぐ受けるかってとこです!! さすがに疲れましたよ……今日は休んでまた明日に……」

「だが、そのぶん宿代も掛かる。休みたい気持ちはわかるが、ここは依頼を受けるべきだ」

「うう……論破されちゃいました。セージさんセージさん、なんとか言って下さいよぉ~」

「はいはい。ルーシア、悪いけど俺もクトネと同意見だ。今日は休もう……」

「むぅ……」


 ルーシアはちょっと難しい顔をしてる。

 でも、さすがに疲れた。

 騎士団出身のルーシアや、体内をナノマシンが常時メンテナンスを行ってるブリュンヒルデと違い、俺やクトネはそんなに体力がない。


「それに、武器の手入れとかもあるし、道具も買い足しておきたいし、今日は休んで明日からにしよう。な、ブリュンヒルデもそう思うだろ?」

『はい、センセイ。私も休日を望みます』

「お、珍しいな。どうしてだ?」

『はい。スタリオンのブラッシングと蹄の手入れを行います』

「ほぉ……」


 スタリオンはブリュンヒルデが世話をしてる。

 ブラッシングは毎日していたが、蹄の手入れはなかなか出来ない。

 これを聞いたルーシアも納得したようだ。


「……わかった、今日はこのまま宿へ戻ろう。すまないな、少し焦りがあったかもしれん」

「気にすんな。俺だって同じだ。でも、焦って動いてもいいことはない。じっくり確実に行こうぜ」

「ああ」

「と、言うことで……今日は帰りましょー」


 クトネは、嬉しそうにギルドを出て行った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 宿へ到着し、厩舎へスタリオンを移動させる。

 すると、ブリュンヒルデは荷物の中からブラシと箱に入った道具を取り出す。どうやらあれが蹄を手入れする道具らしい。


『センセイ、これから蹄の手入れとブラッシングを行います』

「ああ、1人で大丈夫か?」

『はい。彼女の世話は私の役目です。お任せください』

『ブルルルッ!!』


 スタリオンは嬉しそうに鳴いたのは気のせいじゃないだろう。ここはブリュンヒルデに任せるか。

 俺とクトネとルーシアは宿屋へ入ると、クトネがいきなり叫んだ。


「し、しまったぁぁぁぁぁっ!! ギルドに杖を忘れて来ちゃいました!! 魔術師にとって杖は命、こりゃ急いで取りに行かないと……ああ!? 馬車が使えない!? ってことは歩きで冒険者ギルドに向かって帰りも歩きになってしまいます!! こりゃ帰りは遅くなる……でも仕方ない、とりあえず行ってきます!! レッツゴーですよシリカッ!!」

『な~ご』


 俺とルーシアは白けた目でクトネを見る………この野郎、わざと忘れ物しやがったな。

 たぶんだけど、冒険者ギルド近くの図書館にでも行きたいに違いない。

 俺とルーシアが何か言う前にクトネとシリカは宿を出て行った。


「………はぁ、仕方ないな」

「だな。ルーシアはどうする?」

「私は武器の手入れをする。セージ、お前の武器を貸せ、一緒にやってやる」

「お、悪いな。ありがとう」


 ここはお言葉に甘えよう。

 俺とルーシアは部屋に戻り、装備を外してルーシアに預けた。ここはプロに任せるか。


 さて、俺はどうしようか。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 自室に戻った俺は、ちょっと試してみたいことがあった。

 厩舎でもらった古い蹄鉄を床に並べ、俺自身も床に座る。

 まずは確認だ。


********************

【名前】 相沢誠二 

【職業】 教師(ティーチャー)

【冒険者等級】 F級

【所属クラン】『戦乙女(ヴァルキュリア)』 G級

【チート】 

『修理(リペア)』 レベル3

 ○壊れた物を修理することが可能

 ○欠けたパーツの修復が可能

 ○失ったパーツを再生させる(回数1)


『錆取(ルストクリーン)』 レベル2

 ○錆びを取り除く

 ○触れた金属を腐食させる(回数3)


『接続(アクセス)』 レベル1

 ○電子回路に接続、命令可能(回数1)


《近接系戦乙女型アンドロイドcode04『ブリュンヒルデ』》 

*******************


 俺のチートは現在3つ。『修理(リペア)』・『錆取(ルストクリーン)』・『接続(アクセス)』だ。

 まずは、『錆取(ルストクリーン)』の検証だ。


「さて、やるか……『錆取(ルストクリーン)』」


 1つ目の蹄鉄に触れてチートを発動させると、少し錆び付いていた蹄鉄はみるみるうちに錆び付く。少し力を入れるとポキッと折れてしまった。

 ここで確認する。


********************

【名前】 相沢誠二 

【職業】 教師(ティーチャー)

【冒険者等級】 F級

【所属クラン】『戦乙女(ヴァルキュリア)』 G級

【チート】 

『修理(リペア)』 レベル3

 ○壊れた物を修理することが可能

 ○欠けたパーツの修復が可能

 ○失ったパーツを再生させる(回数1)


『錆取(ルストクリーン)』 レベル2

 ○錆びを取り除く

 ○触れた金属を腐食させる(回数2)


『接続(アクセス)』 レベル1

 ○電子回路に接続、命令可能(回数1)


《近接系戦乙女型アンドロイドcode04『ブリュンヒルデ』》 

*******************


「あ、減った」


 つまり、1つの物に対して1回使用できる。

 大きさも検証してみたいな。どこかにデカい金属でもあればいいんだが。

 そんな都合のいい物はないので次の検証。

 次は、2つの蹄鉄を僅かに触れあわせ、片方の蹄鉄に触れて発動させる。


「………おお、両方錆び付いた」


 結果は、触れあった部分から2つ目の蹄鉄も錆び付いた。つまり、金属同士が触れていれば錆び付く。 

 だが、これはおかしい。なぜなら俺はゴブリンファイターの剣を右手の籠手で掴んだ。しかも刀で鍔迫り合いをしながら発動させたのに、刀と籠手はまったく腐食していない。

 つまり、俺が装備してる物は例外として錆びない……とか?

 うぅむ、これは検証しなくては。


「よし、ルーシアから籠手を借りて検証しよう」


 『錆取(ルストクリーン)』はあと1回使える。回数の回復までどれくらい掛かるのかも検証できるな。

 俺は蹄鉄を持ってルーシアの部屋へ向かった。自分の部屋でやるよりもちょうどいい。

 ルーシアのいる部屋を開けた………ちょっと検証が楽しくて油断した。


「ルーシア、ちょっと籠…………て」

「……………え?」


 ルーシアは、上半身裸だった。


「「…………………」」

 

 『お見事天晴れ』……思わずそう言いたくなった。

 デカい、しかもキレイな形してやがる……腰もくびれてるし、グラビアアイドルだったらまず間違いなく売れる。しかも先っぽもキレイで目が離せん。

 ああそっか。武器の手入れ中に服が汚れたのか。それで着替えようとシャツを脱いだ瞬間、俺がノックもせずにドアを開けたのが原因か。

 俺は静かに微笑んだ。


「…………ありがとうございます」


 ルーシアのカバンが飛来し、俺の顔面にヒットした。

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