第46話ルーシアの装備

 ジドの町。

 ここは、マジカライズ王国・フォーヴ王国・ディザード王国の中間地点に位置する大都市で、流通の拠点にもなっている町だ。

 なので、三王国の文化が混じり合った都市で、奴隷制度もある。この奴隷制度は大陸では当たり前の制度らしいが、マジカライズ王国では見なかった……というか、いたけど俺が見てないだけで、奴隷はちゃんと存在する。

 こんな感じの話を、クトネとルーシアから聞いた。


「まずは、ルーシアさんの装備を整えて宿を確保しましょう。厩舎付きの宿はちょっと高いですが、スタリオンがゆっくり休めるような場所が必要ですからね」

「そうだな。スタリオンはこんな重い荷車や俺たちを引っ張ってるし、ゆっくり休ませて美味い物をいっぱい食べてもらおう」

「ああ。だが、こいつはこの程度で音を上げるような馬ではないぞ。モンスターの血が混ざった種族だからな、寒さや暑さにも強いし、その一蹴りは岩をも粉砕する威力だぞ。騎士団でも3頭しかいない希少種だ」

「え……そんな馬をくれたのか?」

「ああ。こいつは元々、私の持ち物だったからな」


 世間話をしていると、あっという間に町の入口へ。

 検問所で通行料金を支払い、さっそく町中へ入った。


「通行料金がかかるんだな」

「そうだ。ここは3王国のどこにも属さない都市だからな、町の維持に必要な経費なのだろう」

「ふーん……それにしても、すごい活気だな」


 町は人で溢れていた。

 冒険者に商人、露店販売をしていたり、美味しそうな匂いが漂ってくる。どうやら露店で肉を焼いているようだ。

 買い食いしたいが、まずはルーシアの装備を買わないと。

 ルーシアは俺の予備の服を着ている。着の身着のままだったから着替えなんて持ってないし、装備していた鎧と剣はもう使えなかったので、ルーシアと出会った森に埋めてきた。

 というわけで、まずは服屋へ。

 俺は御者席に座り、手綱を握るブリュンヒルデに言う。


「ブリュンヒルデ、服屋に向かってくれ」

『はい、センセイ』


 服や下着は重要だからな。俺も買っておくか。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 何件か服屋はあったが、そこそこ大きい服屋を見つけて入った。

 メインはルーシアの服のため、俺は見張り番として馬車へ残り、女性陣はウキウキしながら店内へ。あーこりゃ長く掛かる気がするわ。

 

「ま、せっかくだしノンビリ待つか」

『なぁ~ん』

「お……よしよし、なんか食うか?」

『ごろごろ』


 御者席に座ってると、シリカが荷車から俺の隣へ。

 ノドをなでるとゴロゴロ鳴くのが可愛く、ついつい甘やかしてしまう。

 荷物から乾燥させた魚の切り身を取り、シリカにあげた。


「ふぁ……」

『なぁ~お』


 眠気を堪え待つこと1時間。

 周囲の喧噪を聞き眺めていると、気が付いた。


「………もしかして、あれが奴隷なのか?」


 粗末な服を着た少年少女がいた。

 身なりの良さそうな女性の後ろをノソノソ歩き、両手に荷物を持っている。首輪を付けてるし、たぶんあれが奴隷なのだろう。

 この世界じゃ普通のことでも、日本出身の俺には馴染みがない。あまり見たい光景じゃ無かった。

 それだけじゃない。奴隷以外にも見慣れない光景が広がってる。

 たとえば、ネコ耳やイヌ耳の男女、見るからに二足歩行の獣、翼の生えた女性、コウモリみたいな羽の生えた男性など。これが獣人なのか。

 改めて、ここが異世界なのだと実感した。


「おまたせしましたーっ!! じゃじゃじゃーんっ!!」


 いきなりクトネの大音量ボイスで驚いた。

 声の方を見ると、新しい衣装を着たルーシアがいた。


「ど、どうだセージ……」

「お、おお……似合ってるぞ」

「そうか、その……ありがとう」


 なんというか……エロい。

 ピッタリと足にフィットするロングパンツに革のベルトとポーチ。上は薄手のブラウスにジャケットで、胸元が開き胸の谷間がよく見えている。というか……ルーシアさんのボディがエロいからヤバい。尻もムチムチしてるし、腰回りはやけに細いし。

 なんというか、動きやすさを重視したスタイルだ。


「いやー、素材がいいから何着ても似合いますね。というかエロいです!!」

「え、エロいって……クトネ、私は動きやすさを重点的にだな」

「はいはーい。ねぇねぇブリュンヒルデさん、ルーシアさんのボディってエロいですよね!!」

『はい。ルーシアのボディはエロいです』

「な!? ぶ、ブリュンヒルデ、お前は何を言ってる!! わ、私がえ、エロいだなんて……」

『事実です』


 うーん、いつの間にかみんな仲良くなってる。

 女性同士だし、通じ合う物があるんだろう。ちょっと淋しいな。


「と、とにかく!! 次は武器屋に行くぞセージ!!」

「お、おお」


 顔を赤くしたルーシアにせかされ、馬車を走らせた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 お次は武器だが、やって来たのは武器防具の総合店。

 町で一番大きいと言われてる武器・防具屋にやってきた。

 ここではクトネに馬車を任せ、俺とルーシアとブリュンヒルデの3人で店内へ。

 

「おお、でっけぇ……」

「ふむ、規模もだが種類も豊富そうだ。それにマジカライズだけじゃなく、異国の武器も多く見られる。これは期待できそうだ」

『………』


 店内はかなり広く、ショーケースに飾られた武具や壁に掛けられた斧や大剣がキラキラ光ってる。それに、壁際には全身鎧がいくつも展示されていた。すげぇな、盾やマントなんかも充実してる。

 ルーシアは店内を歩き回り、ガントレットやグリーブの展示されてるエリアに来た。

 俺も後を付いていく。


「……ふむ、やはりこれだな」

「お、それってもしかして、俺と同じやつか?」

「ああ」


 ルーシアが手にしたガントレットは、仕込みナイフと短弓が内蔵された暗殺教団の象徴武器だ。これ、意外と使いにくいんだよな。短弓の射程は20メートルくらいだし、仕込みナイフは使いにくいし。

 ルーシアは2つのガントレットを手に取った。


「一つは仕込みナイフと短弓、もう一つは仕込みナイフが装備されてる。私としては両手に武器があった方がいい」

「へぇ……というか、全身鎧じゃなくていいのか?」

「ああ。実はその………あの姿はいろいろとキツくてな」

「………」


 そうですね。胸を触らなくてもよくわかるよ。

 コメントしづらいから言わなくていい。というか言わなきゃよかった。ルーシアのおっぱいが鎧に押し込まれてるのは可哀想だもんな。

 そして次はグリーブ。

 ルーシアは迷うことなく一組のグリーブを選び、サイズの合う物を履いた。


「迷わなかったけど、それでいいのか?」

「ああ。こいつは特殊でな……見てろ」


 ルーシアは立ち上がり踵を鳴らすと、つま先からナイフみたいな刃が飛び出した。おいおい、これも仕込み武器かよ。


「ま、こういうことだ」

「はぁ……仕込み武器が好きなのか?」

「違う。私の本来の戦闘スタイルに必要なんだ。騎士団長のときはこういう武器は使えなかったからな」

「ふーん。なんか騎士というか暗殺者だな」

「ははははは、暗殺者か。そう見えるかもな」


 というわけで、仕込み武器が搭載されたガントレットとグリーブを購入。

 お次はメイン。立派なお乳をガードする胸当て。

 ルーシアは、女性用に調整された、胸の形を保護しつつガードするミスリル製の胸当てを選んだ。値は張るが胸の形を保護するという点で買うしかない。しかも胸の谷間はちゃーんと見えてるしな。

 防具はこれで終わり、次は武器だ。

 ルーシアのメインウェポンはもちろん剣。


「剣……ふむ」


 ルーシアは樽に刺さった剣を物色する。樽の中は安物だけだ。ハッキリ言ってナマクラしかないが、予算的にそろそろヤバい。この辺りルーシアはわかってくれてる。


「よし、これにする」


 ルーシアが選んだのは、一般的なロングソード。

 柄も鞘も普通のロングソードだ。騎士団で使うような練習用の剣に似てるな。

 まぁ、ルーシアがそれでいいなら文句はない。支払いを済ませて武器屋を後にする。

 ちなみにブリュンヒルデは、最初から最後まで入口で立っていた。

 馬車に戻ると、シリカと遊んでいたクトネがルーシアを見る。


「おお、カッコいいですねルーシアさん!!」

「ああ、ありがとうクトネ。ようやくまともな装備が手に入った」

「よーし!! 次は冒険者登録ですね!!」

「そうだな。装備に掛けた分の金貨を取り戻す。さっそく行こう」

「やる気満々だな、ルーシア」

「まぁな。登録をしたらさっそく依頼を受けよう。ゴブリンやオーク退治や盗賊退治の依頼があればいいんだが」

「……うーん、俺はあんまりそういうのは」


 好戦的なルーシアは置いて、冒険者登録をしに行こう。

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