第三章・【戦乙女型アンドロイドcode03ジークルーネ】

第45話旅のルール

 俺、ブリュンヒルデ、クトネ、ルーシア。馬のスタリオン、ネコのシリカ。

 けっこうな大所帯となり、マジカライズ王国からフォーヴ王国へ向かっていた。

 最初は俺とブリュンヒルデで徒歩だったのに、今では立派な黒馬が引く荷車で移動している。今更だが、かなり楽でいい。

 問題と言えば、女性ばかりで落ち着かないということだけだ。

 例えば、マジカライズ王国から出発した最初の野宿の日。


「セージさん、お湯をお願いします」

「ん、ああ」


 街道から少し離れた雑木林に馬車を停め、かまどを組んで鍋に湯を沸かしていたら、クトネにそんなことを言われた。まぁ身体を拭くお湯が欲しいってことだ。

 俺は調理用の鍋とは別の鍋に湯を沸かし、クトネに渡す。


「ほら、熱いから気を付けろよ」

「へへへ、ありがとうございます!………わかってると思いますが」

「はいはい、覗きません覗きません」

「むー。なんか適当ですね……あたしやブリュンヒルデさんはともかく、ルーシアさんのボディには興味あるんじゃないんですか~?」

「………………」


 肯定も否定もしない。まぁつまり肯定だ。

 俺だって男だし、溜まるモンは溜まる。とかいってルーシアを襲うわけないけどな………町に着いたら娼館を探すか。


「ふふふ、セージさん『町に着いたら娼館を探すか』とか考えてますね~?」

「う、うるさいな。いいからお湯持ってけ、冷めるぞ」

「はーい。ブリュンヒルデさーん、ルーシアさーん、身体拭きましょー!!」


 ったく……クトネのやつ、大人をからかいやがって。

 ちなみに、ブリュンヒルデの正体は2人説明済みだ。ルーシアは知っていたが、クトネを交えて改めて説明した。

 言葉じゃ伝わりにくかったので、【乙女神剣エクスカリヴァーン・アクセプト】を出して着装したり、空を飛んだり、ブリュンヒルデが目を点滅させたりして、人間ではありえない動きをしたりして信じてもらった。


「さて、今日は肉野菜炒めとパンとスープかな」


 冒険者が野宿する際によく造られる料理だ。

 早く、安上がりで美味い。あとはデザートに果物でも剥けば完璧だ。

 馬車にはそこそこ食材を積んでたから問題はないが、次の町まで距離があるし節約しながら食べよう。


『うきゃーっ!! る、ルーシアさんのボディ、スゴい……ゴクリ』

『はは、そう言ってくれるのは嬉しい。だが、私は体質的に筋肉が付かなくてな、腹筋や上腕二頭筋が』

『ちーがーいーまーす!! そんな筋肉なんてどうでもいいんです!! スゴいって言ったら胸に決まってんじゃないですか、むーね、おっぱい!! どうやったらそんなデカくなるんですか!? ブリュンヒルデさんみたいに均整のとれたボディもいいですけど、ルーシアさんみたいにボンキュッボンもすっげえ羨ましいですっ!!』

『ちょ、クトネ、さわるなこら!!』


 ………なんか聞こえる。

 クトネのヤツ、絶壁だからルーシアが羨ましいのか。

 すると、俺の足下にシリカが来た。


『うなーご』

「ん、はいはい、お前のメシも作ってるからちょと待て」

『なぁ~』


 というか……料理できるのが俺だけっておかしくないか?


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 食事を終え、旅の上での確認をする。


「えー、まず、食事当番だが、交代で行おう」

「「…………」」

『…………』

 

 おいこら、ブリュンヒルデはともかくクトネとルーシアはなぜそっぽ向く。

 すると、2人は言う。


「あ、あーその、あたし料理はしたことないんです。いっつも学園の食堂で済ませてましたんで……」

「わ、私も……その、騎士団生活が長くて料理などしたことがない。野営経験はあるが、食事は全て部下の仕事だったからな」

「…………はぁ」

「だ、だがセージ!! 作るのは無理だが狩るのは任せろ!! お前から借りた剣で獲物を仕留めてやる!!」

「あ、あたしも!! 丸焼きなら手伝えます!!」

「…………」


 どうやら、食事の支度は俺の仕事になりそうだ。

 ちなみにルーシアには俺の『|名も無き刀(サムライソード)』を貸している。どうせ俺は使わないし、護身用だからな。

 すると、ルーシアが話を変えた。


「時にセージ、この剣を見て思ったのだが……使った形跡がない」

「ああ、戦闘なんてしたことないからな。全部ブリュンヒルデが仕留めるし」

『はい、センセイは私が守ります』

「………はぁ」

「な、なんだよ」

「聞くがセージ、剣の心得は?」

「ない」

「………はぁ。仕方ない、私が指導してやろう。以前も言ったが、いざという時の備えは必要だぞ」

「え、いやでも」

「お、いいですねそれ!! 魔術の師匠はあたしで、剣術の修行はルーシアさんですか。くっふふ。こりゃセージさん、かなり強くなりますね!!」

「…………」


 食事当番と同じく、拒否権はなさそうだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 そんなわけで、翌日から馬車で移動しつつ、俺の修行が始まった……ホワイ?

 まず、クトネとの魔術鍛錬。

 休む必要は殆どないくらい元気なスタリオンを休ませるための休憩時間。この時間を魔術鍛錬に当てた。


「いいですかセージさん。基本は出来てるのであとは精度を高めるだけです。魔力量はそこそこあるし、魔力を枯渇させて魔力量のアップも狙っちゃいましょう!! さ、石礫(ストーンバレット)石礫(ストーンバレット)」

「おま、簡単に言うけどよ、魔力の枯渇ってマジきついんだぞ」

「知ってますよ。あたしだって何度も経験してますもん」

「実体験か……」

「ええ。それより、石礫(ストーンバレット)の威力がそこそこ上がってきたら、次は『乱礫(ストーンブラスト)』を習得してもらいます。『落雷(ライトニング)』も合わせて練習しますんで、頑張って下さいね!!」

「は、ははは……がんばるよ」


 現在、俺の|石礫(ストーンバレット)は、野球ボールくらいの石がキャッチボールくらいの速度で飛ぶだけだ。まぁぶっちゃけ実戦じゃ役に立たない。

 せっかく優秀な教師がいるんだし、ここは真面目に頑張るか。


「じゃ、やるか」

「はい!!」


 この日は、夕方まで魔術訓練を行った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 次の日。

 今日は半日移動し、残りの半日は俺の剣術の修行に当てられた。

 師匠はもちろんルーシア。ブリュンヒルデはシリカを頭に乗せてスタリオンを丹念にブラッシングし、クトネは持参した魔術書を読みあさってる。理由はもちろん、俺に教える『雷』属性の魔術を教えるためだ。

 ルーシアは、ブリュンヒルデから借りた『レアメタルソード』を構える。


「セージ、お前の武器はその片刃剣と隠しナイフ、そして短弓の3つだ。武器の特性を理解すれば、中近距離での戦いに有利になれる」

「ああ」

「騎士団風に訓練するのもいいが、どうやら基礎的な体力は持ち合わせているようだし、実戦形式で指導する。では、かかってこい」

「え?」

「かかってこい、と言った。来ないのならこちらから行くぞ?」

「へ?……って、ちょっ!?」


 ルーシアは、剣を構えて突っ込んできた。

 俺は刀をフラフラさせ、どうすればいいか悩み、そして……逃げた。


「逃げるな!!」

「いや待て待て!!」

「それでも男か!? 生徒たちを救うのだろう!!」

「ぐっ……」


 くそ、そうだよ、逃げるわけにはいかない。

 いくらブリュンヒルデたちがいるからって、俺だって戦わなくちゃいけない場面があるかもしれない。だったら、こんなところで逃げてる場合じゃねぇ!!


「い、行くぞルーシア!!」

「そうだ、来い!!」

「あちゃあーーーーーーーっ!!」


 俺は剣を振りかぶり、ルーシアに向かって突っ込む。

 型もクソもない、めちゃくちゃに振り回すだけの素人剣。


「チェストォォォォォォーーーーーーッ!」

「ふ、意気込みはいいな」

「おっぶ!?」


 俺の剣を躱したルーシアの膝蹴りが腹にヒット。俺は崩れ落ちた。


「いいか、その意気込みを忘れるな。ほら立て、気合いが入ったところでちゃんと指導してやる」

「あ、あい……よろしく」


 腹を押さえて立ち上がり、俺はルーシアの指導を受けた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 こんな感じで、俺たちの旅は続いた。

 魔術と剣術の修行は1日おきに行われ、体力を付けるために馬車に乗らずマラソンすることも当たり前となった。

 剣術だけでなく体術の訓練や、短弓を使った的当て訓練も行い、魔術では雷属性の魔術を練習したりもした。体術の訓練では格闘術をルーシアから習った………実は、体術の訓練でルーシアのおっぱいにちょこちょこ触れるのは内緒だ。だって体術って身体が近し。


 ブリュンヒルデは、相変わらず動物の世話をしていた。

 スタリオンはブリュンヒルデのマッサージとブラッシングが何よりの楽しみらしい。ここで俺はコールタールみたいなドロドロのイタリアン・コーヒーでも振る舞えればいいのだが、あいにくとコーヒー豆がない。

 シリカは、クトネよりブリュンヒルデによく懐いているように見えた。

 基本的に、野営の見張りはブリュンヒルデに任せているが、ネコのシリカは夜行性なので、ずっと起きてるブリュンヒルデにかまってもらってる。そのおかげで、クトネがちょっと拗ねていた。


 道中はモンスターも現れる……と言っても、御者をやってるブリュンヒルデがモンスターを感知した瞬間に御者席から飛び降り、モンスターを一瞬で肉塊に変え、何食わぬ顔で戻ってくるからモンスターの存在すら知らないことが何度もあった。

 

 そんなこんなで見えてきた……ジドの町。

 御者のブリュンヒルデが何も言わないので、荷車にいた俺たちは窓から身を乗り出す。


「おお、あれがジドの町か」

「さすがにマジカライズ王国レベルとは言いませんけど、でっかい町ですね~」

「ここは国境の町だから流通が盛んだ。フォーヴ王国に向かう道と、『|巌窟王(グラウンド・キング)ファヌーア』の治める『砂漠王国ディザード』に続く道に分かれている」

「俺たちの目的は、獣人の王国か……」

「ああ、しっかり準備をしていこう、セージ」

「んっふふ~、ねぇねぇセージさんセージさん、本屋があったら寄ってもいですか? 新しい魔導書が欲しいです!!」

「はいはい。まずはルーシアの服と装備を整えてからな」


 馬車は、ゆっくりとジドの町へ進んで行く。

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