第44話新たなる旅立ち

 アシュクロフト先生は、アンドロイドだった。

 少なくともこれは事実だ。ということは、アナスタシア先生やカサンドラちゃん、あと国王のヴァンホーテンも怪しい。

 オストローデ王国は、アンドロイドと繋がりがある。

 俺は首を左右に振り、意識を切り替えた。


「ブリュンヒルデ、手遅れかもしれないけどマジカライズ王国へ………って、あれ? なんか忘れてるような………」

『センセイ?』

「………まぁいいか」

『はい、センセイ』

「と、この馬どうする? こんなの連れて歩くのもなぁ」

『問題ありません。《ヴィングスコルニル》はサブウェポン扱いになりますので、量子分解して収納可能』


 と、ブリュンヒルデが言った瞬間、馬はモザイクに包まれ消えた。


「それにしても、とんでもない兵器だな。ブリュンヒルデが大幅パワーアップだ」

『はい、センセイ。ヴィングスコルニルに記憶されていたデータを共有。【|戦乙女の遺産(ヴァルキュリア・レガシー)】のデータが更新されました。戦力を確保するため、残りの遺産を確保するべきだと思います』

「そうだな。恐らく、オストローデ王国はもう、俺たちを敵と認識するだろう……力は必要だ」


 俺も覚悟を決めた。

 オストローデ王国から生徒たちを解放する。 

 アシュクロフト先生がアンドロイドだろうと関係ない。考えることは山ほどあるが、もう迷わない。

 少し冷静になった。


「………オストローデ王国がマジカライズ王国を占領した、か」


 結局、中津川たちはオストローデ王国の言いなりか。

 でも、今は仕方ない……残念だけど。

 改めて考えると、オストローデ王国に占領されたマジカライズ王国へ戻って大丈夫かな。アシュクロフト先生が俺を敵と認識した以上、ヘタに見つかるとヤバいんじゃ。

 うーん……このまま出発するしかないのかな。ナハティガル理事長との約束は果たせなかったし、ルーシアも捕まった可能性がある。占領されたなら軍隊が常駐してる可能性もあるし。


『センセイ、どしたのですか?』

「ん、ああ……ちょっと考え事。なあブリュンヒルデ、このまま出発しても大丈夫かな。マジカライズ王国の様子を見に行った方がいいか?」

『提案します。『Type-KNIGHT』の話が真実なら不用意に近付くべきではありません。このまま出発し、戦力を充実させるべきです』

「………そうだな。よし」


 このまま出発しよう。

 ナハティガル理事長、ルーシア……助けられなくてすまない。

 それとクトネ………あれ?


「うぉぉぉぉ~~~いっ!! セージさん、ブリュンヒルデさぁ~~んっ!!」


 あ、クトネとスタリオンを忘れてた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 クトネは御者も出来るようだ。

 俺たちの近くで馬車を停め、ブリュンヒルデに抱きついた。


「ぶ、ブリュンヒルデさぁ~ん!! よかった、よぁっだぁ~~」

『クトネ、私のボディを汚さないで下さい。不潔です』

「いや、おま……さすがに酷いぞ」


 泣くクトネを無理矢理引っぺがし、ブリュンヒルデはスタリオンの元へ。

 スタリオンはブリュンヒルデに顔を寄せ、甘えるように鳴いた。

 俺は荷車をチェックする。あれだけ激しい運転をしたから壊れてると思ったが、なんとか大丈夫そうだ。


「セージさん、マジカライズ王国は………」

「……マジカライズ王国は、オストローデ王国に占領されたそうだ」

「そんな……」

「クトネ、俺とブリュンヒルデはこのまま出発する。ナハティガル理事長との約束は果たせなかったけど……俺はやることがある」

「…………」

「お前はどうする? それでも一緒に行くか?」

「……もちろん、行きますよ。あたしはセージさんの師匠ですからね! それに……あたしだって、オストローデ王国は許せません!」

「はは、じゃあ行くか」

「はい!!」


 俺は未だにスタリオンをなでてるブリュンヒルデへ。


「ブリュンヒルデ、行くぞ」

『はい、センセイ』

「ブリュンヒルデさん、これからよろしくお願いします!」

『はい、クトネ』


 俺たちの旅は、ここから始まっ………。


「セージ………」

「え?……」


 ガサガサと藪を掻き分ける音と、俺を呼ぶ声。

 俺、ブリュンヒルデ、クトネが藪を見ると、そこにいたのはボロボロになったルーシアだった。

 

「る、ルーシア……っ!! だ、大丈夫か!? 無事だったのか!!」

「……ああ。ナハティガル理事長が、逃がしてくれた」

「そうか……よかった」

『…………』

「あわわ……き、騎士団長がこんなにボロボロだなんて」


 俺はルーシアを担ぎ、馬車の中へ運ぶ。

 改めて、酷い状態だ。鎧は砕けて鎧下も破れてる。剣は持ってないし、敗残兵みたいな格好だった。

 とにかく、怪我の手当てをして状況を聞かないと。


「クトネ、手当てを頼めるか?」

「わ、っわかりましたっ!!」

「ブリュンヒルデ、お前も手伝ってやってくれ」

『はい、センセイ』


 俺は馬車から出て、治療を待った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 治療を終えたルーシアは、ボロボロの服のままじゃ可哀想なので、俺のシャツを貸してあげた。ブリュンヒルデは着替え持ってないし、クトネの服は……ねぇ?

 俯いたままルーシアは、ポツポツと話してくれた。

 グロンたち5騎士が死んだこと、やったのが中津川たちということ、ナハティガル理事長は早々に降伏したこと、魔術を使いルーシアを逃がしてくれたことなどだ。


「ナハティガル理事長は、私やグロンたちがやられた時点で降伏した……恐らく、ヘタに挑んでも被害が広がるだけと考えたのだろう。誰にも気付かれずに謁見の間に侵入された時点で、ナハティガル理事長は降伏を決断したに違いない」

「………すまない、ルーシア。俺が間に合えば……」

「それは違う。お前の生徒たちのチートは常軌を逸していた。お前のせいじゃないさ……」

「………」


 ルーシアは俯いて笑っていた。

 その姿が、あまりにも悲しく見えた。


「……ルーシア、一緒に行こう」

「え……?」

「俺たちは、やるべきことがある。俺はオストローデ王国から生徒たちを取り返す。それに、俺の事もバレたみたいだし、完全に敵と認識されたようだしな」

「………」

「お前も、オストローデ王国からマジカライズ王国を取り戻したいだろう? だから、一緒に……俺たちに、手を貸してくれ」

「セージ………いいのか?」

「ああ。頼む、ルーシア」

「………」


 俺はルーシアに手を差し出すと、ルーシアはおずおずと手を伸ばす。

 俺はその手をがっしり掴み、ルーシアを抱きしめた。


「必ず取り戻そう……必ず!!」

「っ……ああ……っぐ」


 こうして、ルーシアが旅の仲間になった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 まず、いろいろと確認しないとな。


「セージさん、これからどうするんですか?」

「ああ。まずは、フォーヴ王国へ行こう。ナハティガル理事長の話ではそこに指輪持ちの少女がいる。たぶんだけど……俺の教え子の可能性が高い」

「ふぉ、フォーヴ王国……あの、ホントに大丈夫ですかね。あそこ獣人の国ですよ? そりゃ入国したくらいで捕まりはしないと思いますけど、危険なんじゃ……」

「でも行く。ルーシアはそれでいいか?」

「ああ。だが……その、その前に服や装備を新調したい。それと、申し訳ないが……」

「大丈夫、金ならある。ここから一番近い町で装備や旅の準備を整えよう。さすがにそこまではオストローデ王国の手も回ってないよな?」

「ああ。さすがのオストローデ王国もこのマジカライズ王国の全域まで手を回すには時間が掛かる。それに、フォーヴ王国までの道のりは遠い……準備は入念に行うべきだ」

「よし。それと、金も稼がないとな。途中の町で依頼を受けて金を稼ぐのもありか」

「お、ならあたしも冒険者登録しますよ!! せっかくだし騎士団長も冒険者になって、あたしたち4人でクランを結成しましょう!! くふふ、なんか楽しくなってきました!!」

「それもいいな。それとクトネだったか、私のことはルーシアと呼んでくれ」

「はい!! ではルーシアさん、近場の町で冒険者登録をしましょうね!!」

「ああ。わかった」


 クトネとルーシアも仲良くなれそうだ。

 ブリュンヒルデを見ると、いつの間にかいたシリカを頭に乗せてスタリオンにブラシ掛けをしていた。シリカのやつ、今までどこにいたんだ?

 俺は荷物から地図を取り出し、フォーヴ王国までの道のりを探す。


「ルーシア、フォーヴ王国までの道のりだけど」

「そうだな……やはり、樹海越えしかない。まずはマジカライズ王国の国境を越えよう。国境を越えた先にある『ジドの町』で装備を整えるルートで行こう」

「わかった。じゃあ出発するか」

「ああ」

「はいっ!!」


 クトネはルーシアを引っ張り馬車へ。

 ブリュンヒルデは話を聞いていたのか、御者席に座り手綱を握った。

 俺は深呼吸し、空を仰ぐ。


「よし!!」


 ここからが、俺の長い旅の始まりだった。

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