第43話天馬ヴィングスコルニル
アルヴィートは、UNKNOWNと合体したブリュンヒルデを見ても特に変わらなかった。
背中に装着された飛行ユニット『飛行装置オルファン』を点火し上空へ。そして両手に持った『高周波剣アロンダイト』と『超高熱剣ガラティン』を構え、肩に装着された『背部殲滅砲トリスタン』をブリュンヒルデに向ける。
アルヴィートのメインウェポンである【乙女武装ブリテン・ザ・ウェポンズ】は7つの武器を収納したマルチパックで、あらゆる戦況に応じた万能武器である。
だが、現在はこの4種しか武器が使えない。アルヴィートもまだ不完全な状態なのだ。
それでも、総合スペックはブリュンヒルデより上。だからこそこの余裕であった。
「わたしは負けない。わたしは『戦乙女型』最強のアンドロイド」
その自信は、アルヴィートの『心』から生まれた物。
だが、人間に近い感情を持つアルヴィートは、まだ知らない。
『これより、code07アルヴィートを制圧します』
ブリュンヒルデの、真の力を。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ブリュンヒルデは長槍を片手で構え、ヴィングスコルニルの持ち手から手を離す。
右手に長槍、左手に丸盾を装備し馬に跨がる姿はまさに戦乙女。
『code07アルヴィート、直ちに武装解除して投降せよ。これは最後通告である』
「はっ、そんな馬に乗ったからって、総合スペックはわたしが」
『最後通告の返答を受諾。これより制圧します』
ヴィングスコルニルは飛び上がる。これは跳躍ではなく完全な飛行であった。
繋の部分の羽のような装飾が推進装置となり、完全な飛行を実現している。
アルヴィートは、肩の砲塔トリスタンを向け、超高速で飛行しながらレーザー光弾を乱射した。
『|丸盾(ビームシールド)展開』
「な……ビームシールド!?」
ブリュンヒルデの左手に装備された盾が展開し、黄金のビームシールドがブリュンヒルデの左側を完全に防御。アルヴィートのレーザー光弾に合わせてヴィングスコルニルを移動させ、光弾を躱しながら盾で受けて防御した。
「なら、これで!!」
『【神槍ロンゴミニアド】展開』
アルヴィートの双剣が超振動と熱を発し、ブリュンヒルデの右手に持つ長槍【神槍ロンゴミニアド】の先端部分が展開。ビームランスとなった。
ブリュンヒルデは長槍を器用に回転させ、ヴィングスコルニルの速度に合わせて振り抜いている。おかげでアルヴィートは近付くことが出来ず、レーザー光弾を織り交ぜながらの双剣攻撃は完封された。
「この……ッ!!」
『………』
空中での戦いは白熱する。
アルヴィートの砲撃はビームシールドに無効化され、双剣による斬撃は【神槍ロンゴミニアド】の薙ぎ払いで近付けない。
アルヴィートの砲撃は、ブリュンヒルデに利かない。
そして、ブリュンヒルデには攻撃手段がいくつもある。
『ヴィングスコルニル。砲撃開始』
『了解』
「チッ!!」
ヴィングスコルニルの肩に装備された砲塔が火を吹き、ブリュンヒルデの攻撃パターンが増え、ついにアルヴィートは被弾した。
「ぐ……ッ!! このっ……ッ!?」
『………』
翼に被弾したアルヴィートの体制が崩れ、上空でバランスを崩した瞬間をブリュンヒルデは見逃さなかった。
そのまま【神槍ロンゴミニアド】で翼を切り裂き、ヴィングスコルニルの体当たりをモロに喰らったアルヴィートは、地面に激突した。
ブリュンヒルデの追撃は止まらない。
『【神槍ロンゴミニアド】形状変化』
なんと長槍が双頭槍に変化し、地面に転がるアルヴィートを狙った。
アルヴィートは双剣を交差し槍をガードするが、ヴィングスコルニルの速度に付いていけないのか防戦一方だ。
まさか、馬に乗っただけでこうも変わるとは。これが【|戦乙女の遺産(ヴァルキュリア・レガシー)】とやらの実力なのか。
「この……そんな馬如きで、わたしのスペックのが上だもん!!」
『いいえ。それは違います。この【ヴィングスコルニル】の電子頭脳は私の電子頭脳と直結し、演算速度は従来の約6倍まで上昇しています。私のスペックはcode07アルヴィートを凌駕しています』
「な……ば、バカ言うなッ!!」
『事実です』
ブリュンヒルデは冷徹に告げる。
アルヴィートは認められないのか、背中の壊れた翼を外し、双剣だけの接近戦に切り替え挑んできた。
邪魔なモノがなくなったからか、アルヴィートの速度は凄まじい。地面を抉り残像を生み出すほどの速度だが、ブリュンヒルデは双頭槍と盾を使い、ヴィングスコルニル狙いの一撃も上手くガードしてる。
ここまでで圧倒的だが、真の驚きはここからだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
鉄の馬ヴィングスコルニル。
能力は光弾発射と空中飛行、そして高速移動に高速演算。
それだけじゃなかった。真骨頂はここからだった。
ブリュンヒルデは、超高速で双剣を振るうアルヴィートを捌きつつ、ヴィングスコルニルに命令した。
『《ヴィングスコルニルMODE・|CYCLE(サイクル)》変形』
鉄の馬ヴィングスコルニルはその場でジャンプ。
ブリュンヒルデは槍を背にしまい、首の取っ手を両手で掴む。すると、ヴィングスコルニルの両足が折り畳まれ首が変形し、折り畳まれた足がタイヤに変形した。
「ば、バイクかよ!?」
鉄の馬ヴィングスコルニルは『バイク』に変形した。
ブリュンヒルデは取っ手部分のアクセルを吹かすと、エンジン独特の排気音が響く。
そのまま着地すると、ブリュンヒルデは爆音を響かせながらマッドターンをした。なにこいつメッチャカッコいいんですけど!!
白銀と黄金のボディに羽のような装飾を持ったバイク。なにこれ。
『【乙女神剣エクスカリヴァーン・アクセプト】第一着装形態』
するとブリュンヒルデの双頭槍と盾が、いつもの双剣に変わった。
双剣は腰に収められ、ブリュンヒルデはアクセルを全開にする。
「ぐ……このぉぉぉぉっ!! わたしが負けるかぁぁぁぁーーーーーーッ!!」
『行きます』
双剣を構えブリュンヒルデに向かうアルヴィート。
対してブリュンヒルデはアクセルを吹かし正面からアルヴィートを迎え撃つ。
そして、ヴィングスコルニルは黄金の光を纏う。それはレーザー光を応用した《ヴィングスコルニルMODE・|CYCLE(サイクル)》の必殺技。
アルヴィートとヴィングスコルニルは、正面から衝突……アルヴィートが吹っ飛ばされた。
『code07アルヴィートを無力化します』
ヴィングスコルニルから飛び降りたブリュンヒルデは、吹っ飛ばされたアルヴィートの元へ跳躍。双剣を構え、体勢が崩れたアルヴィートの四肢を切断した。
ブリュンヒルデは空中で身体を回転させると、両手の双剣をアルヴィートに向けて投擲、双剣はアルヴィートの喉と腹部を貫通し、近くにあった岩に激突……四肢を失ったアルヴィートは岩に磔にされた。
『code07アルヴィート無力化完了』
こうして、戦乙女同士の戦いは終了した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アルヴィートは完全に沈黙した。
岩に磔にされたまま、バチバチと放電している。しかもビクビク痙攣してるように動いてるからちょっと怖い。
ブリュンヒルデはバイクに乗って戻って来た。
「お疲れさん、ブリュンヒルデ」
『はい、センセイ。ありがとうございました』
「こっちこそ。生きててよかったよ」
『はい、センセイ』
ブリュンヒルデは、いつも通りだ。
あの時笑ったのは気のせいだったのか、いつもの無機質な鉄の表情だ。
「さて、あの子をどうする?」
アルヴィート。
俺の『|修理(リペア)』なら修理できるけど、今やったらまた襲い掛かってくるかも。
『センセイ、code07アルヴィートが暴走した理由ですが、電子頭脳と《ヴァルキリーハーツ》に書き換えが行われたものと推測します。詳細な調査を行う許可を』
「ああ、いい」
「その必要はありませんよ、センセイ」
突如として聞こえた声は、とても懐かしく感じた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その人物は、いつの間にか磔にされたアルヴィートを抱えていた。
俺が反応できないのはわかる。だが、ブリュンヒルデも全く気が付いていなかった。
その人物は、ダルマになったアルヴィートを優しく抱えている。
「アルヴィート、やられましたね……貴女はまだ完全に修復が終わっていない。こうなる可能性はありましたが、まさかここまでやられるとは」
『セン、セイ……』
それは、飾された銀の全身鎧を装備した二〇代後半ぐらいの金髪男性だった。
見覚えがあるどころじゃない。
「あ、アシュクロフト先生……」
「お久しぶりですね、センセイ」
「ど、どうしてここに? あの、聞きたいことが」
『お待ち下さい、センセイ』
ブリュンヒルデが【乙女神剣エクスカリヴァーン・アクセプト】を呼び出し、アシュクロフト先生に向けて構えていた。
俺を庇うように前に出て、とんでもない事を言う。
『センセイ、|あれ(・・)はアンドロイドです』
本当に、何を言ってるのかわからなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アシュクロフト先生が、アンドロイド?
ブリュンヒルデは何を言ってるんだろう。この人がアンドロイド? まさか……いや。
「センセイ、貴方が生きてるとは思っていましたが、まさかcode04を蘇らせるとは思いませんでした。まぁ、まさかオストローデ王国近くの遺跡にcode04が眠っているとは露とも知りませんでしたがね」
「あ、アシュクロフト先生……あなたが」
「ええ、ボクはアンドロイドです。正確には【戦闘特化型アンドロイド・Type-KNIGHT】というんですがね、言いにくいのでアシュクロフトで構いませんよ」
「タイプ……ナイト」
レダルの町の遺跡で見たアンドロイドは『量産型アンドロイド・Type-JACK』だった。まさか、同じ系統のアンドロイドなのか。
しかも、戦闘特化型。もしかしてアルヴィートが目覚めたのも。
「この子は、オストローデ王国が管理していたアンドロイドでね、電子頭脳と《ヴァルキリーハーツ》の改造に手間取り、目覚めたのも最近なのですよ。オストローデ王国の忠誠心を埋め込むプログラムを構築するのは大変でした。まぁまだ未完成で、今回のような暴走を引き起こしてしまいましたが」
「プログラムの改造……アシュクロフト先生は、やっぱりアンドロイド」
「そう言ってるじゃないですか。ふふふ……人間とアンドロイドの戦争は終わっていないということですよ」
人間とアンドロイドの戦争。
ブリュンヒルデを造った人が原因の、機械文明が無くなる原因。
「センセイ、一度だけ聞きます……オストローデ王国に戻りますか?」
「……断る。こっちも言わせてもらいます。アシュクロフト先生、生徒たちを返して下さい」
「不可能です。生徒たちはもう魔王の1人を捕獲しました。マジカライズ王国はオストローデ王国の手に落ちましたよ……この結果が生徒たちを更に強くする。残りの魔王を討伐し、オストローデ王国の大陸統一も夢じゃない」
「アシュクロフト先生……っ!!」
「センセイ、code04だけでボクたちと戦うつもりはありませんよね? 悪いことは言いません、オストローデ王国に戻って来て」
「うるさい!! いいから生徒たちを返せ!!」
「………」
俺は精一杯のガンを飛ばすが、効果はなかった。
ブリュンヒルデが大剣を構えるが、アシュクロフト先生は言う。
「およしなさいcode04。我々の知らない力を手に入れたようですが、所詮は過去の技術。現在までアップグレードし続けた私には敵いませんよ」
『…………』
「今回は、アルヴィートの負けです。この子を修理しなくてはいけないので、ここで失礼します」
「アシュクロフト先生!!」
「さようならセンセイ。生徒たちには、貴方は死んだと伝えておきます」
一瞬だけ発光したと思ったら、アシュクロフト先生の姿は消えていた。
これで、オストローデ王国は俺を敵と認識した。
もう、戦うしか道がない。
「………あの野郎」
やってやるよ。
オストローデ王国をぶっ潰して、生徒たちを取り返してやる。
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