第35話開かない扉とクトネの決断
扉は、全く開かなかった。
何度手を触れて念じても『ERROR』とビープ音が鳴り、開くことはなかった。
こんなの初めてだ。『|修理(リペア)』で修理されてるなら開くはず。それに、電力供給もされてるから問題点は全てクリアしてる……まさか、これ以外に何か条件があるのか?
「なぁブリュンヒルデ、隠し扉でもあるのか?」
『………ここまでの通路に不審な点はありませんでした』
「じゃあ、なんで開かないんだ?」
『不明です』
「……うーん」
『ERROR』
ドアを触りまくるが、ビープ音しか鳴らない。
この中に何があるのか気になるな……よし、最後の手段だ。
「ブリュンヒルデ、この扉……壊せるか?」
『不可能です。この空間には私の機能の一部を阻害するジャミングが仕掛けられています。ここではメインウェポンの展開が不可能です』
「むぅ……じゃあ、やっぱり条件があるのか」
『ERROR』
あらゆる箇所に触れてチートを発動させるが、エラーエラーとやかましいだけだった。
やはり、開くには条件が必要なのか。それとも何か鍵のような物が必要なのか。
くそ、せっかく来たのにどうしようもない。
「………はぁ、仕方ない。諦めるか」
『はいセンセイ』
「せっかくここまで来たのに……」
最後に、扉を軽くぱしっと叩く。
『ERROR』
やはり、扉は開かなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
遺跡から出て町へ帰ることにした。
こんな言い方はアレだが、無駄足だった感は否めない。馬をもらって荷車をもらって意気揚々と遺跡に出かけたのに、ただのピクニックになってしまった。
ここには重要な何かが眠ってる。また来る事になる。そんな気がした。
馬車の御者席で果実水を飲みながら考える。
「なーんて、遺跡調査が終わったし、あとはナハティガル理事長が帰ってきて、ルーシアが面会を取り付けてくれないとな……」
それまで旅の準備でも整えるか、それと情報収集するか。
まず、フォーヴ王国の情報を集めよう。これはナハティガル理事長に聞くのがいい。なんて言ってもナハティガル理事長が向かった先はフォーヴ王国だ。噂話だが、捕まった指輪持ちがいるかどうか確認出来るし、それが三日月かどうかも確認出来るかもしれない。
もし三日月だったら、何があろうと取り返しに行く。
俺に力は無いが、ブリュンヒルデがいる。三日月が不当な扱いを受けていたら、俺はブリュンヒルデにどんな命令を出すかわからん。
そして、生徒たちだ。
オストローデ王国に呼び出され、授業を受け、身体を鍛えた。
ハッキリ言って、洗脳されてる可能性が高い。オストローデ王国という箱庭で、兵器として育てられている……くそ、なんてこった。
俺は、生徒たちを助けられるのだろうか。
『センセイ』
「………ん?」
『彼女の名前を考えました』
「ん、ああ……馬の名前か、どんな名前だ?」
『はい。彼女を《スタリオン》と命名します。私のメモリーに断片的に残っていた文字をつなぎ合わせた名前です』
「お、おお……スタリオンか、いい名前じゃないか」
『ありがとうございます、センセイ』
ブリュンヒルデが自分で考えて名付けた馬、スタリオン。
この黒い馬の世話は、ブリュンヒルデに任せよう。
「………というか」
『どうしましたか、センセイ』
「あ、いや……」
この馬、メスだったのか……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
マジカライズ王国へ帰還し、クトネの家へ帰ろうと思ったが、路地沿いのクトネの家では馬車を停められないので、冒険者ギルドの厩舎に停めることにした。ちなみにお金は掛かるが仕方ない。
夕飯の買い物を済ませ、昼は屋台で適当に食べる。
家に帰り、せっかくなので家の掃除をすることにした。世話になってるし徹底的にやろう。
「というわけで、ブリュンヒルデは風呂掃除を頼む」
『はい、センセイ』
「力加減を間違えて壊すなよ?」
『はい、センセイ』
「そういえば、シャワーヘッドの調子悪かったな……直せるか?」
『はい、センセイ』
「あと、気になった汚れとか場所は、徹底的にな」
『はい、センセイ』
ではさっそく掃除開始。
俺はキッチンとリビングの掃除をする。シンクや調理台を磨き、テーブルや椅子をキレイに擦り、リビングの床を掃き掃除して窓を拭き、トイレの掃除をする。
そのあとは2階の掃除だ。
自室の掃除を済ませ、ブリュンヒルデが待機してる部屋も掃除する。
掃除しまくったわ……疲れた。
「お、もう夕方か」
「たっだいま~っ……って、家がピカピカだーっ!!」
廊下の拭き掃除をしていると、クトネが帰ってきた。
俺は1階に下りると、制服姿でリビングをキョロキョロ見てるクトネを見る。
「あ!! セージさんセージさん、家がピッカピカです!!」
「おかえりクトネ。世話になってるからな、掃除くらいするさ」
「おぉぉ~……あ!! セージさん、もしかしてあたしの部屋……」
「入ってない入ってない。年頃の女の子の部屋に勝手に入るワケないだろ」
「ですよね!! はぁ~お腹減ったぁ。セージさんセージさん晩ご飯にしましょ!!……と、あれ? ブリュンヒルデさんは?」
「あ、そういえば……」
風呂掃除をお願いしてからだいぶ時間が経ってる。というか、掃除に熱中してすっかり忘れてた。
俺はクトネと一緒に風呂場へ向かい………。
「「…………」」
『お疲れ様ですセンセイ。お帰りなさいクトネ』
「お、おお……」
「た、ただいまです……あの、ブリュンヒルデさん、何してるんです?」
『掃除です』
「「…………」」
風呂場は、とんでもなく輝いていた。
元々の風呂場は古くなり、タイルが欠けたり浴槽にヒビが入っていたりシャワーの調子が悪かったりしていたが、ヒビは補修されシャワーヘッドも新品になってる。しかもタイルも貼り直されている。
「あの、ブリュンヒルデ……このタイルはどこから? あと、シャワーヘッドもタイルも新しいけど……」
『資材一式は道具屋で購入しました』
「え」
『センセイ、浴室の修復は完了です』
「………」
どうもブリュンヒルデは、『気になった汚れや場所は徹底的』の意味を勘違いしていた。つまり『気になった汚れ』はともかく、『気になった場所』は徹底的に直したらしい。いつの間にか外へ出て、買い物までしてきたようだ。
ま、まぁ……俺の言い方が悪かった。
この整備で、金貨278枚が金貨253枚になってしまった……ははは。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
まぁ風呂はもういい。
夕食を作り、3人で楽しく食事をした。
今は食後のお茶とデザートで談笑していた。
「なーるほど、馬車をもらったんですか」
「ああ。それと、ルーシアがナハティガル理事長と面会を取り付けてくれるってさ」
「おぉぉ〜っ‼ いいですねぇ、ナハティガル理事長と面会ですか〜······って、なんでセージさん、ナハティガル理事長と会いたがるんですか?」
「あー、いや、遺跡調査の結果を報告しようと思って」
「へぇ〜っ‼ じゃあ新しい発見があったんですね‼」
「·········まぁ、ね」
「面白そうですね、教えてくださいよ〜っ‼」
「ダメダメ」
何気なく会話してるが、俺の右手人差し指には魔力が集中してる。
この魔力集中にもだいぶ慣れた。クトネもそれを満足そうに見ている。
「うんうん。魔力操作の基礎はいい感じですね。まぁ指1本程度、練習すれば子供でもできますけど」
「ぐ·······」
「そろそろ簡単な魔術を教えたいですねー、でも、『土』はともかく『雷』は難しいんですよ。それに、土属性はその名の通り土に干渉しますから町中じゃ使えないしー、それに雷属性はあたし使えないから、あまり複雑な魔術は教えられないですし。っていうか、学校もあるし教えてるヒマないんですよねー」
「う〜ん、残念だな······」
「············」
「クトネ?」
クトネはなぜか黙り、俺とブリュンヒルデをジッと見た。
そして、クスクスと笑い出す。
「ふふ、セージさんはあたしの初めての弟子ですからね‼ ちゃーんと指導してあげますよ‼」
「はは······お手柔らかに」
そうだ、クトネに伝えておかないと。
俺は足元にいたシリカを抱っこする。
「なぁクトネ、俺たち、ナハティガル理事長に用事を済ませたら、出発しようと思ってる」
「え·········あ、そ、そうですよね‼ セージさんたちは冒険者ですもん‼ そ、それで次はどこへ?」
「たぶん、フォーヴ王国」
「ブッフーーッ⁉」
「うわ汚ねぇっ⁉」
『ふぎゃあごっ‼』
クトネが口に含んだ紅茶が高圧洗浄機のように吹き出され、俺とシリカに直撃した。
シリカは逃げ出し2階へダッシュ、俺はクトネをジト目で見たが、クトネはそんなことお構いなしに話した。
「ばばば、バカですか⁉ セージさんはバカなんですか⁉ フォーヴ王国って、あそこがどんな国か知ってるんですか⁉」
「い、いや······知らんけど」
「ああもう、いいですか‼ フォーヴ王国は獣人の王国です、このマジカライズ王国に人間しかいないように、フォーヴ王国には獣人しかいません‼ それに、マジカライズ王国と違ってフォーヴ王国には奴隷制度が存在するんです。しかも、人間のみを扱っている······はっきり言って、フォーヴ王国は人間にとって地獄です」
「おいおい、ナハティガル理事長はそんな国と交渉してるんだろ? 言い過ぎじゃ·······」
「······それほどオストローデ王国に追い詰められているのか、他に手段がないのか。ともかくセージさん、あそこは観光目的で行くような場所ではありません。行くなら『|巌窟王(グラウンド・キング)ファヌーア』の治める『砂漠王国』とかにしたほうが······」
「ま、フォーヴ王国は候補の一つだ。ナハティガル理事長の話次第では変えるつもりだ」
「············」
クトネは、メガネを押し上げて俺を見る。
「本当に·········セージさんの目的は何なんですか? 遺跡調査だのナハティガル理事長だの、ワケがわかりません」
「······はは、そういう冒険者がいてもいいだろ?」
「はぁ······本当に仕方ないですね」
クトネは立ち上がり、メガネをクイッと上げる。そして腰に手を当てて俺の眼前に指を突きつけた。
「決めました‼ あたし、セージさんの旅に同行します‼」
「は?······な、何言ってるんだ?」
「よーく考えたらセージさんに魔術を教えなきゃだし、二人とも無知で危なっかしいから、あたしみたいな物知りが同行すべきだと思うんですよね。それにあたしはエリートですし、魔術師等級もD級認定されてます。実践経験こそ少ないですけど、強力な魔術もいくつか使えますし······切札もあります」
クトネは一気にまくしたて、最後に右手を見せつける。
そういえば、クトネも指輪持ちだっけ。
「い、いやいや······学校は?」
「休学します。言ってなかったですけど、あたし特待生の飛び級なんです。1、2年休学したところで問題ありませんし、外で魔術師として経験積むのも悪くないかなーって考えてたんです。そ・れ・に······セージさんとブリュンヒルデさんを見てると、一緒のほうが楽しそうだしっ‼」
「·········」
俺は椅子に座って微動だにしないブリュンヒルデに聞く。
「ブリュンヒルデ、どう思う?」
『私は、センセイの判断に従います』
「······う、ん〜」
個人的には反対だ。
教師として子供には学校に通って欲しいし、何より戦うなんてあり得ない。でも、この世界の事情を知ってるクトネが同行すれば、大いに助かるなんて気持ちもある。
「セージさんセージさん、師匠の言うことは絶対ですよ‼」
「·········はぁ、わかったよ」
「やたっ‼ よーし、ではさっそく旅の準備をしましょう‼ シリカ、シリカーっ‼」
クトネはシリカを呼び、自室へ引っ込んでしまった。
やれやれ······まぁ、いいか。
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