第34話遺跡の調査2

 ルーシアという協力者を得て、深夜に町へ帰ってきた。

 俺とブリュンヒルデは真っ直ぐ帰宅すると、クトネの家に明かりが灯っていた。どうやらまだ起きているらしい。

 出発前にメモを残してきたから事情は知ってるはずだが、まさか起きているとは。 

 物音を立てないようにドアを開けると、クトネはテーブルに突っ伏して寝ていた。今回はちゃんと寝間着を着ている。

 

「くかぁ~~、かぉぉ~~、こぁぁ~~」  

「なんちゅーイビキだよ……ブリュンヒルデ、静かに起こさないように、クトネを寝室に運んでくれ」

『はい、センセイ」


 ブリュンヒルデは全くの無音で歩き、細心の注意を払ってクトネを担ぎ、そのまま揺らさずにクトネの自室へと運んでいった。

 すると、俺の足にフワフワしたネコがいた。


『うなぁ~ご』

「ただいま、シリカ」

『なぁ~ん』


 シリカを抱っこして椅子に座る。

 ここでようやく、盗賊団の退治が終わったんだなぁと思った。

 疲れたし、今日はもう寝よう。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 翌日。

 クトネの質問攻めをなんとかやり過ごし、学校へ送り出した。

 ブリュンヒルデはともかく、俺は4時間くらいしか寝ていない。ぶっちゃけ眠かったけど、ギルドに報酬をもらいに行き、遺跡調査に向かうつもりだ。

 着替えて装備を身に着け、さっそく向かう。


「ふぁ······」

『センセイ、睡眠が足りていないようです』

「まぁな。でものんびりしてられない。ははは、こんなときはアンドロイドのお前が羨ましくなるよ」

『ありがとうございます、センセイ』


 褒めてないけどな。

 ギルドまでの道のり歩くと、眠気もだいぶ覚めてきた。

 そしてギルドへ到着。中へ入り、さっそく受付へ。

 俺は指輪、ブリュンヒルデは認識票を出す。

 

「盗賊団退治に協力した冒険者です。報酬を受け取る手筈になってるはずなんですが······」

「はい。セージさんとブリュンヒルデさんですね。お伺いしています」


 さすがルーシア、仕事が早い。

 盗賊団退治をして数時間しか経過していないのに、ギルドへの報告は済んでいるようだ。


「では報酬をお支払いします。騎士団からお預かりしている報酬は金貨200枚。それと、騎士団長が個人的に感謝の気持ちと言うことで、馬車をお預かりしています」

「は? ば、馬車?」

「はい。先程、騎士団長が来られて置いていかれましたよ。ご案内しますので外へ」


 受付嬢さんに案内されギルド脇の厩舎へ。

 するとそこには、大きな馬が一頭に幌付きの荷車があった。

 

「この馬は『ブラウンホース』という馬で、普通の馬とは違い、モンスターの血が混ざった混血馬です。体力や持久力に優れ、この一頭だけで馬5頭分の働きをするそうですよ」

「ほぉぉ〜······すげぇな」


 ラ○ウが乗っていた黒○号みたいな馬だ。普通の馬よりデカく逞しい、なんとも頼りになりそうな馬だな。

 荷車も広く、大人が3人並んで寝転んでも余裕がある。荷物もたくさん積めるしここで寝ることもできるだろう。

 ルーシア、気を使ってくれたのかな。今度ちゃんとお礼を言おう。

 報酬の金貨と馬車を受け取り·······問題発生。


「·········どうやって操作するんだ?」


 馬車の御者なんてやったことねぇぞ⁉


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 と思ったが、問題はあっさり解決した。


『············』

『ブルルル······』


 ブリュンヒルデが、馬を撫でていた。

 馬も安心してるのか、ブリュンヒルデに優しく応えているような気がする。

 シリカの時もだが、ブリュンヒルデは動物に興味があるのだろうか。とはいえ、馬がブリュンヒルデに懐いてくれるならありがたい。正直なところ、馬がデカくてぶっちゃけ怖い。


「ブリュンヒルデ、御者はできるか?」

『はい。操作方法は学習済みです』


 なんでも、人間を知るために、ブリュンヒルデが知らないことを徹底的に学習してるらしい。

 道行く商人馬車の御者を見たり、料理人を観察したり、喫茶店のウェイトレスを観察したりと大忙しだ。

 ともかく、御者はブリュンヒルデに任せられる。

 金貨も手に入ったし、残金は金貨278枚だ。これだけあれば旅は続けられる。

 ブリュンヒルデは御者席に座り、俺も隣に座る。


「よし、道具屋で買い出しして、遺跡調査に出発するぞ!!」

『はい、センセイ』


 遺跡地帯は昨夜の内に調査済み。

 あの遺跡地帯は小さな建物の集合地で、恐らくだが町のような場所だったのではないかと予想した。

 なので、ブリュンヒルデの姉妹機や新兵器などは期待できないかもしれん。だが、何もないというわけでもなさそうだ。

 その証拠に、あの遺跡地帯の中央附近。地下に広い空間が広がっている。

 研究施設でもあったのか、それとも古代都市の住民たちの避難シェルターにでもなっていたのか。

 どの道、『|修理(リペア)』のレベルを上げるためには、古代施設の機械にチートを使うしかない。こんなチャンス滅多にないし、これからも遺跡を見つけたら調査してみよう。


「あ、そうだブリュンヒルデ」

『はい、センセイ』

「お前に新しい宿題だ。この馬の名前を考えるように」

『············な、まえ』


 さて、ブリュンヒルデはどんな名前を付けるのだろうか。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 道具屋で食料を買い込み、昨夜の遺跡地帯へ。

 荷馬車なので楽でいい。歩くよりも早いし何より楽でいい。

 俺は道具屋で買った果実水を飲みながら御者席でのんびりする。


「はぁ、楽でいいな。なぁブリュンヒルデ」

『はい、センセイ』

「で、名前は?」

『·············』


 くっくっく、悩んでる悩んでる。

 ブリュンヒルデにはもっと『悩んで』もらいたい。それが人間の思考であり、電子頭脳にはない答えだからだ。

 ま、名前はしばらくお預けだな。

 それから間もなく、特にトラブルもなく遺跡地帯へ到着した。


「··········誰もいないよな?」

『私のセンサーでは生体反応を感知できませんでした』


 騎士団がいるかと思ったがいない。盗賊団の死体を片付けて撤収するにしても早すぎる。

 ホルアクティで周囲を索敵したが、何かを焼いたような痕跡と、大きく地面を掘り返した痕跡が見つかった。どうやら死体を焼却して埋めたんだろう。

 誰もいないなら別にいい。このまま遺跡を調査しよう。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 昨夜の調査で、遺跡群の中心地に広い空間が広がっていることがわかり、それに繋がってる入口も調べておいた。ホルアクティ様々だな。

 その入口は、この遺跡地帯ではどこにでもありそうな石造りの家で、年数の経過で岩もボロボロになっている。しかも建物全体に蔦が巻き付き、入口を塞いでいた。

 周囲には同じような建物がいくつもあり、蔦が巻き付いてるのもあればキレイに取られてる家もある。恐らく、盗賊団が隠れ場所にでも使っていたのだろう。


「とりあえず、蔦をなんとかするか。ブリュンヒルデ、手を貸してくれ」

『はい、センセイ』


 俺は右手を反らし、篭手に内蔵されてる飛び出しナイフを出す。それを使い蔦を切り裂き、ブリュンヒルデはレアメタルソードで蔦を切り裂く。

 蔦を切り裂くと、掘っ立て小屋みたいな家の入口が開いた。

 家に入る前に、少し調べておく。


「ホルアクティ、センサー起動。この家を調べろ」


 俺の肩に止まったホルアクティのセンサーが家を調べ、俺はバンドを起動して集まるデータを見る。こいつの扱いもだいぶ慣れたぜ。

 すると、家の床に熱源反応があった。


「······ブリュンヒルデ、これって」

『はい。熱源反応を感知。どうやら設備は生きています』

「······なるほど」


 家の中へ入る。

 中は狭く、六畳ほどの空間で、石造りの壁と床と天井しかない。だが、こっちのセンサーは誤魔化せない。

 俺は熱源反応があった床を調べる。


「お、見ろよブリュンヒルデ。この石、動かせる」


 煉瓦みたいな石を外すと······ビンゴ。

 床は鉄のような材質で、錆びつき、ランプらしき部分が消えていた。たぶんこれが地下の入口のスイッチだ。


「俺の出番だな」


 俺は右手で床に触れ念じる。

 まずは錆取りの『|錆取(ルストクリーン)』で床の錆をキレイに吸い取り、次は『|修理(リペア)』で破損箇所を修復、そして電力供給をする。

 すると、ランプが灯り床の扉は新品のような輝きを取り戻した。

 そして、扉をペタペタ触っていると······来た‼


「来た来た、開いた·······ん?」


 鉄の床部分がスライドし、地下へ通じる道が開かれる。

 気になったのは、鉄の床が石畳の床を押しのけるように無理矢理開いたことだ。まるでこの鉄の床を隠すような、地下へ降りることを考えていないような開き方だった。


「うーん······考えられるのは、地下を封じるために遺跡を建てた、入口を隠すためにこれだけの建物を建築した、とか? ブリュンヒルデ、ここに心当たりはあるか?」

『いいえ、私のデータベースにない場所です。機械的特徴から人間の手による物であるのは間違いありません』

「アンドロイド側の施設じゃない、か······なら、役立つアイテムがあるかも。行ってみよう」

『はい、センセイ』


 よーし、調査続行だ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 地下への階段を下りていくと、そこは何もない横長の通路だった。

 上下左右のタイルが蛍光灯のように白く光っているおかげですごく明るい。材質は金属のように硬く、軽く叩くとコツコツと鉄のような感触だった。

 

「通路、だけか?」

『…………』


 通路しかない。

 壊れたロボットとか、もしかしたら人骨でもあるんじゃないかと思ったが、驚くくらい何もなかった。

 真っ白な道はひたすら長く続いている。

 通路へ踏み出し進んで行くが、100メートル、200メートルと歩いても何も変わらなかった。


「うーん……こりゃハズレか? なんでこんな通路が」

『…………』

「このまま進んで行き止まりとか……お」


 1キロほど歩き、ようやく終点に辿り着いた。

 通路の最奥に、真っ白な自動ドアが現れた。


「開いてないな………よし、ここは任せろ」

『…………』

「ブリュンヒルデ?」

『…………センセイ』

「ん?」


 ブリュンヒルデは立ち止まり、ドアをジッと見つめる。

 なんか様子がおかしいな。と思った瞬間、ブリュンヒルデが言った。


『私は、この施設に関するメモリーを所持していた可能性があります』

「え?」

『メモリーの残滓を確認。私は、過去にこの施設に来ました』

「へぇ、じゃあここが何かわかるのか?」

『いいえ。データが消去されています。ですが、ここに来たのは間違いありません。ここには|何か(・・)がありました』

「……も、もしかして、とんでもない兵器か?」

『詳細は不明。メモリーには、ここに7体の《戦乙女型》が集められました』

「ほぉ、勢揃いか!! ちょっと見てみたいな」


 つまり、ここには重要な何かがあるって事か。

 大当たりも大当たり。とんでもない兵器だったら、ブリュンヒルデは超パワーアップする。まさか巨大ロボットとかだったら……まさかな。

 ドキドキしながらドアに手を当てて念じる。


『ERROR』

「へ?」


 ドアは、開かなかった。

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