第33話五人の騎士とルーシア
『ただいま戻りました。センセイ』
「············おかえり」
ブリュンヒルデは、ホントに3分ほどで戻ってきた。
エクスカリヴァーンはすでに外し、いつもと変わらない白銀の鎧姿で俺の隣に座る。
こうして見ると、かなりの美少女にしか見えない。3分前に盗賊を屠ったブリュンヒルデと同一人物とは思えない。
盗賊殺しに少し心が傷んだが仕方ない。盗賊たちも盗みを働いてるわけだし、運が悪かったとしか言いようがない。
とりあえず、ルーシアたちの様子を見る。
どうやらまだ移動中だ。というかブリュンヒルデが速すぎる。後でルーシアに頼んで盗まれた物を回収してもらおう。
ブリュンヒルデがいるからもう安心。
ここでのんびり騎士たちの戰いを観察させてもらおう。
「一番最初に盗賊と接触するのは、グロンか」
地図上のグロンのマーカーにタッチして映像を呼び出すと、おかしな光景が見えた。
なんとグロンは、黒い鎧を脱いで上半身裸になっていた。
「は?」
『防御を放棄したのでしょうか』
ブリュンヒルデも映像を覗き首をかしげる。
グロンは荷運びをしていた盗賊たちと接触。もちろん驚く盗賊。そりゃそうだ、荷運びしてたらスキンヘッドの裸男が出てきたんだからよ。
「がーっはっは‼ 盗賊ども、かかってこいや‼」
盗賊たちの立て直しは早かった。
戦利品の木箱を投げすて、腰に装備していた剣を抜く。
盗賊の人数は10人ほどで、素早い動きでグロンを囲む。
「ふぅぅ·········んんんんっ‼」
グロンは、ボディビルダーのように全身の筋肉を膨張させた。は?
盗賊たちは気持ち悪そうな顔をして一気に斬りかかる。だが、盗賊たちの剣は硬い岩でも叩いたかのように折れてしまい、離れて矢を射った盗賊の矢は筋肉に弾かれた。
「ふん、そんなナマクラより俺の筋肉のが強えってこった‼」
あとは、順番に盗賊をぶん殴る。
盗賊たちは殴られて吹っ飛び、骨が折れて蹲り、首がへし折れてそのまま死んだりと、全滅コースだった。
結局、グロンは剣を使わなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ラッツとアラトも戦闘に入っていた。
二人は指輪持ちでないのか、正攻法な戦いをしていた。だが、技量が半端じゃない。
オストローデ王国の騎士にも負けない強さで盗賊を圧倒し、抵抗する盗賊は一切遠慮なく首を落としている。
ラッツは、ズレたメガネを押し上げる。
「やれやれ、抵抗するなら容赦しないって言ってるのに。どうしてこう勝ち目のない戦いをするかね······」
心底つまらなそうに剣を振るってる。だが、その剣筋は恐ろしく鋭く、夜の暗さもあり漆黒の剣の軌道を読むのは困難。剣が真っ黒な理由って、夜だと有利だからなのか。
アラトは、無言で剣を振るう。
ラッツと違うのは、黒い剣だけでなく、刀身が黒い投げナイフを混ぜた攻撃を繰り出していることだ。
騎士というか、暗殺者みたいな戦いっぷりだ。
「·········抵抗、やめろ」
一応、降参するように言ってる······声が小さすぎて聞こえてないけどな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
男どもの戦いはあっさり終わり、女性2人の戦いを見ることにした。
ルーシアはともかく、茶髪ショート女騎士のユーラと女騎士トマトはどんな戦いをするのだろうか。
「お、ユーラは……弓か」
ユーラは、木の上から矢を射っていた。
なによりスゴいのは、射った矢があり得ない軌道を描いて盗賊たちの脳天を貫通していた。もしかして矢の操作がユーラの『|理不尽な力(チート)』なのだろうか。
「ふん、らくしょーらくしょー。こんなのチート使わなくてもらくしょーじゃん♪ くっふふ、終わったら団長褒めてくれるかなぁ~♪」
ホルアクティの集音機能でユーラが何を言ってるのか丸聞こえだ。
とりあえず余裕そうだし、チャンネルをトマトに変える。
「あれ………」
お嬢様風のトマト。
にっこりとしたまま立ち尽くし……足下には、盗賊が転がっていた。
全員、首をキレーに切られている。4人の戦いを見てチャンネルを変えたら終わっていた。
「ふぅ、チートなんてない人間でも、強い人は強いんですのよ?」
トマトは、ゾッとするような笑顔で微笑んだ。
俺は恐怖でチェンネルを変える。これあれだ、お嬢様ってか女王様だわ。
最後に、ルーシアの様子を確認しようとチャンネルを変えた。
「やっぱそうだよな……」
ルーシアの足下には、すでに事切れた盗賊が転がっていた。
しょせん、10人程度の盗賊などルーシアの敵ではなかったのだ。
「ホルアクティ、周囲の確認。敵残党がいないか確認」
どうやら残党はいないようだ。
盗賊団はこれで壊滅。安心して遺跡調査ができるな。
それと、ついでにやっておくことがある。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから間もなくして、ルーシアと5人の騎士は俺のいる空き家に戻ってきた。
見てたから当然だが、怪我なんてしてるわけがない。
俺もホルアクティを解除した。
『グロン、後続の回収部隊の指揮はお前に任せる。盗品の位置だが……』
「あ、俺が探しておいた。けっこうバラけてるから、地図があるといいな」
『……ふ、助かるぞ、セージ』
待ってる間、俺も出来ることをした。
この周囲一帯を検索し盗品の位置を特定。周辺の遺跡をスキャンして入口らしき場所を探しておいた。
俺はルーシアが差し出した地図に、盗品の位置をマークする。
『よし。ではグロン、回収部隊に指示して盗品を回収、盗賊の死体を集めて処理を頼む。残りは周囲の警戒と、血のニオイに引きつけられて来たモンスターを退治しろ。私はセージたちと王国に戻る』
「「「「「イエス、マイロード」」」」」
ルーシアは地図をグロンに渡し、俺とブリュンヒルデを促した。
さて、町に帰るとするか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
町まで徒歩で3時間ほどの距離。そして現在の時刻は夜の11時くらい。あの……なんでこんな深夜に3時間もかけて歩かにゃならんの? 回収部隊とやらが馬でも持ってくればいいのに……なんて。
真っ暗な道を、カンテラ一つで歩く俺たち。
なんかちょっと怖い……幽霊とか出ないよな。
『セージ』
「どわぁぁっ!?」
『……なんだ、いきなり大声を出すな』
「いや、お前の兜、怖いんだよ」
暗い夜道、ボンヤリとしたカンテラの光で照らされる黒い兜……まるで彷徨う鎧だ。
ルーシアは兜を外し、美しいご尊顔を露わにする。
「これでいいか?」
「あ、ああ」
「では……改めて礼を言う。お前の索敵探知は素晴らしい精度だ」
「そりゃどうも。こう見えても『固有武器』だからな」
「ふ、そうか。報酬だが、騎士団に支払われた金額の半分がお前の取り分だ。冒険者ギルドに支払いをするように伝えておく」
「おお、ありがとう」
「ブリュンヒルデ、キミもご苦労だった」
『問題ありません』
顔には出さなかったが、かなり嬉しい。
騎士団に支払われる報酬の半分って、けっこうな高額だ。現在の資金は金貨78枚だし、資金は多いにこしたことはない。
盗賊団も退治したし、周囲の地理も確認した。
順調にいけば、明日には遺跡調査ができる。
「セージ、まだ話してくれないのか?」
「………え?」
「お前の目的だ」
………またその話か。
「………なんで、そこまで気にするんだ? 俺はただ遺跡調査をしたいだけだ」
「そうとは思えないから聞いている。お前はいい人だ、何か大きな物を抱え、1人で進もうとしているように感じる……ああ、上手く言えん」
「………」
「その、私にもよくわからないが、言いたくないならもういい。だが……何か手伝えることはないか? 騎士団としてではなく、私個人で礼をしたい」
「………ルーシア」
カンテラ程度の光じゃわからないが、ルーシアの顔が赤くなってる気がする。
不思議と、ルーシアの優しさが伝わってきたような気がした。
ルーシアなら、信じてもいいような……そんな気がした。
「………なぁ、オストローデ王国をどう思う?」
「オストローデ王国?……あの国は危険だ。人体実験の数々、魔導兵士の製造、そして噂では30人ほどの『指輪持ち』を呼び出し、兵器として活用してるという噂もある。あの国の最終目的は、『八大王国』の統一であり、七つの国を滅ぼすことだ。そんなことは絶対に許せない」
「………もし、俺がオストローデ王国の人間だとしたら?」
「なに?」
「もし俺が……オストローデ王国が呼び出した、30人ほどの指輪持ちだとしたら?」
「………どういうことだ」
ルーシアは立ち止まり、俺を真っ直ぐ見る。
俺もルーシアを正面から見た。
カンテラの光が、俺とルーシアをボンヤリと照らす。
「俺は、オストローデ王国に呼び出された異世界の人間だ」
俺は、今までの出来事をルーシアに話すことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
オストローデ王国に召喚されたこと、俺は選ばれたわけじゃなく巻き込まれたこと、本来の『チート』はあまり役に立たないこと、訓練中の事故でレドの集落まで来てしまったこと、そして……ブリュンヒルデのことを説明する。
するとルーシアは目を見開いて驚いていた。
「信じ、られん………ブリュンヒルデが、人間じゃないだと?」
「ああ。アンドロイド……大昔の人間に作られた存在だ」
『はい。私は【戦乙女型アンドロイドcode04ブリュンヒルデ】です』
「……オストローデ王国が呼び出したチート持ちが30人いるというのは真実なのか。そしてその子たちは、お前の教え子だというのか?」
「ああ……そうだ。俺がマジカライズ王国に来たのも、オストローデ王国の情報を集めるためと、魔王と呼ばれる『|夜の女王(ニュクス・クィーン)ナハティガル』から話を聞くためだ。遺跡調査をしてるのは、大昔に作られたブリュンヒルデみたいな少女や、強力な武器が眠ってるかもしれないからだ」
「お前は、オストローデ王国と戦争をするつもりか?」
「ちがう。俺は生徒たちを取り戻して、元の世界に帰りたいだけだ」
「………」
俺の事情はだいたい話した。
ルーシアなら信用出来る、そう思ったからこそ話した。
これがどんな結果になろうと、俺は後悔しない。
するとルーシアは、小さく息を吐いた。
「……数日後、ナハティガル理事長はお戻りになられる。お前の事情を私から説明し、面会できるように取り次ごう。それまでは遺跡調査をしておけ」
「え……ルーシア、お前」
「信じるよ、セージ。もちろんブリュンヒルデも」
「………」
「それに、お前という存在がいれば、オストローデ王国が呼び出したという30人のチート持ちも手を出せないかもしれん。ナハティガル理事長がフォーヴ王国と同盟を結べば、いかにオストローデ王国といえど手は出せないはずだ」
「……いいのか? 俺を信じるのか?」
「ああ。何度でも言う、お前は悪い奴じゃない。私はお前を信じるさ」
ルーシアは、右手を差し出してきた。
俺はその右手を見つめ、ルーシアの顔を見る。するとルーシアは優しく微笑んでいた。
その手を取っていいのか。
また、ウェイドたちのように裏切られないだろうか。
でも……ルーシアなら、大丈夫な気がした。
「ありがとう、ルーシア」
俺はルーシアの手を取ってしっかり握手する。
俺もルーシアも籠手同士だから硬い触感しか感じない。
でも、俺にはその手がとても温かく感じた。
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