第32話戦闘開始
作戦会議が終わり、盗賊団の出没地がいくつかに絞られ、日が完全に落ちる前に出発した。
メンバーは、俺とブリュンヒルデ、ルーシア、部隊長騎士5人の計8人。その内戦闘するのは7人。もちろん俺は戦闘不参加、ホルアクティで周辺を探知する。
盗賊が根城にしている場所は遺跡地帯と呼ばれ、オストローデ王国やレダルの町の近くにあった遺跡と違い、小さな石造りの建物の集合地域らしい。
遺跡内は地下1~2階程度の広さでモンスターも弱く、お宝なども特にない。考古学者も歴史的価値なしと判断したそうだ。
だが、歴史的価値はなくても隠れ家には持って来いの場所だ。
遺跡地帯は、大規模な町がスッポリ入るほど広く、一度潜伏されるとそう見つかることはない。しかも、そこは『|夜は俺の庭(ナイト・マイ・ガーデン)』にとって庭みたいなもので、集落から強盗した商品や、商人を襲って得たお金や商品などが隠されているらしい。
ここ最近、勢力を拡大して組織が拡張してるらしく、近隣の集落がお金を出し合って冒険者ギルドに討伐を依頼したが、規模が大きすぎて冒険者グループでは対処が難しいらしい。
なので、騎士団の出番というわけだ。
そして現在、俺たちはダッシュで遺跡地帯に向かっていた。
「…………」
「おう兄ちゃん、酔うんじゃねぇぞ!!」
「は、はい」
俺は、スキンヘッドの黒騎士グロンに背負われていた。
理由は簡単、俺の体力じゃこの7人に着いていけないからだ。
ブリュンヒルデはともかく、ルーシアや5騎士も殆ど全力疾走なのに、息を切らすどころか表情も変えずダッシュしてる。グロンに至っては俺を背負って走ってるんだぞ?
なぜ走ってるかと言うと、今回の場合は隠密行動が前提であり、出来るだけ生物の気配を察知させたくないとのことで走って行くことになった。
俺はスキンヘッドの黒騎士グロンに聞く。
「あ、あの、重かったら自分で走るんで……」
「ガッハッハ!! 兄ちゃん程度の重さなんて小枝1本掴んでるようなモンだ!! オレのチートは『|筋肉男(マッチョマン)』だからな、心配すんじゃねぇって!!」
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【名前】 グロン 黒騎士(ブラックナイト)
【チート】 『筋肉男(マッチョマン)』 レベル25
○筋力増加 レベル22
○肉体強化 レベル23
○体力増加 レベル30
********************
グロンはチート画面を見せると、再び前を向いてダッシュする。
生徒以外のチート画面を初めて見たけど、項目が少ないな。それに固有武器もない。
「あの、固有武器は?」
「はぁ? 固有武器だぁ? ガッハッハ!! バカ言っちゃいけねぇ。固有武器なんて出せるのは指輪持ちの中でもさらに選ばれたヤツだけだろうが。ウチの団長みてぇにな!!」
「え……そ、そうなんですか?」
「決まってんだろうが、なんだ兄ちゃん、指輪もらうときに聞いただろ?」
「え、ええ……はい」
知らなかった。
固有武器が選ばれた指輪持ちしか出せないなんて……だったら、生徒たちはみんな選ばれたヤツってことに。いや、異世界に召喚された時点で選ばれてるな……あれ、その理屈だと俺は?
全く休まずに走ること1時間。まるで疲れを感じさせない声でルーシアが言う。
『予定位置に間もなく到着だ。セージ、索敵探知を頼むぞ』
「わかった、任せろ」
指定ポイントに到着した。
遺跡地帯でまだ盗賊団が踏み込んでいない、煉瓦を積んで建築した物置小屋みたいな家。
ブリュンヒルデが言った。
『………敵生体反応ゼロ。半径300メートル以内に敵意を持つモンスター・人間は存在しません』
ルーシアたちは首を傾げるが、俺はその情報を信頼する。
メガネ騎士ラッツと茶髪ショート女騎士ユーラがナイフを抜いて警戒し、ドアのない煉瓦の建物の中に飛び込んだ。そして一瞬で警戒し……ナイフを収める。
「隊長、敵はいないみたいですね」
『ご苦労ラッツ。ユーラはそのまま警戒、トマトとアラトはこの地点から半径100メートルを偵察してこい』
「はい!! ルーシア隊長!!」
「了解です、隊長」
「······了解」
元気いっぱいに答えたユーラは『声が大きい』とお叱りを受けゲンコツをもらい、女騎士トマトはクスクス笑い、騎士アラトは無言で出て行った。
ラッツとグロンは窓際に立ち、ブリュンヒルデは俺の隣に立つ。
『では、セージ。頼む』
「ああ。出てこいホルアクティ」
俺が命令すると、唐突に俺の肩にメカフクロウが現れる。
『ほう、固有武器か』
「ひゅう、団長以外のを見るコトになるとはね」
「兄ちゃん、なかなかやるじゃねぇか」
うーん、ホルアクティを固有武器だと思ってる。
まぁそうやって勘違いしてくれるならいいや。ある意味こいつは『|修理(リペア)』よりも役に立ってるし、俺のもう一つのチートと言っても過言じゃない。
「ホルアクティ、現在地より半径20キロ圏内をサーチ、人間を見つけたらマップにマークしてくれ」
そう言うと、ホルアクティは無言で飛び去った。
俺はバンドを操作し、半径20キロ圏内の高画質航空映像を呼び出す。
今更だが、こんなグー○ル○ップみたいな映像を呼び寄せるってことは、この空の遥か上空······宇宙に、人工衛星でも浮かんでいるのかもしれない。
すると、俺の後ろで見ていた男騎士二人が空中投影ディスプレイを覗き込んでいた。
「おったまげた·········こんな鮮明に絵を描くとはなぁ」
「美しい······さすが、『|理不尽な力(チート)』なだけある」
ちなみに、現在は日が暮れているが、映像は昼間のようにクリアな映像だ。
すると、さっそく反応があった。
「お、来た······現在地より北西16キロ。それと現在地より南西18キロ·········おいおい、どんどん増えてくる。50、60、70·········マジかよ」
マップに表示される人間は赤い点で表示されるが、その数がどんどん増えていく。少なくても10人グループ、そのグループがマップのあちこちに表示されせわしなく動いていた。おいおい、かなりの数だぞ。
この事実をルーシアに伝える。
『好都合だ。恐らく、盗賊団のグループ全てが動いている。一網打尽にするチャンスだ』
「いやでも、たった七人じゃ」
「おいおい兄ちゃん、一人頭10人以上捻り潰せばいいだけの話じゃねぇか」
「そういうこと、ねぇブリュンヒルデちゃん?」
『私の任務はセンセイを守ることです』
グロンもラッツも問題ナシと言った感じだ。
すると、ユーラとトマトとアラトが戻ってきたので、ありのままの事情を伝える。
「なーにビビってんのよ。一人頭10人以上捻り潰せばいいだけじゃん」
「ぷ······ユーラ、グロンと同じこと言ってるよ」
「あはは。ユーラちゃん、グロンさんと似てますからね」
「んだとぉ〜? こんなガキと一緒にすんじゃねぇよ‼」
「そりゃこっちのセリフだこの筋肉ダルマっ‼」
「·········くす、くす」
五人の黒騎士は、なぜか笑っていた。
あっけに取られていると、ルーシアが言う。
『決まりだな。ブリュンヒルデもそれでいいか?』
『はい、私はセンセイを守ります』
『よし。セージ、ブリュンヒルデにも戦うように指示してくれ。場所はここから一番近い場所で構わん』
「わ、わかった」
俺はマップを全員に見せ、盗賊団の位置を教える。マップは高画質なので、場所を見せただけで全員が位置を把握した。
『可能なら生け捕り、無理なら始末しろ』
ルーシアはそう言うと、黒い剣を抜く。
すると、五人の騎士も真っ黒な剣を抜き、円陣を組んで掲げた。
『我々の剣は、暗き夜の剣。夜の女王ナハティガルのために‼』
「「「「「イエス、マイロード‼」」」」」
ルーシアと五人の騎士は出陣した。
やべぇ、騎士って格好いい。
『·········』
「ぶ、ブリュンヒルデ、お前も頼む」
『私は、センセイを守ります』
「いや、俺は大丈夫だ。ここで待っているから、ブリュンヒルデ、悪い盗賊団をやっつけて戻って来い」
『·········わかりました。位置情報を習得。これより指定ポイントの盗賊団を討伐します。移動時間、討伐時間合わせて2分45秒を予定。センセイの許可が下りました。センセイから一時離脱します』
ブリュンヒルデはスタスタ歩き家の外へ。
『センセイから一時離脱。これより《戦乙女型アンドロイドcode04ブリュンヒルデ》は単独行動を開始。【乙女神剣エクスカリヴァーン・アクセプト】展開。着装形態へ移行』
「え、ちょおっ⁉」
なんとブリュンヒルデは、ゴテゴテした機械の大剣を呼び出し、分解させて自らの鎧とドッキングした。これってレドの集落にいた盗賊を倒したスタイルだよな。
『目的地まで移動。速やかに殲滅します』
ブリュンヒルデは背中のブースターを噴射させ、一瞬で風になった。
マジかよ······単独行動って、制限も解除されるのかよ?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一人残された俺は、ホルアクティのカメラ機能を使い、それぞれの騎士たちとブリュンヒルデを観察することにした。
まずはブリュンヒルデ。
とんでもない速度で地を駆けるブリュンヒルデ。
あのブースターは、空を飛ぶ機能ではなく、噴射による加速装置的な物らしい。飛べないわけではないが、対空時間は短い。
右手に『乙女剣エクスカリバー』、左手に『女神剣カリヴァーン』を持ち地を滑る。
ほんの一分足らずで10キロを移動し目的地へ到着。そのまま上空に飛び上がったブリュンヒルデは言った。
『盗賊を発見。ターゲットマルチロックオン。背部広域殲滅砲《ペンドラゴン》発射』
盗賊たちは、近くの町の倉庫からかっぱらった木箱を運んでいた。
その内の一人が、闇夜を切り裂く美しい光に気が付くが時すでに遅し。この世ではあり得ないレーザー光線が、盗賊たちの首から上を焼却した。
10人ほどで荷卸をしていた盗賊たちは、痛みもなくこの世を去った。
『殲滅終了。生体反応停止。センセイの元へ帰還します』
ブリュンヒルデは、再びブースターを噴射させた。
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