第28話冒険者ギルドの情報

 装備を整えた俺とブリュンヒルデは、冒険者ギルドへやってきた。

 魔術の王国でも冒険者はいる。依頼はどんなのがあるんだろう。

 ギルド内はレダルの町より広く、カウンターの数も倍以上あるし、依頼掲示板の大きさも二倍以上ある。やはりここが町ではなく王国の城下町だからなのか、そもそもの規模が違う。

 さて、まずは受付でいろいろ聞くか。


「こんにちは! 本日はどのようなご用件でしょう?」


 受付嬢さんってみんな美人でいいな。でも、ルーシアの方が美人……って、失礼な考えはやめよう。

 俺とブリュンヒルデは、冒険者の証を提示しながら受付嬢さんに質問する。


「俺と彼女はF級冒険者で、遺跡調査をしたいんですけど、調査の許可が必要な遺跡と、そうじゃない遺跡の場所を教えて欲しいんですけど」

「遺跡調査……なるほど。ですが、正直オススメはできません」

「え……何故ですか?」

「実は、マジカライズ王国周辺の遺跡を根城にしている盗賊団が現れまして。依頼掲示板に『盗賊団の退治』という依頼を出してるのですが、盗賊団の規模が大きく冒険者では対処できないので、『|暗夜騎士団(ナハトナイツ)』にギルドが依頼を出したんです。それで昨日、騎士団の方が数名で遺跡調査に向かったんですが、どうやら盗賊団は数ある遺跡を転々としてるらしく、なかなか捕まらないようなんです」

「つまり………」

「しばらくは盗賊団と騎士団の追いかけっこが続くので、遺跡調査は危険ですので受けない方がよろしいかと……」

「………マジか」

「マジです」


 まさかの盗賊か。

 こればかりは仕方ない……ん、待てよ?

 騎士団に依頼。昨日遺跡調査をした。つまり、昨日ルーシアと会ったのは遺跡調査のあとってことか。

 ブリュンヒルデなら盗賊団が軍隊規模で襲ってきても問題無いと思うが、さすがに虐殺現場みたいな光景になるかもしれない。

 遺跡調査をするには盗賊が邪魔だ。

 そして、盗賊団の退治を騎士団が請け負った……これは使えるかもしれない。

 俺は受付から離れ、ブリュンヒルデに聞く。


「ブリュンヒルデ、遺跡調査をするには盗賊をなんとかしないといけない。悪いけど討伐を頼めるか?」

『はい、センセイ。ですが集団で囲まれた場合、この剣では柔軟な対応ができません。その場合は『乙女神剣エクスカリヴァーン・アクセプト』の使用許可をお願いします』

「いや、その必要はない。上手くいくかわからないが……ルーシアに協力を頼んでみる」

『なるほど。騎士団の力と私の戦力を融合させて盗賊団を退治するということですね。ですが、盗賊団は遺跡を転々としているのでは?』

「ああ、それについてはホルアクティを使えばなんとかなる。ホルアクティの探知モードで周囲一帯を検索すれば盗賊団を見つけられるはずだ」


 問題は、ルーシアが協力してくれるかどうかだ。

 もし協力を得られなければ、俺とブリュンヒルデでやるしかない。正確には『乙女神剣エクスカリヴァーン・アクセプト』を展開したブリュンヒルデだけど。

 ルーシアが協力してくれる場合、ホルアクティの調査を俺のチートとしてルーシアに伝える。『俺のチートは広範囲索敵だ』とでも言えばいいだろう。


 よし、今日の食事のとき、協力をお願いしてみるか。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 一度クトネの家に戻り、学校の準備が終わったらしいクトネにこれまでのことを話した。

 するとクトネは仰天していた。


「なななな、『|暗夜騎士団(ナハトナイツ)』の団長と夕食ぅぅ~~っ!? しかもレストラン『ブランシェ』ですか!?」

「ああ。といってもブリュンヒルデと3人でだけどな。悪いクトネ、今日の夕飯は」

「んなことどうでもいいです!! し、しかも『ブランシェ』って高級レストランじゃないですか!! セージさんあんたまさかそのみすぼらしい服で行くつもりですか!!」

「み、みすぼらしいって……ちょっと酷くない?」

「ああもう、『|暗夜騎士団(ナハトナイツ)』の団長が23歳の美女ってことにも驚いてるのに、まさかその女性と高級レストランで夕食……しかも夕食に誘ったのはセージさんとは……こうしちゃいられないです!! おじいちゃんの礼服出しますんで、ソッコーで合わせましょう!! それとセージさんは風呂へ!! ブリュンヒルデさんはあたしのドレスを貸しますんで着てください!!」

「あ、あの」

「早くっ!! 騎士団の団長に気に入られればナハティガル理事長とも面会するチャンスがあるかも、それにセージさんとブリュンヒルデさんの保護者があたしと知ったら理事長だけじゃなく騎士団長にもあたしの存在が知られて……うひひ、出世ちゃーんす!!」


 うわぁ……欲望タダ漏れだよ。

 逆らうと怖いから言う通りにしよう。


『お言葉ですがクトネ。あなたの服のサイズが私のサイズに合うとは思えません。主に胸部のサイズが深刻です。私はこのままで構いませんのでお構いなく』

「ケンカ売ってんのかコラぁぁぁぁぁっ!!」


 ギャーギャー騒ぎ出したクトネから離れるように、俺は風呂場へ向かった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 身体を洗い、魔術師の正装であるローブみたいな服を大至急で仕立て、ブリュンヒルデ用にクトネのドレスを調整した。

 クトネは裁縫も得意らしく、俺の礼服を合わせるのに苦労はなかったが、ブリュンヒルデのドレスを調整するのに少し手間取った。なによりも胸部が……おっと失礼。

 俺は自室に戻り、右手のバンドを操作する。


「ホルアクティ、帰還せよ。情報収集はそこまででいい」


 タッチパネルを操作しながら命令を出す。このメカフクロウの使い方もだいぶ慣れた。表だって動けないときは、これほど頼りになる物はない。機械には魔力が通ってないから探知系の魔術には引っかからないし、視認しようにもステルス迷彩のおかげで見つかることはない。

 帰還命令を出してから10分後、ホルアクティは帰ってきた。


「おつかれさん、ご褒美でもあげたいけど、お前は物を食えないからなぁ」


 肩に止まったメカフクロウを指でなでながらねぎらい、端末を操作する。

 収集データ一覧を見ると、音声データと映像データがいくつかある。よしよし、魔術学園に網を張ったのは正解だったな。

 音声データを閲覧しようとタッチパネルに触れようとした瞬間だった。


「セージさんセージさん!! そろそろ着替えてくださーいっ!!」

「っと、わかったよ」


 ドアがガンガンとノックされ、クトネの声が響いた。

 ホルアクティを待機モードにして休ませ、俺は着替えのため1階へ下りる。するとそこには、ドレスを着たブリュンヒルデがいた。


「ふっふーん、どうですセージさん!」

「ほぉ……似合ってるぞ、ブリュンヒルデ」

『ありがとうございます』


 ブリュンヒルデが着てるのはドレス。まぁドレスと言ってもお姫様が着てるようなフリフリじゃない。魔術師の正装であるローブに装飾を施した物で、ローブ下にはオシャレなフリルの付いたシャツとスカートを履いている。心配のタネだった胸元もなんとか収まっていた。

 銀色の髪も梳かされ、キレイな髪飾りを付けていた。いやはや……化けたなぁ。


「さ、セージさんも着替えて着替えて!」

「はいはい、わかったわかった」


 ルーシアとのディナー、頑張ろう。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 夜。金貨1枚で馬車を手配しレストランへ向かう。

 徒歩で行こうとしたらクトネに怒鳴られ、しぶしぶ馬車を手配した。「ドレスを着た女の子を歩かせるとは何事ですかセージさん!」と言われグゥの音も出なかった。

 家から数十分の距離で金貨1枚は痛い……残り金貨79枚。

 お金のことを考えていると、あっという間に馬車はレストランへ到着した。

 冒険者ギルドの脇にこんな豪華な建物があったことにも驚きだが、夜という時間帯もあって建物だけでなく町全体がキラキラしている。

 馬車から下り、ブリュンヒルデをエスコートしようと手を伸ばす。するとブリュンヒルデは素直に手を掴み馬車から下りた。


『ありがとうございます、センセイ。……センサーに反応あり。ルーシアが到着したようです』

「お、着たのか」

『はい。あちらの馬車です』


 ブリュンヒルデの視線を追うと、一台の馬車がこちらへ向かってきた。

 馬車は俺たちの前で止まると、御者がドアを開ける。


「待たせたようだ、すまない」

「………………」


 ちょ、超絶……美女だ。

 長くキラキラした金色の髪を流し、胸元を強調したドレスを纏っている。身につけてる装飾品も高そうな物で、ルーシアが付けることにより高貴さがさらに際立っていた。

 ぶっちゃけ、俺は見とれて声が出なかった。


『センセイ、お手を』

「あ……ああ、そうだな」


 ルーシアに近付き手を差し出すと、ルーシアは微笑を浮かべ手を取った。


「ありがとう」

「………」


 やばい、今日の目的ってなんだっけ?

 こんな美女と食事? ええと、なにか目的があったような。


「ブリュンヒルデ、よく似合っているぞ」

『ありがとうございます。ルーシアもお似合いです』

「ああ。その……副団長にいろいろアドバイスをもらってな、少し派手過ぎではないだろうか……」

『胸元の露出が激しいですね。女性の胸部を見た男性は極度の興奮状態に陥るというデータがあります』

「む、むね!? そそ、そうなのか?」

「ちょ、ブリュンヒルデ変なこと言うな!!」

『申し訳ありません。センセイ』

「さ、さぁ、行くぞセージ、ブリュンヒルデ」


 こうして、楽しいディナーは始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る