第27話防具を買おう!

 超絶美女で、ナハティガル理事長が組織した|魔剣士(マジックナイト)の騎士団である『|暗夜騎士団(ナハトナイツ)』の総団長のルーシア・アルストロメリア。

 なんでこんな防具屋に? という疑問がまず浮かぶ。それに、よく見るとこの人……指輪持ちだ。

 ブリュンヒルデはいつもと変わらない表情で彼女を見つめ、俺は警戒していた。

 すると、彼女はクスクス笑う。………めっちゃ俺のタイプだ、この人。


「警戒しなくていい。今日は休日でな。特にすることもなく町を歩いていたら、彼女と貴方がこの店に入るのが見えたのでな……少し、彼女に興味があったので付けさせてもらった。すまなかった」

「は、はぁ……あの」

「私のことはルーシアでいい。ところで、名を聞かせてくれないか」

「……俺はセージ、彼女はブリュンヒルデです」

「セージ、ブリュンヒルデ……いい名だ」


 うーん……この人、なんなんだろう。

 ブリュンヒルデに興味があるとか言ったけど、接点と言ったら昨日の道でのことだけだよな。たったそれだけで興味って……。

 

「セージ、そんなに警戒しないでくれ。私は純粋にブリュンヒルデに興味があるだけだ。キミ達をどうこうしようなど考えていない」

「………」

「まぁ、無理はないな。昨日の黒騎士と再会し、いきなり自己紹介、そして彼女に興味があるなどと言い出せば、誰だって警戒するのは当たり前だ」


 超絶美女……ルーシアは、甲冑を眺めている。

 そんな憂いを帯びた表情はどこか庇護欲をそそられる。窓際で日の光を浴びながら紅茶を嗜む貴族令嬢のような……そんな風に見えた。

 とにかく、今は防具を選ぼう。


「防具を選ぶならアドバイスをしよう。こう見えても武器防具には明るい」

「……じゃあ、せっかくだしお願いします」

「任せてくれ。それと敬語はいらん、どうやら年上のようだしな」

「年上……失礼だけど、歳は?」

「23だ」


 若ッ……23で騎士団の団長かよ。

 俺と5つも違うのに……まぁ、歳は別にいいか。


 とにかく、防具を選んでさっさとギルドへ行こう。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 まず選ぶのは、身体を守る防具だ。

 ルーシアは軽い鉄板入りの胸当てをいくつかチョイスして見せてくれる。


「セージ、キミの肉付きを見ると重装備は向いていない。必要最低限の防具だけにしたほうがいい。心臓を守る鉄板入りの胸当て、下肢を守るレガース、腕を守る籠手。それと、私のオススメだが魔術防御を施したマントを装備するのもいい」

「なるほど。確かに重いのはちょっと厳しいから軽いのでいきたい」

「なら、いくつか胸当てを付けてみよう。後ろを向いて」

「え、あ、ああ……」


 ルーシアは俺の背後に回り、胸当ての留め金を外して装備を手伝ってくれる。

 なんというか……くすぐったいというか、こそばゆいというか。


「どうだ、苦しくないか?」

「あ、ああ……うん、ちょうどいい」

「そうか。他にも候補はあるがどうする?」

「いや、これでいい」


 まずは胸当てをゲット。シンプルな造りでどこにでもありそうな防具だが、装備するだけで安心感に包まれる。そして脛当ても同じ材質の物を購入した。

 次は籠手。ここにはルーシアのオススメがあった。


「セージ、キミの武器はその剣だけか?」

「まぁ一応。そんなに戦闘するつもりはないし」

「なるほど。だが、いざという時の備えは必要だ。そこで、この武器内蔵型の籠手をオススメする」

「武器、内蔵型?」

「ああ。これは折り畳み式飛び出しナイフと折り畳み式|短弓(ショートボゥ)が一体化した籠手で、短弓は牽制用として使えるし、折り畳み式飛び出しナイフは隠し武器として使える」

「へぇ……なんかかっこいいな」

「だろう。試しに装備してみろ」


 言われたとおり、右手に籠手を装備する。

 意外と軽く、右手にしっかりフィットする。試しに手を上に逸らすと籠手の下からナイフが飛び出し、手を下に逸らすと籠手の上に装備されたギミックが開き、弓のような形になる。

 これってアレだ、暗殺教団の象徴武器にそっくりだ。

 まぁ、何かに使えるかもしれないし買っておくか。ちなみに左手は普通の籠手にした。


「あと、マントだっけ」

「ああ。魔術防御を施した品だ。魔術師のローブと同じ素材で、魔力を通せばある程度の魔術防御に使える」

「ある程度ねぇ……」

「まぁ気休めだが、戦場ではその気休めが勝敗を大きく分けることになる場合がある。胸当てだけでは不安だからな、買っておいて損はない」

「まぁ、そういうなら……」


 と言うワケで、魔術師のローブ売り場にあるマント売り場へ。

 なんかルーシアに流されてるような気がしないでもないけど……まぁいいか。


「セージ、好きな色はあるか?」

「いや特にはない」

「ふむ……なら、この灰色のマントはどうだ? フード付きで顔も隠せるし、込められてる魔術は『魔耐性』だ。魔力を込めると魔術防御が上がる一品だ」

「いいね……じゃあ、これにするよ」

「ああ。さっそく装備してくれ」


 言われるがまま装備し、ついでにフードもかぶる。

 おいおい……これって暗殺教団の暗殺者そっくりじゃねぇか。フードは被らないようにしておこう。

 ルーシアは俺を見て大きく頷き、満足げな笑みを浮かべる。


「うむ。まるで暗殺者のような装備だ」

「おいこら、誰が暗殺者だ」

「ははは、冗談だ。だが似合っているぞセージ。なぁブリュンヒルデ」

『はい。とてもお似合いです、センセイ』

「そりゃどうも……まぁいいか。素人冒険者には見えないだろうしな」


 装備したまま会計に向かうと、料金は金貨50枚だった。

 予定では金貨30枚で収めて残り金貨100枚にしようと思ったが、予算を大きくオーバーしてしまった。これで残り金貨80枚だよ。

 

「はぁ……ルーシア、選んでくれてありがとう」

「気にするな。私も楽しかった。それに、殿方の装備を見繕うなど初めてでな……少し、緊張した」

「え……そ、そうか」

『センセイ、目的地である冒険者ギルドへ向かいましょう』

「あ、ああ」


 俺は、少しだけ打算的な考えが働いた。

 冒険者ギルドに向かうのもいいが、ルーシアに話を聞くのもいい。


「あの、ルーシア。選んでくれた礼に、よかったらメシでも……」

「え……?」

「あ、いや……」


 言って恥ずかしくなってきた。これってナンパじゃねーか!? 

 出会って1時間も経ってない女性を食事に誘ってる。ぶっちゃけると、ルーシアからナハティガル理事長のことを聞こうと思っての提案だが、これじゃどう考えてもナンパしてるようにしか見えない。

 やべぇ、顔が熱くなってきた。

 すると……気のせいか、ルーシアの顔も赤いような?


「あ、あの……それは、その……食事の誘いか?」

「ま、まぁその……そうだけど。む、無理なら……」

「いや、その……男性に食事を誘われるなど初めてだから……ど、どうすればいいのか」

「あー……す、すまん」

「いや待て!! その、今は無理だ……今日の夜なら行ける!!」

「よ、夜?」

「ああ………………って食事!! 食事だけだ!!」

「わ、わかってるよ、落ち着け」

「す、すまん……」


 なんかテンパってる。

 ってか……か、可愛いな。なんか惚れそう。出会って1時間も経ってないのに……これが一目惚れってやつか。いや違う、なんかおかしいことになってる。

 騎士団の団長っていうくらいだし、あんな全身真っ黒の甲冑を装備してるんだ。男っ気なんてない生活だったのかも。


「じゃあ、今夜……食事でもどうだ?」

「あ、ああ、構わない。場所はどうする?」

「うーん、俺たちはこの町に来たばかりだし、どこかオススメでもあれば」

「では、冒険者ギルド脇のレストラン『ブランシェ』でどうだ? 予約は私が入れておく。もちろん3名分だ」

「わかった、じゃあそれで」

「う、うむ……では、失礼する」


 というわけで、なぜか『|暗夜騎士団(ナハトナイツ)』の団長を食事に誘ってしまった。

 いっとくがエロい下心はない。あるのはナハティガル理事長の情報だ。

 あっちはブリュンヒルデに興味があるみたいだし、エサに使うようで悪いがいろいろ聞き出せそうだ。

 

「さて、今度こそ冒険者ギルドに行くか」

『はい、センセイ』


 冒険者ギルドで、遺跡についての情報を集めよう。

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