第26話調査開始
疲れた足取りでクトネの家に帰宅。
デブ猫のシリカの出迎えに感謝し、おやつに買った魚の燻製を上げるとシリカはその場でガツガツ食べ始めた。
すると、風呂掃除を終えたクトネが、ラフな格好で風呂場から現れる。
「あーおかえりなさーい、いやいや、久しぶりに掃除すると手が止まりませんねー······って、どうしたんです? なんかあたしより疲れてません?」
「ただいま·········まぁ、あとで話すよ」
「はぁ······っと、それよりブリュンヒルデさん、よかったら一緒にお風呂入りましょーっ‼」
『結構です』
「即答⁉」
クトネは涙目でツッコミした。
俺は苦笑し、ブリュンヒルデに言う。
「ブリュンヒルデ、汚れても汚れてなくても、風呂は気持ちいいもんだぞ?」
『気持ちいい。という感覚がわかりません』
「はは、なら入ればわかるかもな。クトネと一緒に風呂に入って来い、俺は食事の支度をするから」
『はい、センセイ。ではクトネ、入浴をしましょう』
「は、はいっ。······むー、ホントにセージさんの言うことは聞くんですね」
「ははは。それよりクトネ、台所借りるぞ」
「どーぞどーぞ。夕飯、期待してますねー」
ブリュンヒルデとクトネは風呂場へ向かい、俺は台所へ。
台所事情が気になったが、特に問題ない。水道やコンロがあることや、魔道具と呼ばれる生活用品が流通してることはウェイドから習った。
台所を漁ると、あまり使われてなさそうな鍋とフライパンを見つけたので、手早く簡単な物を調理した。
『ぶ、ブリュンヒルデさん······う、美しいです』
『ありがとうございます。クトネは年齢に対して乳房の成長が遅れているようですね』
『んなっ⁉ い、言ってはならぬことをーっ‼ あたしはまだ14です‼ これから成長するんですーっ‼』
『そうですか』
『ば、ば、ば、バカにしてますねーっ‼ 自分がデカいからって、このこのこのっ‼』
『クトネ。私の胸部に触れないで下さい』
仲がいいようで何より······って、何してるんだあの二人は。
それから十分もしないうちに、いつもと変わらないブリュンヒルデと、どこか疲れたようなクトネが風呂から上がってきた。
俺は足元にじゃれつくシリカをなでながら言う。
「さて、メシにするか」
「はい······って、セージさんはお風呂入らないんですか?」
「メシ食ったらでいいよ。腹減ったし、クトネに聞きたいことがあるからな」
「わかりました。じゃあご飯ご飯♪」
肉野菜炒めをパンに挟み、魚介のスープのシンプルな晩ごはんを食べる。
クトネも満足してくれたし、食後に出した果汁入りの白湯を啜りながら質問することにした。
「なぁクトネ、ナハティガル理事長に会うことってできるか?」
「理事長に? セージさんが? あはは、無理ですよムリムリ、理事長はご多忙で、謁見の申請をしても会えるのは何年後になるかわかりませんよ」
「ご多忙って、普段は何をしてるんだ?」
「そりゃいろいろですよ。理事長なんて呼ばれてるけど、この国の女王でもありますからね。王様の仕事と理事長としての仕事なんていくらでもあるでしょうね」
「むむむ······じゃあ、どうすれば会える?」
「どうすればって·········会ってどうするんです? そもそも、一介の冒険者であるセージさんが、ナハティガル理事長に何の用事なんですか?」
「いや、まぁ······いろいろ」
うーん、あんまり深く突っ込むと怪しまれる。
やはりここは、城に向かってホルアクティを飛ばすしかないな。
「あと、遺跡調査したいんだけど、ギルドの許可は必要なのか?」
「ええ。必要な遺跡とそうでない遺跡がありますね。そこらへんはギルドで聞けばいいんじゃないですか?」
「おう、わかった。っと······クトネはこれからどうするんだ?」
「長期休暇も終わりですので、もちろん学校に通いますよ。明後日から授業がありますからね」
ちなみに、クトネの趣味は薬草採取。
学校の長期休暇を利用して、俺たちと出会った場所で薬草採取をしていたらしい。そして、採取した薬草を混ぜ合わせ、いろいろな薬品を作るのが趣味だそうだ。
ナハティガル理事長との面会は厳しい。ならば、できることから始めよう。
まず、冒険者ギルドで遺跡調査の許可をもらうとするか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
食事を終え部屋へ。もちろん、ブリュンヒルデとは別室だ。
部屋に鍵をかけ、窓を開ける。
「ホルアクティ、情報収集モード。単語識別機能起動。キーワードは『ナハティガル』と『オストローデ』だ」
ホルアクティ情報収集モード。
それは、設定した単語に引っかかった会話を探知。指定した場所に留まり半径20キロ圏内の会話を選別し録音するモードだ。この機能はかなり使える。
「ステルス迷彩は常時起動。指定ポイントは『マジカライズ王立魔術学園』だ。それと、ナハティガル理事長を見つけたら会話と映像を録画しろ。頼んだぞ」
ホルアクティを撫でると、窓から音もなく飛び去った。
あとは勝手に情報収集してくれるし、俺は遺跡調査に専念できる。まずはギルドで遺跡位置の確認、そして許可を得る。
なんか盗撮みたいでちょっと気が引ける······仕方ないよな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日。
学校の準備をするとクトネは言い、今日は俺とブリュンヒルデだけで町を歩く。
目的地は冒険者ギルドで、遺跡調査の許可を得るためと、冒険者等級を上げるため依頼でもチェックしようと考えていた。
なんだかんだで冒険者だし、お金を稼がないと生きていけない。レダルの町で稼いだ金貨もあまり使いたくないけど、旅の資金はどうしても減っていくからな。
それと、装備も整えたい。
ブリュンヒルデは『レアメタルソード』に『|戦乙女の鎧(ヴァルキュリア・メイル)』←命名・俺を装備してるからいい。でも俺は金貨10枚の『|名もなき刀(サムライソード)』にシャツとズボンだ。これじゃあまりにもショボすぎる。ある程度装備を整えないと、初心者と間違われて、またカモにされる可能性もある。もうウェイドたちみたいな思いはしたくない。
レダルの町で旅の支度をしたから、140枚残っていた金貨は130枚に減っている。
まずは防具屋で、みすぼらしくない程度に装備を整えよう。
そんなわけで、まずは防具屋へ。
『センセイ、何かいい事でもあったのですか?』
「え? なんでだ?」
『センセイの脳波から軽度の興奮状態が見られます』
「いや、別に何でもないぞ」
『はい、センセイ』
まさか、『装備を整える』ことに興奮してるなんて言えないよな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
町の防具屋は『盾』の看板を出してるので簡単に見つかった。
防具屋には少しトラウマがある。だが、冒険者として知識を付けた今、そう簡単には騙されない。
防具屋に入り、さっそく店内を物色した。
「お〜······」
教室ほどの店内には様々な防具が並べられてる。
甲冑や胸当て、篭手やレガース、盾や革鎧がある。だが、魔術師が着るようなローブが店内の半分以上を占め、魔女が被るような三角帽子やローブ下に着る下着なんかも売っていた。
さて、何を買えばいいんだろうか。
こんなときスマホで『冒険者 装備 初心者』と検索すれば楽なんだが、あいにくとそんなハイテク機器はない。というかまず、ネットに繋がらない。
「う〜ん、どうしようか、ブリュンヒルデ」
『高性能防具を選択するべきかと』
「いや、予算もあるし。それに、どうせなら格好いいスタイルで······なんて」
どうせなら、剣士風の防具を装備したい······なーんて。
オストローデ王国じゃ軍服だけだったし、今となっては不明だけど、あの軍服が防具代わりだったのかもしれない。レダルの防具屋の『鑑定』チートでも見破れない魔術がかけられていたみたいだし。
さて、どうするか。
「う〜ん······」
『·········』
当然、ブリュンヒルデのアドバイスはない。
高性能な防具であり、なおかつ安価、そして格好いい。
魔術師ばかりの装備の中にある戦士風の防具の中から、どれを選ぶべきか。
「失礼、剣士とお見受けする。何かお悩みだろうか」
「え、ああ、実は装び············っ‼」
硬そうな甲冑を眺めていると、横から声をかけられた。
思わずフツーに返事をしてしまい、隣に顔を向けて······驚いた。
「ふむ、珍しい剣を持っているな。細く長いレイピアのような剣だ。軽量級の剣士なら重量のある甲冑より胸当てや篭手を装備するのがいい」
「あ······は、はひ」
「ここで会ったのも何かの縁だ。私でよければ助言しよう」
「·········お、お願いします」
とんでもない美女がそこにいた。
煌めくような長い金髪のポニーテール。整った容姿。白を基調とした清潔感あるシャツ。紺色のロングスカート。
喋り方がキチッとした騎士のようで、とても高貴で育ちの良さそうなお嬢様って感じだ。年齢は20代前半くらいだろうか。
そして何より、シャツを強引に盛り上げる2つの塊······すげぇ。
超絶美女はブリュンヒルデに視線を移した。
「再び会えたな、銀髪の戦姫」
『はい。先日はどうも』
「え? 知り合い?」
『はい。センセイもお会いしました』
「は?」
こんな超絶美女、一度見たら忘れそうにないけど······覚えがないぞ?
すると、超絶美女はクスクスと子供のように笑う。
「ははは、さすがにわからんよ。昨日は兜を被っていたし、声も違っていたからな。やはり君は私がわかったか······」
「か、兜? え?·········兜って、まさか」
昨日、兜、被っていた。
兜。つまり、いやまさか、この人が。
「初めまして。私は『|暗夜騎士団(ナハトナイツ)』総団長、ルーシア・アルストロメリアだ」
この超絶美女が、黒騎士の中身·········マジで?
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