第25話魔術師の町

 マジカライズ王国。

 魔術師の国であり、魔王が治める大国。

 高い壁に覆われ、国中の至るところに川が流れた美しい町並みが特徴で、その川は運搬や観光などにも使われる。

 国の見どころは、なんと言っても『マジカライズ王立魔術学園』であり、魔術師を目指す者は誰もが憧れる大学校。

 そして驚くべきところは、マジカライズ王立魔術学園は、このマジカライズ王国の『王城』をそのまま使用しているところだ。つまり、王の居城である城がそのまま学園になっているという、まさに魔術魔術の大国である。

 そんな魔術の大国に、魔術と対極の存在であるアンドロイドのブリュンヒルデと、日本の学校で教師をしていた俺という異色の冒険者は到着した。

 同行者のクトネは、国の入来である巨大な門の前で両手を開く。


「ようこそ‼ 魔術師の国マジカライズへ‼」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 門を抜けると、そこは大都会だった。

 オストローデ王国を彷彿とさせる人、人、人。人の洪水。

 地面はタイルによって整備され、広い道には馬車や冒険者たちの姿が当たり前のように見える。

 道の両脇には街灯が設置され、文化の水準が高いことを伺わせる。それに、メインストリートから少し離れると、街の中を川が流れ、その上を船が通っていく。

 イタリアの水の街を彷彿とさせる町並みに、俺は感動していた。


「すごいなぁ·········こんなキレイな町、見たことない」

「そりゃそうですよ。ここマジカライズは観光地でもありますからね。見どころはたくさんありますよ!」

「へぇ〜······」


 俺はお上りさんみたいにキョロキョロしながら歩く。そしてブリュンヒルデはまっすぐ前を見て歩いていた。


「ブリュンヒルデ、いい町だな」

『はい、センセイ』

「でしょでしょ! と、それでセージさん、ブリュンヒルデさん、これからどうするんです? そういえばセージさんたちの用事ってなんなんですか?」

「あー、えーと、とりあえず宿を取って休もう。用事はその······お、お金稼ぎかな。ギルドで依頼を受けようと思って。あと遺跡調査だね」

「へぇ〜、ギルドはともかく遺跡調査とは。セージさんは考古学者なのですかな?」

「ま、まぁそんなもんだ。それより、オススメのいい宿を知らないか?」

「ふ〜む。もしよかったら、あたしの家に来ますか? 気ままな一人暮らしで部屋も余ってるし、お風呂もありますよ?」

「一人暮らし? 両親はどうしたんだ?」

「両親は農家でして、近くの集落に家を持ってます。あたしはおじいちゃんが魔術師だっので、弟子入りをするためにここにあるおじいちゃんの家に住んでたんです。それで、おじいちゃんが亡くなったので、あたしが全部相続したのですよ」

「なるほど······」


 お金はあるけど無駄遣いはしたくない。でも、宿を取ったらホルアクティで情報収集しようと思ってた。クトネに見られたら面倒なことになりそうだが······むむむ。


「さささ、世話になったぶんお返しはしますよ! あたしの家はこっちです!」

「お、おい⁉」

『·········』


 クトネは俺とブリュンヒルデの背後に回り、背中をグイグイ押してくる。

 やれやれ、どうやら宿は決まったようだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 メインストリートから外れ、裏道を通り到着したのは、なんの変哲もない一軒の家だった。

 煉瓦造りの二階建て。どこにでもありそうな普通の住宅である。


「ここがあたしの家です。ささ、どうぞどうぞ」

「はあ······じゃあ、おじゃまします」

『失礼します』


 家の中も普通だ。

 椅子テーブル、暖炉、キッチンに、部屋へ続くドアと二階へ上がる階段。ありふれた一軒家だが、なんと出迎えがあった。


「ただいま、シリカ」

『んなーご』


 家の中には、一匹のブチ猫がいた。

 なんというか······ずんぐりむっくりしたデブ猫だ。可愛らしいけど、表情がなんか不満そうに歪んでる。


「紹介します、この子はあたしの使い魔でシリカって言います。可愛いでしょ?」

「あ、ああ······ってか、ずっと留守だったのに、メシはどうしたんだ?」

「それは大丈夫です。この子は頭がいいんで、外で食べてきてるんですよ。はい」

『·········』

『なーご』

 

 なんとクトネは、シリカをブリュンヒルデに渡した。

 ブリュンヒルデはシリカを抱っこすると無表情でジッと見つめる。


『·········』

『なーご、なぁ〜ご』

『·········』

「ぶ、ブリュンヒルデ、大丈夫か?」

『はい、センセイ』


 シリカは特に暴れず、ブリュンヒルデに抱っこされていた。

 まぁ問題なさそうだ。放っておこう。


「二階の部屋が空いてますから自由に使っていいですよ。それとあたし、久しぶりなんでお風呂入れますね。ブリュンヒルデさんも旅の汗を流しましょうぞ!」

『問題ありません。私の身体は老廃物の排出がされな』

「そうだな‼ じゃあブリュンヒルデ、荷物を部屋に置いたら買い物済ませるか。今日は豪勢にいくぞ!」

『はい、センセイ』

「ではさっそく始めましょうか!」


 クトネは風呂掃除に向かい、俺とブリュンヒルデは二階へ。

 二階は少し埃っぽく、買い物前に軽く掃除をしてブリュンヒルデと買い物へ。

 

「世話になるし、夕飯代は俺たちで持つか」

『はい、センセイ』

「メシを食ったらホルアクティを飛ばして町の周囲の情報を集めてみる。とりあえず、遺跡の位置を調べてみるか。クトネにいろいろ聞くのもいいな」

『はい、センセイ』

「ナハティガルは、そうだな……クトネに頼んで面会を希望してみるか。クトネの言う通りの人物なら、いきなり捕獲とかされないだろうし」

『はい、センセイ。捕獲の兆候が見られましたら戦闘に入ります』

「いやそれはマズいだろ。戦闘は最終手段、まずは遺跡の調査を優先して、チートのレベル上げと使えそうな古代のアイテムを回収するか」

『はい、センセイ』

「やれやれ、何から手を付ければいいか悩む……それに、旅を続けるなら金も必要だし、冒険者ギルドに行って依頼を確認するのもいいかもな」


 今後の方針は決まった。

 ナハティガル理事長との面会、遺跡の調査、お金稼ぎ。

 まずは遺跡調査だが、レダルの町近くの『フォルス神殿』みたいに、ギルドの許可が必要あるかどうかも確認しなきゃいけない。

 

「いろいろあるけど、まずは夕飯の買い出しだ」

『はい、センセイ』


 というかブリュンヒルデ……『はい、センセイ』ばっかだな。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 メインストリートにはたくさんのお店があり、肉屋・魚屋・八百屋で買い物を済ませた。

 武器屋や防具屋、そしてアクセサリーショップやマジックアイテム屋なんてのもあり、興味を引かれたがなんとかこらえて帰路へ。

 さすが魔術の町。魔術関連の店が多く建ち並んでいる。

 俺とブリュンヒルデは、荷物を分担して持つ。


『センセイ、私のパワーならこの程度の荷物運搬は』

「いやいや、女の子に荷物持たせて俺が手ぶらじゃマズいだろ?」

『センセイ。私は女の子ではありません。女性型アンドロイドです』

「そうだけど、いいかブリュンヒルデ。お前は確かにアンドロイドだけど、見かけは女の子なんだ。女の子に重そうな荷物を持たせて、男の俺が手ぶらだったらどう思う?」

『問題ありません』

「いや、あるんだ」

『………何故でしょうか?』

「いいか、男は女の子に優しくするのが当たり前なんだ。そしてブリュンヒルデ、お前は俺から見ると『女の子』だ。つまり、男の俺はお前に優しくする。というか、男ってのは女の子に優しくするのが当たり前なんだよ。そこに深い理由なんて無い。男に生まれたから女の子に優しくするのは当然なんだ」

『理解出来ません。私は女性型アンドロイドというだけであり、身体能力は全てにおいてセンセイより上です。効率を重視するならセンセイの荷物は私が持つべきです』

「ダメだ。効率とか身体能力とかじゃない。これは俺の男としての意地だ」

『……………』

「ブリュンヒルデ、いつかお前にもわかってもらいたいな。人間の感情を学べばきっと分かると思うぞ」

『……………』


 ブリュンヒルデは、真っ直ぐ俺を見るだけだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 クトネの時もそうだったが、出会いというのは唐突にやって来る。


「ん? なんだあれ……?」

『…………』


 メインストリートを歩いていると、|それ(・・)は道の真ん中を歩いてやって来た。

 それは、漆黒の甲冑を纏った10人ほどの集団だ。

 ガシャガシャと甲冑を鳴らしながら、まるでゲームに出てくる暗黒騎士みたいな連中が闊歩していた。どうやら外からやって来たみたいだ。

 石畳の広いの中央を歩くことによって、その存在感をさらに大きく見せているような。現に、道行く人たちはみんな左右に分かれ、その集団に道を譲っていた。


「………あ、もしかしてクトネが言っていた『|暗夜騎士団(ナハトナイツ)』か?」


 黒い騎士集団。こんな特徴的なのは間違いない。

 俺も周りに習い、道を空けようとした………が。


「お、おいブリュンヒルデ、こっち来い、邪魔になるぞ」

『センセイ、なぜ道を空けるのでしょうか』

「邪魔になるからだよ!! いいから来い」

『邪魔。邪魔とは私たちのことでしょうか。理解不能』

「いいからこっちに、ってああっ!!」


 遅かった。

 黒い甲冑騎士団は俺とブリュンヒルデの目の前で止まった。

 ヤバいヤバいヤバい!! さっさとここから離れないと。


『…………』

『…………』

「ええと、すみませんすぐに退きます!! ほらブリュンヒルデ!!」


 真ん中を歩いていた漆黒の甲冑騎士はブリュンヒルデをジッと見つめる。というか、この真ん中の人だけ甲冑の装飾が違う。腰に下げてる剣も柄や鐔が凝って……って、んな観察してるヒマじゃねぇ!!


『すまない、道を空けてくれ』

『なぜでしょう。私とセンセイが道を譲る理由がありません』

「おふぁーーーっ!? ばばばバカ!! 何言ってんだお前ーーーッ!?」

 

 黒騎士はくぐもった声でブリュンヒルデに言うが、なぜかブリュンヒルデは道を譲ろうとしない。そうだこいつ、俺の言う事は聞くけど他人の命令には従わないんだ。俺の言う事でも疑問がある場合は行動よりも疑問を優先しちまう悪い癖……いや、プログラムなのか。

 すると、黒騎士は言う。


『ははは、確かにその通りだ。道は誰の物でもない、キミの言う通り、キミ達が道を譲る理由などない』

「ああああの、もも、申し訳ありません!!」

『センセイ、なぜ謝るのですか?』

「お前はもう黙ってろ、しーっ!!」

『気にしなくていい。このような漆黒の甲冑を纏ってるからか、恐怖の象徴のように思われているのは知っていたが、キミのように真っ直ぐな疑問をぶつける人間は久し振りだ。それに……キミは恐ろしく強く、そして無を感じさせる』

「え……」

『銀髪の戦姫、キミとはまたどこかで会いそうだ』

『それは人間の持つ『|第六感(シックスセンス)』という感覚でしょうか。到底理解出来ませもが』

「も、申し訳ありません!! 失礼します!!」


 俺はブリュンヒルデの口を押さえてブリュンヒルデの腕を引っ張り、その場をあとにした。

 あーもう、マジで寿命が縮んだぞ……なんであんな怖そうな騎士団にケンカ売るようなことになってんだよ。


 ちなみに、黒騎士の予感は当たることになる。

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