第24話マジカライズ王国

「り………理事長が、魔王?」

「ええ。魔王なんて言われてますけど、ナハティガル理事長は素晴らしいお方ですよ。7属性全てをその身に宿した『|魔術帝(マジックロード)』であり、自らが生み出した『夜』属性を操るこのアストロ大陸最高にして至高の魔術師! 彼女の生み出した魔術は1000を超え、魔術師の教本である『|魔術大全(マジック・インデックス)』は全ての魔術師が所有するといわれてる」

「わ、わかった!! ちょっと落ち着け!!」

 

 ナハティガル語りが止まらないクトネ。というか身を乗り出してグイグイ迫って来た。

 クトネを押し返して落ち着かせる。せっかくなのでナハティガル理事長とやらの話を聞こう。


「理事長がスゴいのはわかった。でも魔王って呼ばれてるんだろ?」

「ええ。理事長が『魔王』と呼ばれるようになったのは、理事長の護衛のために組織した騎士団の存在があるからですね」

「騎士団?」

「ええ、理事長直々に鍛えた精鋭の魔術騎士団で、その名も『|暗夜騎士団(ナハトナイツ)』。漆黒の鎧を纏い、卓越した剣技とA級レベルの魔術を融合させた『|魔剣士(マジックナイト)』たちです」

「騎士団……」

「はい。まぁあんな真っ黒な鎧を着た連中がナハティガル理事長の周りを常にうろついてるんですもん、理事長も『魔王』なんて呼ばれますよ」

「………え、そんだけ?」

「はい」


 ええと、なんというか……この時点では、ナハティガルは悪い魔王じゃなさそうな気がする。

 

「『|暗夜騎士団(ナハトナイツ)』が結成されたのはもう50年くらい前らしいですねー、あたしが生まれるずっと前だからわからんですけど、どうも理事長の暗殺騒ぎがあったから、腕の立つ魔術師じゃなくて騎士団を結成したとか」

「暗殺ねぇ……」

「他の魔王がどんなやつか知らないですけど、ナハティガル理事長は素晴らしいお方ですよ。あたしもまだ1回しか会ったことないけど、優しい方でした……」


 うーん、どうやらいい人みたいだ。

 クトネがウソを付いてる可能性もある。ウェイドの件があったばかりだし、迂闊に信用するのも……でも、こんな少女が俺を騙すなんて……うーん。

 やっぱり、自分の目で確かめて話を聞きたい。

 オストローデ王国のことも『魔王』と呼ばれてるナハティガルから聞けば、いろいろな情報を得ることができるかもしれない。

 あと、これも聞いておこう。


「なぁクトネ、マジカライズ王国の周辺に、遺跡なんかあるか?」

「遺跡? そんなのいくらでもありますよ。でも、調査され尽くされてますから、お宝は期待できませんよ~?」

「ははは、そうかもな。|普通のお宝(・・・・・)は期待できないかもな」

「へ?」


 首を傾げるクトネに、俺は曖昧に答える。

 やっぱり遺跡はある。アンドロイド側の施設か人間側の施設かはわからんが、調査をすれば面白い物が見つかるかもしれない。

 それに、俺のチートもレベルが低いし、片っ端から修理してレベルアップさせたい。

 

「さーて、そろそろ寝るか。クトネ、テントだけど」

「もちろん一緒で。セージさん、あたしみたいな子供に興味ないでしょ? あたしの観察によると……セージさんは同年代かやや年上好きと見ました」

「どういう観察だよ……」

「むひひ、でも寝る前に身体を拭きたいんでお先でーす。覗いちゃイヤよん♪」


 クトネはテントへ入り、俺とブリュンヒルデが残された。

 というか、ブリュンヒルデのヤツ全く喋らなかった。


「ブリュンヒルデ、遺跡がいっぱいあるってさ。お前の姉妹機も見つかるかもな」

『はい、センセイ。ですが起動するかどうかはわかりません。私のメモリーに残された情報によると、ボディ修復のためにナノポッドへ収納された際、メインコアである『ヴァルキリーハーツ』とメインウェポン以外の武装を全てアンインストールされました。私たち『戦乙女型』の精神中枢である『ヴァルキリーハーツ』は稀少結晶ですので遺跡内に安置されてる可能性は限りなく低いと思われます』

「え……じゃあ、お前が起動したのは運が良かったとか?」

『はい。センセイが発見した『ヴァルキリーハーツ』は予備の物です』

「マジか……で、でも、可能性はゼロじゃない。ブリュンヒルデ、お前の姉妹を見つけたら動かせるように頑張ろうな!」

『はい、センセイ』


 さて、やることはかわらない。

 魔術の習得、遺跡調査、情報収集。

 まずは、マジカライズ王国へ向かって情報収集だ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 翌日、俺とブリュンヒルデ、そしてクトネの3人でマジカライズ王国へ向けて歩く。

 街道は横幅が広いので、3人並んで歩いても問題ない。のんびり歩いていると、クトネが言った。


「はいはいセージさんセージさん、歩いてるときも集中集中。昨日やったように魔力を指先に集中させて下さい」

「え、ここで?」

「当然です!! 魔力を集中させるなんて初歩も初歩、というかこの程度出来ないと魔術なんて使えませんよ?」

「ぐ……わ、わかったよ」


 俺は人差し指を立てて集中する。

 ゆっくりと指が熱くなり……。


「はいどーん」

「おわっ!? あああっ!!」


 クトネが俺の背中に頭突きした。

 おかげで集中した魔力が散ってしまい、無駄な魔力を消費してしまう。


「な、なにするだよクトネ」

「ほらほら、この程度で集中を乱しちゃダメダメです。歩きながら、呼吸するように魔力を集めて下さいよ、こーんな風にね」

「うぉ……っ!?」


 クトネは両手を開き、10本の指全てに魔力を集中させていた。しかも指をワシワシ動かしながら、集中してるようには見えない動きと顔で俺を見てる。


「まぁここまでやれとは言いませんが、せめてあたしとお喋りしながら指一本の集中はしてください。魔力の操作は全ての魔術の基礎ですから、魔力の集中は毎日欠かさずこなすこと!」

「は、はい、クトネ先生」

「むっひひ、先生っていい響きですな~」


 クトネはニヤニヤしながら俺をばしばし叩く。

 全く、どう見ても子供だが俺の魔術の先生だ。言う通りにしなきゃな。


「さ、もう一回ですよセージさん」

「よーし、やってやる」

『………』


 ブリュンヒルデは、終始無言で歩き続けた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 その日から、移動の際は魔力を集中させながら歩くことに。

 クトネは俺の集中を邪魔しようと話しかけまくってくるし、俺もそれがわかっていたからひたすら指先に魔力を集中させて歩いた。

 慣れない魔力操作は心身ともに疲弊する。

 魔力が少なくなってくると身体も重くなってくる。歩くペースも次第に落ち、マラソンをしたような疲労が全身を包む。俺は立ち止まり、その場でしゃがんでしまった。

 だが、クトネは手加減しない。

 

「ほらほらセージさん、ガンバガンバ」

「むぅ··········はぁ、はぁ」

「う〜ん、これまで失った魔力から計算すると······セージさんの魔力はフツーの人よりやや多いくらいですかね」

「そ、そう、なのか······?」

「ええ。まぁ魔力量は魔術を使えば使うほど増えていきますんで、魔力を枯渇させまくってどんどん増やしていきましょう!」

「·········お、おう」

「マジカライズ王国まであと数日の距離です。指先一本分くらいの集中はマスターして欲しいですねぇ」

「が······頑張ります」


 魔術って······大変だわ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 それから数日後。マジカライズ王国まであと少し。


「つまり、魔術とはG〜A級に分類され、上レベル魔術ほど消費する魔力が増大します。セージさんの今の魔力ですと、せいぜいE級レベルでしょうね」

「E級、下から3番目か。たいしたことないな」

「いやいや、そんなことないですよ? セージさんの魔術特性は『地』と『雷』ですし、上手く使えば上級レベルの魔術一発分の使い方はできまっせ。

例えば······どーんっ‼」

「おっと⁉ あ、危ない危ない」


 俺は、指先に魔力を集中させながら会話ができるようになった。しかもクトネの不意打ちタックルを食らっても集中が途切れないほどに。


「ふむふむ、不意打ちでも集中を途切らせないとは、この数日でだいぶ上達しましたな」

「ああ、なんとなくコツが掴めたよ」

「ふふふ、そろそろ次のステップに移っても良さそうですな」

「お、ってことは!」

「ええ、簡単なG級魔術から始めましょうか······と、言いたいですが」

「え?」


 クトネは前方を向き、俺も視線を移した。

 ブリュンヒルデが何も言わないから気付かなかった。目の前には、巨大な王国が見えていた。


「マジカライズ王国、到着です」

「おお······ついに」

『お疲れ様です、センセイ』


 ついに、魔術の王国マジカライズへ到着した。

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