第23話魔術指南

 魔術師の少女クトネ。

 マジカライズ王立魔術学園の一年生で、『特待生』として入学した。特待の理由はもちろん、生まれながらに宿っていた『チート』のおかげだ。

 年齢は14歳で、両親ともに健在の一人っ子。好きな食べ物はハニートーストとホットミルク。

 持ってる杖は魔術師だったお爺ちゃんから受け継いだ物で、持ってるだけで魔術の効果を引き上げる『マジックアイテム』なのだそうだ。


「ま、あたしについてはこんなとこですな。もちろんチートは秘密です」

「わかってるよ。指輪持ちにチートを聞くのはマナー違反だろ」

「ええ。冒険者なら当然ですな」


 現在、街道脇の木の下で休憩中だ。

 そこでクトネについていろいろ聞いていたら、詳しいプロフィールを話してくれた。

 レダルの町で買ったビスケットを齧りながら話していると、クトネが言う。


「ところで、セージさんの魔術特性はなんでしょう? 特性がわからんと指南のしようがないですわ」

「ま、魔術特性?」

「あー……もしかして、魔術についてなんも知らんのですか?」

「………」


 俺は目を逸らした。

 だってしょうがないじゃん……オストローデ王国では、戦闘グループに混ざっての体力作りがメインだったし、支援グループではチートの発現練習しかしなかった。支援グループでは魔術の授業とかやってたけど、俺は全く参加しなかったからな。

 すると、クトネはなぜか嬉しそうだった。


「むふふ、仕方ないですなぁ。なんにも知らないということを前提にして、あたしがイチから教えてしんぜよう!」

「ああ、よろしくたのむ」


 なるほど……クトネのやつ、誰かに教えるのが嬉しいのか。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 というわけで、今日は先に進むのをやめてクトネの魔術授業となった。

 俺とブリュンヒルデは並んで座り、大木を黒板に見立ててクトネが前に立つ。


「えーでは、これより魔術についての授業を始めます!」

「はい、先生」

『はい、クトネ』

「む、ふふふ……先生、ってブリュンヒルデさん! あたしのことは先生と呼ぶように!」

『申し訳ありません。私のセンセイはセンセイだけですので』

「むー……まぁいいです。では授業を始めましょう」


 ちょっと不満そうだがクトネは授業を始めた。


「まず、魔術とはなんでしょうか。セージさん」

「魔術って……ええと、魔力を使って起こす現象、だよな?」

「はい正解。いいですか、魔力とはこの世界に生きる者ならば誰でも持っています。人間、獣人、エルフ、ドワーフ、魔族など、個人差こそあれ生物の身体の中には必ず存在してるんです。もちろんモンスターにも」


 クトネの話はわかりやすかったが、俺としてはエルフやドワーフが存在することのほうが事件だった。獣人はオストローデ王国で見たことがあるけどな。


「魔術は大きく分けて7つの属性に分類されます。最も多い『地水火風』の4属性、稀少と言われる『光闇雷』の3属性です。ちなみにあたしは『火・風・地』のトリプルです」

「トリプル?」

「ええ。普通の人の魔術特性は1つなんですが、なんとあたしは3つの魔術特性を持つ『|三種使い(トリプル)』なのです! むふふふ、トリプル魔術師はマジカライズ王国でもかーなーり珍しいんです。あたしが特待生になれたのもこの才能のおかげですけどね」

「ほぉ、さすがだな」

「いやーっははは、それほどでもでも!」


 クトネは頭をポリポリ掻いて照れていた。

 するとクトネは杖を手に取る。


「まずセージさんとブリュンヒルデさんの魔術特性を調べましょうか。ちょっと手を出してくれますかね」

「ん、おお」

『………』


 俺は手を差し出し、ピクリとも動かないブリュンヒルデを軽く肘で小突いて手を出させる。するとクトネが杖で俺とブリュンヒルデの手をコンコン叩いた。

 そして、俺の手から2つの光球が現れた。


「な、なんだこれ!?」

「ふほぅ、セージさんは『|二種使い(ダブル)』ですね。ブリュンヒルデさんは………ありゃ?」

『………』


 俺の手には、野球ボールくらいの大きさの光球が二つ。色は黄色と紫。

 ブリュンヒルデの手には……何もなかった。


「なぁ、何をしたんだ?」

「え、ええと。セージさんとブリュンヒルデさんに流れる魔力を、あたしの魔力で色付けして丸めて出したんですけど……ブリュンヒルデさん、魔力が全く流れてない? お、おかしいですね?」

『………』

「お、俺は?」

「セージさんは二つの魔術特性を持ってますね。『土』と『雷』属性とは、偏った組み合わせですねぇ」

「ふーん……」

「それより、ブリュンヒルデさんの魔力が全く流れてない……こんなの、今までなかったです」

『私に問題はありません。申し訳ありませんが、魔術の習得は不要です』

「そ、そうですか……? わ、わかりました。ではセージさんだけ、魔術の使い方を教えますね」

「お、おう、頼む」


 ブリュンヒルデはアンドロイドだから魔力が流れていない、ってことだよな。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「いいですか、セージさんの体内には魔力が流れています。魔術とは、魔力を燃やして起こす『現象』です。つまり、起こすのは自分の意志です」

「は、はい」

「まず、指先に魔力を集めて下さい。こんなふうに……」


 クトネの指先がボンヤリと光ってる。すげぇ。


「指先に魔力を集中させるイメージです。大事なのはイメージ、イメージ……」

「イメージ……」


 俺は右手の人差し指に魔力が集まるイメージをする。

 全身に流れる魔力。ようは体内循環してる血液みたいなもんだ、血液と違うのは自身でコントロールが可能ということだ。

 

「…………」

「ゆっくり、ゆっくり……体内に流れる魔力をイメージ、そして指先に……」

「………っ!!」


 3分ほど経過しただろうか、指先が熱くなってきた。

 いつの間にか俺も汗をかいている。指先がドクンドクンと脈打ってる気もする。

 そして、ほんのりとだが……発光してる。


「お、おお……っ」

「そう、それが魔力です。なんの属性も宿っていない純粋な魔力。本来はそれに『属性』という色付けを行って放出するんです。セージさんは『土』と『雷』属性ですから……」


 クトネがブツブツ言っていたが俺は聞いていなかった。

 初めて、異世界らしい能力を使った気がする。『|修理(リペア)』は魔力を使わない異能だから、使ったって実感がちょいと薄い。なので、汗を流して魔力を練ったこの感覚がとても気持ちいい。

 

「というわけで、まずは魔力を自在に操れるようになりましょう!!」

「………ん、あ、お、おう!!」

「………セージさん、聞いてましたかな?」

「………すまん、聞いてなかった」


 クトネに頭を下げて気が付いた。

 ブリュンヒルデがいない。


「あれ、ブリュンヒルデは?」

「さぁ? お花を摘みに行ったのでは?」

「それはない。あいつが俺に黙っていなくなるなんて……」


 と言った瞬間、ブリュンヒルデが現れた。

 しかも、手には黒いブタみたいなモンスターを掴んで引きずっている。


『モンスターを感知しましたので討伐しておきました。センセイ、夕食にはこちらの肉をお使い下さい』

「おお!? セージさんセージさん、これって高級肉のブラックピッグですよ!! わぁい今日はお肉お肉っ!!」

「おお、でもよかった。急にいなくなったから驚いたぞ」

『申し訳ありません。センセイは集中していたので、邪魔するべきではないと判断しました』

「はは……そういうことね」


 どうやら、ブリュンヒルデは気遣ってくれたようだ。

 これも成長なのか。それとも俺だけに見せる気遣いなのか。


「ささ、セージさんセージさん、今日はここまでにして食事にしましょう!!」

「そうだな、なんか腹減ってきたわ……」

『では、かまどの準備とテントの設営はお任せ下さい』


 というわけで、今日は初めて魔力を使った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 黒豚の内臓を処理し、豪快な豚ステーキを3枚焼いた。

 分厚い肉がフライパンの上でジュウジュウといい音を出しながら焼け、いい香りが空腹を刺激する。

 俺の隣で調理を見ていたクトネが、ヨダレを垂らしながら見ていた。


「おぉ~♪ まさか同行初日にこんな贅沢な夕飯が食べられるなんて……♪」

「確かに、これはブリュンヒルデに感謝だな」

『お褒めにあずかり光栄です』


 ステーキはシンプルに塩コショウで。というか塩コショウしかない。

 焼けた肉を皿に移し、適当な野菜を添える。

 かまどの火を3人で囲み、野営初の肉料理を食べる。


「さぁ、今日は豪勢な豚ステーキだ! いただきます!」

「いただきま~すっ!!」

『いただきます』


 豚ステーキは油が多いがサッパリした油で、白い脂身もしっかりと噛みきれる。塩コショウの塩気と上手く絡み合い、絶妙な美味しさだ!


「うまい!!」

「うまいですっ!!」

『……』


 俺とクトネは顔を合わせて微笑むが、ブリュンヒルデは無表情でモグモグ食べている。

 全く変わらない表情で口をモグモグ動かす姿はちょっと怖い。

 あっという間に黒豚を完食し、クトネと俺は白湯を啜る。

 食後の団欒、もとい情報収集といきますか。


「なぁクトネ、マジカライズ王国ってどんなところだ?」

「はぁ~温まる……んえ? ああマジカライズ王国ですか? そーですね~……一言で表すなら魔術の国ですな。右も左も魔術魔術、冒険者ギルドもありますし武器防具屋もありますけど、売ってるのは魔術師の装備ばっかりですね~。それに、あたしの通ってる『マジカライズ王立魔術学園』にはよく冒険者の方が来ますよ」

「学校に冒険者? なんで?」

「そりゃもちろん、スカウトのためですよ。冒険者グループにとって優秀な魔術師は喉から手が出るほど欲しいですからね。あたしも何度かスカウトされましたけど、入学して1年も経ってないし断りましたわ」


 クトネは白湯を啜り、ほんわりと息を吐く。

 

「それに、あたしは理事長に憧れて魔術学園に入学したんです。特待生枠なら直接お会いする機会も多いですしね」

「理事長?」


 白湯の残りを煽り、クトネは誇らしく言った。


「ええ、理事長は『|夜の女王(ニュクス・クィーン)ナハティガル』と呼ばれてる『魔王』の一人です」

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