第20話真実と結末
工場から出て遺跡からも出る。
外の空気を胸一杯に吸い込み、思い切り吐く。
「っ~~~~~っはぁ~~~~っ」
外は明るく、爽やかな風が緑の香りを運んでくる。
蒼い空、そして白い雲。振り返れば古代の遺跡、もといアンドロイド生産工場。
仲間だった連中に裏切られ、有り金全部を奪われかけて……ブリュンヒルデが救ってくれた。
「なぁブリュンヒルデ、ウェイドたちのことだけど……」
『報復行動の可能性あり。次に遭遇し敵意を向けられた場合、殺害します』
「………」
それはダメだ、といえなかった。
殺されかけたのは事実だし、ウェイドたちの目的は強盗だった。
でも、世話になったのは事実だし、冒険者のイロハを教えてくれた。
それに、ブリュンヒルデが言った通り、報復の可能性がないわけじゃない。一刻も早くレダルの町から離れるべきだろう。
だが、どうしても気になることがあった。
もしかしたら最初から仕組まれていたのかもしれないという、疑惑。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ちょっと緊張しながらレダルの町の入口へ。
だが、特に騒ぎが起きてる様子はない。門兵も欠伸してるし、平和そのものだった。
なので、軽く会釈をして町中へ。そして寄り道せずに宿へ。
部屋に入り、カギを掛ける。
「よし、出ていいぞ」
そう言うと、俺の肩に金属製のフクロウが現れる。これは、AI搭載型偵察機『ホルアクティ』の機能の1つである『ステルス迷彩』だ。某ヘビも使用できる最新技術。まさかこのフクロウに搭載されてるとは思わなかった。
まだまだ特殊機能はあるが、それよりも仕事をお願いする。
俺は窓を開け、肩にいるフクロウに命令した。
「いいか『 』に、行け」
命令すると、ホルアクティはステルス迷彩を発動させ、音もなく飛び立った。
俺はベッドに座り、右手首に装着したバンドに送られてくる、ホルアクティからの映像を見ていた。
ブリュンヒルデは、壁際に立ったまま質問した。
『センセイ、どこを偵察してるのですか?』
「決まってる……」
俺はホルアクティを操作し、情報を集めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ホルアクティを操作して2日。この2日でかなりの情報が集まった。
というか……このロボフクロウ、とんでもない性能だ。操作してる内にいろいろな機能が搭載されていることを知り、実験しながらバンドの立体映像型タッチパネルを操作する。
この2日、ブリュンヒルデには申し訳ないが一切外出せず、食事は一階の食堂のみで済ませた。
さて、ここで軽くロボフクロウ『ホルアクティ』の機能の一部を紹介する。
まずエネルギー。これはブリュンヒルデと同じ太陽光で、日光を吸収して熱エネルギーに変換している。そしてメンテナンスは体内に搭載されているナノユニットが自動クリーニングを行うので、稼働時間は事実上の無限。そして俺の右手首に装着されてるバンド型コントローラーも、俺の僅かな体温を吸収してエネルギーにしてるらしい。
とんでもない技術だが、ブリュンヒルデ曰く昔は太陽光エネルギーは当たり前だったらしい。ソーラーパネェな。
ホルアクティの機能1、カメラ。
これはホルアクティの視界を共有することができる。まぁドローンに搭載されたカメラ映像をスマホで見るような物だ。もちろん録画も出来る。
機能その2、ステルス迷彩。
これは単純。姿が消える。まぁゲームでもありがちな性能だ。
機能その3、集音機能。
マニュアルによると、半径20キロ圏内の音声を拾える。しかも録音機能付き。
機能その4、マルチツール。
ホルアクティの口からコードのような物がニュッと伸び、アンドロイド兵のメモリーにぶっ差すことでデータの吸い取りが出来る……って、今の時代じゃ使えない。
なんてことはない。このマルチツールは万能で、鍵を開けたりスタンガン程度の電気ショックを起こすことも出来る。なんでも、緊急時にアンドロイド兵のメモリーを電気で破壊するためだとか。
まぁとりあえずこんなところだ。こいつは、これからの情報収集で役に立つ。それに、まだ隠し機能もあるみたいだしな。
この2日で操作にもだいぶ慣れたし、欲しい情報も集まった。
俺は、この二日間不満の1つも漏らさずに壁際待機してるブリュンヒルデに言う。
「ブリュンヒルデ、出発は明後日、明日は旅に必要な道具を買いに行こう」
『はい、センセイ』
あとは、真実を明らかにしよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日。町で旅の準備を済ませた。
テントに保存の利く食料、着替えをいれる大きなリュックに、身につける様々な小物、調理道具や調味料など、必要な物はあらかた揃えた。これもウェイドたちから習った冒険者の知識で揃えた物である。
荷物が増えたため馬を買おうとしたが、金貨100枚もしたのでやめた。お金は必要だし、取っておく。
なので、荷物を全てリュックに入れ、ブリュンヒルデに背負ってもらい歩くことにした。
試しに俺が背負おうとしたが、背負ってから立つことすら出来ないほど重い。だがブリュンヒルデはあっさりと背負い立ち上がる。ちくしょう、情けない。
さて、これで準備は終わった。
「ブリュンヒルデ、明日出発だけど、ちょっと寄るところがある」
『はい、センセイ』
そう言い、今日はゆっくり休むことにした。
そして翌日、朝食を済ませて世話になった宿屋をあとにした。
俺とブリュンヒルデは、とある場所へ向かった。
「いらっしゃ…………っ!?」
「こんにちは」
やってきたのは、防具屋だった。
俺を見て表情を強ばらせる防具屋の主人。そう、この表情だけで理解した。
ウェイドたちをけしかけた犯人は……この人だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺は、まっすぐ防具屋の主人を見た。
「どうして俺が来たか、わかりますよね」
「………ッ!!」
「レダルの町の郊外で、ウェイドたちの死体を見つけました……全員、モンスターに食われて死んでいましたよ」
「………」
ウェイドたちは言っていた。
『最初から、狙われていた』とか、『支払いを済ませなきゃ』とか。
俺がこの町に来て大金を手に入れたのは、この防具屋で軍服を換金したからだ。つまり、そのことを知ってるのは、俺とブリュンヒルデを除いてこの人しか居ない。
多分、最初からウェイドたちと繋がってたんだと思う。新人冒険者をカモにして稼いでるんだ。例えば、軍服の代金を取りにバックヤードへ入り、待機していたウェイドたちに俺の事を伝えるとか、やり方はいくらでもある。
思えば、最初から不自然だった。
大金を手に入れた俺は『冒険者になる』とこの人に言った。でも、この人が最初に言ったのは『先輩冒険者と一緒に依頼を受けろ』だ。武器も防具も持っていない、シャツとズボンだけの俺に対して、自分の店の防具を勧めることもなくなくだ。
俺は何も知らなかった。だから、冒険者ギルドに向かい、優しい声をかけてくれたウェイドたちをすんなり信用してしまった。
「ホルアクティ……じゃなくて、調べたら分かりましたよ。『伸縮自在』のかけられた魔術服、純銀のボタン、布地はブルシープの体毛。売れば金貨1000枚はくだらないそうです。あなた、俺が何も知らないと思って安く買い取り、ウェイドたちに裏で依頼をして、俺から金貨を取り返すつもりだったんでしょう? それに、ウェイドたちに報酬を支払ってもお釣りがくる……」
ホルアクティには、冒険者たちの会話や町中の洋装店などをしらみつぶしに周り、素材の値段や魔術についての情報を調べさせた。そして『伸縮自在』の魔術がかけられた布は金貨800枚で取引されるほどの超高級布であり、高級素材であるブルーシープの体毛や純銀のボタンも金貨200枚ほどの価値があることを知った。
その課程で、ウェイドたちの行方も調べ……町に帰ることなく、モンスターに襲われて死んだと知った。
遺跡から脱出したウェイドたちは、傷の手当てをするために、レダルの町近くの森で休むことにしたらしい。だが、血のニオイを嗅ぎ付けたオオカミみたいなモンスターに襲われ、あっけなく死んだ。
ホルアクティのレーダーにウェイドたちが引っかかり、森を調査したら、変わり果てたウェイドたちを見つけたのだ。
さすがに、これを見つけた時は涙が溢れた。
ダマされたとはいえ、俺やブリュンヒルデに良くしてくれた人たちの死体……町を出たら埋葬してやろうと誓った。
防具屋の主人は、フンと鼻息を荒くして紙巻きタバコを掴み火を付ける。
「何を言い出すかと思えば……やれやれ、何の事かさっぱりわからん。というかお前は誰だ? お前がうちに買い取りを依頼した? そんな覚えはない」
「………認めないんですか?」
「認めるもなにも、オレはお前なぞ知らん!! ウェイドとかいう冒険者も聞いたことがない」
「…………」
「くっくっく、それより兄ちゃん、冒険者なのか? ならウチで防具を買っていけ。装備は大事だぞ?」
「…………失礼します」
俺は頭を下げ、防具屋をあとにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
レダルの町から出た俺たちは、ここからさらに東にある『マジカライズ王国』を目指すことにした。
その前に、やることがある。町から数キロ離れた森で哀れな姿となっている、ウェイドたちを埋葬しに行く。
街道をのんびり歩きながら、巨大なリュックを背負うブリュンヒルデが言う。
『センセイ、これでよかったのですか?』
「ん?」
『あの防具屋です。私が尋問すれば全ての真実を明らかにしてみせます』
「いや、いいよ。それに、あそこまでゲスだと俺も遠慮なくやれる」
『制裁をするのですか?』
「ああ。というか、もうやってる」
『?』
ブリュンヒルデは、コテンと首を傾げる。
その様子が可愛らしく、俺はクックと笑ってしまった。
「ブリュンヒルデ、覚えておいてくれ」
『はい、センセイ』
「大事な物を守るために戦うのは、けっして悪い事じゃない。男にも女にも、譲れない大事な一線がある。人間ってのは、そのラインを越えた相手には容赦しない一面がある。喧嘩になったり、嫌がらせしたりと、方法は様々だ。ブリュンヒルデ……お前には、大事な物はあるか?」
『はい、私の死守するべき大事なものは、センセイです』
「ははは、ありがとな」
『はい』
今回、俺はいろいろ学んだ。
この世界での裏切りは、死を招く危険がある。
ブリュンヒルデがいなかったら、俺は死んでいただろう。
でも、ウェイドたちにいろいろ教えてもらったのは事実だし、嘘であっても仲間の素晴らしさを教えてくれたことには感謝してる。
そんなウェイドたちは、レダルの町近くの森で死んだ。
直接の原因は俺とブリュンヒルデにある。埋蔵するのも罪の意識があるからであり、安らかに眠って欲しいという願いからだ。
だが、元はといえばあの防具屋が、俺を騙したのも悪い。
それなのに、そいつはなんの罰も受けず、これからも防具屋を続けていく。俺みたいな新人冒険者を騙すこともあるかもしれない。
そんなことは、許せなかった。
『センセイ』
「ん?」
ブリュンヒルデの前を歩いていたので、俺は振り向いた。
どこまでも機械的な無表情で、彼女は言う。
『ホルアクティは、どこへ行ったのですか?』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
防具屋の主人は、紙巻きタバコをふかして悦に入っていた。
冴えない男から巻き上げた『伸縮自在』の服はすでに裏ルートで売りに出され、本来の値段金貨1000枚を大きく上回る金貨1200枚の大金となって主人の懐へ。
金貨200枚の出費も、冒険者を雇い取り返し、事故に見せかけて始末する予定だったが、まさか冒険者そのものが事故で死ぬとは思っていなかった。
結局、金貨200枚は戻らなかったが、防具屋の主人は満足していた。
冴えない男が店に乗り込んで来たときは驚いたが、暴れることもなく淡々とした話で真実を語り、何もすることなく去って行った。
防具屋の主人は、もし冴えない男が暴れても問題ないと踏んでいた。
ここは大通りに面した店であり、騒げばすぐに注目される。あの冴えない男も、それがわかってるから何も出来なかったのだと思っていた。
「くくく、差し引き、金貨1000枚の儲けか。これだから新人冒険者はカモにしやすい」
紙巻きタバコを灰皿に押しつけ悦に入っていると、店の外がやけに騒がしいことに気が付く。
そして、店のドアが勢いよく開かれた。
「お、おい、防具屋!! お前何をやってんだ!?」
「………は? なんだ武器屋の、騒々しい」
「いいから来い!! お前……もう終わりだぞ!!」
「はぁ?」
防具屋は、武器屋に言われるまま外へ。
そして、町の中央付近に連れ出されると、町人や冒険者が溢れかえっているのに気が付き……我が目を疑った。
人々の視線は、冒険者ギルドの建物へ向いていた。
正確には、冒険者ギルドの煉瓦造りの広い壁。
そこには。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『こいつを見ろ、これは『伸縮自在』の魔術がかけられてる一級品よ。とあるバカな新人冒険者をダマして手に入れたのさ』
『はっはっは!! いいニュースだ。俺が依頼した冒険者が死んだとよ。ああ、『伸縮自在』の布を手に入れるために金貨200枚を支払ったんだ。そいつを取り返すために冒険者を雇ったのよ』
『くっくく、金貨1200枚だ!! これだから冒険者をカモにするのはやめられねぇ!!』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大音量、高画質の映像。
ここ数日の、防具屋のやりとり。
冒険者ギルド向かい建物からホルアクティのカメラで公開されている。
ホルアクティが録画し、機能の一つであるプロジェクターにより、映画さながらに公開されていた。
たった数日録画しただけなのに、防具屋の悪事は面白いくらい撮れた。
唖然とする防具屋。
そして、これらの不思議現象より、この場に現れた防具屋の主人に視線は殺到し、彼の店で防具を買った冒険者やダマされた経験のある冒険者が主人を取り囲む。
「どういうことだ!!」「説明しろ!!」「ダマしただと!!」
「おい、何か言え!!」「テメェ、ぶっ飛ばすぞ!!」「やっちまえ!!」
防具屋の主人は、弁解の間もなく誰かに殴られた。それから、何人もの冒険者にボコボコにされた。
映像はいつの間にか終了し、防具屋の主人を誰も助けることなく、最後には素っ裸にされて放置された。
そして、この日を境に、彼の防具屋に人が訪れることはなかった。彼がどうなったか、セージとブリュンヒルデが知ることはないだろう。
冒険者ギルド向かい建物にいたホルアクティは、静かに飛び去った。
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