第19話リペアの検証

 ウェイドたちは、逃げ出した。 


「いでぇっ、いでぇよぉぉぉっ‼ ちくしょぉぉぉっ‼」

「ウェイド、逃げるぞウェイドっ‼ こいつらバケモンだっ‼」

「············」 

「ゔぅゔーーーっ、ゔぁ゛あ゛あ゛ーーーっ‼」 


 消失した両腕を拾うことなく走り出したウェイド。右腕で顔の潰れたミシェルを抱えたバーグ、千切れかけた右腕を引きちぎり、隻腕となったミーナ。

 立ち尽くすブリュンヒルデは、彼らに興味ないようだった。

 俺もウェイドたちより、ブリュンヒルデから目が離せなかった。

 誰もいない空間に残された俺とブリュンヒルデ。


『お怪我はありませんか、センセイ』

「···········」


 差し出されれた手を掴み、立ち上がる。

 機械の手は、とても冷たかった

 俺は、投げ捨てられたカバンと剣を拾い、ブリュンヒルデに渡す。考えることは山ほどある。


『センセイ、宿題が終わりましたので、提出します』

「ああ······どれ」


 ブリュンヒルデに渡したメモ用紙には、こう書かれていた。


 人間とは、挨拶をする。

 人間とは、食文化に優れていれる。

 人間とは、お互いに絆を結ぶ。

 人間とは、友情という感情を持つ。

 人間とは、性交をし子供を作る。

 人間とは、アルコール摂取で酩酊する。

 人間とは、睡眠時に理解不能な言動をする。

 人間とは、好奇心旺盛である。

 人間とは、とても脆い。

 人間とは、裏切る。親しい人を罠に嵌める。


 なるほど。俺やウェイドたちを観察した結果か。

 ブリュンヒルデが言った、『戦乙女型が造られた理由』が気になった。裏切りがどうして理由になったのか、過去に何があったのか、どうして人間がアンドロイドを滅ぼすためにアンドロイドを造り出したのか。罠に嵌めるとはなんなのか。

 答えはわからない。

 でも、今のブリュンヒルデに聞いてはいけない。そんな気がした。

 というか、性交とかアルコール摂取で酩酊とか、マジで勘弁してほしい。

 俺は、宿題をチェックしながら、ブリュンヒルデの『センセイ』であることを選択した。


「なぁ、この睡眠時に理解不能な言動って?」

『はい。センセイは睡眠時、歯と歯を擦り合わせ奇怪な音を出したり「カレーライス······」という理解不能な言動をしていました』

「·········そ、そうですか」


 おい俺、歯ぎしりはともかくカレーライスってなんだよ。

 確かに、この世界に来てカレーなんて食ってないけど······まぁいいか。とにかくブリュンヒルデの宿題は完成だ。

 それに、ちゃんと言わないとな。


「ブリュンヒルデ」

『はい』

「俺を助けてくれて、ありがとう」


 人間は助けてもらったらお礼を言う。これも大事なことだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ウェイドたちのことは残念だったが、悔やんでも仕方ない。

 悲しみもあるし、騙された怒りもある。だが、ブリュンヒルデに叩きのめされた姿を見て少しスッとした。

 ウェイドと腕と、グチャグチャになったバーグの左腕の成れの果て、同じくグチャグチャになり壁に縫い止められたミーナの腕を見た。もう冒険者としては再起不能かもしれない。

 このまま帰ることも考えたが、ウェイドたちのことを考えたくないので、調査を続行することにした。

 

「さて、調査を続行だ。ブリュンヒルデ、この部屋は何かあるか?」

『センセイ、この部屋は施設の入口です。僅かな電波反応があります。壁に手を触れ『|修理(リペア)』を発動させれば入口が開く可能性があります』

「よし······やってみよう」


 俺のチートである『|修理(リペア)』

 

********************

【名前】 相沢誠二

【チート】 

『修理(リペア)』 レベル1

 ○壊れた物を修理することが可能


《近接系戦乙女型アンドロイドcode04『ブリュンヒルデ』》

********************


 検証1。

 右手を握り、開き、握り、開く。

 手をかざして念じるが、何も起きない。

 次は、通路の反対側にある壁に手を触れて念じる。


『CODE認証。アクセス』

「おわっ⁉」


 壁が喋った。

 男の声が部屋に響き、壁一面に電子回路のような光が灯る。そして俺の触れた部分が縦に割れ、更に奥に通路が現れた。


 まず、一つ目の検証結果。

 ○触れた物しか『修理』は発動しない。

 ○何かを飛ばしたりするような力はない。


『センセイ。『|修理(リペア)』による修復で施設が可動を始めました。やはりここはアンドロイド側の製造工場です』

「製造工場? 何を作ってたんだ?」

『はい。ここは『量産型アンドロイド・Type-JACK』の製造工場です』

「タイプ、ジャック?」

「はい。最も多く量産されたアンドロイド側の尖兵です。凡庸性に優れ、各部を換装することにより戦場を選ばない、万能型の量産兵士です。ですがコストが安く耐久性に不安があり、搭載AIも旧世代レベル。複雑な命令を実行させることが困難という弱点があります」


 つまり、大量生産の雑魚ロボか。

 ってことは、ここにあるのは人間側の設備じゃないのか。

 でもまぁ、何か使えそうな物があるかも。それに今回は俺のチート検証が目的だからな。

 とにかく、先に進もう。


「ブリュンヒルデ、この先に進んで大丈夫か?」

『現時点では問題ありません』

「······よし、行こう。何か使えそうな物があったら教えてくれ。俺の『|修理(リペア)』を試してみたいし、レベルが上がるかもしれない」

『はい、センセイ』


 俺とブリュンヒルデは、アンドロイド生産工場へ踏み込んだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 通路の先は、細かな部屋がいくつもあり、部屋の中には得体の知れないパーツのような物が散らばっていた。

 そして、どう見てもロボットのような物が転がってる。アルミのような材質で、ひどく腐食している。動き出す気配はまるでない。

 ロボットの形はシンプルで、特に装飾されてるわけじゃない。足の指はなく、手はしっかりとした五本指、顔はカメラのレンズみたいな目に、口や耳はない。すげぇ低コストなロボットみたいだ。


『施設は稼働を始めましたが、Type-JACKは稼働していません。どうやら回復したのは電源のみということですね』

「なるほど······」


 小部屋の一つ一つをチェックするが、作業台のようなテーブルには錆びついた部品しかない。そして壊れたロボットが横たわってた。

 ロボットは手足がない胴体のみで、頭の部分は蓋が空いたかのように開いていた。しかも全身が酷く錆びついてる。


 よし、検証2だ。

 俺は壊れたロボットに触れて念じる。

 すると、ロボットの周りに落ちていたパーツが吸い寄せられるように集まり、ロボットにくっついた。

 

「なるほど、まるで逆再生みたいだ。それに······転がってるパーツはくっついて修理されたけど、錆びやパーツの損傷はそのままだ。それに、足りないパーツが生み出されるわけでもない。つまり······部品があれば直せるけど、足りないパーツはそのままってわけか······」

 

 ロボットを見ながらブリュンヒルデに質問する。


「ブリュンヒルデ、俺がお前を直したのって、どういうことだ?」

『はい。センセイが修理したのは機能停止していた『ナノポッド』です。ポッドの電力供給が停止していたのをセンセイの『|修理(リペア)』が修理したということです』

「つまり、俺のチートは電力供給もできるってことか」


 検証2の結果。

 ○パーツがあれば修理は可能。

 ○欠けたり壊れたりしてるパーツはそのまま。

 ○足りない部品などはそのままで、生み出すことはできない。

 ○電力供給されていない施設などに電力供給ができる。


「う〜ん······なんか微妙だな。レベルを上げればもっと幅が広がるのか?」


 現状、パーツがないと修理できない。

 壊れたロボットの散乱したパーツは修理されたが、錆びつきはそのままだし、動力が回復したワケじゃない。

 ブリュンヒルデのときは、彼女が眠っていたポッドを直した。正確には電力供給をしたのでポッドが作動し、ブリュンヒルデは修理されたってことだ。ポッドそのものはキレイだったしな。


 それから、小部屋に転がってるロボットを修理してみたが、どれも動き出すことはなかった。

 落ちていたパーツがロボットに集まり修理される。だが修理の過程で錆びついたパーツが折れたりした場合は、パーツはそのまま落下した。

 そして、全ての小部屋を回って『|修理(リペア)』を使いまくったが、特にレベルも上がらずロボットも中途半端な修復しかされなかった。


「やれやれ、なんだか半端なチートだなぁ」

『センセイ。奥の部屋は『生産工場』です』


 小部屋の通路を抜け奥の部屋へ向かうと、そこはとんでもない広さの工場になっていた。

 よくわからない機械にベルトコンベアがいくつも並び、通路には壊れたロボットがいくつも横たわっている。

 コンベアの上には、小部屋で見たロボットのパーツがいくつも転がっていた。どうやらType-JACKとやらはこのシンプルなロボットのことらしい。

 ロボットがロボットを造る。とんでもない光景だ。


『やはり、電力供給のみで設備は稼働していません。センセイの修理で一つずつ設備を修理すれば、工場を可動させることが可能』

「いやいや、やんないぞ。これってブリュンヒルデの敵だったロボットだよな?」

『はい。ここは素体製造の工場のようです。装備などは別の工場で生産されているのでしょう』

「ふーん······じゃあ、たいした物はなさそうだな」

 

 足元に転がってるロボットを修理しながら歩き、生産工場の中心にあるコントロール室へ来た。

 電力供給が済んでいるからか、操作盤に光が灯り、空中に投影された立体映像にはエラーコードが表示されている。しかも、驚くべきことに英語だった。

 

「ここが制御室か······」

『電力供給は完了しています』

「いやいや、動かさないぞ。爆発したらどうすんだよ」


 ここにも、壊れたロボットがいくつか転がってる。

 というか······こんなに広い工場、今まで誰も気が付かなかったのか。

 俺は操作盤に突っ伏してるロボットに手を触れ、『|修理(リペア)』を発動させる。

 

「やれやれ、こんな半端に直っても·······」


********************

【名前】 相沢誠二

【チート】 

『修理(リペア)』 レベル2

 ○壊れた物を修理することが可能

 ○欠けたパーツの修復が可能←NEW


『錆取(ルストクリーン)』 レベル1←NEW

 ○錆びを取り除く


《近接系戦乙女型アンドロイドcode04『ブリュンヒルデ』》 

*******************


 『修理(リペア)』がレベルアップした。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 レベルアップした。だけど·······。


「さ、サビ取り··················しょぼっ」


 新チートは、どうやら錆取りできるらしい!

 試しに、錆だらけのロボットに触れてチートを発動させる。すると、俺が触れた場所から錆が落ち、そのまま俺の右手に錆が吸収された。

 ロボットは、元々は灰色っぽい鉄でできていたらしい。錆を落としたことで新品のような輝きになった。

 俺は苦笑してため息を吐くと、ブリュンヒルデを見ようと振り向いた。

 ブリュンヒルデは、制御盤の上に置いてあったガラクタをいじっていた。

 俺が錆取りをしたロボットを見ても、特に感動などしていない。


「·······何してるんだ?」

『センセイ、これを見てください』

「見てと言われても··········なんだそれ?」


 俺には錆びついたガラクタにしかみえないが、ブリュンヒルデにはそう映らなかったようだ。

 

『センセイ、これは人間が開発したAI搭載型偵察機『ホルアクティ』です。恐らく、アンドロイドが捕獲しデータを解析、アンドロイドの開発に役立てようとしたのでしょう』

「へぇ〜······でも、バラバラだな」

『はい。ですがAIは生きています。センセイの『修理(リペア)』と『|錆取(ルストクリーン)』で修復をお願いします』

「あ、なるほどね」


 俺はバラバラのパーツに『錆取(ルストクリーン)』をかけてサビを取り、『|修理(リペア)』でパーツを組み上げた。レベル2の効果で、割れたパーツや折れた部品なども元に戻る。すると、逆再生のようにパーツが組み上がり、一羽の小さなフクロウが完成した。


「·········これ、フクロウか?」

『AI搭載型偵察機『ホルアクティ』です。センセイ、これを手首に』


 ブリュンヒルデは、パーツと一緒になっていたリストバンドのような物を俺に渡す。

 言われた通りにバンドを付けると、バンドから音声が流れた。


『新規登録完了。偵察機No.985号機起動します』

「うおっ⁉」


 すると、ロボットフクロウが本物の鳥のように飛び、俺の肩に停まる。


『センセイ、ホルアクティはセンセイの命令で自由に動きます。操作方法はバンド型端末のマニュアルをご覧ください』

「お、おう······」


 バンドに指で触れると、空中に投影された映像が浮かぶ。どうやらタッチパネルらしい。

 マニュアルの項目を見つけタッチすると、日本語の説明文がズラリと表示される。こんなの読んでるヒマねぇよ。

 とりあえず、音声入力が可能なことだけわかったので、命令してみた。


「とりあえず、この部屋の中を飛んでくれ」


 すると、ホルアクティは機械の翼でふわりと浮き上がる。

 そして部屋の中をグルグルと飛行した。


「よし、俺の肩に着地」


 命令通り着地。

 なにこれ、なかなか可愛いじゃねぇか。

 他にも様々な機能があるようだ······よし、あとでしっかりとマニュアルを読もう。

 

「こりゃ面白い、なかなか使えそうだ」

『はい、センセイ』

「さて、とりあえずチートの検証は済んだし、いい物も手に入れた。そろそろ帰るか」

『はい、センセイ』


 収穫は、チートの性能と偵察機の入手。

 さっそく、こいつを使っていろいろ試してみよう。気になることがいくつかあるしな

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