第8話戦乙女型アンドロイド『ブリュンヒルデ』

 と、とりあえず、少女に声をかける。

「あ、あの……」 

『………』

 煌めくような長い銀髪、整いすぎて逆に恐ろしい美しさを誇る容姿、一糸纏わぬ姿は彫刻のように美しく儚げだが、確かに彼女はここにある。

 そして何より、巨大で変形機構を持つ大剣。これが騎士の持つロングソードや、俺の持つ王国支給の剣とはまるで違う技術というのがわかる。たとえるなら、江戸時代で刀を振るうんじゃなく、ビームサーベルを振り回すような。

「え、ええと……あの」

 とりあえず、身体を隠して欲しい。すると少女の眼がチカチカ光り、何かをブツブツ呟くのが聞こえた。


『メモリー解析。修復率100パーセント。精神中枢《ヴァルキリーハーツ》破損から一〇〇九五八年経過。修復ログ検索。データ一部破損。チート《|修理(リペア)》による回復確認。精神中枢《ヴァルキリーハーツ》書き換え完了。これより個体名相沢誠二をマスターとし、code04戦乙女型アンドロイド《ブリュンヒルデ》は行動を開始します』


 なんだろう、なんか怖いぞ。 

 すると少女は裸体を隠そうとせずに俺に向かって跪いた。

『ご命令を。マスター』

「は?」

『私の使用権限を全てマスターに譲渡しました。これより《ブリュンヒルデ》はマスターの剣。マスターに仇なす物を排除し、マスターが望む全てを行います』

「え………」

 素っ裸の銀髪美少女が俺に跪き、俺のために何でもするという。

 これ、かなりヤバいシチュエーションだよな。現代日本だったら逮捕レベルだ……って、そんなこと考えてる場合じゃない。いろいろ見えちゃってるし、服をなんとかしないと。

「と、とりあえず服、服をなんとかしないと」

『畏まりました。戦乙女装備をロード。ボディ反映開始』

「え……うおっ!?」

 複雑な化学式のような文字列が少女を包むと、カラフルなモザイクが現れた。そしてモザイクが消えると少女は服……いや、鎧を装備していた。

 白銀を基調とした身体にフィットする装飾された鎧。羽をあしらった髪飾り。銀色のグリーブ。若い女性らしい純白のミニスカート。細く華奢な手にフィットする籠手。まるで神に仕える戦乙女のような装備だった。

『ロード完了。如何でしょうかマスター』

「あ、ああ、似合ってる」

『ありがとうございます』

 ペコリと頭を下げる少女、ええと、ブリュンヒルデだっけ。

 ミノタウロスの脅威は去ったし、ここから出よう。

「ええと、ブリュンヒルデだっけ?」

『肯定。《ブリュンヒルデ》はマスターの剣。マスターの盾。ご命令を』

「お、おお。というか、ここって何なんだ? 遺跡だよな?」

 俺は、怖いくらい無表情のブリュンヒルデに聞く。俺のチートといい、少しでも情報が欲しい。

『ここは『アンドロイド修復施設』です。損傷の少ないアンドロイドを回収し修復・再利用するための施設であります』

「アンドロイドって······ブリュンヒルデみたいな?」

『肯定。《ブリュンヒルデ》は近接戦闘系戦乙女型アンドロイドcode04タイプ。七体製造された戦乙女型の第四号です』

「戦乙女型って、ブリュンヒルデみたいなのがまだ存在するのか?」

『肯定。位置検索···············同期不可。各戦乙女型と同期通信不可』

 年数経過って、どんだけだろうか。

 俺の知る限り、この異世界に機械技術は存在しない。日本の科学技術でも作ることはまず不可能、これはすごい発見だ。

「とりあえず、ここから出るか」

『畏まりました。転送装置の使用を申請。申請が受諾されました』

「おぉ!?」

 培養器が出てきた時と同様に、地面から何かがせり出して来た。なんだこれ······へんな紋章が描かれた足場みたいだな。

『マスター、転送装置の上へどうぞ』

「お、おお」

 言われるがままに足場の上に。するとブリュンヒルデが俺の隣に立つ。

『転送開始。目的地。アンドロイド修復施設外』

「おぉ······すげぇ」

 足場から幾何学的模様が立ち昇り四方を包む。これが魔術とかではない技術なのは嫌でもわかった。

 とにかく、みんな心配してるだろうし、さっさと帰ろう。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 転送とは、指定した座標に物や肉体を移動させる|技術(・・)。

 ブリュンヒルデが眠っていた場所は『アンドロイド修復施設』で、壊れたアンドロイドを修理・再利用する場所で、修理したアンドロイドは転送装置で再び前線に送り込まれたらしい。

 そして、ブリュンヒルデが眠っていた部屋は、俺の『|修理(リペア)』で直され、部屋にあった転送装置も修理され使用可能になった。

 だが、俺は思った。


「…………ここ、どこだ?」


 見渡す限り、何もない平原。

 確か、オストローデ王国のすぐ近くにある遺跡に入ったはず。遺跡の外に転送されてるなら、視界にはオストローデ王国の城下町の入口が見えるはず。

 でも、そんなものはなかった。入口どころか道すらない。完全な平原だ。

「ど、どうなってんだ……ぶ、ブリュンヒルデ?」

『………解析完了。マスター、転送装置にウィルスの痕跡が確認されました。転移座標が大幅にずれた原因は転送装置に発生したウイルスの模様。申し訳ありません。私のミスです』

「う、ウイルスだって!? ってかあの設備は俺の『|修理(リペア)』が直したんじゃないの!?」

 俺は無表情で立ち尽くすブリュンヒルデに聞くが、帰ってきた答えは淡々としていた。


『マスター、『|修理(リペア)』は破壊された物を修復するチートです。現時点でウイルスを無効化することはできません。マスターの『|修理(リペア)』レベルは1。レベルを上げればウイルスを無効化するチートが習得可能』


 つまり、俺のレベル不足。設備は直ったがウイルスは消えてなかった。そして転送装置を作動させた瞬間にウイルスが発動、転移座標がズレてしまった。

 俺は『|可能性の指輪(アビリティリング)』をかざして自分のステータスを確認する。


********************

【名前】 相沢誠二

【チート】 

『修理(リペア)』 レベル1

 ○壊れた物を修理することが可能


《近接系戦乙女型アンドロイドcode04『ブリュンヒルデ』》

********************


「あ、増えてる」

 どうやら、ブリュンヒルデは俺のチート扱いらしい。

「ってそんな場合じゃない!! ブリュンヒルデ、ここがどこかわからないのか!?」

『索敵開始………終了。私の索敵能力では何も発見できませんでした』

「え!?」

『私は近接戦闘系アンドロイド。索敵探知範囲は半径300メートルです』

 つ、つまり、半径300メートル圏内には何もないってこと? ってか300メートルなんて見渡せる距離だぞ。

 おい、ここどこだよ。

「は、ははは……」

 俺は、力なく笑うしか出来なかった。


 そう、これが俺の冒険の始まりだった。

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