第6話やっぱり不測の事態

 第四班のメンバーは俺、中津川、青木、三日月、岩城と、手芸部のおさげ少女下山(しもやま)美土里(みどり)だ。

 戦闘グループは中津川、青木、岩城。支援グループが三日月、下山のなかなかにバランスが取れた班である。ちなみに引率の騎士はアシュクロフト先生の部下であり、『オストローデ騎士団』一番隊隊長のアガートラーム騎士だ。ちくしょう、この世界の騎士はみんなイケメンなのか……滅びろ。

「一階層はグリーンゴブリンの住処となっています。お気を付けて」

 イケメン騎士アガートラームの忠告だ。

 中津川を先頭に、俺たちは進む。殿はアガートラームだ。

 俺はカンテラを持ち、列の真ん中を歩いていた。

「…………いる」

「中津川?」

「先生、静かに」

 中津川が立ち止まり、目を細める。

 青木と岩城も何かに感づき、三日月のネコ二匹が唸り声を上げた瞬間だった。

『ギャハッ!!』『ギャハァァッ!!』

「そこだっ!!」

『ガハウッ!?』

 青木が突然、暗闇に向かってナイフを投げたと思ったら、気味の悪い断末魔が聞こえてきた。

「へっ、この小鬼ヤローがっ!!」

『ガバッ!?』

 そして、岩城が暗闇に向かって拳を突き出すと、再び断末魔が聞こえた。

 ワケもわからずカンテラを向けると……いた。

「な、なんだこれ……」

「これがグリーンゴブリンでしょう。そうですよね、アガートラーム騎士」

「お見事です、見事な手際でした」

 床には、喉元にナイフの刺さった緑色の小鬼が倒れていた。反対側にカンテラを向けると、首の骨が折れた小鬼が転がっていた。

 マジかよ、青木と岩城、明かりもない状況で倒したのかよ。

 いや違う、これは俺のミスだ。

「す、スマン……カンテラを持ってるのに、気付かなかった」

「いいって先生。明かりなんかなくても気配でわかったよ、ねぇ岩城」

「ああ。やっぱオレら強くなってるわ」

 青木と岩城はニシシと笑う。ホントに気にしてないようだ。

「それより、これがゴブリンですか……」

「なんかきもち悪い……あ、触っちゃダメ」

 中津川がゴブリンを眺め、三日月のネコがゴブリンに触れようとしていたのでそっと引き離す。

「………」

 下山だけが、緊張して動けないでいた。

 無理もない。この子は率先して動くタイプじゃないし、クラスでも大人しい子だ。

「と、とりあえず先に進むか……」

 ぶっちゃけ、帰りたくなってきた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 それから、おっかなびっくり地下へ進んで行く。

 モンスターは、三日月のネコ二匹や中津川たちが気配を察知して対処したため特に問題なかった。あんなにカッコつけて出てきた俺が一番何もしていない。

「あ、あそこが」

「ええ。最下層への道です」

 遺跡の中を進んで行くと、やけに横長な階段が。二階に下りたときと同じ階段、つまり最下層である三階への階段か。

 この下へ向かい、ある程度戦闘を行ったら引き返す予定だ。

「…………」

「中津川? どうした?」

「………いえ、少し気になることが」

 楽勝楽勝と楽しげに騒いでる青木と岩城、ネコを抱っこしながら歩く三日月、そのネコを羨ましそうに見ながら歩いてる下山とは違い、中津川はずっと警戒していた。

 するとアガートラーム騎士が言う。

「予測不能なダンジョンでは観察がなにより大事。気になったことはどんどん発言し、仲間と情報を共有するのも大事ですよ」

「は、はい………その」

 中津川は、みんなを見回しながら言う。


「あの、もう最下層ですよね………なんで、|どの班も戻って(・・・・・・・)|来ないのでしょうか(・・・・・・・・・)?」


 次の瞬間、轟音と振動が俺たちの身体を揺らした。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 考えれば、そうだった。

 俺たちは四班、最初に入った一班との時間差は一時間以上だ。地下へ下りる階段は一つしかない、帰るとしたらどこかで必ずすれ違うはずだ。

 そして、今の轟音に俺は青くなる。

 すると、アガートラーム騎士の声色が変わった。

「……今の音は。緊急事態です、私はこのまま最下層へ向かいます、あなた方は地上へ避難を。途中で五、六班と合流し、このことをアシュクロフト団長へ伝えて下さい」

「な……お、オレも一緒に!!」

「ダメです。予測不能の事態です。圧倒的経験不足のあなた方は現時点で足手まといです」

「く……」

 中津川の気持ちはわかる。でも、ここは素直に従った方がいい。

 そう、中津川たちは……な。

「中津川、アガートラーム騎士の言うことを聞いて脱出しろ。いいな」

「な……相沢先生!?」

「アガートラーム騎士、俺も一緒に行きます」

「ダメで」

「俺の生徒が下にいるんだよ!!」

 俺は、何の力もない。

 今の今まで生徒に頼りきりだった。こうしてカンテラを持ってるだけで、何の役にも立っていない。

 もし最下層へ行くなら、中津川たちを連れて行ったほうがいいに決まってる。でもそうじゃない、そうじゃないんだ。

「戦力とかチートとか関係ねぇ、あいつらは俺の大事な生徒だ。俺は約束したんだ、生徒たちを家に帰すって……だから、あんたと戦ってでも行く」

 これが、俺の覚悟だ。

 教師として、生徒たちを家に帰すと誓った、相沢誠二の覚悟だ。

「…………貴方は、素晴らしく尊敬できる御方だ」

「どうも、じゃあ行きますか」

「せんせ!!」

「おい相沢センセーよ、かっこつけすぎだろ!!」

「センセー、めっちゃ光ってるぅ」

 三日月、岩城、青木が俺の隣に立つ。そして中津川も。

「相沢先生、先生は知らないかもですけど、オレたち三〇人はみんな同じ気持ちです。誰一人欠けることなく、家に帰ります……だから、オレたちも行く」

「中津川……」

 こいつ、イケメンのくせに根性ある。って俺が言うセリフじゃねーな。

 アガートラーム騎士は頭を押さえる。

「ですが、上への連絡も……」

「あ、あの……連絡なら私が。私のチートなら、モンスターに合わないでみんなと合流できま……す」

「下山……」

 下山がおずおずと手を上げると、全員が注目する。

 恥ずかしいのか、下山は縮こまった。

「よし、下山、お前に任せる……頼んだぞ」

「は、はい」

「…………はぁ」

 アガートラーム騎士は、頭を押さえてため息を吐いた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 最下層へ下りると、俺でもわかった。

「う………な、なんかピリピリする」

「アガートラーム騎士、これは……」

「…………馬鹿な」

 めっちゃイヤな予感がします。だってイケメン騎士が「馬鹿な」って言ったんだぜ?

 中津川たちも警戒し、アガートラーム騎士の案内で通路を進む。

「………それにしても」

 俺は通路を観察しながら進んでいた。

 思ったが、遺跡という割には破損箇所がほとんどない。暗いからよく見えないが、通路もタイルみたいにツルツルだし、壁も同じような材質で出来ている。

 そんな状況ではないが、アガートラーム騎士に質問した。

「あの、この遺跡ってなんなんですか?」

「……詳しいことは不明です。どうやら超古代文明時に存在したようですが、ご覧の通り三階層しかなく、入り組んだ迷宮というわけでもない。住み着いてるモンスターもG級の最弱種であることから、新人騎士や新人冒険者が腕試しをするための遺跡です」

「なるほど……」

 冒険者、やっぱり異世界には存在するのか。

 ってそんなことはどうでもいい。今は遺跡考察なんてしてる場合じゃない。

「皆さん、警戒を怠らず。これは訓練ではありません、この感じからして、恐らくD級クラス以上のモンスターがいます」

 アガートラーム騎士は腰の剣を抜く。

 中津川たちも固有武器を具現化し、最大級の警戒をした。

「先生、気をつけて下さい」

「あ、ああ」

 中津川が心配してくれる。すると、少し広い円形の部屋に到着した。

「ここは広いな……」

「ええ。この先が最奥です、気配もあちらから……」

「おお……っと。っいてっ⁉」

 全員が気合いを入れる中、俺はふらついて足がもつれ、壁に手を付いてしまった。すると静電気のような電気がパチッと弾け、壁の一部がゴトッと落ちてしまった。

 俺はそこで、奇妙な物を見つけた。

 円形の壁の奥に窪みがあり、そこに何かが埋め込まれていた。よく見るとキラキラした宝石のような材質で、まるで星のような形をしている。

「あの、あれは……?」

「え……いや、わかりません。初めて見ました」

 アガートラーム騎士も驚いていたが、すぐに顔を最奥の入口に戻す。それどころではないのがわかるが、俺はどうしてもその宝石が気になった。

「…………なんだ、これ」

 俺は星のような宝石に手を伸ばす。

 不思議だ、まるでこれを持って行かなきゃいけないような……。

「うわっ!?」

 宝石に触れた瞬間、一瞬だけ奇妙な幾何学模様が宝石に走った。そして壁に埋め込まれていた宝石がポロッと落ちたので、俺はそれをキャッチした。

「おい相沢センセー、なにやってんだよ!!」

「あ、ああ悪い……」

 岩城に呼ばれ、俺は宝石をポケットの中へしまった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 アガートラーム騎士が、鉄のドアを蹴破った瞬間だった。


『GYAOOOOOOOOOOーーーーーーッ!』

 

 とんでもないバケモノが、そこにいた。

 三メートルを越える体軀は全身筋肉と毛で覆われ、顔はまるで狂牛のような風貌。手には馬鹿げたサイズの斧を持ち、威嚇の雄叫びを上げていた。

「馬鹿な……ミノタウロスだと!?」

 アガートラーム騎士が呻く。

 そして俺は見た。バケモノの近くで戦う生徒たちを。

 一、二、三班総勢一五名と引率の騎士三名が、満身創痍で戦っていた。

「みんなっ!!」

 俺は叫ぶと、驚いた様子で何人か振り返る。

「な、相沢センセー!?」「くそ、四班か!!」「おい中津川、手ぇ貸せ!!」

「この牛、強えぇ!!」「ちくしょう!!」

 そして、三日月が叫ぶ。

「あかね!!」

「え……しおん!! 来ちゃダメ!!」

 三日月の親友にして、三〇人の中でも最強の一人でもある篠原朱音だ。

 俺は慌てて三日月を押さえる。

「バカ、考えなしに突っ込むな!!」

「でもあかねが、あかねが!!」

「大丈夫……」

 中津川が、固有武器である『光の聖剣ミリオンブレイド』を構えて前に出た。

「アイツは、オレが倒すから」

 こうして、戦闘が始まった。

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