第3話テンプレな王様
朝、起床すると、俺の小汚いアパート……ではなかった。
俺のアパートより立派な六畳一間で眼を覚ます。
「…………はは」
ここで「夢か……」なんてセリフが出るんだろうが、俺はしっかり現実を見て生きている。俺と受け持ちの生徒三〇人が、この異世界である『オストローデ王国』とやらに召喚されたのは昨夜のことだ。
俺はベッドの上で伸びをして、クローゼットに向かう。
「う、うぅ~ん……」
クローゼット内には、軍服みたいな凝った装飾の服がある。それと、シワになるから脱いで掛けておいた、俺の安物スーツだ。ちなみに俺のカッコはパンツにシャツ、せめてパンツは履き替えたいけど無理な話だ。
「ま、フツーは軍服だけど、とりあえずスーツでいいや」
俺はスーツに着替え、どうしようか悩む。
部屋から出ようか迷っていると、ドアがノックされた。
俺は慌ててドアを開けると……なんと、ネコ耳(本物)メイドが頭を下げた。おいおい、尻尾も生えてる、これって獣人とかいう種族か?
「失礼します。朝食の準備が整いましたので、食事会場へご案内します」
「はは、はいっ!!」
たぶん、生徒と同年代くらいのネコ耳メイドに案内され、食事会場へ。
大きなドアの前に案内され、ネコ耳メイドがドアを開ける。するとそこは軍人の集会……ではなく、生徒たちが集まっていた。
「先生……って、なんでスーツなんだよ」「おいおい、クローゼットに服入ってただろ?」
「先生おそーい」「早くメシにしよーぜ」「なぁなぁ、メニューはなんだ?」
生徒たちは全員、件の軍服を着ていた。
おいおい、俺だけスーツかよ。なんかめっちゃ恥ずかしいぞ。
「せんせー、こっちこっち!!」
「ん……ああ、悪いな
生徒の一人である
俺は青木の隣に座る。どうやら俺が最後だったらしく、座ると同時にカートを押したメイドたちが料理を乗せたトレイを運んできた。おいおい、みんな獣人かよ、ネコ耳トラ耳イヌ耳……よりどりみどりだ。
「おお、ネコ耳メイド」「可愛いーっ!!」「ねぇ、触ってみたいよ」
うーん、生徒たちも興奮してる。
トレイには、バターロールと野菜炒め、焼いた肉、デザートの異世界産のリンゴ、そしてグラスにジュースが注がれた。なかなかバランスのいい食事じゃん。
準備が出来てネコ耳メイドたちは壁に控えた。食べていいのか、音頭をとる人がいないからわからん。
よし、ここは俺が。
「じゃあみんな、手を合わせて……いただます!!」
「「「「「いただきまーす!!」」」」」
とりあえず、まずは腹ごなしだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
食事が終わり、再びのメイドたちが食器を下げると、カサンドラちゃんが部屋に入ってきた。
「おぉ……」
俺は思わず口に出してしまった。
だって、カサンドラちゃんの服が、とても煌びやかなドレスだったから。
俺以外に、男子も女子も驚いている。
「キレイ……」「……けっこうデカいな」「ああ、確かに」
「お姫様って感じ~」「確かに、昨日のローブとはまるで違うわね」
何がデカいかはお察しの通り。ドレスは肩が剝き出しで、胸の谷間も見えている。長い髪を宝石があしらわれた髪留めで纏め、高そうなネックレスや指輪、ブレスレットなんかをしてる。
「皆さん、おはようございます。よく眠れましたか?」
聖母のような笑みを浮かべ、にっこりとご挨拶。
男子の何人かは「ズギュゥン」と悩殺されたような気がする。まぁ俺は平気だ。だって俺から見ればカサンドラちゃんも生徒と同い年くらいだし。確かに可愛いけど性の対象には見れない。
「本日は、我が父にして『オストローデ王国』国王、ヴァンホーテンに謁見して頂きます。その後、皆さんのチート訓練や、魔王についての授業、各々の特性に準じた武器の扱いの訓練などを行います……あ」
「………どうも」
カサンドラちゃんは、俺を見て驚いてた。まぁみんな軍服なのに、一人だけ安物スーツだからな。
「ええと、部屋に『魔装束』があったはずですが……」
「ま、ましょうぞく? ああ、みんな着てる軍服ですか。あの、着ていいのか悩んだんですけど……」
「はい。あの服には魔術が掛けられておりますの。装着者の身体に合わせてサイズが調整されますので、どうかお着替えを」
「は、はい……申し訳ありません」
く、生徒の前で恥ずかしい。
何人かはクスクス笑ってるし、隣に座る青木なんて笑いをかみ殺しながら俺を肘でガシガシ突いてきた。
その後、生徒たちはメイドに案内され出て行き、俺は自室に戻り軍服を着る。
「お、おぉ!?」
スーツを脱ぎ軍服に袖を通すと、一瞬だけ温かくなりサイズが変わった。ズボンも同様に伸び、靴もサイズピッタリに変わる。
これが魔術ってヤツか。さすが異世界。
部屋を出ると、ネコ耳メイドが一礼する。どうやら王様の元へ案内してくれるらしい。
異世界の王様か……ズバリ予想、王冠と顎髭、そして豪華なマントだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「選ばれし光たちよ、私が国王のヴァンホーテンだ」
俺の予想はしっかり当たった。
赤いバスローブみたいなマントに、宝石があしらわれた王冠、そしてしっかり整えられた顎髭。意外だったのは、王様の身体はアメフト選手みたいに鍛えられていたことだ。
「……うむ、皆よい顔と目をしておる。これは期待ができそうだ。カサンドラよ、もしかしたら将来の国王が生まれるやもしれんな。ハッハッハ!!」
「ち、父上、それは」
「うむ。お前の将来の婿殿がおるかもしれん、ということだ」
おいおい……こっちは日本に帰りたいんだ。変なこと言うなよ。
って男子共、なにやる気になってオレアピールしてんだ。注意したいが一国の国王前で注意はできない、なんか言われそうで怖い。
「では騎士団長、魔術師団長、あとは頼むぞ」
「畏まりました。我が国王」
「畏まりました。我が国王」
全く同じ返事で、王様の隣に控えていた男女が頭を垂れて前へ。
騎士団長とやらは、装飾された銀の全身鎧を装備した二〇代後半ぐらいの金髪男性……チッ、イケメンか。
魔術師団長とやらは、黒いローブに三角帽子を被ったメガネ美女だ。たぶん俺と同年代くらいで、長い黒髪をゆるく結んでいた。ヤベぇちょっと好みかも。
すると、騎士団長が言う。
「それでは皆さん、別室に移動して頂きます。詳しい話はそこで」
騎士団長の甘いマスクに、何人かの女子がやられていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
移動教室みたいに全員で移動する。騎士団長が前を歩き、魔術師団長が最後部を歩く。俺は引率者として前を歩くか、後ろを歩くか悩んだが、間を取って中間を歩く。
すると生徒たちがウキウキしているのがわかった。
「なぁ、授業だとか言ってたよな」「おう、でもなんか楽しみじゃね?」
「学校とは違うよな」「ねぇねぇ、騎士団長ってカッコよくない?」
生徒たちは、当初の不安が嘘のように楽しげだ。
ずっと沈んでるよりはいい傾向だが、あまり入れ込み過ぎるのも危険な気がする。でも俺が「頑張ろう」と言った以上、頑張ろうと意気込むのは悪いことじゃない……く、わからんな。
「せんせ、だいじょうぶ?」
「ん……ああ、もちろん」
おっと、軍服の上にネコミミパーカーを羽織ってる
三日月は高校一年生なのに小学生みたいに小柄、なのに出てるとこは出てるというアンバランスさがある。なんかなでたくなるね。
とにかく、今はやれることをやる。
俺に何ができるのかわからないが、生徒たちを無事に守るために頑張ろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
案内された場所は、教室のような広さの部屋だった。
横長の机と椅子が並び、それぞれ十人ずつ座れるようになっている。ちなみに隣は三日月だ。
生徒たちは出席番号順に座り、俺は最後列の端に座る。
騎士団長が教卓のような台の前に立ち、魔術師団長はすぐ傍に控えていた。
「はじめまして。ボクは『オストローデ騎士団』総団長・アシュクロフトと申します。本日は皆さんに『チート』関係の授業を行わせていただきます」
騎士団長ことアシュクロフトさんは、傍に控えてる魔術師団長に視線を送る。すると魔術師団長は教卓へ。
「はじめまして。私は『オストローデ魔術師団』総団長・アナスタシアと申します。私の授業は王国の歴史と魔王について……よろしくね」
うーん、妖艶な笑みだ。ちょっと砕けた挨拶で生徒の(主に男子)のハートを鷲掴みだ。
アシュクロフトさんとアナスタシアさんか。いかにも異世界っぽい名前だ。
「では、チートについて授業を始めます」
教師なのに授業を受けるのか……でもまぁ、やるしかないな。
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