最終話 人の世

「おはようございます。神様」

「うむ、おはよう」

 神たちの朝は早い。月が空から落ちその座を太陽に明け渡したころ、目を覚まし生きとし生けるものの管理を始める。ビルの立ち並ぶ町も畑が広がる村も、長大な壁を備えた城もそのすべてが彼らの管理下にある。


「それで、今日はなにがある?」

「すべて正常です」

 人の生も死もすべて正常な世界の循環の中にあり、神々の敵対者が出ぬ限りは特にすることはない。ただ、救いを強く求めるものや救済を蒔くものには対処が求められている。


「そうか、だが神に祈る者は絶えず。救われないもの、報われない者は後を絶たない。彼らの願いは叶えなければ」

「ですが、人の欲と願いは世の常です。最早抑えきれるものではないです」

 人の世は欲にまみれ、救済は続く。如何なる救世主も教祖も手段も人を満たすには及ばず神が自ずとその手を下すことによってのみ成り立つ。


「それでも私を求めるものがいる限り働き続けよう、いつかこの世に幸福が満ちるまで」

 不幸を嘆くものが居れば幸福を喜ぶ者もいる。故に世界は保たれる。欲を糧に成長し、幸を元に動き続ける。それを神は尊び、喜び美しむのだ。

 人の世は美しく残酷でそれでも生きる人々がいる。幸福を。

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