第五話 帰宅

 「僕はね君が思うほど賢くはないし聡明でもない。けれど現実にはもう存在していないその一点だけが君と僕は出会わせた。君の現実が揺らいだ時、本来存在してはいけない僕が現れた君を現実に帰らせるために」

「一体何を言っているの?」

 理解出来なかった、何を言っているのかわからなかった。視界が歪む、感覚が失われていく。さよなら、ありがとうとだけ聞こえた。


「ああ、よかった。おーい目が覚めたぞ」

「父さん?」

「無事だった…」

「母さん?」

 見慣れた天井、様々ぬいぐるみ達。慣れ親しんだ本の数々。ここは私の部屋?


 「家を飛び出したあと公園で寝ているところが見つかった」

 あの後、私を探し回っていた両親によって公園のベンチで寝ているところを発見された私は両親の手で家に帰ってきた。目が覚めるまで付きっきりでいてくれた。


「すまない、俺たちはお前にひどいことしてしまった。私達の問題を押し付けてしまった」

 父さんはそうやって謝った。私にはそれが嬉しかった、自分をちゃんと見てくれていると、そこに存在していると思えた。私を居ないように振舞った両親にそれだけの心があったのだ。

 けれどそうやって私を想わせてくれた彼は誰であったのか今の私には知りようがないのだ。

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