第四話 揺らぎ
「これが僕の理由、君が知りたがったこと。僕が話したかった事さ、どんなことを思わってくれてもかまわない。どうせ変えようがないんだからね」
彼の話はドラマとか小説の話みたいで現実感がなかった。それだけに彼が必死に語るさまは滑稽に見えて、私には本当の出来後であるとは信じられなかった。
「信じてない顔をしているね、けれど多分こんな話は世界中に普遍的に存在していてそれが物語になったんだよ。だからね、考えてみてほしい君の話も他人が聞いた時に果たして物語ではないと信じてもらえるかな?」
妙な説得感を伴って彼の言葉は私に入り込むんだ、いや正確には自分の確固たるものが揺らぎ他の何かにしがみつきたくなった。
おかしなものだ、さっきまで彼の話には現実感がなかったのに自分の話を疑い始めた途端、現実というものが曖昧になり自分というものが崩壊したのだ。そこに他人という自分以外の者があればたやすく受け入れしまう。
「けどそれって逆に言えば人がいるから物語があるってことだよね?」
背一杯の反論だった。このままでは負けると思った。自分を失うと思った。
「そうだ、それが分かればもう僕と話すこともないだろう。君はね、自分の身の上が信じられなくて、現実が揺らいで、わからなくなってここに来たはず」
彼はまるで私の事がすべてわかっているように語る、答えに導こうとする賢人のように。
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