第三話 中学生

 年々と大きくなる体格の差は段々と彼らを遠ざけつつあった。

 元より年々男女間の差により疎遠になりつつあった関係は体格の逆転、中学に上がることによってほぼ断たれた。ただ一点近所であるということは残して。


「おはよう」

「おはよう」

「今日も早いな」

「委員会よ、そっちは」

「部活の朝練」

 毎朝、通学路で会話する習慣のみはずっと続いていた。話しやすい相手であったし、学校に着くまでという時間の制限が気を楽にした。

 昇降口に着いたら別れて別々の居場所に行く、気軽な関係。だが思春期であり人の色恋沙汰に目ざとい友人たちが放っておくはずがなかった。


「ねぇ一組のさ、近藤君と付き合ってるの?」

「ないよ、ただの幼馴染。家が近いだけだよ」

「えー羨ましい、ほらマンガとかでさ。近所の幼馴染と…」

 妄想と現実を混同しがちな彼女たちに理性的な話など通じる訳がなかったのだ。大抵人の口から発せられた噂は爆発的な広がりを持ち、周囲を改変していく。


「近藤お前さ、あの白鳥さんと幼馴染って本当か」

「本当だけど、何」

「じゃあさ、付き合ってるっていうのは?」

 寝耳に水であった。当人たちが預かり知らぬところで事態は進展し、いつの間にか事実であると認識される。

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