第三話 出会い

 当時の彼女は俗にいう学園のアイドルで常に取り巻きを従えていたし、私のような普通の男子学生が近寄れる存在ではなかった。

 それに今よりも弱気だったわたしの一人称は僕であったし、成長のいい友人たちからはよくチビだなんだとからかわれた。

 だがあの日、偶々補習で教室に残っていたわたしは泣きながら廊下を走る彼女を見てしまったのだ。そして、あまりの光景に感情が抑えきれず思わず廊下に飛び出して声を掛けてしまった。


「ちょっと待って!」

「うぇ…?」

彼女はなんとか泣きたいのを我慢している顔をこちらに向けた。


「どうしてそんな顔をしているの?」

「どうして、そんなこと聞くの?悲しいからにきまっているじゃない!」

「あなたのように美しい人が何に悲しむか僕にはわからないから」

我ながらキザなことを言ったな。といまになって思う。


彼女はきょとんした顔を浮かべたあと笑いながら僕に向かって言った。

「…あはは、なんだかそう言われると馬鹿馬鹿しくなってきたわ。それであなたの名前は?」

「僕は佐々木 一信。二年B組」

「私は佐藤 蓮華。同じ二年B組、奇遇ね」

 やはり彼女は僕には気づいてはいなかった。思っていた通りだが少し悲しい。


「さて、ここで会ったのも何かの縁でしょうし。話聞いてくれる?」

「もちろん」

思い返すとドラマみたいな出会いだった。

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