第九話 思い出

「別れましょう、私はあなたを縛りすぎた」

 夕日に染まる私の部屋に現れた彼女は言った。


「なんで?」

「ずっとあなたは私を想っていてくれた、考えていてくれた…それに応える権利なんて私にはないのよ…」

 悲し気にあふれる感情を抑えきれぬ様子だった。

 けれど、私の人生には彼女しかいなかった。親しい友人も如何なる娯楽さえ、心に開いた穴を埋めるには至らなかった。彼女がそこに居て離れてはくれないのだ。


「そんなことはない。君しか私にはいないんだ、どうしてそんなことを言うんだい?」

「疲れたのよ。ずっとあなたを見てきた、傷つく時も悲しむ時も、喜ぶ時も楽しい時も常に私のことを考えていた。そんなに思われるほどの人間じゃないの」

 それが正しいか私にはわからなかった。けれど彼を救いたいと思った。私の呪縛から。


「無理だ!それでも君の事が好きだ!」

「…うれしいわ。でもね駄目なの。そろそろ時間が来てしまう、さよならね」

  足元から彼女は徐々に薄くなり、空気に溶け込んでいった。

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