第九話 思い出
「別れましょう、私はあなたを縛りすぎた」
夕日に染まる私の部屋に現れた彼女は言った。
「なんで?」
「ずっとあなたは私を想っていてくれた、考えていてくれた…それに応える権利なんて私にはないのよ…」
悲し気にあふれる感情を抑えきれぬ様子だった。
けれど、私の人生には彼女しかいなかった。親しい友人も如何なる娯楽さえ、心に開いた穴を埋めるには至らなかった。彼女がそこに居て離れてはくれないのだ。
「そんなことはない。君しか私にはいないんだ、どうしてそんなことを言うんだい?」
「疲れたのよ。ずっとあなたを見てきた、傷つく時も悲しむ時も、喜ぶ時も楽しい時も常に私のことを考えていた。そんなに思われるほどの人間じゃないの」
それが正しいか私にはわからなかった。けれど彼を救いたいと思った。私の呪縛から。
「無理だ!それでも君の事が好きだ!」
「…うれしいわ。でもね駄目なの。そろそろ時間が来てしまう、さよならね」
足元から彼女は徐々に薄くなり、空気に溶け込んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます