第4話 私、生きていたんだっけ
41歳。私はガンになっていた。
長いこと前だけ向いて生きてきた。結婚も出産もしたし、仕事も軌道にのってきていた。その年も、毎年受けている検診をルーティンで受けただけだった。去年、映っていないものが、画面に映っていた。悪性腫瘍だった。
病がわかってからの私は一人になると涙がホロホロと流れ落ちるようになっていた。テレビも家族の声も何もかも、自分の外の遠い世界の出来事のように、私だけが深い湖の底に沈んでいるような感覚、わずかな光が照らす仄暗い底で、じっと動かなかった。
そうしてわかったのは「私、死ぬんだな」という実感、背後に迫る闇、死の影の存在だった。うっかり弱りすぎると背後の闇に吸い込まれていきそうになった。
もう一つわかったのは、私は生きていたんだということだ。もうずっと、生きているのか死んでいるのかわからない生活をしてきた。急に「私、もっと生きたい」と思った。バカみたいだけど。
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